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ウィル編 02章 外伝:クラウとフェルナ
07-[クラウのお見送り]
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「ねぇクラウ、本当に来るの・・・?」
「本当だって」
「うぅー・・・」
クラウとフェルナはフェルナの家とパン工房がある貧困街に来ていた。時折あうフェルナの知り合いはフェルナに声をかけようとしたが、今日はいつもと違って明らかに身分の高そうな格好をしているクラウがいたため声をかけるのを躊躇っていた。しかし、クラウが率先して挨拶をしてフェルナさんとお付き合いさせていただいている者ですなんて紹介をするとその知り合い達は急に警戒心が解けたようにクラウ達に話しかけてきた。すぐ横で焦って必死に否定しているフェルナの姿を見ると、それは普段の二人とは立場がまるで逆転しているように思えた。クラウはこの状況を半分楽しんでいるのではないかとさえ思える。
また、クラウは貧困街の出会った人々に対してはすぐ打ち解けていたようだが、それは先ほどのやり取りだけが理由ではなかった。クラウは女性を見ると、それがどんなに幼い子でも、ほうれい線がくっきり浮かんだ中年女性でも誰これ構わず甘い言葉で口説いていたのである。いい格好をした貴族の、そして非常に整った容姿の、表向きには礼儀正しそうな少年からそんな言葉をかけられた女性達はたちまちクラウに心を許していった。
そんなクラウにフェルナはすかさず横から靴の踵でクラウの足の甲を思いっきり踏んづけていた。
そのようなことをしばらく繰り返していると二人はいつの間にかフェルナの家の前に来ていた。
「クラウ、ここまでで大丈夫だよ!今日はありがとう!」
フェルナはなんとかここまででクラウに帰ってもらうとしていた。あまり両親と合わせたくないようだった。
「もうここまで来たんだから多少話していくくらいはいいだろ?」
ただ、クラウも折角ここまできたんだからいいじゃないかと引かなかった。そんなやり取りをしているとその話し声が家の中まで聞こえていたのかフェルナの母親が家の中から出てきた。
「あら、フェルナ。おかえりなさい。あら?こちらの方は?」
「あ!お母さん!・・・え、えーと・・・この人は」
「ごきげんよう。私はフェルナさんの友達のクラウと言います。フェルナ、とても綺麗な方だね。お姉さんがいるなんて聞いていなかったけど?」
フェルナは母親が出てきてしまったことにため息をつきながらもクラウに私の母親まで口説くんじゃねーよという視線を無言で送っていた。
「ああ、クラウさんって前にフェルナが言ってた人?あ、クラウ様でしたね、大変失礼しました・・・。お言葉は大変うれしかったのですが私はフェルナの姉ではなく母です。いつも娘がお世話になっております」
「本当ですか?あまりにも若く、お美しかったのでてっきりお姉様かと。失礼いたしました。私のことはクラウで結構です。別に貴族だからどうこうと言うつもりもありませんので」
「そんな訳には行きません。私のような方が貴族様をそのように呼ぶなど・・・」
「ではせめて様はよしてもらえませんか?貴族といっても私はまだ年も若く何も国のために役立てていませんので様などと呼ばれることは慣れていませんし相応しくもないので」
「そうですか。ではお言葉に甘えさせていただきます。クラウさん、娘をここまで送っていただいたようでありがとうございました。でも貴族の方がこのようなところを歩いていて大丈夫なのですか?」
「いえいえ、全然問題ありませんよ。会う人はみんなとても優しく話してくださいましたので。それに今日はどうしてもフェルナさんのご両親に会いたかったので来てしまいました」
「あら、私にですか?」
「はい、いつも美味しいパンを食べさせていただいているのでそのお礼がしたかったのです。後はフェルナさんとお付き合いさせていただいているのでそのご挨拶をと思いまして」
「は!?ちょっとクラウ!何言ってんのよ?お、お母さん、違うからね!」
クラウのことを呼び捨てで呼んだことも含めてフェルナの母親は口に手を当ててあらあらまあまあという表情でフェルナの方を見てきた。フェルナは必死に手を顔の前で振って否定していた。
「じゃあ、フェルナ。私はこの辺で帰るとするよ」
「あらあら、せっかくですからゆっくりお茶でもどうかと思ったのですが」
「お心遣いありがとうございます。この後公務が控えているので大変残念ですがまた今度来た時に是非ご一緒させてください。それじゃあまた来ます」
「もう来なくていいから!」
フェルナの親の顔を見て満足したクラウは挨拶をして帰ることにした。クラウがフェルナの家を後にしてマクシェイン家の邸宅に帰ろうと貧困街を歩いている最中、周囲の建物の影からいくつかの視線がクラウへと向けられていた。
(あいつらは・・・)
クラウもその視線が自分の方向へ向いていることに気付いていたようだ。
(奴らの俺を見る目が好意的ではないことは明らかだな。やはり貧困街の一部の連中が貴族に反乱を起こそうとしてるという噂は本当なのだろうか・・・。だがそんなことをしても無駄に血を流すだけだ。そうなる前に早く手を打たなければ・・・。もう少しだけ情報を集める必要がありそうだな)
「クラウ様、お帰りなさいませ」
考え事をしているうちにいつの間にか邸宅の前まで来ていたようだ。
「爺や、その後一部の貴族の動きはどうだ?」
「相変わらず豪勢な晩餐会を毎日のように開催しているようです。・・・ただ少々よからぬ噂を聞きました。」
「その噂とは?」
「最近クラウ様がよく足を運んでおられる貧困街の区画ですが、一部の貴族があそこをまるごと潰して歓楽街を立てようとする計画をしているとか。そのため理由を付けて追放、処刑するために貧困街への挑発行動ともとれる行為を繰り返しているようです」
「・・・なるほど。そちらの方の動きを抑えることはできないか?」
「やってはみますが、いくつもの貴族が計画に参加しているようで、更に簡単に切り捨てられる手足としてそこら辺のならず者を雇っているらしいので中々時間がかかるかもしれません」
「頼む。可能な限りやってくれ。後はこの件で父上に迷惑はかけたくない。くれぐれもマクシェイン家のことは悟られないように隠密に頼む」
「承知しました」
老紳士は闇へと消えていき、辺りには妙な静けさだけが残っていた。
「悪い事が起きなければいいんだが」
「本当だって」
「うぅー・・・」
クラウとフェルナはフェルナの家とパン工房がある貧困街に来ていた。時折あうフェルナの知り合いはフェルナに声をかけようとしたが、今日はいつもと違って明らかに身分の高そうな格好をしているクラウがいたため声をかけるのを躊躇っていた。しかし、クラウが率先して挨拶をしてフェルナさんとお付き合いさせていただいている者ですなんて紹介をするとその知り合い達は急に警戒心が解けたようにクラウ達に話しかけてきた。すぐ横で焦って必死に否定しているフェルナの姿を見ると、それは普段の二人とは立場がまるで逆転しているように思えた。クラウはこの状況を半分楽しんでいるのではないかとさえ思える。
また、クラウは貧困街の出会った人々に対してはすぐ打ち解けていたようだが、それは先ほどのやり取りだけが理由ではなかった。クラウは女性を見ると、それがどんなに幼い子でも、ほうれい線がくっきり浮かんだ中年女性でも誰これ構わず甘い言葉で口説いていたのである。いい格好をした貴族の、そして非常に整った容姿の、表向きには礼儀正しそうな少年からそんな言葉をかけられた女性達はたちまちクラウに心を許していった。
そんなクラウにフェルナはすかさず横から靴の踵でクラウの足の甲を思いっきり踏んづけていた。
そのようなことをしばらく繰り返していると二人はいつの間にかフェルナの家の前に来ていた。
「クラウ、ここまでで大丈夫だよ!今日はありがとう!」
フェルナはなんとかここまででクラウに帰ってもらうとしていた。あまり両親と合わせたくないようだった。
「もうここまで来たんだから多少話していくくらいはいいだろ?」
ただ、クラウも折角ここまできたんだからいいじゃないかと引かなかった。そんなやり取りをしているとその話し声が家の中まで聞こえていたのかフェルナの母親が家の中から出てきた。
「あら、フェルナ。おかえりなさい。あら?こちらの方は?」
「あ!お母さん!・・・え、えーと・・・この人は」
「ごきげんよう。私はフェルナさんの友達のクラウと言います。フェルナ、とても綺麗な方だね。お姉さんがいるなんて聞いていなかったけど?」
フェルナは母親が出てきてしまったことにため息をつきながらもクラウに私の母親まで口説くんじゃねーよという視線を無言で送っていた。
「ああ、クラウさんって前にフェルナが言ってた人?あ、クラウ様でしたね、大変失礼しました・・・。お言葉は大変うれしかったのですが私はフェルナの姉ではなく母です。いつも娘がお世話になっております」
「本当ですか?あまりにも若く、お美しかったのでてっきりお姉様かと。失礼いたしました。私のことはクラウで結構です。別に貴族だからどうこうと言うつもりもありませんので」
「そんな訳には行きません。私のような方が貴族様をそのように呼ぶなど・・・」
「ではせめて様はよしてもらえませんか?貴族といっても私はまだ年も若く何も国のために役立てていませんので様などと呼ばれることは慣れていませんし相応しくもないので」
「そうですか。ではお言葉に甘えさせていただきます。クラウさん、娘をここまで送っていただいたようでありがとうございました。でも貴族の方がこのようなところを歩いていて大丈夫なのですか?」
「いえいえ、全然問題ありませんよ。会う人はみんなとても優しく話してくださいましたので。それに今日はどうしてもフェルナさんのご両親に会いたかったので来てしまいました」
「あら、私にですか?」
「はい、いつも美味しいパンを食べさせていただいているのでそのお礼がしたかったのです。後はフェルナさんとお付き合いさせていただいているのでそのご挨拶をと思いまして」
「は!?ちょっとクラウ!何言ってんのよ?お、お母さん、違うからね!」
クラウのことを呼び捨てで呼んだことも含めてフェルナの母親は口に手を当ててあらあらまあまあという表情でフェルナの方を見てきた。フェルナは必死に手を顔の前で振って否定していた。
「じゃあ、フェルナ。私はこの辺で帰るとするよ」
「あらあら、せっかくですからゆっくりお茶でもどうかと思ったのですが」
「お心遣いありがとうございます。この後公務が控えているので大変残念ですがまた今度来た時に是非ご一緒させてください。それじゃあまた来ます」
「もう来なくていいから!」
フェルナの親の顔を見て満足したクラウは挨拶をして帰ることにした。クラウがフェルナの家を後にしてマクシェイン家の邸宅に帰ろうと貧困街を歩いている最中、周囲の建物の影からいくつかの視線がクラウへと向けられていた。
(あいつらは・・・)
クラウもその視線が自分の方向へ向いていることに気付いていたようだ。
(奴らの俺を見る目が好意的ではないことは明らかだな。やはり貧困街の一部の連中が貴族に反乱を起こそうとしてるという噂は本当なのだろうか・・・。だがそんなことをしても無駄に血を流すだけだ。そうなる前に早く手を打たなければ・・・。もう少しだけ情報を集める必要がありそうだな)
「クラウ様、お帰りなさいませ」
考え事をしているうちにいつの間にか邸宅の前まで来ていたようだ。
「爺や、その後一部の貴族の動きはどうだ?」
「相変わらず豪勢な晩餐会を毎日のように開催しているようです。・・・ただ少々よからぬ噂を聞きました。」
「その噂とは?」
「最近クラウ様がよく足を運んでおられる貧困街の区画ですが、一部の貴族があそこをまるごと潰して歓楽街を立てようとする計画をしているとか。そのため理由を付けて追放、処刑するために貧困街への挑発行動ともとれる行為を繰り返しているようです」
「・・・なるほど。そちらの方の動きを抑えることはできないか?」
「やってはみますが、いくつもの貴族が計画に参加しているようで、更に簡単に切り捨てられる手足としてそこら辺のならず者を雇っているらしいので中々時間がかかるかもしれません」
「頼む。可能な限りやってくれ。後はこの件で父上に迷惑はかけたくない。くれぐれもマクシェイン家のことは悟られないように隠密に頼む」
「承知しました」
老紳士は闇へと消えていき、辺りには妙な静けさだけが残っていた。
「悪い事が起きなければいいんだが」
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