憂いの空と欠けた太陽

弟切 湊

文字の大きさ
上 下
133 / 142

一生の証 Ⅱ

しおりを挟む
「これとか良いんじゃない?」
「ああ。悪くない。……もうちょっと飾り気があっても良いな」

目の前にあるのは、数種類の指輪。
高いお店なので宝石があしらわれた物などもたくさん置いてある。

互いに指輪が欲しいということを確認した僕たちは、早速お店を選んで見に来た。カタログでも軽く見たけれど、実際に付けてみないと質感とかが分からない。良いと思っても付けたら何か違う、ということも結構ある。一生付けるつもりだから、真剣に選びたい。ということで、気に入るデザインの多かったお店に来てみたのだ。
冴木さんはスケジュールの調整のために行くところがあるとかで来ていない。

有栖は黒いキャップを目深に被り、マスクをして顔を隠している。
食事なら万が一バレても『友人とお忍びで来たのだろう』くらいで済むかもしれないが、指輪は困る。店員さんはプロだから情報を流したりしないだろうけど、何事も用心が必要だ。

男二人で指輪を選ぶにあたって、付き合いの長い友人同士のペアリングという体にしている。あながち嘘ではないし、店員さんも納得してくれた。男同士の絆は結構強いもので、人によっては小学生くらいからずっと付き合いがある人もいる。御園とだって高校からの付き合いで、未だに仲良しだ。
だから、ペアリングなんかも意外と普通なのかも。……まあ、普通は宝石とか付いてないやつを選ぶだろうけど。

今手に取ったのは、本当にシンプルな銀のリングだ。内側にお互いの名前を彫らなければ、何の変哲もない。ただ、その内側がピンクゴールドになっていて気品がある。ずっと付けていられるデザインだ。僕らはシンプルなのが好きだし、結構合うと思う。問題があるとすればシンプル過ぎるところか。無地のブランド服を買う時みたいな、『これなら高くなくてもいいや』って気分になってしまう。

「シンプルなデザインがお好みですか?」

僕らに付いてくれてる店員さんが相談に乗ってくれる。

「はい。ただ、特別な物なのでもう少し特別感があっても良いのでは、と思いまして」

有栖が指輪を真剣に眺めながら言った。

「そうですねぇ、せっかくのペアリングですからね。……でしたら、いくつか宝石が付いている物とデザイン性の高い物の二種類で見繕ってみましょうか」
「お願いします」

店の物を全て把握しているみたいで、あちこちからテキパキと指輪を集めてくる。数分後には二つのトレーいっぱいに持ってきてくれた。

「こちらが宝石をあしらった物、そしてこちらがデザインを洗練させた物になります」

かなり数があるが、どれも素敵だった。
これは相当時間がかかりそうだ。

「有…………岡くん、どれか気になるのある?」

思わず呼びそうになったのを慌てて誤魔化す。今日の有栖は有岡君だ。聞いた話で学園祭では有川君だったらしい。噴き出しそうになった有栖は咳払いした。

「そ、そうだな、俺は――。宝石系の中ならこれとこれかな」

彼が選んだのは大中小の青い宝石が並んで付いているものと、リングの内側に宝石が埋め込まれているものだった。

「内側に宝石が入ってるのは珍しいね。外に付いているのはよく見かけるけど」

そもそも内側にあっても填めたら見えなくなるから意味ないんじゃないだろうか。
そんな疑問に店員さんが説明してくれた。

これは裏石というもので、他の人からは見えないため『二人にしか分からない特別な宝石』として人気なデザインらしい。指輪を付けるときや外すときだけその宝石が確認出来て、さりげなくペア感を出したり秘密を共有できたり出来るようだ。……説明を聞くと、なんか僕たちにぴったりのデザインな気がしてきた。ニーズにぴったりだ。

「カップルでしたらブルーサファイアをお勧めするのですが……お二人の場合はお互いの誕生石を入れると良いかと思います。指輪を外すだけでお互いのことを意識出来ますし、特別感もグッと増しますよ」
「……うん、良いですね、それ。裏石を入れるとすると、リング自体のデザインはどうなりますか?」
「シンプルになると思います。また、石を入れるために少し幅が広めになります。ただ、色を選んでいただくことも出来ますし、デザインも色々出来ますよ。お値段は変わってきますが」

有栖が顎に手を添えて考えている。

「ゆー……っさんはどうだ?」

ゆっさん。まあ、あだ名で呼ぶタイプの友好関係もあるか。僕の名前は別に誤魔化さなくても良い気がするけど、有栖がそうするなら合わせておこう。

「僕もこれ良いと思う。さりげない感じが」
「そうか。俺もこれは気に入った。なんか探してたやつって感じ」
「うん。……そういえば有栖……岡くんは誕生日いつだっけ?」

僕の誕生日を祝ってもらった記憶はあるけど、有栖のは祝ったっけ? ちょっと記憶が曖昧だ。クリスマスとかでプレゼントをあげた記憶はあるんだけど。

「俺は三月だ。ゆっ……さんは十二月だったよな」
「うん、そう」
「三月と十二月でしたら、アクアマリンとタンザナイトですね。青系で揃ってらっしゃって凄く素敵です」

店員さんがぱっと明るい笑顔になった。素敵、と言われるとこちらまで嬉しくなる。

「ブルーダイヤモンドには『永遠』『幸せ』などの意味がありますし、ブルーサファイアはおまじない的なもので大変縁起が良いんです。だから、青系の宝石をペアリングに使うのはとても良いと思います」
「へえ、そうなんですか。じゃあ、それでお願いします。ゆっさんも良いか?」
「うん。凄く良いと思う」
「かしこまりました! お名前は入れますか?」
「はい、入れてください」
「では、お互いのお名前を彫らせていただいた横に宝石を入れさせていただきますね。リングデザインはそちらのカタログからお選びください」

リングの色からデザインまでかなり豊富だった。色は素材によって異なるようだ。
色を決めるための試着用リングを借りて、両方の指に合う色を考える。ゴールドやプラチナなど一般的な物に加えて、ジルコニウムやタンタルなど珍しい物もあった。特にジルコニウムはグラデーションがかかったような綺麗な色合いで面白い。表面は銀色で、内側はガラス細工のようになっている。

「ジルコニウム、綺麗だね」
「ああ。表に溝が彫ってあって、そこから内側のグラデーションが見えるのもいいな。ただ、内側に入れる宝石が埋もれてしまいそうだな」

確かにそうだ。内側は銀の方が良いだろう。
ジルコニウムは綺麗だけど、宝石が目立たないのはいただけない。

「そちら、熱加工しなければ銀のままで出来ますよ。もしくは宝石を入れない部分だけ発色させましょうか。溝のあるデザインでしたら江戸切り子のような美しさが出せますし、お勧めです。素材の特長としては、金属アレルギーをほとんど発症しない、着け心地が滑らかであるなどがあります」

店員さんがそう言うので、それも出来るなら、ということでそれでお願いすることにした。ちょっと値段が張るそうだが、一度しか買わない物なので大目に見てもらう。
全体的なバランスは職人さん(?)が整えてくれるそうなので、仕上がりは後日確認するということになった。

好きなデザインを集めて提案したので、きっと仕上がりも好きなデザインになっているだろう。

「できあがり、楽しみだね」
「ああ。良い物になるといいな」


†―――†―――†

(端書き)

【三月の誕生石】(有栖)
アクアマリン:「聡明」「勇敢」「沈着」

【十二月の誕生石】(遊沙)
タンザナイト:「高貴」「冷静」「自立」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

別に、好きじゃなかった。

15
BL
好きな人が出来た。 そう先程まで恋人だった男に告げられる。 でも、でもさ。 notハピエン 短い話です。 ※pixiv様から転載してます。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

使命を全うするために俺は死にます。

あぎ
BL
とあることで目覚めた主人公、「マリア」は悪役というスペックの人間だったことを思い出せ。そして悲しい過去を持っていた。 とあることで家族が殺され、とあることで婚約破棄をされ、その婚約破棄を言い出した男に殺された。 だが、この男が大好きだったこともしかり、その横にいた女も好きだった なら、昔からの使命である、彼らを幸せにするという使命を全うする。 それが、みなに忘れられても_

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

幸せのカタチ

杏西モジコ
BL
幼馴染の須藤祥太に想いを寄せていた唐木幸介。ある日、祥太に呼び出されると結婚の報告をされ、その長年の想いは告げる前に玉砕する。ショックのあまり、その足でやけ酒に溺れた幸介が翌朝目覚めると、そこは見知らぬ青年、福島律也の自宅だった……。 拗れた片想いになかなか決着をつけられないサラリーマンが、新しい幸せに向かうお話。

運命なんて知らない[完結]

なかた
BL
Ω同士の双子のお話です。 双子という関係に悩みながら、それでも好きでいることを選んだ2人がどうなるか見届けて頂けると幸いです。 ずっと2人だった。 起きるところから寝るところまで、小学校から大学まで何をするのにも2人だった。好きなものや趣味は流石に同じではなかったけど、ずっと一緒にこれからも過ごしていくんだと当たり前のように思っていた。そう思い続けるほどに君の隣は心地よかったんだ。

処理中です...