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卒業しても
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四月いっぱい就職活動に心血を注いで、五月に入る頃ようやく就職先が決まった。
最近は内定出るのがかなり早まっているから僕くらいだと遅く感じるけれど、実際のところ面接解禁日は六月からだ。そう考えれば、早めに決まったと言える。
就職先は、新しく住む予定の家近くにある本屋さんだ。
登録していた就職サイトだと大企業や知名度の高い企業ばかりしか出てこず、そうでないものは労働条件がそれほど良くなかった。皆が使っているサイトということもあり、競争率も高くてどれも選考を通過できなかった。面接が特に駄目で、御園や有栖、冴木さんに手伝ってもらったりもしたけれど、全部落ちてしまった。
結局ハローワークで求人検索をした結果、見つけたのがその本屋さんだ。
大きな所ではなく、こぢんまりとした個人経営の所だ。面接の時に実際に行ったけど、おじいさんがのんびりと経営している良いところだった。店の半分は図書館で、もう半分は本屋という変わった造りになっている。おじいさんがそろそろ体調面で不安だということで求人を出したらしい。幸いなことに僕を気に入ってくれたので、働かせてもらうことになった。
お給料はそんなに高くないけど、働かせてもらえるだけありがたい。
少し気が軽くなったところで、今日は久しぶりに大学に来ていた。
ゼミと卒業論文以外の講義は取ってないし、しばらくは面接とかが重なって来られていなかった。御園も今日は大学に来ているはずなので、久々に会えるはずだ。
『御園、今どこ?』
LINEを送ると速攻で既読が付いた。
『あれ、今日は来てるのか?』
『うん。ゼミのために』
『今は三階の休憩室にいるぞ』
すぐさまそこへ向かうと、
「遊沙~! 久しぶり! 会いたかった!」
灰色だった髪を黒く染め直した御園が手を振っていた。爽やかで明るい笑顔はそのままだが、髪色が違うだけで印象が大分違う。
「御園、久しぶり。髪染めたんだね」
「そうなんだよ。就活中だからな。”人柄重視!”とか言ってても、結局大半は見た目と喋りだからさ、結構気を遣ってるんだ」
「分かる。僕は喋りが苦手だな。……ふふ、髪の色がお揃いになったね」
ボサボサなのは相変わらずだけど、きっと面接ではピシッとするんだろうなと思うとそれも見てみたい気がした。
LINEでは話していたけれど久しぶりの再開なので、自然と笑顔になる。
何気なく言った言葉に御園は一度グッと押し黙って、それから顔を覆ってしまった。
「お揃い……」
もしかして嫌だっただろうか。心配して声をかけようとすると、パッと顔を上げて会心の笑顔を向けてくれた。
「ちょ、待って。そう思うとめっちゃ嬉しい!」
そう言われてほっとする。
「良かった。嫌なこと言っちゃったかと思った」
「そんなわけないだろー。あまりにも可愛……嬉しいこと言ってくれたから思考停止しただけ」
「そっか」
「おう。……で、ちょっと聞きたいんだけど、就職活動はどんな感じ? 言いたくなかったらごめん」
「えっと……実は最近決まったんだ」
「お、マジで? 実はオレも」
「そうなんだ、おめでとう」
「遊紗もな~」
どちらかが決まっていてどちらかが決まっていないと、気まずくなる話題だからそうならなくて良かった。正直自分が決まっていても切り出しにくい話題なので、彼の方から言ってくれたのはありがたい。
「御園はどこに?」
「オレはテーマパークのキャスト」
「うわ、凄い。御園っぽい」
「そうか?」
「うん。人を笑顔に出来るから。話も上手いし」
「ははっ、ありがとう。そう言われると悪い気はしないな~。遊紗は?」
「僕は本屋さんの管理とか運営とか」
「うわー、ぽいなぁ。めっちゃ似合いそう」
「そう?」
「そうそう。本、好きそうだし」
確かに本は好きだ。やはり、就職先の人も「っぽい人」を選ぶ傾向にあるのかもしれない。営業職とかいかにもって感じの人が採用されている感じだったし。
互いに就職が決まったとなると話も自然に明るくなり、講義で別れるまで他愛もない話を続けた。
これが後半年ちょっとで終わってしまうということが、なんだかとても物悲しく感じる。
大学卒業した後も、御園とはずっとこのままがいいな。
最近は内定出るのがかなり早まっているから僕くらいだと遅く感じるけれど、実際のところ面接解禁日は六月からだ。そう考えれば、早めに決まったと言える。
就職先は、新しく住む予定の家近くにある本屋さんだ。
登録していた就職サイトだと大企業や知名度の高い企業ばかりしか出てこず、そうでないものは労働条件がそれほど良くなかった。皆が使っているサイトということもあり、競争率も高くてどれも選考を通過できなかった。面接が特に駄目で、御園や有栖、冴木さんに手伝ってもらったりもしたけれど、全部落ちてしまった。
結局ハローワークで求人検索をした結果、見つけたのがその本屋さんだ。
大きな所ではなく、こぢんまりとした個人経営の所だ。面接の時に実際に行ったけど、おじいさんがのんびりと経営している良いところだった。店の半分は図書館で、もう半分は本屋という変わった造りになっている。おじいさんがそろそろ体調面で不安だということで求人を出したらしい。幸いなことに僕を気に入ってくれたので、働かせてもらうことになった。
お給料はそんなに高くないけど、働かせてもらえるだけありがたい。
少し気が軽くなったところで、今日は久しぶりに大学に来ていた。
ゼミと卒業論文以外の講義は取ってないし、しばらくは面接とかが重なって来られていなかった。御園も今日は大学に来ているはずなので、久々に会えるはずだ。
『御園、今どこ?』
LINEを送ると速攻で既読が付いた。
『あれ、今日は来てるのか?』
『うん。ゼミのために』
『今は三階の休憩室にいるぞ』
すぐさまそこへ向かうと、
「遊沙~! 久しぶり! 会いたかった!」
灰色だった髪を黒く染め直した御園が手を振っていた。爽やかで明るい笑顔はそのままだが、髪色が違うだけで印象が大分違う。
「御園、久しぶり。髪染めたんだね」
「そうなんだよ。就活中だからな。”人柄重視!”とか言ってても、結局大半は見た目と喋りだからさ、結構気を遣ってるんだ」
「分かる。僕は喋りが苦手だな。……ふふ、髪の色がお揃いになったね」
ボサボサなのは相変わらずだけど、きっと面接ではピシッとするんだろうなと思うとそれも見てみたい気がした。
LINEでは話していたけれど久しぶりの再開なので、自然と笑顔になる。
何気なく言った言葉に御園は一度グッと押し黙って、それから顔を覆ってしまった。
「お揃い……」
もしかして嫌だっただろうか。心配して声をかけようとすると、パッと顔を上げて会心の笑顔を向けてくれた。
「ちょ、待って。そう思うとめっちゃ嬉しい!」
そう言われてほっとする。
「良かった。嫌なこと言っちゃったかと思った」
「そんなわけないだろー。あまりにも可愛……嬉しいこと言ってくれたから思考停止しただけ」
「そっか」
「おう。……で、ちょっと聞きたいんだけど、就職活動はどんな感じ? 言いたくなかったらごめん」
「えっと……実は最近決まったんだ」
「お、マジで? 実はオレも」
「そうなんだ、おめでとう」
「遊紗もな~」
どちらかが決まっていてどちらかが決まっていないと、気まずくなる話題だからそうならなくて良かった。正直自分が決まっていても切り出しにくい話題なので、彼の方から言ってくれたのはありがたい。
「御園はどこに?」
「オレはテーマパークのキャスト」
「うわ、凄い。御園っぽい」
「そうか?」
「うん。人を笑顔に出来るから。話も上手いし」
「ははっ、ありがとう。そう言われると悪い気はしないな~。遊紗は?」
「僕は本屋さんの管理とか運営とか」
「うわー、ぽいなぁ。めっちゃ似合いそう」
「そう?」
「そうそう。本、好きそうだし」
確かに本は好きだ。やはり、就職先の人も「っぽい人」を選ぶ傾向にあるのかもしれない。営業職とかいかにもって感じの人が採用されている感じだったし。
互いに就職が決まったとなると話も自然に明るくなり、講義で別れるまで他愛もない話を続けた。
これが後半年ちょっとで終わってしまうということが、なんだかとても物悲しく感じる。
大学卒業した後も、御園とはずっとこのままがいいな。
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