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穏やかな日常
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今日は有栖も冴木さんも休みなので、三人で一日のんびりすることにした。
午前中、昨日の疲れを癒やすためにだらだらと過ごして、午後からは軽い買い物に出かけた。ちょっと良いお店で珍しい紅茶とお菓子を買ってきて、優雅なティータイムと洒落込む。
棚の奥から普段使っていない良いティーセットを出してきて、桜の香りの紅茶を入れた。お菓子は果物の砂糖漬けと、コンビニでも買える駄菓子類だ。お昼ご飯はなしにしたので、好きなものを好きなように食べながら団欒する。
午前中に、手伝いに行かせて貰った撮影現場から連絡があったが、それで就職が決まるなんて都合の良いこともあるわけなく、普通にお礼を言われて感想を聞かれただけだった。
……まあ、当たり前のことだ。能力がある人ならともかく、僕は平凡だし道具を担いで行ったり来たりする体力仕事も向いてない。現場に行けただけ儲けものだろう。
インターンシップだって行ったからといって内定がもらえるわけでもないし、お礼の電話をくれるのが丁寧すぎるくらいだ。
「就職って大変なんだな」
有栖が神妙な顔で呟いた。
「うん。こっちもだけど、向こうも仕事にあった人を見つけなきゃいけないからね」
「そうか。俺は随分恵まれていたんだなって痛感するよ」
「有栖の場合はほら、顔が良いから」
「…………」
「何で不満そうなの?」
「いや、嬉しみと辛みがな……。お前に悪気がないのは分かるし褒められてるのも分かるんだが、顔だけ褒められるのは……ちょっと」
そっか。ただ褒めたつもりだったけど、『顔がいい』なんていつも言われているだろうし、なんか彼の努力を否定しているみたいになってしまったかも。
「ごめん」
「いや、いいんだ。俺の考えが捻てるだけだから」
「ううん、有栖は悪くないよ。有栖が努力してるの知ってるのに、心無いこと言っちゃったって分かったから。……でもね、顔が良いのは本当。何でこんなに綺麗なんだろうっていつも思ってる」
「……そんなにか?」
彼は困惑しているようだ。いつも見ている自分の顔だから理解出来ないのかもしれない。
「うん。まつ毛長いし顔のパーツ完璧だし、肌も綺麗だし」
容姿の良さを言い募るために顔を近付けると、彼は慌てたように仰け反った。
「ちょっ……と待て。急に顔を近付けるな」
「嫌だった?」
「なわけあるか。逆だ、逆。心の準備というものをだな……」
顔が赤くなったのを見て、やっと有栖が照れていることに気付いた。僕は有栖の顔が綺麗すぎて近いと緊張するけど、有栖は有栖で緊張してるのかな。
『恋愛的に好きな人』がいたことないから、『好きな人』の顔が近いとどんな気持ちなのか、理解するのは難しい。有栖は今、どんな気持ちなんだろう。……嬉しいのかな。そうだったらいいな。
僕が顔を近付けるとあっちにこっちに避けて面白いのでしばらく遊んでいたが、あまりやり過ぎると良くないから離れた。彼が赤い顔で定位置に戻る。
照れ隠しのように話題を変えた。
「そ、そういえば、新居の話なんだが」
話し出したのは、しばらく前に考えた新しい家のことだった。家の枠組みが出来上がって、順次部屋を作っていっているところだそうだ。内装に関してはまだ変更が効くため、何かこの素材が良いとかあったら言って欲しいらしい。
強い要望とかはないけど、出来れば全体的に木材で作って欲しいのと、畳があれば嬉しいと言っておいた。
板張りより暖かい感じがするから。
紅茶がポットから無くなる頃には、山ほどあったお菓子も無くなっていた。
モデルなのに良いのだろうか、という野暮な質問は胸にしまって置くことにした。そんなの、有栖が一番分かっているはずだから。
午前中、昨日の疲れを癒やすためにだらだらと過ごして、午後からは軽い買い物に出かけた。ちょっと良いお店で珍しい紅茶とお菓子を買ってきて、優雅なティータイムと洒落込む。
棚の奥から普段使っていない良いティーセットを出してきて、桜の香りの紅茶を入れた。お菓子は果物の砂糖漬けと、コンビニでも買える駄菓子類だ。お昼ご飯はなしにしたので、好きなものを好きなように食べながら団欒する。
午前中に、手伝いに行かせて貰った撮影現場から連絡があったが、それで就職が決まるなんて都合の良いこともあるわけなく、普通にお礼を言われて感想を聞かれただけだった。
……まあ、当たり前のことだ。能力がある人ならともかく、僕は平凡だし道具を担いで行ったり来たりする体力仕事も向いてない。現場に行けただけ儲けものだろう。
インターンシップだって行ったからといって内定がもらえるわけでもないし、お礼の電話をくれるのが丁寧すぎるくらいだ。
「就職って大変なんだな」
有栖が神妙な顔で呟いた。
「うん。こっちもだけど、向こうも仕事にあった人を見つけなきゃいけないからね」
「そうか。俺は随分恵まれていたんだなって痛感するよ」
「有栖の場合はほら、顔が良いから」
「…………」
「何で不満そうなの?」
「いや、嬉しみと辛みがな……。お前に悪気がないのは分かるし褒められてるのも分かるんだが、顔だけ褒められるのは……ちょっと」
そっか。ただ褒めたつもりだったけど、『顔がいい』なんていつも言われているだろうし、なんか彼の努力を否定しているみたいになってしまったかも。
「ごめん」
「いや、いいんだ。俺の考えが捻てるだけだから」
「ううん、有栖は悪くないよ。有栖が努力してるの知ってるのに、心無いこと言っちゃったって分かったから。……でもね、顔が良いのは本当。何でこんなに綺麗なんだろうっていつも思ってる」
「……そんなにか?」
彼は困惑しているようだ。いつも見ている自分の顔だから理解出来ないのかもしれない。
「うん。まつ毛長いし顔のパーツ完璧だし、肌も綺麗だし」
容姿の良さを言い募るために顔を近付けると、彼は慌てたように仰け反った。
「ちょっ……と待て。急に顔を近付けるな」
「嫌だった?」
「なわけあるか。逆だ、逆。心の準備というものをだな……」
顔が赤くなったのを見て、やっと有栖が照れていることに気付いた。僕は有栖の顔が綺麗すぎて近いと緊張するけど、有栖は有栖で緊張してるのかな。
『恋愛的に好きな人』がいたことないから、『好きな人』の顔が近いとどんな気持ちなのか、理解するのは難しい。有栖は今、どんな気持ちなんだろう。……嬉しいのかな。そうだったらいいな。
僕が顔を近付けるとあっちにこっちに避けて面白いのでしばらく遊んでいたが、あまりやり過ぎると良くないから離れた。彼が赤い顔で定位置に戻る。
照れ隠しのように話題を変えた。
「そ、そういえば、新居の話なんだが」
話し出したのは、しばらく前に考えた新しい家のことだった。家の枠組みが出来上がって、順次部屋を作っていっているところだそうだ。内装に関してはまだ変更が効くため、何かこの素材が良いとかあったら言って欲しいらしい。
強い要望とかはないけど、出来れば全体的に木材で作って欲しいのと、畳があれば嬉しいと言っておいた。
板張りより暖かい感じがするから。
紅茶がポットから無くなる頃には、山ほどあったお菓子も無くなっていた。
モデルなのに良いのだろうか、という野暮な質問は胸にしまって置くことにした。そんなの、有栖が一番分かっているはずだから。
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