憂いの空と欠けた太陽

弟切 湊

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仕事体験

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大学は人生の春休み。
文系の僕としては確かにそうだと思う。もちろんやらなくてはいけないことの方が圧倒的に多いけれど、休みが多いのもまた事実だ。理系の人は研究とかあるからそうも言ってられないかもだけど。

うちの大学は十二月頃に秋学期の講義が終わって一月頃に試験、それ以降は春休みだ。高校とか中学と違って休み中の課題がないから、かなりのんびり過ごせる。ちょっと暇だけど。

ただ僕はもう四年だし、就職活動があるから暇ではない。夏頃からちまちまとインターンシップやら合同説明会やらに参加して、企業の説明を聞いたりやりたい仕事を探したりしていた。……のだけど、いかんせんやりたいことが定まらない。人によっては早期選考を受けてる人もいるし、既に内定が決まっている人もいる。
その点、僕は行きたいところすらも曖昧なので、結構出遅れているのだ。
焦る、とまでは行かなくても、やはり少し不安だ。



そうして就活が本格化する三月になっても行きたい企業が決まらずに、どうしたものかとふらふらしていた頃。見かねたのか、有栖が『こんな仕事はどうか』と勧めてくれた。
その仕事というのは、撮影現場の裏方だ。
とても言いにくそうに、『お前に興味を持ってくれている人がいるから』と言ってくれた。
経緯を聞くと初めて仕事をくれた方に“雰囲気が柔らかくなった理由”を聞かれて、僕のことを答えたところ興味を持たれたらしい。
せっかくの誘いだし、こんなチャンス滅多にないだろう。何の経験も技術もない僕が本当に雇ってもらえるとは思えないけど、いい経験になると思う。一日仕事体験ということだ。
二つ返事で行くことにした。


「おお、君が噂のご友人か。有栖君の話を聞いて会ってみたかったんだ。ただ呼びつけるのでは悪いと思って仕事を用意しておいたから、今日はよろしく」

着いて早々に言われたのはそんなこと。ちょっと見た目が厳ついけれど、人当たりのいいおじ様といった感じの方だった。こういうところに来るのは初めてだし、とても緊張していたのだけど、接しやすい態度に釣られてリラックス出来た。
有栖は普通にそこでの仕事があって、僕は他のスタッフさん達と一緒に見せてもらった。春物の服を片っ端から着てポーズをとって、それをカメラマンが撮っていく。一見簡単そうだけど、表情も体の角度も作らないといけないし、そもそも着こなせなきゃいけないし、恥ずかしがらずに出来なきゃいけない。僕には絶対無理な仕事だ。
いつも見てる有栖とは全然違ってテキパキと仕事をこなす彼を見ていると不思議な気持ちになる。ついぽつっと「すごいなぁ」と呟くと、たまたま横にいたスタッフさんに同意された。

その後には資格がないと出来ないメイクさんやスタイリストさんの仕事を見せてもらった。専門学校に通ってないと無理なので僕はこの仕事にはつけないけれど、衣装に合わせて細かくアレンジやら変更やらを加えているのを間近で見られるのは貴重な経験だった。
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