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酔った勢い
しおりを挟む「えーっと、有栖、大丈夫?」
ベッドにうつ伏せでぶっ倒れている有栖は、そこに座った僕の腰に腕を回して抱き付いていた。
少し前のこと。
彼の知り合いの女性カメラマンさんとお茶会に行った帰り、ずっと不機嫌だった彼は家に着くなり「ランニングに行く」と言って出て行ってしまった。
冴木さんと顔を見合わせて首を傾げたが、二人とも彼の行動の理由は分からなかった。不機嫌な理由なら僕は分かるけれど。
女性は僕たちをからかうために、僕を冗談で口説いたのだけど、有栖はそれがどうしても気に入らなかったらしい。お世話になった方だからあの場では面と向かって怒らなかっただけで、本当なら怒っていたと聞かされた。
僕は普通にお断りするつもりだったし、あの人は僕たちの事情を知らないからしょうがない、と説得してみた。が、「そういう問題ではない」と怒られた。
もしかしたら頭を冷やしに行ったのかもしれない。
数時間後に何事もなく帰ってきて、ちょうど夕飯の時間だったので一緒に食事を食べた。
問題はその後。
どこかからお酒を持ってきたかと思うと、やけくそのように大量に飲んだのだ。呆気に取られる僕と冴木さんはしばし何も出来なかった。
明らかにキャパオーバーな量を飲んでしまってからようやく慌てて止めた。
その結果がご覧の有様。
目は焦点が合わないし、顔は紅潮してふわふわしてるし、足元も覚束無い。このまま写真を撮ったらちょっと大人の雑誌で表紙を飾れそうだった。
なんとかベッドまで運んだけれど、簡単に帰してもらえるはずもなく。こうして拘束されたままここにいるのだった。
大丈夫? という質問にも返事がない。寝てしまっているのだろうか。そう思って立とうとしても、回されている腕の力が強くて立てない。
「有栖。水持ってこようか?」
「…………」
「寝てるの?」
「…………」
さっきからこの調子だ。
「あーりーすー」
腕を押して無理に立とうと藻掻く。すると、急にその手を掴まれた。びっくりする間もなく引っ張られ、同時に起き上がった有栖にベッドに押し倒された。
ぽかんと見上げると、目が据わったままの有栖がこちらを見下ろしていた。
じっ、と見据えられた後、その頭が僕の首筋に埋められる。何かを思うよりも先に、首の付け根に激痛が走った。
「いっ……! ッた」
反射的に有栖の頭を両手で挟んで引き剥がそうとするけれど、僕の力ではびくともしない。
「ねぇ、有栖、痛い!」
必死に抗議すると、ようやっと顔を離してくれた。痛みも和らぐ。どうやら強く噛み付かれたらしい。
前にもこんなことあったな。あの時は確か僕が酔っ払っていたと思うけど。今回はまたなんで噛まれたのだろうか。
眉根を寄せて見上げると、彼は変わらない表情で僕を見下ろしていた。
ただ、その形のいい唇には微かに血が付いている。彼はそれをぺろりと舐めると、僕の首筋を指さして言う。
「お前は、俺の」
「……え?」
「俺のだから。俺以外の恋人とか絶対許さない。あの人でも許さない」
「う、うん」
「なのに。冗談でも告白、とか……さあ。ふざけんじゃねえ」
チッ、と舌打ちしながら、噛んだ方とは反対側の肩に顔を埋めてくる。今度は噛まれなかった。
「えっと、有栖。……怒ってる? ていうか、めちゃくちゃ酔ってる?」
「怒ってない。酔ってない」
「嘘だ」
「嘘じゃないし、遊紗は血の一滴に至るまで俺のだし」
「それは聞いてない」
うん、絶対酔ってる。
「俺のなの。俺のなのに」
「うん、えと、分かってるよ。僕も有栖と別れて他の人と一緒になるとか、絶対しないから。安心して」
駄々っ子のようにぶつぶつ呟く有栖を安心させるように頭を撫でる。有栖は僕を抱き枕のようにして抱き着いてきた。ぎゅっと剛力で締め上げられる。
「お、折れる折れる!」
若干命の危険を感じて暴れると、力が弱まった。さりとて離してくれるわけでもなく、抱き着かれたまま頭をすりすりと擦り付けられた。
軽く抱き締め返してしばらく撫でていると、次第に寝息が聞こえてきた。この体勢のまま眠ってしまったらしい。
こうなると動けないに決まっているので、僕もそのまま諦めて寝ることにした。
朝、酔いが冷めたら話でも聞いてみようかな。
ベッドにうつ伏せでぶっ倒れている有栖は、そこに座った僕の腰に腕を回して抱き付いていた。
少し前のこと。
彼の知り合いの女性カメラマンさんとお茶会に行った帰り、ずっと不機嫌だった彼は家に着くなり「ランニングに行く」と言って出て行ってしまった。
冴木さんと顔を見合わせて首を傾げたが、二人とも彼の行動の理由は分からなかった。不機嫌な理由なら僕は分かるけれど。
女性は僕たちをからかうために、僕を冗談で口説いたのだけど、有栖はそれがどうしても気に入らなかったらしい。お世話になった方だからあの場では面と向かって怒らなかっただけで、本当なら怒っていたと聞かされた。
僕は普通にお断りするつもりだったし、あの人は僕たちの事情を知らないからしょうがない、と説得してみた。が、「そういう問題ではない」と怒られた。
もしかしたら頭を冷やしに行ったのかもしれない。
数時間後に何事もなく帰ってきて、ちょうど夕飯の時間だったので一緒に食事を食べた。
問題はその後。
どこかからお酒を持ってきたかと思うと、やけくそのように大量に飲んだのだ。呆気に取られる僕と冴木さんはしばし何も出来なかった。
明らかにキャパオーバーな量を飲んでしまってからようやく慌てて止めた。
その結果がご覧の有様。
目は焦点が合わないし、顔は紅潮してふわふわしてるし、足元も覚束無い。このまま写真を撮ったらちょっと大人の雑誌で表紙を飾れそうだった。
なんとかベッドまで運んだけれど、簡単に帰してもらえるはずもなく。こうして拘束されたままここにいるのだった。
大丈夫? という質問にも返事がない。寝てしまっているのだろうか。そう思って立とうとしても、回されている腕の力が強くて立てない。
「有栖。水持ってこようか?」
「…………」
「寝てるの?」
「…………」
さっきからこの調子だ。
「あーりーすー」
腕を押して無理に立とうと藻掻く。すると、急にその手を掴まれた。びっくりする間もなく引っ張られ、同時に起き上がった有栖にベッドに押し倒された。
ぽかんと見上げると、目が据わったままの有栖がこちらを見下ろしていた。
じっ、と見据えられた後、その頭が僕の首筋に埋められる。何かを思うよりも先に、首の付け根に激痛が走った。
「いっ……! ッた」
反射的に有栖の頭を両手で挟んで引き剥がそうとするけれど、僕の力ではびくともしない。
「ねぇ、有栖、痛い!」
必死に抗議すると、ようやっと顔を離してくれた。痛みも和らぐ。どうやら強く噛み付かれたらしい。
前にもこんなことあったな。あの時は確か僕が酔っ払っていたと思うけど。今回はまたなんで噛まれたのだろうか。
眉根を寄せて見上げると、彼は変わらない表情で僕を見下ろしていた。
ただ、その形のいい唇には微かに血が付いている。彼はそれをぺろりと舐めると、僕の首筋を指さして言う。
「お前は、俺の」
「……え?」
「俺のだから。俺以外の恋人とか絶対許さない。あの人でも許さない」
「う、うん」
「なのに。冗談でも告白、とか……さあ。ふざけんじゃねえ」
チッ、と舌打ちしながら、噛んだ方とは反対側の肩に顔を埋めてくる。今度は噛まれなかった。
「えっと、有栖。……怒ってる? ていうか、めちゃくちゃ酔ってる?」
「怒ってない。酔ってない」
「嘘だ」
「嘘じゃないし、遊紗は血の一滴に至るまで俺のだし」
「それは聞いてない」
うん、絶対酔ってる。
「俺のなの。俺のなのに」
「うん、えと、分かってるよ。僕も有栖と別れて他の人と一緒になるとか、絶対しないから。安心して」
駄々っ子のようにぶつぶつ呟く有栖を安心させるように頭を撫でる。有栖は僕を抱き枕のようにして抱き着いてきた。ぎゅっと剛力で締め上げられる。
「お、折れる折れる!」
若干命の危険を感じて暴れると、力が弱まった。さりとて離してくれるわけでもなく、抱き着かれたまま頭をすりすりと擦り付けられた。
軽く抱き締め返してしばらく撫でていると、次第に寝息が聞こえてきた。この体勢のまま眠ってしまったらしい。
こうなると動けないに決まっているので、僕もそのまま諦めて寝ることにした。
朝、酔いが冷めたら話でも聞いてみようかな。
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