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年が明けて
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有栖たちと一緒に過ごす年越しが終わって、今日は神社にお参りに行く日だ。三箇日は混んで大変なので、大幅に日を開けてから行くことにしていた。皆の予定とかも調整した結果、今日になったのだ。
† †
年末は有栖も仕事を空けてくれていて、三人でのんびり過ごした。
僕の前の家はテレビがなかったし、御園たちは家族との年末があるからいつも一人だった。正直やることもないし、年越しを待たずに寝てしまったこともある。それを考えると、こんなに穏やかで楽しい年末は久方ぶりだ。
赤白で競い合う歌番組とかお笑い芸人が何かするやつとか、有名だけどあんまり見たことのない番組を見ながら、こたつでミカンを食べる。人によっては当たり前の年末かもしれないけど、僕にとってはそうじゃない。
『ねえ、有栖はどうして僕を好きになってくれたの?』
『え、何だ急に』
『ちょっと気になって。見た目だって平凡だし、虐められるような奴だし、有栖から見てどうなのかなって』
『…………』
クリスマスでは聞くのを忘れていたことを聞いたのだけど、彼は怒ったように顔を顰めた。
『あのな、遊沙』
『うん』
『その話、年越したらしないって約束してくれるか?』
『なんで?』
『何でも』
『有栖が理由を言ってくれたら、僕ももうしないよ』
『分かった。これで最後だからな』
『う、うん』
呆れたように頭を振りながら、彼は答えてくれた。
『遊沙は平凡じゃないし、虐められたのもお前のせいじゃないだろ。会った時から俺を色眼鏡で見なかったし、それどころか意識すらしなかった。純粋な『ありがとう』も嬉しかった。そういう所が新鮮だったっていうか、気になった』
『……それ、僕じゃなくてもいいんじゃ?』
『おい、さすがに怒るぞ。お前じゃなきゃ駄目だって何回言わせるんだ。人だらけのスーパーで気になったのもお前だけだし、もう一度会いたいとか話したいとか、一緒に住みたいだとか思うのもお前だけだ。分かったか?』
『う、うん、分かった』
確かに僕以外の一般の人と話しているのはあまり見たことがない。御園は……普通に話してるけど好きとかそういうのじゃなさそう。後はファンの人だけど、僕とは全然違う話し方してるから仕事のためなんだろう。
……そっか。僕じゃなきゃ駄目なのか。
そう言われると悪い気はしない。
『逆に聞くが、なんでお前はそう自己肯定感が低いんだ? 仮にもモデルの俺が自宅にまで住まわしてるんだぞ? もっと鼻高々になっても良い気がするが。…………いや、まあ、そうならないお前が俺は好きだが』
『低いかな?』
『低いだろ。さっきの発言で既に低いし』
『うーん、ごめん、よく分からない』
『そうか。なら、あと数時間後の来年の目標は、お前の肯定感を無意識に上げさせることだな』
『ええ、もっと大事なことにしたら良いのに』
『俺にとっては大事なんだよ』
なんかよく分からないけど、有栖が僕のために何かしてくれるなら、僕も有栖のために何かしようかな。
† †
「遊沙?」
「ん、何?」
「いや、ぼーっとしてどうした?」
「ううん。神社でお祈りする内容何にしようかなって思って」
本当はもう決めてある。
『今年も三人で何事も無く過ごせますように』だ。お願い事を喋っちゃいけないという決まりはないけれど、喋ってしまったら効果が薄まってしまうような気がして黙っておくことにした。
「俺は決めたぞ」
「何て?」
「言わない」
嬉しそうに笑う有栖は幸せそうで、何だか僕まで嬉しくなった。
お賽銭には五円玉を入れた。
† †
年末は有栖も仕事を空けてくれていて、三人でのんびり過ごした。
僕の前の家はテレビがなかったし、御園たちは家族との年末があるからいつも一人だった。正直やることもないし、年越しを待たずに寝てしまったこともある。それを考えると、こんなに穏やかで楽しい年末は久方ぶりだ。
赤白で競い合う歌番組とかお笑い芸人が何かするやつとか、有名だけどあんまり見たことのない番組を見ながら、こたつでミカンを食べる。人によっては当たり前の年末かもしれないけど、僕にとってはそうじゃない。
『ねえ、有栖はどうして僕を好きになってくれたの?』
『え、何だ急に』
『ちょっと気になって。見た目だって平凡だし、虐められるような奴だし、有栖から見てどうなのかなって』
『…………』
クリスマスでは聞くのを忘れていたことを聞いたのだけど、彼は怒ったように顔を顰めた。
『あのな、遊沙』
『うん』
『その話、年越したらしないって約束してくれるか?』
『なんで?』
『何でも』
『有栖が理由を言ってくれたら、僕ももうしないよ』
『分かった。これで最後だからな』
『う、うん』
呆れたように頭を振りながら、彼は答えてくれた。
『遊沙は平凡じゃないし、虐められたのもお前のせいじゃないだろ。会った時から俺を色眼鏡で見なかったし、それどころか意識すらしなかった。純粋な『ありがとう』も嬉しかった。そういう所が新鮮だったっていうか、気になった』
『……それ、僕じゃなくてもいいんじゃ?』
『おい、さすがに怒るぞ。お前じゃなきゃ駄目だって何回言わせるんだ。人だらけのスーパーで気になったのもお前だけだし、もう一度会いたいとか話したいとか、一緒に住みたいだとか思うのもお前だけだ。分かったか?』
『う、うん、分かった』
確かに僕以外の一般の人と話しているのはあまり見たことがない。御園は……普通に話してるけど好きとかそういうのじゃなさそう。後はファンの人だけど、僕とは全然違う話し方してるから仕事のためなんだろう。
……そっか。僕じゃなきゃ駄目なのか。
そう言われると悪い気はしない。
『逆に聞くが、なんでお前はそう自己肯定感が低いんだ? 仮にもモデルの俺が自宅にまで住まわしてるんだぞ? もっと鼻高々になっても良い気がするが。…………いや、まあ、そうならないお前が俺は好きだが』
『低いかな?』
『低いだろ。さっきの発言で既に低いし』
『うーん、ごめん、よく分からない』
『そうか。なら、あと数時間後の来年の目標は、お前の肯定感を無意識に上げさせることだな』
『ええ、もっと大事なことにしたら良いのに』
『俺にとっては大事なんだよ』
なんかよく分からないけど、有栖が僕のために何かしてくれるなら、僕も有栖のために何かしようかな。
† †
「遊沙?」
「ん、何?」
「いや、ぼーっとしてどうした?」
「ううん。神社でお祈りする内容何にしようかなって思って」
本当はもう決めてある。
『今年も三人で何事も無く過ごせますように』だ。お願い事を喋っちゃいけないという決まりはないけれど、喋ってしまったら効果が薄まってしまうような気がして黙っておくことにした。
「俺は決めたぞ」
「何て?」
「言わない」
嬉しそうに笑う有栖は幸せそうで、何だか僕まで嬉しくなった。
お賽銭には五円玉を入れた。
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