憂いの空と欠けた太陽

弟切 湊

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番外編:クリスマス

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大分過ぎてしまって年も越してしまったのですが、せっかくなので二人(三人?)のクリスマスを書こうと思います。もちろん正月も書きます。


―――――†


(どれなら喜んでくれるかな?)


目の前に並ぶ雑貨の数々に、僕は頭を悩ませる。
去年は出会ったばかりだったし、なんやかんやで出来なかったクリスマスパーティーを今年はやろうということになったのだ。あの頃は一緒に住むなんて、ましてや告白されて恋仲になるなんて夢にも思わなかった。……結局、有栖は僕のどこを気に入ったんだろう? 後で聞いてみようかな。
有栖の仕事も事前に終わらせたみたいで、その日一日はオフだ。
パーティーはもちろんのこと、プレゼント交換だってやる。
ということで、僕はそのプレゼントを探しに来ているのだ。

パーティーは御園とも何回かしたことはあるけど、交換は何気に初めてだ。大体御園の家に行ってゲームしたり、僕が持って行ったお菓子と御園のお母さんが作ってくれた食べ物を食べ合ったりしていたから。
だから、何を選べば良いのか正直よく分からない。クリスマスっぽいものならスノードームとかミニクリスマスツリーとか色々あるけど、それを貰って本当に嬉しいのかな? という気もする。仕事がある日もない日も、彼は居間にいる事が多いし、自分の部屋に飾っておくようなものはあまり見ないだろうからいらないんじゃないだろうか。
アクセサリーはこの前の学校祭であげたし……。ああいうものは好みに合わなかったら重荷になっちゃうから軽々しく何個もあげるのは良くない。
食べ物が一番良いだろうけど、せっかく交換したのに残るのは包装紙だけ、っていうのも味気ない。

うーん、どうしたらいいんだろう。
…………そういえば、御園にバレンタインチョコの相談をしたときに、『好きな人から貰ったチョコなら何でも嬉しい』みたいなこと言ってたっけ。

でも、物はチョコと違うからどうか分からないし、僕が貰ったら嬉しいものにしようかな。
……とりあえず食べ物はなしだな。新作ゲームは欲しいけど、有栖向けではないから駄目。置物は好みが分かれて難しいから却下。
店内を歩き回りながらあれでもない、これでもない、と悩み続ける僕の目に、ふとある物が映り込んだ。それは、洒落た造りの写真立てだった。
思い出をあげるとかいうとちょっとキザすぎるし自惚れてるけど、僕は有栖に会えて良かったと思ってるし、彼との思い出は僕にとって大事な物だ。彼と撮った写真は少ないけれど、水族館で撮った、青い世界で二人きりの写真はかなり気に入っているから、あれを現像して入れようかな。

結局『自分の部屋に飾っておくようなもの』になってしまったけど、気に入らなくなったら中身を変えてくれれば良いし、まあスノードームとかミニクリスマスツリーとかよりは汎用性があるからいいか。
あとは、ラッピングペーパーとミニメッセージカードを買って、と。

こんなもので申し訳ないけど、有栖、喜んでくれるといいなぁ。


――――――――――――†


家に帰ってメッセージを書いて、現像した写真を写真立てに入れると、それを丁寧にラッピングした。ペーパーは袋状でリボンが付いているものが手軽で見栄えがいいのでそれにした。材質はペーパーじゃないけど。

有栖も自分の部屋にいたので、きっと僕と同じことをしているのだろう。

冴木さんは1階でパーティーの準備をしていた。昨日いそいそと、でも楽しそうに荷物を詰めてどこかに送っていて、さっき代わりに届いた荷物を見る限り、彼も可香谷さんと宅配で交換したに違いない。
今もご機嫌で料理したり並べたりしてくれている。

途中から僕も手伝って、さらに降りてきた有栖も手伝ってくれたので、5時半頃には食事にすることが出来た。内容は定番のチキンと、盛り合わせの炒め物、コーンスープ、その他オードブル。お酒は有栖以外弱いので、アルコール度数が低めのシャンパンとか炭酸ジュースになっている。一応有栖用のウイスキーミニボトルもあって、彼は別のグラスでちびちび飲んでいた。
雰囲気を出すために買ったロウソクが揺らめく食卓で、他愛もない話をしながらのんびり食事するのは贅沢な時間だった。食事中にプレゼント交換をするのは少々行儀悪いけれど、こういう時は許される。
互いにドキドキしながら交換して、袋の形や大きさから中身を想像しながら開ける。僕も有栖も初めてのプレゼント交換なので、小学生のように目をキラキラさせていて、それを冴木さんが実に微笑ましそうに見ていた。

「え、これは……」

開けた有栖が目を丸くする。

「写真?」
「う、うん。その、贈るものが思いつかなくて……それが僕の記憶に残ってる中で一番良い写真だったから、どうかなって。綺麗な額縁も見つけたし。僕が貰って嬉しいものにしたんだけど……」

買った写真立ては白を基調としたゴシック風の額縁で、細かい彫刻が目を引く一品だ。凝った意匠のため値が張ったが、高いものは総じて良いものであることが多いので買って損はないと思う。中には水族館で有栖が僕のために作ってくれた青い世界が閉じ込められている。自撮りはあまりしないけど、この時だけはと大水槽をバックにしてツーショットしたのだ。白に青が映えて、見た目は悪くないはずだ。だけど、気に入らなかったらと思うとやっぱり怖い。

怖々と顔色を伺うと、目を丸くした彼の顔が段々赤くなるのが分かった。気に入らなかった? と聞くと、ぶんぶんと首を振る。

「いや、ちょっと言葉にならないくらい嬉しくて。物もだけど、遊沙の気持ちが。俺がやったことを記憶に残してくれてるんだと思うと……」

本当に嬉しそうな有栖を見てほっとする。何だか僕も嬉しかった。

「俺のも開けてみてくれ。気に入るかどうか分からないが」

有栖のを開けてみると、中身は組み立て式の置き時計だった。小さな部品を図面通りに組み立てていくと時計が出来るというもので、作る工程を楽しんだ後も実際に使えるのだ。楽しそうだし、完成図を見る限り素敵な仕上がりになりそうだ。まあ、僕の腕次第だけど。

「ありがとう。僕、こういうの結構好きなんだ。有栖が何で僕の好きなものを分かるのか不思議」
「俺はお前が何で俺の喜ぶ言葉を選べるのかが不思議だな」
「?」

何を言っているのかよく分からなかったが、そのままむぎゅっと抱きしめられて、肩を頭でぐりぐりされたのでどうでも良くなった。猫みたいでなんか可愛い。ほっこりしている間に冴木さんも可香谷さんのプレゼントを開けていた。
驚いたように取り出したのは、繊維が細かくて質の良さそうなタートルネックセーターだった。深い緑で、冴木さんの茶髪によく似合いそうだし、彼が持っていなさそうな服だ。
服の他には簡素な封筒に入った手紙が入っている。冴木さんが読み終わった後、僕に見せてくれた。読みたそうにしていたのが顔に出てしまったのかもしれない。

中身には、

『冴木様

ご無沙汰しております、可香谷です。
ぼくはクリスチャンではないので、クリスマスという行事は何の関係もありませんが、こういう催しがあるなら悪くないですね。

ぼくからのプレゼントはそのセーターです。遠慮がちな貴方のことですし、服はあまりもっておられないように見えましたので。余計なお世話かもしれませんが。

サイズはフリーを選びましたのでご心配なく。
もし気に食わなければ送り返していただければ別の物を再送しますので、そのように。

では。
ご自愛ください』

と書かれていた。便箋も味気ないほど真っ白で、そこに事務的な文章が簡潔に書かれているあたりがとても可香谷さんらしい。
冴木さんはにこにこしていてとても嬉しそうだ。
そういえば学校祭の後に有栖から、「冴木さんの外行き服が少ないから買いに行こう」と言われていた。多分ほんの少ししか会っていないのに、冴木さんに必要な物を分かっているなんて、可香谷さんはエスパーか何かなのだろうか。


くっついていた有栖を引き離して食事の続きをする。
ああ、やっぱりなんだかんだでこういう時間が一番幸せだなぁ。
毎日がイベントだったら良いのに、と思うけど、もしそうだったらきっと飽きてしまうんだろうなとも思う。
また来年も、こうして楽しめたらいいな。


―――――†

(おまけ・可香谷視点)


「先生、今日は何だか機嫌が良いですね。何かありましたか?」

いつも手伝ってくれている女性の看護師が不思議そうに聞いてくる。別にぼくの機嫌なんてどうでも良いだろうに。答えるのは面倒だから適当にはぐらかしたいが、確かに今のぼくは機嫌が良いのでつい答えてしまう。質問を無視するのもあれだしな。

「ええ。大切な友人から荷物が届きまして」
「あら、そうですか。何が届いたんですか?」

彼女は笑顔が素敵な女性だが、仕事も真面目であまり話しかけてくることはない。せいぜい挨拶くらいだ。それがこんなに色々話してくるなんて、ぼくはそんなに顔に出していたのだろうか。

「ご想像にお任せします。業務時間中ですので」
「そうでしたね。すみません」

結局はぐらかして、業務に戻る。世間はクリスマスとかで浮かれていても、患者がいる限り医者もいなければいけない。休みなんかないのだ。……まあ、ぼくの場合自主的に休みを用意しているが。

デスクの端をチラリと見やる。
そこには上質そうな革で出来たシックなペンケースが置かれていた。品の良いチャームも付いていて、見てすぐに気に入ってしまった。彼はやはり趣味が良い。

ぼくのあげたセーターはチクチクしない造りのものを選んだし、サイズも大丈夫だと思うのだが、気に入ってもらえただろうか。手紙にはああ書いたが、もしセーターが送り返されてきたらさすがのぼくでも涙を禁じ得ない。彼はきっとしないだろうけど。

「先生、患者さんがお見えになりました」

いつもの仕事なのに、あのペンケースがあるだけで何故か仕事がはかどるような気がした。
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