110 / 142
番外編:クリスマス
しおりを挟む
大分過ぎてしまって年も越してしまったのですが、せっかくなので二人(三人?)のクリスマスを書こうと思います。もちろん正月も書きます。
―――――†
(どれなら喜んでくれるかな?)
目の前に並ぶ雑貨の数々に、僕は頭を悩ませる。
去年は出会ったばかりだったし、なんやかんやで出来なかったクリスマスパーティーを今年はやろうということになったのだ。あの頃は一緒に住むなんて、ましてや告白されて恋仲になるなんて夢にも思わなかった。……結局、有栖は僕のどこを気に入ったんだろう? 後で聞いてみようかな。
有栖の仕事も事前に終わらせたみたいで、その日一日はオフだ。
パーティーはもちろんのこと、プレゼント交換だってやる。
ということで、僕はそのプレゼントを探しに来ているのだ。
パーティーは御園とも何回かしたことはあるけど、交換は何気に初めてだ。大体御園の家に行ってゲームしたり、僕が持って行ったお菓子と御園のお母さんが作ってくれた食べ物を食べ合ったりしていたから。
だから、何を選べば良いのか正直よく分からない。クリスマスっぽいものならスノードームとかミニクリスマスツリーとか色々あるけど、それを貰って本当に嬉しいのかな? という気もする。仕事がある日もない日も、彼は居間にいる事が多いし、自分の部屋に飾っておくようなものはあまり見ないだろうからいらないんじゃないだろうか。
アクセサリーはこの前の学校祭であげたし……。ああいうものは好みに合わなかったら重荷になっちゃうから軽々しく何個もあげるのは良くない。
食べ物が一番良いだろうけど、せっかく交換したのに残るのは包装紙だけ、っていうのも味気ない。
うーん、どうしたらいいんだろう。
…………そういえば、御園にバレンタインチョコの相談をしたときに、『好きな人から貰ったチョコなら何でも嬉しい』みたいなこと言ってたっけ。
でも、物はチョコと違うからどうか分からないし、僕が貰ったら嬉しいものにしようかな。
……とりあえず食べ物はなしだな。新作ゲームは欲しいけど、有栖向けではないから駄目。置物は好みが分かれて難しいから却下。
店内を歩き回りながらあれでもない、これでもない、と悩み続ける僕の目に、ふとある物が映り込んだ。それは、洒落た造りの写真立てだった。
思い出をあげるとかいうとちょっとキザすぎるし自惚れてるけど、僕は有栖に会えて良かったと思ってるし、彼との思い出は僕にとって大事な物だ。彼と撮った写真は少ないけれど、水族館で撮った、青い世界で二人きりの写真はかなり気に入っているから、あれを現像して入れようかな。
結局『自分の部屋に飾っておくようなもの』になってしまったけど、気に入らなくなったら中身を変えてくれれば良いし、まあスノードームとかミニクリスマスツリーとかよりは汎用性があるからいいか。
あとは、ラッピングペーパーとミニメッセージカードを買って、と。
こんなもので申し訳ないけど、有栖、喜んでくれるといいなぁ。
――――――――――――†
家に帰ってメッセージを書いて、現像した写真を写真立てに入れると、それを丁寧にラッピングした。ペーパーは袋状でリボンが付いているものが手軽で見栄えがいいのでそれにした。材質はペーパーじゃないけど。
有栖も自分の部屋にいたので、きっと僕と同じことをしているのだろう。
冴木さんは1階でパーティーの準備をしていた。昨日いそいそと、でも楽しそうに荷物を詰めてどこかに送っていて、さっき代わりに届いた荷物を見る限り、彼も可香谷さんと宅配で交換したに違いない。
今もご機嫌で料理したり並べたりしてくれている。
途中から僕も手伝って、さらに降りてきた有栖も手伝ってくれたので、5時半頃には食事にすることが出来た。内容は定番のチキンと、盛り合わせの炒め物、コーンスープ、その他オードブル。お酒は有栖以外弱いので、アルコール度数が低めのシャンパンとか炭酸ジュースになっている。一応有栖用のウイスキーミニボトルもあって、彼は別のグラスでちびちび飲んでいた。
雰囲気を出すために買ったロウソクが揺らめく食卓で、他愛もない話をしながらのんびり食事するのは贅沢な時間だった。食事中にプレゼント交換をするのは少々行儀悪いけれど、こういう時は許される。
互いにドキドキしながら交換して、袋の形や大きさから中身を想像しながら開ける。僕も有栖も初めてのプレゼント交換なので、小学生のように目をキラキラさせていて、それを冴木さんが実に微笑ましそうに見ていた。
「え、これは……」
開けた有栖が目を丸くする。
「写真?」
「う、うん。その、贈るものが思いつかなくて……それが僕の記憶に残ってる中で一番良い写真だったから、どうかなって。綺麗な額縁も見つけたし。僕が貰って嬉しいものにしたんだけど……」
買った写真立ては白を基調としたゴシック風の額縁で、細かい彫刻が目を引く一品だ。凝った意匠のため値が張ったが、高いものは総じて良いものであることが多いので買って損はないと思う。中には水族館で有栖が僕のために作ってくれた青い世界が閉じ込められている。自撮りはあまりしないけど、この時だけはと大水槽をバックにしてツーショットしたのだ。白に青が映えて、見た目は悪くないはずだ。だけど、気に入らなかったらと思うとやっぱり怖い。
怖々と顔色を伺うと、目を丸くした彼の顔が段々赤くなるのが分かった。気に入らなかった? と聞くと、ぶんぶんと首を振る。
「いや、ちょっと言葉にならないくらい嬉しくて。物もだけど、遊沙の気持ちが。俺がやったことを記憶に残してくれてるんだと思うと……」
本当に嬉しそうな有栖を見てほっとする。何だか僕も嬉しかった。
「俺のも開けてみてくれ。気に入るかどうか分からないが」
有栖のを開けてみると、中身は組み立て式の置き時計だった。小さな部品を図面通りに組み立てていくと時計が出来るというもので、作る工程を楽しんだ後も実際に使えるのだ。楽しそうだし、完成図を見る限り素敵な仕上がりになりそうだ。まあ、僕の腕次第だけど。
「ありがとう。僕、こういうの結構好きなんだ。有栖が何で僕の好きなものを分かるのか不思議」
「俺はお前が何で俺の喜ぶ言葉を選べるのかが不思議だな」
「?」
何を言っているのかよく分からなかったが、そのままむぎゅっと抱きしめられて、肩を頭でぐりぐりされたのでどうでも良くなった。猫みたいでなんか可愛い。ほっこりしている間に冴木さんも可香谷さんのプレゼントを開けていた。
驚いたように取り出したのは、繊維が細かくて質の良さそうなタートルネックセーターだった。深い緑で、冴木さんの茶髪によく似合いそうだし、彼が持っていなさそうな服だ。
服の他には簡素な封筒に入った手紙が入っている。冴木さんが読み終わった後、僕に見せてくれた。読みたそうにしていたのが顔に出てしまったのかもしれない。
中身には、
『冴木様
ご無沙汰しております、可香谷です。
ぼくはクリスチャンではないので、クリスマスという行事は何の関係もありませんが、こういう催しがあるなら悪くないですね。
ぼくからのプレゼントはそのセーターです。遠慮がちな貴方のことですし、服はあまりもっておられないように見えましたので。余計なお世話かもしれませんが。
サイズはフリーを選びましたのでご心配なく。
もし気に食わなければ送り返していただければ別の物を再送しますので、そのように。
では。
ご自愛ください』
と書かれていた。便箋も味気ないほど真っ白で、そこに事務的な文章が簡潔に書かれているあたりがとても可香谷さんらしい。
冴木さんはにこにこしていてとても嬉しそうだ。
そういえば学校祭の後に有栖から、「冴木さんの外行き服が少ないから買いに行こう」と言われていた。多分ほんの少ししか会っていないのに、冴木さんに必要な物を分かっているなんて、可香谷さんはエスパーか何かなのだろうか。
くっついていた有栖を引き離して食事の続きをする。
ああ、やっぱりなんだかんだでこういう時間が一番幸せだなぁ。
毎日がイベントだったら良いのに、と思うけど、もしそうだったらきっと飽きてしまうんだろうなとも思う。
また来年も、こうして楽しめたらいいな。
―――――†
(おまけ・可香谷視点)
「先生、今日は何だか機嫌が良いですね。何かありましたか?」
いつも手伝ってくれている女性の看護師が不思議そうに聞いてくる。別にぼくの機嫌なんてどうでも良いだろうに。答えるのは面倒だから適当にはぐらかしたいが、確かに今のぼくは機嫌が良いのでつい答えてしまう。質問を無視するのもあれだしな。
「ええ。大切な友人から荷物が届きまして」
「あら、そうですか。何が届いたんですか?」
彼女は笑顔が素敵な女性だが、仕事も真面目であまり話しかけてくることはない。せいぜい挨拶くらいだ。それがこんなに色々話してくるなんて、ぼくはそんなに顔に出していたのだろうか。
「ご想像にお任せします。業務時間中ですので」
「そうでしたね。すみません」
結局はぐらかして、業務に戻る。世間はクリスマスとかで浮かれていても、患者がいる限り医者もいなければいけない。休みなんかないのだ。……まあ、ぼくの場合自主的に休みを用意しているが。
デスクの端をチラリと見やる。
そこには上質そうな革で出来たシックなペンケースが置かれていた。品の良いチャームも付いていて、見てすぐに気に入ってしまった。彼はやはり趣味が良い。
ぼくのあげたセーターはチクチクしない造りのものを選んだし、サイズも大丈夫だと思うのだが、気に入ってもらえただろうか。手紙にはああ書いたが、もしセーターが送り返されてきたらさすがのぼくでも涙を禁じ得ない。彼はきっとしないだろうけど。
「先生、患者さんがお見えになりました」
いつもの仕事なのに、あのペンケースがあるだけで何故か仕事がはかどるような気がした。
―――――†
(どれなら喜んでくれるかな?)
目の前に並ぶ雑貨の数々に、僕は頭を悩ませる。
去年は出会ったばかりだったし、なんやかんやで出来なかったクリスマスパーティーを今年はやろうということになったのだ。あの頃は一緒に住むなんて、ましてや告白されて恋仲になるなんて夢にも思わなかった。……結局、有栖は僕のどこを気に入ったんだろう? 後で聞いてみようかな。
有栖の仕事も事前に終わらせたみたいで、その日一日はオフだ。
パーティーはもちろんのこと、プレゼント交換だってやる。
ということで、僕はそのプレゼントを探しに来ているのだ。
パーティーは御園とも何回かしたことはあるけど、交換は何気に初めてだ。大体御園の家に行ってゲームしたり、僕が持って行ったお菓子と御園のお母さんが作ってくれた食べ物を食べ合ったりしていたから。
だから、何を選べば良いのか正直よく分からない。クリスマスっぽいものならスノードームとかミニクリスマスツリーとか色々あるけど、それを貰って本当に嬉しいのかな? という気もする。仕事がある日もない日も、彼は居間にいる事が多いし、自分の部屋に飾っておくようなものはあまり見ないだろうからいらないんじゃないだろうか。
アクセサリーはこの前の学校祭であげたし……。ああいうものは好みに合わなかったら重荷になっちゃうから軽々しく何個もあげるのは良くない。
食べ物が一番良いだろうけど、せっかく交換したのに残るのは包装紙だけ、っていうのも味気ない。
うーん、どうしたらいいんだろう。
…………そういえば、御園にバレンタインチョコの相談をしたときに、『好きな人から貰ったチョコなら何でも嬉しい』みたいなこと言ってたっけ。
でも、物はチョコと違うからどうか分からないし、僕が貰ったら嬉しいものにしようかな。
……とりあえず食べ物はなしだな。新作ゲームは欲しいけど、有栖向けではないから駄目。置物は好みが分かれて難しいから却下。
店内を歩き回りながらあれでもない、これでもない、と悩み続ける僕の目に、ふとある物が映り込んだ。それは、洒落た造りの写真立てだった。
思い出をあげるとかいうとちょっとキザすぎるし自惚れてるけど、僕は有栖に会えて良かったと思ってるし、彼との思い出は僕にとって大事な物だ。彼と撮った写真は少ないけれど、水族館で撮った、青い世界で二人きりの写真はかなり気に入っているから、あれを現像して入れようかな。
結局『自分の部屋に飾っておくようなもの』になってしまったけど、気に入らなくなったら中身を変えてくれれば良いし、まあスノードームとかミニクリスマスツリーとかよりは汎用性があるからいいか。
あとは、ラッピングペーパーとミニメッセージカードを買って、と。
こんなもので申し訳ないけど、有栖、喜んでくれるといいなぁ。
――――――――――――†
家に帰ってメッセージを書いて、現像した写真を写真立てに入れると、それを丁寧にラッピングした。ペーパーは袋状でリボンが付いているものが手軽で見栄えがいいのでそれにした。材質はペーパーじゃないけど。
有栖も自分の部屋にいたので、きっと僕と同じことをしているのだろう。
冴木さんは1階でパーティーの準備をしていた。昨日いそいそと、でも楽しそうに荷物を詰めてどこかに送っていて、さっき代わりに届いた荷物を見る限り、彼も可香谷さんと宅配で交換したに違いない。
今もご機嫌で料理したり並べたりしてくれている。
途中から僕も手伝って、さらに降りてきた有栖も手伝ってくれたので、5時半頃には食事にすることが出来た。内容は定番のチキンと、盛り合わせの炒め物、コーンスープ、その他オードブル。お酒は有栖以外弱いので、アルコール度数が低めのシャンパンとか炭酸ジュースになっている。一応有栖用のウイスキーミニボトルもあって、彼は別のグラスでちびちび飲んでいた。
雰囲気を出すために買ったロウソクが揺らめく食卓で、他愛もない話をしながらのんびり食事するのは贅沢な時間だった。食事中にプレゼント交換をするのは少々行儀悪いけれど、こういう時は許される。
互いにドキドキしながら交換して、袋の形や大きさから中身を想像しながら開ける。僕も有栖も初めてのプレゼント交換なので、小学生のように目をキラキラさせていて、それを冴木さんが実に微笑ましそうに見ていた。
「え、これは……」
開けた有栖が目を丸くする。
「写真?」
「う、うん。その、贈るものが思いつかなくて……それが僕の記憶に残ってる中で一番良い写真だったから、どうかなって。綺麗な額縁も見つけたし。僕が貰って嬉しいものにしたんだけど……」
買った写真立ては白を基調としたゴシック風の額縁で、細かい彫刻が目を引く一品だ。凝った意匠のため値が張ったが、高いものは総じて良いものであることが多いので買って損はないと思う。中には水族館で有栖が僕のために作ってくれた青い世界が閉じ込められている。自撮りはあまりしないけど、この時だけはと大水槽をバックにしてツーショットしたのだ。白に青が映えて、見た目は悪くないはずだ。だけど、気に入らなかったらと思うとやっぱり怖い。
怖々と顔色を伺うと、目を丸くした彼の顔が段々赤くなるのが分かった。気に入らなかった? と聞くと、ぶんぶんと首を振る。
「いや、ちょっと言葉にならないくらい嬉しくて。物もだけど、遊沙の気持ちが。俺がやったことを記憶に残してくれてるんだと思うと……」
本当に嬉しそうな有栖を見てほっとする。何だか僕も嬉しかった。
「俺のも開けてみてくれ。気に入るかどうか分からないが」
有栖のを開けてみると、中身は組み立て式の置き時計だった。小さな部品を図面通りに組み立てていくと時計が出来るというもので、作る工程を楽しんだ後も実際に使えるのだ。楽しそうだし、完成図を見る限り素敵な仕上がりになりそうだ。まあ、僕の腕次第だけど。
「ありがとう。僕、こういうの結構好きなんだ。有栖が何で僕の好きなものを分かるのか不思議」
「俺はお前が何で俺の喜ぶ言葉を選べるのかが不思議だな」
「?」
何を言っているのかよく分からなかったが、そのままむぎゅっと抱きしめられて、肩を頭でぐりぐりされたのでどうでも良くなった。猫みたいでなんか可愛い。ほっこりしている間に冴木さんも可香谷さんのプレゼントを開けていた。
驚いたように取り出したのは、繊維が細かくて質の良さそうなタートルネックセーターだった。深い緑で、冴木さんの茶髪によく似合いそうだし、彼が持っていなさそうな服だ。
服の他には簡素な封筒に入った手紙が入っている。冴木さんが読み終わった後、僕に見せてくれた。読みたそうにしていたのが顔に出てしまったのかもしれない。
中身には、
『冴木様
ご無沙汰しております、可香谷です。
ぼくはクリスチャンではないので、クリスマスという行事は何の関係もありませんが、こういう催しがあるなら悪くないですね。
ぼくからのプレゼントはそのセーターです。遠慮がちな貴方のことですし、服はあまりもっておられないように見えましたので。余計なお世話かもしれませんが。
サイズはフリーを選びましたのでご心配なく。
もし気に食わなければ送り返していただければ別の物を再送しますので、そのように。
では。
ご自愛ください』
と書かれていた。便箋も味気ないほど真っ白で、そこに事務的な文章が簡潔に書かれているあたりがとても可香谷さんらしい。
冴木さんはにこにこしていてとても嬉しそうだ。
そういえば学校祭の後に有栖から、「冴木さんの外行き服が少ないから買いに行こう」と言われていた。多分ほんの少ししか会っていないのに、冴木さんに必要な物を分かっているなんて、可香谷さんはエスパーか何かなのだろうか。
くっついていた有栖を引き離して食事の続きをする。
ああ、やっぱりなんだかんだでこういう時間が一番幸せだなぁ。
毎日がイベントだったら良いのに、と思うけど、もしそうだったらきっと飽きてしまうんだろうなとも思う。
また来年も、こうして楽しめたらいいな。
―――――†
(おまけ・可香谷視点)
「先生、今日は何だか機嫌が良いですね。何かありましたか?」
いつも手伝ってくれている女性の看護師が不思議そうに聞いてくる。別にぼくの機嫌なんてどうでも良いだろうに。答えるのは面倒だから適当にはぐらかしたいが、確かに今のぼくは機嫌が良いのでつい答えてしまう。質問を無視するのもあれだしな。
「ええ。大切な友人から荷物が届きまして」
「あら、そうですか。何が届いたんですか?」
彼女は笑顔が素敵な女性だが、仕事も真面目であまり話しかけてくることはない。せいぜい挨拶くらいだ。それがこんなに色々話してくるなんて、ぼくはそんなに顔に出していたのだろうか。
「ご想像にお任せします。業務時間中ですので」
「そうでしたね。すみません」
結局はぐらかして、業務に戻る。世間はクリスマスとかで浮かれていても、患者がいる限り医者もいなければいけない。休みなんかないのだ。……まあ、ぼくの場合自主的に休みを用意しているが。
デスクの端をチラリと見やる。
そこには上質そうな革で出来たシックなペンケースが置かれていた。品の良いチャームも付いていて、見てすぐに気に入ってしまった。彼はやはり趣味が良い。
ぼくのあげたセーターはチクチクしない造りのものを選んだし、サイズも大丈夫だと思うのだが、気に入ってもらえただろうか。手紙にはああ書いたが、もしセーターが送り返されてきたらさすがのぼくでも涙を禁じ得ない。彼はきっとしないだろうけど。
「先生、患者さんがお見えになりました」
いつもの仕事なのに、あのペンケースがあるだけで何故か仕事がはかどるような気がした。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
総長の彼氏が俺にだけ優しい
桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、
関東で最強の暴走族の総長。
みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。
そんな日常を描いた話である。
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
天啓によると殿下の婚約者ではなくなります
ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。
フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。
●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移要素はありません。
麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。
王と正妃~アルファの夫に恋がしてみたいと言われたので、初恋をやり直してみることにした~
仁茂田もに
BL
「恋がしてみたいんだが」
アルファの夫から突然そう告げられたオメガのアレクシスはただひたすら困惑していた。
政略結婚して三十年近く――夫夫として関係を持って二十年以上が経つ。
その間、自分たちは国王と正妃として正しく義務を果たしてきた。
しかし、そこに必要以上の感情は含まれなかったはずだ。
何も期待せず、ただ妃としての役割を全うしようと思っていたアレクシスだったが、国王エドワードはその発言以来急激に距離を詰めてきて――。
一度、決定的にすれ違ってしまったふたりが二十年以上経って初恋をやり直そうとする話です。
昔若気の至りでやらかした王様×王様の昔のやらかしを別に怒ってない正妃(男)
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる