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いじめっ子(御園視点)
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女装カフェなんていう突飛な提案をしてきた友人を、オレは一度ぶん殴ろうとした。こいつは遊紗を合コンに連れて行ったという前科があるし、あの時のことを思うと殴り足りなかったからだ。
だが、今では殴らなくて良かったと心底思う。遊紗の女装とかいう興味深いものを見られて、しかもオレは女装しなくていいなんて都合のいい話、今後きっとないだろう。
オレはゲイだが女装の趣味はない。あくまで男として男が好きなのだ。だから、彼の女装なんて正直ただの興味しかなかったのだが。これがまた似合うのだ。華奢なせいもあってか、素朴ながら可憐で可愛かった。他のメイドたちも皆似合っていたが、オレの中では遊紗が一番だった。
あのモデル野郎を招待しているみたいだが、どーせ邪念しかないヤツにあの可愛さを見せるのは勿体ない気がする。
まあ、オレがそんなこと思ったところで邪魔なんか出来ないけど。一応オレの役目はメイドの護衛役。嫌な客を追い払うのはオレの仕事だが、善良な客に手出しは出来ない。あいつが遊紗にセクハラでもしない限り追い出せないってことだ。
で、結局そんなこともなく、学校祭は平和に終わった。……良い事だが。
問題はその後だ。またいつものあいつらが性懲りも無く遊紗に突っかかってきたのだ。しかも、運悪くオレがトイレに行っていた間に。
いじめっ子って奴はここまで執念深いものなのだろうか。あいつらが遊紗の腕を折ったお返しに、オレもいくつか折ってやったはずなんだがな。入院期間もそれなりに要したはずだ。なのに、未だに遊紗に執着する理由が分からない。
あの野郎がたまたま来たおかげで事なきを得たが、いなかったら何をされていたことか。それだけは感謝している。……てかあの野郎、あいつらぶん殴ろうとしてたけど良いのかよ。モデルなら今後の人生も考えて自重しろよな。
ま、そんだけ遊紗のためにキレてくれたってんなら悪い気はしないが。
でけぇ奴にぶん殴られそうになった上に、オレの顔を覚えているあいつらは一目散に逃げ出した。いつも感情を表に出さない遊紗が珍しいことに怯えていたが、オレは彼に軽く声をかけた後やつらを追うことにした。
癪だが、慰めるのはオレの役目じゃないだろうし。
あいつらには、すぐに追いついた。
この学校の生徒じゃない奴には、ここは広すぎる。逃げ場が多すぎるせいで何処に逃げたら良いのか分からなくなるから、地の利を生かせば追いつくのは簡単だった。
学校祭の片付けで忙しい人たちの邪魔になるのはいただけないし、階段の踊り場に追い込んで話を聞くことにした。遊沙に対してはあんなに態度がデカいクセに、オレにはへこへこしているのがあまりに情けない。
「あんたらも懲りねぇな」
「い、いや、今日は別に……なあ? ちょっとたまたま会って話してただけで……」
「あいつを怯えさせといて、ただ会っただけだって?」
「そりゃあ遊沙が勝手に怯えただけだろ。おれら、何もしてねぇし」
青い顔をしながらニヤついているのが何とも気味悪い。別に今日は妙な騒ぎにするつもりはないし、そこまで怯えられると話しにくいんだが。
「なあ、なんでそんなに遊沙を目の敵にするんだ?」
「…………あ? ああ……。別に意味なんか……」
「もっかい殴っても良いんだぞ」
「わ、分かった、話す、話すから。その、最初はおれらの誘いを断ったから腹が立って、ただ仕返しがしたかっただけだったんだよ。でもさ、そうしたらあいつ、先公からも煙たがられるようになったわけ。おれらが何しても見て見ぬ振りだったし。で、あいつ自身も全然抵抗しないし……」
「…………それで?」
「『ああ、コイツには何しても良いんだ』って思った。怖がってるくせに助けも呼ばない、呼んだとしても誰も何もしない。あいつには両親がいないから、心配する奴もいない。……なら、良いかなってさ」
「へえ。それ、今も思ってんのか?」
「お、思ってない。だって、誰だか知らねぇけどてめえに骨折られてクッソ痛かったし。そん時に限りゃあおれが被害者だってのに、親には喧嘩すんじゃねえって散々怒られた上に医療費はおれ負担だったし」
「じゃあなんで、その後と今日の二回も遊沙を襲ったんだ?」
「……ただの腹いせ。八つ当たり? みたいな……。酷くするつもりはなくて、ただ数回殴って気を晴らそうと……」
リーダーが話している間、残りの二人はただひたすら頷いているだけだった。恐らくはリーダーに付きまとい、彼の威を借りて好き放題しているような連中だろう。立場が悪くなれば、怖くて従っていたなどと言って罪を擦り付けるのだろう。実際、前にボコった時は”自分は悪くない”的なことを言っていた。こちらの方が、リーダーよりよっぽど質が悪い。
「……はあ。あのな、オレとかあのデカブツみたいに本気で遊沙のこと大事に思っている奴もいるんだよ。それを好き放題されて黙っていられると思うか? お前が殴られたのも、そこのお前とお前が殴られたのも、全部お前らのせい。何故なら親友を傷つけられてオレがムカついたからだ。それを気を晴らすだなんだとお門違いにも程があるが」
「あ、ああ。わ、悪かった……」
「オレじゃなくて遊沙に言えよ。まあ、もう会わせる気はねぇけど。次何かしようとしたらぶっ飛ばすからな。分かったらもう行け」
聞きたいことは全部聞けたオレは、三人を行かせた。二人は反省している素振りだけ見せて、心の底では全く反省してなさそうに去って行った。リーダーは一度立ち止まって何か言いたげにオレを見た後、結局何も言わずに姿を消した。
……やれやれ、これで収まってくれれば良いが。
だが、今では殴らなくて良かったと心底思う。遊紗の女装とかいう興味深いものを見られて、しかもオレは女装しなくていいなんて都合のいい話、今後きっとないだろう。
オレはゲイだが女装の趣味はない。あくまで男として男が好きなのだ。だから、彼の女装なんて正直ただの興味しかなかったのだが。これがまた似合うのだ。華奢なせいもあってか、素朴ながら可憐で可愛かった。他のメイドたちも皆似合っていたが、オレの中では遊紗が一番だった。
あのモデル野郎を招待しているみたいだが、どーせ邪念しかないヤツにあの可愛さを見せるのは勿体ない気がする。
まあ、オレがそんなこと思ったところで邪魔なんか出来ないけど。一応オレの役目はメイドの護衛役。嫌な客を追い払うのはオレの仕事だが、善良な客に手出しは出来ない。あいつが遊紗にセクハラでもしない限り追い出せないってことだ。
で、結局そんなこともなく、学校祭は平和に終わった。……良い事だが。
問題はその後だ。またいつものあいつらが性懲りも無く遊紗に突っかかってきたのだ。しかも、運悪くオレがトイレに行っていた間に。
いじめっ子って奴はここまで執念深いものなのだろうか。あいつらが遊紗の腕を折ったお返しに、オレもいくつか折ってやったはずなんだがな。入院期間もそれなりに要したはずだ。なのに、未だに遊紗に執着する理由が分からない。
あの野郎がたまたま来たおかげで事なきを得たが、いなかったら何をされていたことか。それだけは感謝している。……てかあの野郎、あいつらぶん殴ろうとしてたけど良いのかよ。モデルなら今後の人生も考えて自重しろよな。
ま、そんだけ遊紗のためにキレてくれたってんなら悪い気はしないが。
でけぇ奴にぶん殴られそうになった上に、オレの顔を覚えているあいつらは一目散に逃げ出した。いつも感情を表に出さない遊紗が珍しいことに怯えていたが、オレは彼に軽く声をかけた後やつらを追うことにした。
癪だが、慰めるのはオレの役目じゃないだろうし。
あいつらには、すぐに追いついた。
この学校の生徒じゃない奴には、ここは広すぎる。逃げ場が多すぎるせいで何処に逃げたら良いのか分からなくなるから、地の利を生かせば追いつくのは簡単だった。
学校祭の片付けで忙しい人たちの邪魔になるのはいただけないし、階段の踊り場に追い込んで話を聞くことにした。遊沙に対してはあんなに態度がデカいクセに、オレにはへこへこしているのがあまりに情けない。
「あんたらも懲りねぇな」
「い、いや、今日は別に……なあ? ちょっとたまたま会って話してただけで……」
「あいつを怯えさせといて、ただ会っただけだって?」
「そりゃあ遊沙が勝手に怯えただけだろ。おれら、何もしてねぇし」
青い顔をしながらニヤついているのが何とも気味悪い。別に今日は妙な騒ぎにするつもりはないし、そこまで怯えられると話しにくいんだが。
「なあ、なんでそんなに遊沙を目の敵にするんだ?」
「…………あ? ああ……。別に意味なんか……」
「もっかい殴っても良いんだぞ」
「わ、分かった、話す、話すから。その、最初はおれらの誘いを断ったから腹が立って、ただ仕返しがしたかっただけだったんだよ。でもさ、そうしたらあいつ、先公からも煙たがられるようになったわけ。おれらが何しても見て見ぬ振りだったし。で、あいつ自身も全然抵抗しないし……」
「…………それで?」
「『ああ、コイツには何しても良いんだ』って思った。怖がってるくせに助けも呼ばない、呼んだとしても誰も何もしない。あいつには両親がいないから、心配する奴もいない。……なら、良いかなってさ」
「へえ。それ、今も思ってんのか?」
「お、思ってない。だって、誰だか知らねぇけどてめえに骨折られてクッソ痛かったし。そん時に限りゃあおれが被害者だってのに、親には喧嘩すんじゃねえって散々怒られた上に医療費はおれ負担だったし」
「じゃあなんで、その後と今日の二回も遊沙を襲ったんだ?」
「……ただの腹いせ。八つ当たり? みたいな……。酷くするつもりはなくて、ただ数回殴って気を晴らそうと……」
リーダーが話している間、残りの二人はただひたすら頷いているだけだった。恐らくはリーダーに付きまとい、彼の威を借りて好き放題しているような連中だろう。立場が悪くなれば、怖くて従っていたなどと言って罪を擦り付けるのだろう。実際、前にボコった時は”自分は悪くない”的なことを言っていた。こちらの方が、リーダーよりよっぽど質が悪い。
「……はあ。あのな、オレとかあのデカブツみたいに本気で遊沙のこと大事に思っている奴もいるんだよ。それを好き放題されて黙っていられると思うか? お前が殴られたのも、そこのお前とお前が殴られたのも、全部お前らのせい。何故なら親友を傷つけられてオレがムカついたからだ。それを気を晴らすだなんだとお門違いにも程があるが」
「あ、ああ。わ、悪かった……」
「オレじゃなくて遊沙に言えよ。まあ、もう会わせる気はねぇけど。次何かしようとしたらぶっ飛ばすからな。分かったらもう行け」
聞きたいことは全部聞けたオレは、三人を行かせた。二人は反省している素振りだけ見せて、心の底では全く反省してなさそうに去って行った。リーダーは一度立ち止まって何か言いたげにオレを見た後、結局何も言わずに姿を消した。
……やれやれ、これで収まってくれれば良いが。
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