憂いの空と欠けた太陽

弟切 湊

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学校祭〜二日目後半〜

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午前中の係が終わって、午後からは御園と店巡りだ。
もちろんメイド服は脱いでいるので、心安らかに回ることが出来る。宣伝のためにそのままの格好で行けとか言われそうだったけど杞憂だったらしい。

メイドカフェの方は結構盛況で、メニューは普通なのにも関わらず人だかりが出来ていた。僕が交代する前の昼時にはお客さんが多過ぎて人手が足りず、長いこと待たせてしまったり上手く注文が取れなかったりしたが、それ以外は特に問題なく運営することが出来た。企画の立ち上げ理由がアレだった割にはちゃんと出来ているのが凄い。
高校の時の文化祭で企画担当だった子も彼と似た人種だったが、その子は企画するだけして後の準備は全部他人任せ、その上友達と会話しながら見てるだけで、何か問題があれば文句ばかり言うタイプだったので、クラスがギスギスして企画は上手くいかなかった。それが、今回企画した友人は適当ながらもちゃんとやっているので、みんなの雰囲気もいいし、そのまま成功に繋がっているのかもしれない。


出店している店は手元のパンフレットで確認できる。公立大学であまりお金をかけられないので、簡素で少々見にくい仕上がりになっているが、店の場所と内容の確認が出来れば問題ない。
これを見ると、校舎外には食品系が多く、校内にはお化け屋敷とかの出し物系、アクセサリーとかの販売系が多いことが分かる。

「腹減ったし、何か食うか」

横からパンフレットを覗き込んでいた御園の提案で、僕らは一度校舎の外に出た。
途端に、色んなものの良い匂いが鼻をくすぐる。
屋台に売っているのは定番のフリフリポテトや焼き串、ポップコーンなどで、お菓子ならりんご飴やわたあめ、ミニカステラなどだった。たまに珍しい屋台もあって、人だかりが出来ていたり逆に誰もいなかったりした。
僕は塩コショウで焼いたお肉の串と、粗挽きソーセージ、パイン飴、焼き栗を買った。野菜はあまり売ってないので食事のバランスが悪いなと思ったけれど、御園が買ったものは1品以外全部肉で、その1品も焼きそばだったので、深く考えないことにした。
家で食べても普通程度にしか美味しく感じないものが、こういうところでは凄く美味しく感じるのは何故なのだろうか。テンションの違いとか?
とにかく、全部美味しかった。……まあ、値段もちょっと高めなので普通に良いものなのかもしれないが。

お腹も満たされたし、その後は校舎内に戻ってブースを見て回ることにした。
出し物系は面白そうだったけど、行列が長くて待ち時間が取られるのと、それによってとても疲れそうだったのでやめることになった。
よって、行くのは販売系に限られるのだけど、これはこれでバリエーション豊かで行き先を絞るのが大変だ。
アクセサリー、小物、古本から、バザーみたいに色んなものを集めて売っているところもあった。海外の少数民族の人が作ったエコバッグの売上金を支援団体に寄付するやつとか、フェアトレード商品とかもある。
マンモス大学だからか校内が広くて人も多く、その分ブースも多いのだろう。

結局、僕が買い物用のエコバッグが欲しいと言ったのでそこと、御園の希望でアクセサリーや小物系を回るということで決定した。

エコバッグは折り畳んでも嵩張かさばらない薄い生地に、細かい刺繍がしてあった。少数民族の伝統的な模様らしく、僕らには綺麗な幾何学模様にしか見えないけれど、彼らにとっては厄除けのまじないが込められている模様らしい。とてもたくさんの種類と数があったらしいが、午前中でほとんど売れてしまっていて、残っていたのは5枚ほどだった。僕はその中から黒地に青の糸で刺繍してあるものを買った。
使うのがもったいないくらいで、僕はこれが買えただけで満足したので、あとは御園の好きなようにしてもらおう。

そう思ったのだけど、アクセサリーはこれまた綺麗だった。ピアス、イヤリング、ネックレス、ブレスレット、ブローチなどで分類されているのだが、どれもこれも手作りとは思えないほど手が込んでいる。最初は市販のものだと思っていたが、ブースの人によると違うらしい。このブース以外のアクセサリー販売系も大体が手作りで、その他は製造所こそ工場なものの、デザインや発注はそのブースのスタッフがやっているとの事だ。……大学祭だと思って舐めていたけれど、やっぱり高校の文化祭とは規模が違うのだと思い知らされた。

ここは女の子向けみたいで、御園が付けるには煌びやかすぎたから、ブースの人に聞いてシンプルなデザインの方に移動した。
そちらは工業大学かどこかの人たちのブースで、金属を加工したアクセサリーを売っていた。完璧に仕上がっているものとそうでないものがあって、そうでないものも味があって良かった。
御園はかなり悩んで、僕にも「これはどう?」「あれはどう?」と質問してきたので、都度意見を言ってあげた。全部良かったけど、全部良いと言うと全く参考にならないからね。
彼は最終的に銀色でシンプルなペンダントヘッドのネックレスにしていた。
会計している間に、僕も軽く見て回る。
しばらく歩いていると、ふと銀のリングに目が留まった。本当に無駄な装飾のないリングには、持ち上げてみると菱形の穴が空いていた。デザインによってはこの部分に宝石とかがはまるのかもしれない。穴の周りには細かく彫刻が掘ってあった。よく見ないと分からないけれど、これは意匠も凝っていて良い。

「何か見つけたのか?」
「ん、これ、似合いそうだなって」
「それは、誰に?」
「有栖」
「…………。あー、確かにな。見た目的に派手なのは似合わなさそうだし。……ちなみに、オレはどれが似合いそう?」
「御園はね、んーと、これかな」

僕は三つ編みみたいな彫り物がしてある鈍色のリングを手に取った。

「理由を聞いてもいいか?」
「うん。この色、御園の髪と同じ色でしょ? 凄く似合ってるから、絶対これも似合うだろうなって」
「……うーん、オレの精神がジェットコースター並みに上下してるんだが」
「?」
「いや、こっちの話。……じゃ、オレこれ買ってくるわ」
「え、いいの?」
「良いも何も、お前が似合うって言ってくれたんだろ。オレも気に入ったし」
「そっか。じゃあ僕もこれ買おうかな」
「あのおと……有栖に?」
「うん。明日来るだろうけど、もう売り切れてるかもしれないから」
「ふーん」

御園は一瞬だけつまらなそうな顔をして、何事もなかったかのようにニカッと笑ってレジに向かった。僕もそれについて行った。
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