105 / 142
学校祭〜二日目後半〜
しおりを挟む
午前中の係が終わって、午後からは御園と店巡りだ。
もちろんメイド服は脱いでいるので、心安らかに回ることが出来る。宣伝のためにそのままの格好で行けとか言われそうだったけど杞憂だったらしい。
メイドカフェの方は結構盛況で、メニューは普通なのにも関わらず人だかりが出来ていた。僕が交代する前の昼時にはお客さんが多過ぎて人手が足りず、長いこと待たせてしまったり上手く注文が取れなかったりしたが、それ以外は特に問題なく運営することが出来た。企画の立ち上げ理由がアレだった割にはちゃんと出来ているのが凄い。
高校の時の文化祭で企画担当だった子も彼と似た人種だったが、その子は企画するだけして後の準備は全部他人任せ、その上友達と会話しながら見てるだけで、何か問題があれば文句ばかり言うタイプだったので、クラスがギスギスして企画は上手くいかなかった。それが、今回企画した友人は適当ながらもちゃんとやっているので、みんなの雰囲気もいいし、そのまま成功に繋がっているのかもしれない。
出店している店は手元のパンフレットで確認できる。公立大学であまりお金をかけられないので、簡素で少々見にくい仕上がりになっているが、店の場所と内容の確認が出来れば問題ない。
これを見ると、校舎外には食品系が多く、校内にはお化け屋敷とかの出し物系、アクセサリーとかの販売系が多いことが分かる。
「腹減ったし、何か食うか」
横からパンフレットを覗き込んでいた御園の提案で、僕らは一度校舎の外に出た。
途端に、色んなものの良い匂いが鼻をくすぐる。
屋台に売っているのは定番のフリフリポテトや焼き串、ポップコーンなどで、お菓子ならりんご飴やわたあめ、ミニカステラなどだった。たまに珍しい屋台もあって、人だかりが出来ていたり逆に誰もいなかったりした。
僕は塩コショウで焼いたお肉の串と、粗挽きソーセージ、パイン飴、焼き栗を買った。野菜はあまり売ってないので食事のバランスが悪いなと思ったけれど、御園が買ったものは1品以外全部肉で、その1品も焼きそばだったので、深く考えないことにした。
家で食べても普通程度にしか美味しく感じないものが、こういうところでは凄く美味しく感じるのは何故なのだろうか。テンションの違いとか?
とにかく、全部美味しかった。……まあ、値段もちょっと高めなので普通に良いものなのかもしれないが。
お腹も満たされたし、その後は校舎内に戻ってブースを見て回ることにした。
出し物系は面白そうだったけど、行列が長くて待ち時間が取られるのと、それによってとても疲れそうだったのでやめることになった。
よって、行くのは販売系に限られるのだけど、これはこれでバリエーション豊かで行き先を絞るのが大変だ。
アクセサリー、小物、古本から、バザーみたいに色んなものを集めて売っているところもあった。海外の少数民族の人が作ったエコバッグの売上金を支援団体に寄付するやつとか、フェアトレード商品とかもある。
マンモス大学だからか校内が広くて人も多く、その分ブースも多いのだろう。
結局、僕が買い物用のエコバッグが欲しいと言ったのでそこと、御園の希望でアクセサリーや小物系を回るということで決定した。
エコバッグは折り畳んでも嵩張らない薄い生地に、細かい刺繍がしてあった。少数民族の伝統的な模様らしく、僕らには綺麗な幾何学模様にしか見えないけれど、彼らにとっては厄除けのまじないが込められている模様らしい。とてもたくさんの種類と数があったらしいが、午前中でほとんど売れてしまっていて、残っていたのは5枚ほどだった。僕はその中から黒地に青の糸で刺繍してあるものを買った。
使うのがもったいないくらいで、僕はこれが買えただけで満足したので、あとは御園の好きなようにしてもらおう。
そう思ったのだけど、アクセサリーはこれまた綺麗だった。ピアス、イヤリング、ネックレス、ブレスレット、ブローチなどで分類されているのだが、どれもこれも手作りとは思えないほど手が込んでいる。最初は市販のものだと思っていたが、ブースの人によると違うらしい。このブース以外のアクセサリー販売系も大体が手作りで、その他は製造所こそ工場なものの、デザインや発注はそのブースのスタッフがやっているとの事だ。……大学祭だと思って舐めていたけれど、やっぱり高校の文化祭とは規模が違うのだと思い知らされた。
ここは女の子向けみたいで、御園が付けるには煌びやかすぎたから、ブースの人に聞いてシンプルなデザインの方に移動した。
そちらは工業大学かどこかの人たちのブースで、金属を加工したアクセサリーを売っていた。完璧に仕上がっているものとそうでないものがあって、そうでないものも味があって良かった。
御園はかなり悩んで、僕にも「これはどう?」「あれはどう?」と質問してきたので、都度意見を言ってあげた。全部良かったけど、全部良いと言うと全く参考にならないからね。
彼は最終的に銀色でシンプルなペンダントヘッドのネックレスにしていた。
会計している間に、僕も軽く見て回る。
しばらく歩いていると、ふと銀のリングに目が留まった。本当に無駄な装飾のないリングには、持ち上げてみると菱形の穴が空いていた。デザインによってはこの部分に宝石とかがはまるのかもしれない。穴の周りには細かく彫刻が掘ってあった。よく見ないと分からないけれど、これは意匠も凝っていて良い。
「何か見つけたのか?」
「ん、これ、似合いそうだなって」
「それは、誰に?」
「有栖」
「…………。あー、確かにな。見た目的に派手なのは似合わなさそうだし。……ちなみに、オレはどれが似合いそう?」
「御園はね、んーと、これかな」
僕は三つ編みみたいな彫り物がしてある鈍色のリングを手に取った。
「理由を聞いてもいいか?」
「うん。この色、御園の髪と同じ色でしょ? 凄く似合ってるから、絶対これも似合うだろうなって」
「……うーん、オレの精神がジェットコースター並みに上下してるんだが」
「?」
「いや、こっちの話。……じゃ、オレこれ買ってくるわ」
「え、いいの?」
「良いも何も、お前が似合うって言ってくれたんだろ。オレも気に入ったし」
「そっか。じゃあ僕もこれ買おうかな」
「あのおと……有栖に?」
「うん。明日来るだろうけど、もう売り切れてるかもしれないから」
「ふーん」
御園は一瞬だけつまらなそうな顔をして、何事もなかったかのようにニカッと笑ってレジに向かった。僕もそれについて行った。
もちろんメイド服は脱いでいるので、心安らかに回ることが出来る。宣伝のためにそのままの格好で行けとか言われそうだったけど杞憂だったらしい。
メイドカフェの方は結構盛況で、メニューは普通なのにも関わらず人だかりが出来ていた。僕が交代する前の昼時にはお客さんが多過ぎて人手が足りず、長いこと待たせてしまったり上手く注文が取れなかったりしたが、それ以外は特に問題なく運営することが出来た。企画の立ち上げ理由がアレだった割にはちゃんと出来ているのが凄い。
高校の時の文化祭で企画担当だった子も彼と似た人種だったが、その子は企画するだけして後の準備は全部他人任せ、その上友達と会話しながら見てるだけで、何か問題があれば文句ばかり言うタイプだったので、クラスがギスギスして企画は上手くいかなかった。それが、今回企画した友人は適当ながらもちゃんとやっているので、みんなの雰囲気もいいし、そのまま成功に繋がっているのかもしれない。
出店している店は手元のパンフレットで確認できる。公立大学であまりお金をかけられないので、簡素で少々見にくい仕上がりになっているが、店の場所と内容の確認が出来れば問題ない。
これを見ると、校舎外には食品系が多く、校内にはお化け屋敷とかの出し物系、アクセサリーとかの販売系が多いことが分かる。
「腹減ったし、何か食うか」
横からパンフレットを覗き込んでいた御園の提案で、僕らは一度校舎の外に出た。
途端に、色んなものの良い匂いが鼻をくすぐる。
屋台に売っているのは定番のフリフリポテトや焼き串、ポップコーンなどで、お菓子ならりんご飴やわたあめ、ミニカステラなどだった。たまに珍しい屋台もあって、人だかりが出来ていたり逆に誰もいなかったりした。
僕は塩コショウで焼いたお肉の串と、粗挽きソーセージ、パイン飴、焼き栗を買った。野菜はあまり売ってないので食事のバランスが悪いなと思ったけれど、御園が買ったものは1品以外全部肉で、その1品も焼きそばだったので、深く考えないことにした。
家で食べても普通程度にしか美味しく感じないものが、こういうところでは凄く美味しく感じるのは何故なのだろうか。テンションの違いとか?
とにかく、全部美味しかった。……まあ、値段もちょっと高めなので普通に良いものなのかもしれないが。
お腹も満たされたし、その後は校舎内に戻ってブースを見て回ることにした。
出し物系は面白そうだったけど、行列が長くて待ち時間が取られるのと、それによってとても疲れそうだったのでやめることになった。
よって、行くのは販売系に限られるのだけど、これはこれでバリエーション豊かで行き先を絞るのが大変だ。
アクセサリー、小物、古本から、バザーみたいに色んなものを集めて売っているところもあった。海外の少数民族の人が作ったエコバッグの売上金を支援団体に寄付するやつとか、フェアトレード商品とかもある。
マンモス大学だからか校内が広くて人も多く、その分ブースも多いのだろう。
結局、僕が買い物用のエコバッグが欲しいと言ったのでそこと、御園の希望でアクセサリーや小物系を回るということで決定した。
エコバッグは折り畳んでも嵩張らない薄い生地に、細かい刺繍がしてあった。少数民族の伝統的な模様らしく、僕らには綺麗な幾何学模様にしか見えないけれど、彼らにとっては厄除けのまじないが込められている模様らしい。とてもたくさんの種類と数があったらしいが、午前中でほとんど売れてしまっていて、残っていたのは5枚ほどだった。僕はその中から黒地に青の糸で刺繍してあるものを買った。
使うのがもったいないくらいで、僕はこれが買えただけで満足したので、あとは御園の好きなようにしてもらおう。
そう思ったのだけど、アクセサリーはこれまた綺麗だった。ピアス、イヤリング、ネックレス、ブレスレット、ブローチなどで分類されているのだが、どれもこれも手作りとは思えないほど手が込んでいる。最初は市販のものだと思っていたが、ブースの人によると違うらしい。このブース以外のアクセサリー販売系も大体が手作りで、その他は製造所こそ工場なものの、デザインや発注はそのブースのスタッフがやっているとの事だ。……大学祭だと思って舐めていたけれど、やっぱり高校の文化祭とは規模が違うのだと思い知らされた。
ここは女の子向けみたいで、御園が付けるには煌びやかすぎたから、ブースの人に聞いてシンプルなデザインの方に移動した。
そちらは工業大学かどこかの人たちのブースで、金属を加工したアクセサリーを売っていた。完璧に仕上がっているものとそうでないものがあって、そうでないものも味があって良かった。
御園はかなり悩んで、僕にも「これはどう?」「あれはどう?」と質問してきたので、都度意見を言ってあげた。全部良かったけど、全部良いと言うと全く参考にならないからね。
彼は最終的に銀色でシンプルなペンダントヘッドのネックレスにしていた。
会計している間に、僕も軽く見て回る。
しばらく歩いていると、ふと銀のリングに目が留まった。本当に無駄な装飾のないリングには、持ち上げてみると菱形の穴が空いていた。デザインによってはこの部分に宝石とかがはまるのかもしれない。穴の周りには細かく彫刻が掘ってあった。よく見ないと分からないけれど、これは意匠も凝っていて良い。
「何か見つけたのか?」
「ん、これ、似合いそうだなって」
「それは、誰に?」
「有栖」
「…………。あー、確かにな。見た目的に派手なのは似合わなさそうだし。……ちなみに、オレはどれが似合いそう?」
「御園はね、んーと、これかな」
僕は三つ編みみたいな彫り物がしてある鈍色のリングを手に取った。
「理由を聞いてもいいか?」
「うん。この色、御園の髪と同じ色でしょ? 凄く似合ってるから、絶対これも似合うだろうなって」
「……うーん、オレの精神がジェットコースター並みに上下してるんだが」
「?」
「いや、こっちの話。……じゃ、オレこれ買ってくるわ」
「え、いいの?」
「良いも何も、お前が似合うって言ってくれたんだろ。オレも気に入ったし」
「そっか。じゃあ僕もこれ買おうかな」
「あのおと……有栖に?」
「うん。明日来るだろうけど、もう売り切れてるかもしれないから」
「ふーん」
御園は一瞬だけつまらなそうな顔をして、何事もなかったかのようにニカッと笑ってレジに向かった。僕もそれについて行った。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
学園の天使は今日も嘘を吐く
まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」
家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

嫌われ者の僕が学園を去る話
おこげ茶
BL
嫌われ者の男の子が学園を去って生活していく話です。
一旦ものすごく不幸にしたかったのですがあんまなってないかもです…。
最終的にはハピエンの予定です。
Rは書けるかわからなくて入れるか迷っているので今のところなしにしておきます。
↓↓↓
微妙なやつのタイトルに※つけておくので苦手な方は自衛お願いします。
設定ガバガバです。なんでも許せる方向け。
不定期更新です。(目標週1)
勝手もわかっていない超初心者が書いた拙い文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。
誤字などがありましたらふわふわ言葉で教えて欲しいです。爆速で修正します。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる