憂いの空と欠けた太陽

弟切 湊

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学校祭 Ⅱ

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「へえ、結構本格的だな」

僕が何故かメイド服を着ることになってから数日後。学校祭準備のために大学は休みであり、友人がやる女装メイドカフェの内装も出来上がりつつあった。
アリス・イン・ワンダーランドをモチーフにしたであろう内装は、トランプやらしましまの猫やらが壁に描かれ、目にも楽しい。
どこから持ち込んだのか分からない四角や丸のテーブルと、カフェっぽい椅子がいい感じだ。講義用の机だと横長で無機質なので、雰囲気がぶち壊しなのだ。

友人が思い付きで企画した案だから果たして大丈夫だろうかと心配になったけど、内装作ってくれている人とか衣装手配してくれている人とかそれなりにいて、彼の交友関係の広さを改めて感じた。
……なのに僕がメイド服を着なくちゃいけない理由がよく分かんないけど、ぱっと見た感じお手伝いさんたちはみんなガタイが良いので、多分服が入らなかったんだろうなあと何となく理解した。

「御園も着ればいいのに」

彼は筋肉質だけど細身なので、別に着れないことはないだろう。そう思ったのだが、

「いや、オレは遊紗含めたメイドたちの護衛役だから」
「何それ」

そんな役職があったとは初耳だ。学校祭だし、女の子ならまだしも女装した男性に護衛が必要とは思えないけど。それを伝えると、

「念の為だよ、念の為」

手をヒラヒラさせてそう返された。


学校祭は三日間あって、一日目が準備期間の今日で、明日は生徒たちだけが来れる日、明後日は外部の人も来れる日だ。明日は明後日のためのリハーサル的なところも兼ねているので、多少失敗しても大丈夫になっている。
とはいえ、今日は今日できちんと準備しないと明日形にすらならないので、メイド服を着て練習しなければならないのだけど。

そんなわけで、僕含めたメイド役の数人が1ヶ所に集められた。全体的に小柄で痩せている人が多くて、なるほど、僕が呼ばれたのも納得だ。
衣装は白いふりふりエプロンがついた黒のスカートで、丈はミニかロングかが選べるらしい。袖は両方とも長袖で、先が広がっているものと引き絞られてリボンが付いたものの2種類あった。メイド役の中にはノリノリで着ている人もいて、楽しそうで何よりだ。僕もここまで来たら楽しんだ方が良いかもしれないけれど、その勇気はなかなか出なかった。

結局、肩幅とかの問題でミニの方を着ることになってしまった。なるべくロングが良かったのだけど、人生そんなに上手くいくものではない。ミニと言っても膝付近までは丈があるタイプで良かった。女性がたまに着ている下着が見えそうなくらい短いやつは、寒そうだし目のやり場に困るのであまり好きではない。あれじゃなくてほっとした。
それでも足がすーすーする。普段はズボンを履いているので当たり前か。

スカートの下にはパニエというスカートをふわっとさせる物を履いて、足元はガーターベルトがついた黒のハイソックスと、低いヒールの靴。頭には白のフリルの両端に黒いリボンがついたヘッドドレス。
鏡を見るとそれなりにしっかりとメイドで、恥ずかしくて頭から火が出そうだった。御園は可愛いと褒めてくれたけれど、なんだか褒められた気がしない。
ヒールは低い方なのに歩くのが難しくて、もっと高いのを履いている女性は凄いなと感心する。足が痛くないのだろうか。

仕事内容はカフェのバイトみたいな感じで、覚えれば難しくないのだけど、この格好でちゃんとできるのか今から不安だった。
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