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露天風呂
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ドジっ子冴木さんが落ち着いて、顔色も正常に戻ってきた頃、僕らは露天風呂へ向かった。
お湯は少し温度が高めだったけど、日も落ちて涼しくなっているし、それくらいでちょうど良かった。
常連のおじ様達もニコニコ顔でついてくる。気さくな人達で会話も弾んだし、「若い人ともう少し話したい」と言われれば、別に断る理由もないだろう。
「そういえば、今日は家族で旅行にでも? 地元の人はあまりこの旅館には泊まらないから気になってしまってね」
「ええ、いつも仕事が忙しいので、たまには息抜きをと」
おじ様の質問に、冴木さんが答える。
子供に見える僕たち(主に僕)にはフランクだったおじ様達は、冴木さんには一度敬語を使ったが、堅苦しいのはやめにしようと言うことですぐフランクに戻った。
冴木さんは外だと敬語が抜けきらないみたいでそのままだ。
「奥さんも連れてきているのかい」
「あー……ええっと……」
あ。
おじ様の何気ない一言が冴木さんを困らせてる……。
まあ確かに、僕が弟で有栖が兄なら冴木さんは普通に考えてお父さんだし、子供2人いるってことは奥さんがいるはずだからね。そういう考えがあって当たり前なんだけど……。
有栖がモデルだと知られてたらこういうことはなかったかもしれない。代わりにのんびりしたお風呂タイムもなかっただろうけど。
今から有栖がモデルだと伝えるのもなんだし、実は全員血の繋がってない家族とか言うと気まずさや何か誤解を生みそうだ。奥さんは連れてこなかっただと問題があるし、奥さんはいないっていうのもまた問題がある。
連れて来たと嘘を言ったところで、この旅館は小さいからすぐにバレそう。その時にまた説明する手間を考えると面倒だ。
冴木さんは少し言い淀んで、
「彼女は忙しくて来れなかったんです。他の皆の予定が今日しか合わなかったので、仕方なく三人で」
と答えた。当たり障りがなく、しかもこの話題に関してこれ以上強く突っ込まれない回答だ。
……やっぱり冴木さんって仕事出来る人だなぁ。僕なら変に焦ったり考え過ぎたりして意味分からないこと口走っちゃいそうなのに。
「そうかい、それは残念だ。今度は奥さんともまた遊びに来てくれよ」
「あはは、そうします」
冴木さんとおじ様2人は、そのまま色んな話に花を咲かせ始めた。
僕はその輪からちょっと離れて、湯船の縁に座った。結構のんびり浸かっているので、だんだん逆上せてきたからだ。
大きめの丸石をコンクリートでくっつけたような縁は冷たいけれど、腰巻きタオルのおかげでちょうどいい。風は暑くも冷たくもなくて、火照った体に心地いい。
そんな僕を見て、有栖が真横に座ってきた。大きな体が真横に来て、おじ様達が見えなくなる。おじ様達からも僕のことは見えないだろう。
「お前、あんまり無闇に湯から出るな」
「……え?」
「ったく、それ見られたら……いや、まあ俺が隠すからいいけど……」
有栖は小さい声で何かごにょごにょ言っている。
「ごめん、何かダメだった?」
「ん、あ……いや。やっぱいいや。合法的にくっつけるからアリ」
「アリなの?」
「ああ」
何かよく分からないけどアリらしいのでそれで良しとする。妙に満足げなので、有栖がそれでいいならいいか。
お湯は少し温度が高めだったけど、日も落ちて涼しくなっているし、それくらいでちょうど良かった。
常連のおじ様達もニコニコ顔でついてくる。気さくな人達で会話も弾んだし、「若い人ともう少し話したい」と言われれば、別に断る理由もないだろう。
「そういえば、今日は家族で旅行にでも? 地元の人はあまりこの旅館には泊まらないから気になってしまってね」
「ええ、いつも仕事が忙しいので、たまには息抜きをと」
おじ様の質問に、冴木さんが答える。
子供に見える僕たち(主に僕)にはフランクだったおじ様達は、冴木さんには一度敬語を使ったが、堅苦しいのはやめにしようと言うことですぐフランクに戻った。
冴木さんは外だと敬語が抜けきらないみたいでそのままだ。
「奥さんも連れてきているのかい」
「あー……ええっと……」
あ。
おじ様の何気ない一言が冴木さんを困らせてる……。
まあ確かに、僕が弟で有栖が兄なら冴木さんは普通に考えてお父さんだし、子供2人いるってことは奥さんがいるはずだからね。そういう考えがあって当たり前なんだけど……。
有栖がモデルだと知られてたらこういうことはなかったかもしれない。代わりにのんびりしたお風呂タイムもなかっただろうけど。
今から有栖がモデルだと伝えるのもなんだし、実は全員血の繋がってない家族とか言うと気まずさや何か誤解を生みそうだ。奥さんは連れてこなかっただと問題があるし、奥さんはいないっていうのもまた問題がある。
連れて来たと嘘を言ったところで、この旅館は小さいからすぐにバレそう。その時にまた説明する手間を考えると面倒だ。
冴木さんは少し言い淀んで、
「彼女は忙しくて来れなかったんです。他の皆の予定が今日しか合わなかったので、仕方なく三人で」
と答えた。当たり障りがなく、しかもこの話題に関してこれ以上強く突っ込まれない回答だ。
……やっぱり冴木さんって仕事出来る人だなぁ。僕なら変に焦ったり考え過ぎたりして意味分からないこと口走っちゃいそうなのに。
「そうかい、それは残念だ。今度は奥さんともまた遊びに来てくれよ」
「あはは、そうします」
冴木さんとおじ様2人は、そのまま色んな話に花を咲かせ始めた。
僕はその輪からちょっと離れて、湯船の縁に座った。結構のんびり浸かっているので、だんだん逆上せてきたからだ。
大きめの丸石をコンクリートでくっつけたような縁は冷たいけれど、腰巻きタオルのおかげでちょうどいい。風は暑くも冷たくもなくて、火照った体に心地いい。
そんな僕を見て、有栖が真横に座ってきた。大きな体が真横に来て、おじ様達が見えなくなる。おじ様達からも僕のことは見えないだろう。
「お前、あんまり無闇に湯から出るな」
「……え?」
「ったく、それ見られたら……いや、まあ俺が隠すからいいけど……」
有栖は小さい声で何かごにょごにょ言っている。
「ごめん、何かダメだった?」
「ん、あ……いや。やっぱいいや。合法的にくっつけるからアリ」
「アリなの?」
「ああ」
何かよく分からないけどアリらしいのでそれで良しとする。妙に満足げなので、有栖がそれでいいならいいか。
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