87 / 142
遊園地編の終わり
しおりを挟む
うん、酷い目に遭った。
僕が観覧車から降りて抱いた感想は、そんなものだった。
”有栖が満足するまで何回でもしていいよ”。そんなことを言ったのは何処の誰だっただろうか。
…………まあ僕なのだけど。
有栖は本当にキスを何回でもした。”口じゃなければ良いんだろ”とでも言いたげに、鎖骨とか耳たぶとか変なところにもされたし噛みつかれた。何だろう、噛み癖でもあるのかもしれない。手首にはまだ噛み跡が残っている。
僕はされるがままで、有栖の膝の上にちょこんと座って景色なんかを見ていた。高いところが最初はあんなに怖かったのに、慣れてしまったのか無我の境地に至ったのか、普通に楽しめた。
だけど有栖のキス攻撃は観覧車が低い位置に来るまで一向に止まなかった。しかも時々ものすごい力で抱きしめてくるので、気が休まることはなかった。言い出したのが僕だけに、”やり過ぎ”とは言えない。
また、そんなに色々されているのに何故か嫌ではないという点で質が悪かった。
ジェットコースターなんかより観覧車の方が怖かったように、アトラクションよりこの少しの時間でどっと疲れた。
降りた後に御園が、
「大丈……夫じゃなさそうだな」
と言って一瞬ちらりと有栖を見た。余程疲れた顔をしてしまっていたのかもしれない。彼はそれから少し考えて、
「もしかして高いところ駄目だったか?」
答えの一つをピタリと当ててきた。さすが御園だ。僕のことをよく分かっている。
彼にはさすがに”有栖がキスするのを許可した”とは言えないので、
「うん、ちょっと怖かった」
頷いておく。追々言うかもしれないが、少なくとも今は恥ずかしくて言えない。
「そうか。…………何か困った事があったら、遠慮なく相談しろよな」
「? うん」
御園は微笑んでそう言ってくれる。遠回しに気分が悪いのなら無理をするなと言ってくれたのかも。
御園は本当に優しいから、何があったか今すぐ話せない僕は罪悪感が湧いてくる。別に全てを彼に話さなくてはいけない決まりなんてないし、そうする必要もないのだけど、彼に隠し事をするのは何とはなしに嫌だった。前に有栖と住んでいることをなかなか話せなくて傷つけてしまったこともあったから。
それに、彼は僕より恋愛経験も上手だし、いつかは相談することになるだろう。
「御園、ありがとう。心配してくれて」
「いいって。オレはお前が――……お前は、大切な親友なんだからさ」
御園は何か言いかけて、慌てた様子で言い直すと、
「ちょっと飲み物買ってくるわ!」
と言い残してどこかに行ってしまった。
帰ってきた時には普段通りで、有栖とまた何事か話したり、可香谷さんや冴木さんとも笑顔で話していた。
僕が観覧車から降りて抱いた感想は、そんなものだった。
”有栖が満足するまで何回でもしていいよ”。そんなことを言ったのは何処の誰だっただろうか。
…………まあ僕なのだけど。
有栖は本当にキスを何回でもした。”口じゃなければ良いんだろ”とでも言いたげに、鎖骨とか耳たぶとか変なところにもされたし噛みつかれた。何だろう、噛み癖でもあるのかもしれない。手首にはまだ噛み跡が残っている。
僕はされるがままで、有栖の膝の上にちょこんと座って景色なんかを見ていた。高いところが最初はあんなに怖かったのに、慣れてしまったのか無我の境地に至ったのか、普通に楽しめた。
だけど有栖のキス攻撃は観覧車が低い位置に来るまで一向に止まなかった。しかも時々ものすごい力で抱きしめてくるので、気が休まることはなかった。言い出したのが僕だけに、”やり過ぎ”とは言えない。
また、そんなに色々されているのに何故か嫌ではないという点で質が悪かった。
ジェットコースターなんかより観覧車の方が怖かったように、アトラクションよりこの少しの時間でどっと疲れた。
降りた後に御園が、
「大丈……夫じゃなさそうだな」
と言って一瞬ちらりと有栖を見た。余程疲れた顔をしてしまっていたのかもしれない。彼はそれから少し考えて、
「もしかして高いところ駄目だったか?」
答えの一つをピタリと当ててきた。さすが御園だ。僕のことをよく分かっている。
彼にはさすがに”有栖がキスするのを許可した”とは言えないので、
「うん、ちょっと怖かった」
頷いておく。追々言うかもしれないが、少なくとも今は恥ずかしくて言えない。
「そうか。…………何か困った事があったら、遠慮なく相談しろよな」
「? うん」
御園は微笑んでそう言ってくれる。遠回しに気分が悪いのなら無理をするなと言ってくれたのかも。
御園は本当に優しいから、何があったか今すぐ話せない僕は罪悪感が湧いてくる。別に全てを彼に話さなくてはいけない決まりなんてないし、そうする必要もないのだけど、彼に隠し事をするのは何とはなしに嫌だった。前に有栖と住んでいることをなかなか話せなくて傷つけてしまったこともあったから。
それに、彼は僕より恋愛経験も上手だし、いつかは相談することになるだろう。
「御園、ありがとう。心配してくれて」
「いいって。オレはお前が――……お前は、大切な親友なんだからさ」
御園は何か言いかけて、慌てた様子で言い直すと、
「ちょっと飲み物買ってくるわ!」
と言い残してどこかに行ってしまった。
帰ってきた時には普段通りで、有栖とまた何事か話したり、可香谷さんや冴木さんとも笑顔で話していた。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

嫌われ者の僕が学園を去る話
おこげ茶
BL
嫌われ者の男の子が学園を去って生活していく話です。
一旦ものすごく不幸にしたかったのですがあんまなってないかもです…。
最終的にはハピエンの予定です。
Rは書けるかわからなくて入れるか迷っているので今のところなしにしておきます。
↓↓↓
微妙なやつのタイトルに※つけておくので苦手な方は自衛お願いします。
設定ガバガバです。なんでも許せる方向け。
不定期更新です。(目標週1)
勝手もわかっていない超初心者が書いた拙い文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。
誤字などがありましたらふわふわ言葉で教えて欲しいです。爆速で修正します。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

【運命】に捨てられ捨てたΩ
雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
学園の天使は今日も嘘を吐く
まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」
家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
公爵家の次男は北の辺境に帰りたい
あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。
8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。
序盤はBL要素薄め。

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる