憂いの空と欠けた太陽

弟切 湊

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遊園地編の終わり

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うん、酷い目に遭った。

僕が観覧車から降りて抱いた感想は、そんなものだった。
”有栖が満足するまで何回でもしていいよ”。そんなことを言ったのは何処の誰だっただろうか。
…………まあ僕なのだけど。

有栖は本当にキスを何回でもした。”口じゃなければ良いんだろ”とでも言いたげに、鎖骨とか耳たぶとか変なところにもされたし噛みつかれた。何だろう、噛み癖でもあるのかもしれない。手首にはまだ噛み跡が残っている。
僕はされるがままで、有栖の膝の上にちょこんと座って景色なんかを見ていた。高いところが最初はあんなに怖かったのに、慣れてしまったのか無我の境地に至ったのか、普通に楽しめた。
だけど有栖のキス攻撃は観覧車が低い位置に来るまで一向に止まなかった。しかも時々ものすごい力で抱きしめてくるので、気が休まることはなかった。言い出したのが僕だけに、”やり過ぎ”とは言えない。
また、そんなに色々されているのに何故か嫌ではないという点でたちが悪かった。

ジェットコースターなんかより観覧車の方が怖かったように、アトラクションよりこの少しの時間でどっと疲れた。

降りた後に御園が、

「大丈……夫じゃなさそうだな」

と言って一瞬ちらりと有栖を見た。余程疲れた顔をしてしまっていたのかもしれない。彼はそれから少し考えて、

「もしかして高いところ駄目だったか?」

答えの一つをピタリと当ててきた。さすが御園だ。僕のことをよく分かっている。
彼にはさすがに”有栖がキスするのを許可した”とは言えないので、

「うん、ちょっと怖かった」

頷いておく。追々言うかもしれないが、少なくとも今は恥ずかしくて言えない。

「そうか。…………何か困った事があったら、遠慮なく相談しろよな」
「? うん」

御園は微笑んでそう言ってくれる。遠回しに気分が悪いのなら無理をするなと言ってくれたのかも。
御園は本当に優しいから、何があったか今すぐ話せない僕は罪悪感が湧いてくる。別に全てを彼に話さなくてはいけない決まりなんてないし、そうする必要もないのだけど、彼に隠し事をするのは何とはなしに嫌だった。前に有栖と住んでいることをなかなか話せなくて傷つけてしまったこともあったから。
それに、彼は僕より恋愛経験も上手うわてだし、いつかは相談することになるだろう。

「御園、ありがとう。心配してくれて」
「いいって。オレはお前が――……お前は、大切な親友なんだからさ」

御園は何か言いかけて、慌てた様子で言い直すと、

「ちょっと飲み物買ってくるわ!」

と言い残してどこかに行ってしまった。


帰ってきた時には普段通りで、有栖とまた何事か話したり、可香谷さんや冴木さんとも笑顔で話していた。
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