憂いの空と欠けた太陽

弟切 湊

文字の大きさ
上 下
86 / 142

御園の憂鬱(御園視点)

しおりを挟む
「たまにはこういった食事も良いですね」
「ええ、美味しいです」

黒髪の男と茶髪の男が仲良さげにハンバーガーを食べているのを見ながら、オレは遊沙が何かされていないか気が気ではなかった。
あんなデカい男と小柄な遊沙が二人きりで上空の密室だなんて、何もない方がおかしい。それなのに、オレはこうして遊園地内にある限定バーガー屋でハンバーガーなんかを食っている。
イライラする気持ちとは裏腹に、この店のハンバーガーはムカつくくらい美味うまかった。

…………別に、あいつらの邪魔をしたいわけじゃない。ただただ許せないだけ。オレが叶えられなかったことを、あのモデルが叶えようとしているのだから。

だってそうだろ? 誰だって自分がやりたかったことを先にやられたら腹が立つものだ。”お前がグズグズしていたから”と言われれば言い返せないが、”今までの友情”というリスクを背負っていなかっただけあちらが有利だったのは事実のはずだ。
なのに、何だってオレがあいつのお膳立てをしてやらなきゃならないんだ。

オレは涼しい顔をしている可香谷を恨めしげに睨んだ。
そもそもこいつが『観覧車は二人で乗せてあげましょう』なんて言うからこうなったんだ。その後に『遊沙さんの為を思うなら』とかいう殺し文句まで付けて来なければ絶対従わなかったのに。というか、オレが遊沙のこと好きだって何故知っている?

睨まれた可香谷は顔を冴木に向けると、

「申し訳ありませんが水を取ってきていただけます?」

と言った。冴木は嫌な顔ひとつせずに頷いて、席を立って水を取りに行く。可香谷は彼が離れるのを待ってから、顔をこちらに向けた。

「さて、ご不満そうな顔ですが、言いたいことがあるようでしたらお伺いします」

オレは何故あいつらを二人だけで乗せたのかを聞いた。

「ああ、それは簡単なことで、ただあの方達を喜ばせたかっただけです。お付き合いされているのにぼくたちがいたら、お二人で楽しめないでしょう」
「……あなたはオレが遊沙のことを好きだって知っている様でしたが」
「はい。そんなもの、見ていれば誰だって分かります。有栖さんを邪魔したくって仕方ないって顔してましたから」
「それでオレを引き離したんですか?」
「そうです。もちろん貴方の気持ちも理解出来ましたし、同情しない訳でもありませんでしたが」
「…………どうしてあちらの味方をするんですか」
「冴木さんが喜ぶからです」

可香谷はさも当然というように言った。オレは思わず眉を顰める。

「もしかして好きなのか?」

つい敬語を忘れて独り言を呟くように言うと、

「いいえ?」

またも当然そうに否定の言葉が返ってきた。

「でも好きですよ。友人として、ですが。彼の笑顔は優しくて、ぼくの癒やしですから。彼が笑顔になるのなら、多少面倒でも有栖さんと遊沙さんの仲を取り持つくらいします」
「オレの恋路を邪魔しても、ですか」
「ええ。といっても、貴方はご自分の恋路を全うする気はないのでしょう? それこそ遊沙さんのために」
「…………」

涼しい顔をしておきながら何でもお見通しな可香谷に、もはや怒る気すら失せてしまった。
その後は冴木が三つのコップを器用に持ってきて、可香谷がそれを手伝って自然と会話はなくなった。


観覧車から帰ってきた遊沙にあからさまなキスマークを見つけたオレは、有栖のその綺麗な顔面をその場でボコボコにしてやりたい衝動に駆られたが、特に嫌そうではない遊沙の顔に免じて我慢してやった。
どこか清々しい顔をしたあいつとは逆に、汚い感情をため込むことになったオレは惨めで本当に嫌になる。
一生この立場は変わらないことが分かっているだけに、余計にそう思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

伯爵家のいらない息子は、黒竜様の花嫁になる

ハルアキ
BL
伯爵家で虐げられていた青年と、洞窟で暮らす守護竜の異類婚姻譚。

嫌われ者の僕が学園を去る話

おこげ茶
BL
嫌われ者の男の子が学園を去って生活していく話です。 一旦ものすごく不幸にしたかったのですがあんまなってないかもです…。 最終的にはハピエンの予定です。 Rは書けるかわからなくて入れるか迷っているので今のところなしにしておきます。 ↓↓↓ 微妙なやつのタイトルに※つけておくので苦手な方は自衛お願いします。 設定ガバガバです。なんでも許せる方向け。 不定期更新です。(目標週1) 勝手もわかっていない超初心者が書いた拙い文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。 誤字などがありましたらふわふわ言葉で教えて欲しいです。爆速で修正します。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

狂わせたのは君なのに

白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

処理中です...