憂いの空と欠けた太陽

弟切 湊

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遊園地の話Ⅱ(有栖視点)

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俺と狼男が互いに睨み合いながら牽制し合っていると、方々へ散っていた三人が戻ってきた。冴木が買ってきたチケットを全員に配る。今日の彼はいつものスーツ姿ではなく、涼しげな七分袖のシャツとすらりとしたシルエットのパンツを穿いていた。足下は歩くことに備えてスニーカーだ。どちらかというとラフな格好なのだが、彼がチケットを配っている様を見ると、チケットがどうしても名刺に見えてしまうのは俺だけだろうか。

快活な態度でチケットを受け取った狼男が冴木に料金を支払おうとして止められていた。冴木が全額負担するつもりなのだろう。全く、冴木だって遊びに来たんだ、あんな奴からはさっさとふんだくってしまえばいいものを。狼男と冴木はしばらく悶着したが、結局冴木が負担するようだ。お人好しめ。

甘やかされた側の狼男はラフを通り超して粗野な印象の服を着ていた。正確には黒のタンクトップに迷彩のアウターを羽織り、下半身はだぼっとしたカーゴパンツと編み上げブーツ。耳には銀のイヤーカフが付いている。俺は絶対に着ないし似合わないミリタリーチックな服だが、悔しいかな、彼にはしっかりと似合っていた。上背うわぜいでは俺が確実に勝っているが、筋肉量では負けているかもしれない。もっと鍛えるか。

冴木は可香谷の分も料金を支払おうとして怒られていた。可香谷は眉間に皺を寄せ、

「貴方に支払わせるほど生活が困窮しているように見えます?」

と言った。彼の口調は厳しいが、何故だか不快感がない。冴木はちょっと笑って首を振り、可香谷からチケット代を徴収した。可香谷は冴木との取引が終わると、全員にこの遊園地の地図兼パンフレットをくれた。さっきいなくなったのはこれを取りに行っていたらしい。…………医者だからだろうか、気が回る奴のようだ。俺は気が回らないから、こういう所を見てやり方を盗まなければ。
可香谷は冴木とほぼ同じ服装だったが、足下が黒いエナメルの革靴だった。

遊沙は俺が前に選んだ、肩に編み込みが入った服を着てくれていた。相変わらず黒ずくめで、俺も今日は黒ずくめだからお揃いだった。胸には俺があげた青い石のペンダントを下げてくれていて、黒い中でワンポイントになっていた。



入場してすぐ何をするかという話になった。冴木は「メリーゴーラウンドはどうか」と言ったが、大の大人、しかも野郎五人で初手メリーゴーラウンドに乗るのはさすがにレベルが高すぎるという観点から却下になった。本人達が良くても周囲の視線が気になるようじゃ楽しめない。冴木的には俺が初めてだから初級から、と思ったようだが、余計なお世話だ。むしろ上級と化している。

ということで、色々協議した結果、まずは無難にジェットコースターに乗ることになった。
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