憂いの空と欠けた太陽

弟切 湊

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一方その頃(御園視点)

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あの男と遊沙が付き合い始めてどれくらいが経っただろうか。
オレの気持ちも何とか区切りが付いた頃だというのに、彼らはしっかりと愛の巣……じゃなくて新居を探しているらしい。実に腹立たしい。
情報源は何処かというと、その遊沙本人からだった。有栖のファンにバレると追っかけが来て大変だからと内緒らしいのだが、オレにだけこっそり教えてくれた。オレが有栖と連絡を取ったこともあるし、何より未だにオレの気持ちを知らない遊沙は親友であるオレに話しても大丈夫だと思ったのだろう。一番教えちゃいけない奴に教えてしまう天然さが可愛くもあり、悲しくもあった。オレに話していることをあの男が知らないのだろうと思うと少しだけ優越感があった。それ以外は何も敵うことがないのだから、一個くらい勝ってもいいだろう。

引っ越しの理由を聞いてみると、例の合コンのせいらしい。そこら辺のかくかくしかじかを聞いたオレは全ての元凶である友人の頬を10倍くらいに腫れ上がらせようとしたが、遊沙が真顔で「彼の顔の輪郭がなくなってしまう」とか言って引き留めるので、彼に免じて一発KOで済ませてやった。

大学ではSNSをよくやっている奴らの間で噂になっているようだ。まだ遊沙だとバレてはいないが、奴らがその話をしているのを聞く度に遊沙が身を固くしているのはオレとしても嫌だった。彼のことだから自分のせいで迷惑を、とか思っているのかもしれない。遊沙は何も悪くないのに。
これだから有名人との恋愛は嫌いなんだ。世間とかいう闇鍋に気を遣って生活しなければならないのだから。テレビ局なんかは視聴率が稼げれば何でも放送するきらいがあるから特にタチが悪い。
そういう意味では、あの男が決めた(かどうかは知らないが)引っ越しという選択肢は最善かもしれない。認めたくはないが。



いつか遊沙がくれたイヤーカフを未だに身につけているオレは未練がましいかもしれない。向こうは完全にアウトオブ眼中なのに。
だがオレは、ここまで来たら最後まであの二人につきまとってやろうと考えていた。遊沙の位置情報は現在でも一応把握しているし、もし彼から新居の話をされなくても、行き先を検索すればすぐ答えにたどり着けただろう。ここ最近遠出していないということは、最後に行ったあの辺りを新居に決めたのだろう。ここからしっかりと遠い場所だ。
でも、何処だろうと声をかければ遊沙は会いに来てくれる。”親友”のオレのために。聞きたくはないが、聞けば何処まで進捗があるかも教えてくれるだろう。聞きたくはないが。

「あ、御園」

一人で考え事をしながら食堂で飯を食っていたら、遊沙の声が聞こえた。振り返る前に、自分の横にトレーが置かれる。ホカホカしたすだちうどん。遊沙の好物だ。

「御園が考え事するの、珍しいね」

「そんなことねーよ」

主に遊沙についてはずっと考えてるけど。そんなオレの考えは知らずに、遊沙は「ふーん」と言って、当たり前のように隣で飯を食い始めた。
もし彼に想いを伝えていたらこの未来があったのかなかったのか、はたまたもっと良い未来になっていたのか、それが出来なかったオレには分からない。ただ、このちょっとした時間がオレにとっては幸せであることだけは確かだった。



―――――――†


(端書き)
今日、とんでもないことに気が付きました。読者の方がお一方、Twitterの方でマシュマロを送ってくださっていたのですが、それに作者は22日間気付かなかったのでありました。なんということでしょう。

あのメッセージを送ってくださった方、本当にすみませんでした……。当方はTwitterをあまり見るほうではなく、ましてや付けてみたはいいものの本当に送ってくださる方がいるとは思いもせず。今更ですがきっちりと返信しておきましたので……。字数制限で100字しか書けなかったので凄く感情が薄く見えると思いますが、とても喜んでいますのでご安心ください。
本当にすみません、そしてありがとうございました。
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