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新居探しⅠ
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「森の家に興味はないかい?」
そんな冴木さんの言葉から、別荘巡り的なものが始まることになった。
有栖が寝ている時に冴木さんに呼び出されて聞かされたのは、合コンに行った日のことについてだった。僕が覚えていないところで有栖が迎えに来てくれた時のこと。あの時に合コン相手の女性と有栖の間で一悶着あったらしく、さらにそれを誰かが動画にとってSNSに流したらしい。おかげでネット上は大騒ぎで、何かのスキャンダルだとして炎上させようとする派と何かの間違いあるいは別人としてガセネタ扱いする派で別れているとのこと。
……正直そんな大事になっているとは驚いた。
僕はそこら辺にいるただの人で。有栖は誰もが振り向くモデルだ。
その二人の間柄なんて従兄弟とでも思われるのが関の山で、もしそう思ったのなら放っておいてくれればいいのに。
僕はともかく有栖や関係者の方に迷惑がかかってしまうのは嫌だから。
アンチの人はしょうがないけど、ファンの人が話を広げているのだとしたらやめて欲しい。有栖の仕事がなくなって困る人だって大勢いるはずだし。
その話を聞いて、僕はとりあえず謝った。僕の軽率な行動……というか、断れない精神の弱さがこういう事態を引き起こした訳で、有栖にも心配をかけて悲しませた。
しかし、冴木さんは小さく首を振った。
「いいんだ。君のせいじゃないよ。まだ大学生なんだから合コンくらいするさ。……それに今はそういう話じゃなくて……」
そこで提案してきたのが、引っ越しの話だ。冴木さんはこの家を出て新しい家を探そうと考えているらしい。
「えっと……それはやはり僕のせいでは」
「ああ、違う違う。そういう重い話ではなく、そろそろ先のことも考えなくてはならないと思ってね。今回のことは良いきっかけなんだ」
「先のこと?」
「そう。有栖は人気があるけれど、いつまでもモデルでいられるわけじゃない。だから、今のままではいずれ生活が厳しくなる。私も今まで有栖のマネージャーをしてきたから、今更良い仕事が見つかるとも思えないし。……そう考えたとき、この家は色々高すぎる。あ、セキュリティが高いのはいいことなんだけどね」
確かにこの家は並みの人が住める感じじゃない。僕の臓器を全部売ったとしても買えないくらいだろう。マンションのくせに二階建てだし。
ウォークインクロゼットがある家とか絶対高いもんな。ナンバーワンホストとかが買いそうな感じというか。
うん、そこにずっと住むのはなかなか難しい気がする。
「そこで考えたんだけど、ほら、君と有栖を合わせたとき森のコテージに行っただろう? 二人ともあそこで打ち解けたし、空気も良くて楽しそうだった。……だからね、山荘みたいなところに移り住んだらどうかなって」
「うーん……確かに人があまりいないっていうのは嬉しいかもしれないです。動物や虫もいっぱいいますし……。でも、急にそういうところに行くと不便じゃないですか? お二人は都会慣れしてますし」
「うん。それはそうなんだ。だから仕事がない暇な日にちょっとずつ慣れていくのはどうかなって。仕事場とか大学が遠くなってしまうから、今は下見程度で引っ越しは遊沙くんが大学卒業してからの予定だけれど」
「……分かりました。有栖と冴木さんがそれでいいなら僕は何も異論はないです。引っ越しとかちょっとわくわくしますし」
「じゃあ決まりだね。例えばだけど、どんな家が良いとかあるかい? 三人で住む家だから慎重に決めたいんだ」
冴木さんは嬉しそうに笑顔を浮かべてそう言った。
今では冴木さんも僕にとって欠かせない人で、だから彼が嬉しそうだと僕も嬉しい。
どんな家……か。正直雨風が凌げればどこでもいいというのが本音だけれど、せっかくだから何か提案したい。
……広いバルコニーがあったら星とか見られるかな。夏の夜ならそんなに寒くないと思うから、天体観測出来たら楽しいかもしれない。あとどうせ森付近に住むのなら木造がいいな。丸太を組んで立てられてる家はちょっと憧れる。壁がボコボコになっちゃうから実用性は低いかもだけど。
こうして僕たちの新しい家探しが始まることになったのだった。
そんな冴木さんの言葉から、別荘巡り的なものが始まることになった。
有栖が寝ている時に冴木さんに呼び出されて聞かされたのは、合コンに行った日のことについてだった。僕が覚えていないところで有栖が迎えに来てくれた時のこと。あの時に合コン相手の女性と有栖の間で一悶着あったらしく、さらにそれを誰かが動画にとってSNSに流したらしい。おかげでネット上は大騒ぎで、何かのスキャンダルだとして炎上させようとする派と何かの間違いあるいは別人としてガセネタ扱いする派で別れているとのこと。
……正直そんな大事になっているとは驚いた。
僕はそこら辺にいるただの人で。有栖は誰もが振り向くモデルだ。
その二人の間柄なんて従兄弟とでも思われるのが関の山で、もしそう思ったのなら放っておいてくれればいいのに。
僕はともかく有栖や関係者の方に迷惑がかかってしまうのは嫌だから。
アンチの人はしょうがないけど、ファンの人が話を広げているのだとしたらやめて欲しい。有栖の仕事がなくなって困る人だって大勢いるはずだし。
その話を聞いて、僕はとりあえず謝った。僕の軽率な行動……というか、断れない精神の弱さがこういう事態を引き起こした訳で、有栖にも心配をかけて悲しませた。
しかし、冴木さんは小さく首を振った。
「いいんだ。君のせいじゃないよ。まだ大学生なんだから合コンくらいするさ。……それに今はそういう話じゃなくて……」
そこで提案してきたのが、引っ越しの話だ。冴木さんはこの家を出て新しい家を探そうと考えているらしい。
「えっと……それはやはり僕のせいでは」
「ああ、違う違う。そういう重い話ではなく、そろそろ先のことも考えなくてはならないと思ってね。今回のことは良いきっかけなんだ」
「先のこと?」
「そう。有栖は人気があるけれど、いつまでもモデルでいられるわけじゃない。だから、今のままではいずれ生活が厳しくなる。私も今まで有栖のマネージャーをしてきたから、今更良い仕事が見つかるとも思えないし。……そう考えたとき、この家は色々高すぎる。あ、セキュリティが高いのはいいことなんだけどね」
確かにこの家は並みの人が住める感じじゃない。僕の臓器を全部売ったとしても買えないくらいだろう。マンションのくせに二階建てだし。
ウォークインクロゼットがある家とか絶対高いもんな。ナンバーワンホストとかが買いそうな感じというか。
うん、そこにずっと住むのはなかなか難しい気がする。
「そこで考えたんだけど、ほら、君と有栖を合わせたとき森のコテージに行っただろう? 二人ともあそこで打ち解けたし、空気も良くて楽しそうだった。……だからね、山荘みたいなところに移り住んだらどうかなって」
「うーん……確かに人があまりいないっていうのは嬉しいかもしれないです。動物や虫もいっぱいいますし……。でも、急にそういうところに行くと不便じゃないですか? お二人は都会慣れしてますし」
「うん。それはそうなんだ。だから仕事がない暇な日にちょっとずつ慣れていくのはどうかなって。仕事場とか大学が遠くなってしまうから、今は下見程度で引っ越しは遊沙くんが大学卒業してからの予定だけれど」
「……分かりました。有栖と冴木さんがそれでいいなら僕は何も異論はないです。引っ越しとかちょっとわくわくしますし」
「じゃあ決まりだね。例えばだけど、どんな家が良いとかあるかい? 三人で住む家だから慎重に決めたいんだ」
冴木さんは嬉しそうに笑顔を浮かべてそう言った。
今では冴木さんも僕にとって欠かせない人で、だから彼が嬉しそうだと僕も嬉しい。
どんな家……か。正直雨風が凌げればどこでもいいというのが本音だけれど、せっかくだから何か提案したい。
……広いバルコニーがあったら星とか見られるかな。夏の夜ならそんなに寒くないと思うから、天体観測出来たら楽しいかもしれない。あとどうせ森付近に住むのなら木造がいいな。丸太を組んで立てられてる家はちょっと憧れる。壁がボコボコになっちゃうから実用性は低いかもだけど。
こうして僕たちの新しい家探しが始まることになったのだった。
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