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世間というもの(冴木視点)
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『―――という感じで、彼らが映った動画が出回っていまして……。SNS上の元の呟きは削除させたのですが、既にかなり拡散されてしまっていて、しばらくは騒ぎになるかもしれません』
かつてお世話になっていた事務所の人から、急にそんな電話を貰った。
「そうですか……ご連絡ありがとうございます」
遊沙くんが合コンに行っていたらしいあの日、有栖は彼を探しに行くと言って一人で出て行ってしまった。結果何事もなく遊沙くんを連れて帰ってきたのだけれど、その時の様子を誰かが動画で撮っていたらしい。おかげで今日の朝から頻繁に電話が来るようになってしまった。主に記者からだが、たまに一般の人からもかかってくる。
内容はシンプルで、あれは誰ですか、とだけ。
スマホで撮っていたため画質が悪かったのが幸いし、遊沙くんの顔は映っていない。ただ有栖は目立ちすぎて丸わかりだし、女性と何事か話して遊沙くんを無理矢理引っぺがしたところもバッチリ映っている。こちらは画質が悪かったことが影響し、修羅場みたいに見える。
……ああ、何も考えずに送り出した私のせいだ。体格は隠せなくても、顔や髪などはいくらでも隠せたのに。
遊沙くんも大学生なのだし若気の至りだろうと深く考えなかったことが悔やまれる。
仕事に支障が出るのはもちろん、遊沙くんが何らかの形で突き止められでもしたら、彼が質問攻めに遭うのは目に見えている。記者というものは時にハイエナのように貪欲になる。あちらも自分の仕事がかかっているのだから当たり前と言えば当たり前なのだけど。人間に対して悪い思い出もある遊沙くんが、彼らに追われて怖がるようなことはあってはならない。
有栖がモデルじゃなかったら、合コンに行って一悶着あってもこんなことにはならなかっただろう。有栖だってこういう事態になることは望んでいなかったはずだし、何よりあの時は焦りからか思考力が低下していた。あの時冷静だったのは私だったのだから、止めるか変装させるかするべきだった。貴方はモデルなのだから、と。
だから、こうなってしまったのは親代わりである私の失態だ。
彼らの関係が露呈してしまえば、きっと仕事が来なくなったりイメージダウンになってしまったりするだろう。女性との恋愛でさえ自由に出来ない、スキャンダルにすらなってしまう世界なのだ。男性と恋愛しているとなれば、社会的な死を迎える可能性だってある。
LGBTQが受け入れられるようになってきたとはいえ、未だに嫌悪する人の方が多い。
……私だって手放しで祝福してあげたいけれど、心の何処かでその気持ちを邪魔する気持ちがあって、複雑な心境になってしまっていたくらいだ。気持ち悪い、とか、頭がおかしい、とか思う人がいたとしても不思議ではないだろう。
今は何とかかんとか誤魔化しているが、それもいつまで保つか分からない。
有栖が本当に遊沙くんのことを愛しているなら、二人には幸せになって欲しいのに、世間がそれを許してくれない。
『だから子孫を残せなくてもいいんです。だってこれ以上増えたら地球はたまったもんじゃないんですから。なので、貴方の息子さん……のような彼や、それ以外の同性愛者の方には、好きな人を好きになって欲しいと思っています』
可香谷さんはそう言ってくれたけれど。そういう考えの人はきっと少ない。
これからどうやって二人を守っていこうか。それが私の課題だった。
かつてお世話になっていた事務所の人から、急にそんな電話を貰った。
「そうですか……ご連絡ありがとうございます」
遊沙くんが合コンに行っていたらしいあの日、有栖は彼を探しに行くと言って一人で出て行ってしまった。結果何事もなく遊沙くんを連れて帰ってきたのだけれど、その時の様子を誰かが動画で撮っていたらしい。おかげで今日の朝から頻繁に電話が来るようになってしまった。主に記者からだが、たまに一般の人からもかかってくる。
内容はシンプルで、あれは誰ですか、とだけ。
スマホで撮っていたため画質が悪かったのが幸いし、遊沙くんの顔は映っていない。ただ有栖は目立ちすぎて丸わかりだし、女性と何事か話して遊沙くんを無理矢理引っぺがしたところもバッチリ映っている。こちらは画質が悪かったことが影響し、修羅場みたいに見える。
……ああ、何も考えずに送り出した私のせいだ。体格は隠せなくても、顔や髪などはいくらでも隠せたのに。
遊沙くんも大学生なのだし若気の至りだろうと深く考えなかったことが悔やまれる。
仕事に支障が出るのはもちろん、遊沙くんが何らかの形で突き止められでもしたら、彼が質問攻めに遭うのは目に見えている。記者というものは時にハイエナのように貪欲になる。あちらも自分の仕事がかかっているのだから当たり前と言えば当たり前なのだけど。人間に対して悪い思い出もある遊沙くんが、彼らに追われて怖がるようなことはあってはならない。
有栖がモデルじゃなかったら、合コンに行って一悶着あってもこんなことにはならなかっただろう。有栖だってこういう事態になることは望んでいなかったはずだし、何よりあの時は焦りからか思考力が低下していた。あの時冷静だったのは私だったのだから、止めるか変装させるかするべきだった。貴方はモデルなのだから、と。
だから、こうなってしまったのは親代わりである私の失態だ。
彼らの関係が露呈してしまえば、きっと仕事が来なくなったりイメージダウンになってしまったりするだろう。女性との恋愛でさえ自由に出来ない、スキャンダルにすらなってしまう世界なのだ。男性と恋愛しているとなれば、社会的な死を迎える可能性だってある。
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……私だって手放しで祝福してあげたいけれど、心の何処かでその気持ちを邪魔する気持ちがあって、複雑な心境になってしまっていたくらいだ。気持ち悪い、とか、頭がおかしい、とか思う人がいたとしても不思議ではないだろう。
今は何とかかんとか誤魔化しているが、それもいつまで保つか分からない。
有栖が本当に遊沙くんのことを愛しているなら、二人には幸せになって欲しいのに、世間がそれを許してくれない。
『だから子孫を残せなくてもいいんです。だってこれ以上増えたら地球はたまったもんじゃないんですから。なので、貴方の息子さん……のような彼や、それ以外の同性愛者の方には、好きな人を好きになって欲しいと思っています』
可香谷さんはそう言ってくれたけれど。そういう考えの人はきっと少ない。
これからどうやって二人を守っていこうか。それが私の課題だった。
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