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断れなかった弊害
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合コンに誘われた次の日。
いつの間にかお酒を飲んでいたらしく、昨日の記憶はほとんどない。お酒はあまり好きじゃないし、ああいう場所は苦手だけど、飲んでしまったってことはそれなりに浮かれていたのかもしれない。
頼んだパスタを食べて美味しいなあと思ったところくらいまでは覚えていて、その後は気付いたら自分のベッドにいた。
近くに有栖がいたから、きっと彼が運んでくれたのだろうけど……。おぼろげな記憶の中の彼は、出会ったばかりの頃のように不機嫌だった。苛立ちと怒りと余裕のなさが煮詰められたような雰囲気、というのだろうか。とにかく何か気に障ることがあったのだということは十分伝わった。
有栖が聞いてきたことになるべくちゃんと答えたつもりだったのだけど、次の瞬間には首にものすごい痛みを感じて、ちょっと遅れて有栖に噛みつかれたのだと分かった。有栖は痛いことをしないだろうという信頼があったので、突然与えられた痛みに、彼に裏切られた気がして悲しみやら何やらが湧いてきてしまった。
酔いも覚めて脳がはっきりした今では多分僕が合コンを断れなかったことに怒っているのだろうな、と分かった。連絡もしなかったからきっと凄く心配をかけただろう。悪いことをした。
有栖がどれくらい僕のことを好いてくれているのかは分からないけど、心配をかけるのは本意じゃなかったのに。
だけど、まさか犬より先に人間に噛まれるとは思わなかったなあ。
大学を彷徨きながら、帰りにお詫びの品でも買って帰ろうとスマホで検索をかける。
……雑貨とかいいかも。有栖は最近家にいることも多いし、日記とかも書いているみたいだから卓上用品とか探してみようかな。
買い物は結構好きなので、ちょっとわくわくしながら行く店を決めていると、昨日僕を誘ってきた友人が声をかけてきた。
「あ、遊沙!」
「あ。えーっとどうしたの?」
「どうしたのじゃないよ! お前、有栖といつ知り合ったんだよ~! 言えよ~!」
「えっ、あっ、ご、ごめん」
そういえば有栖が僕のこと迎えに来てくれてたって御園が言ってたんだった。
「いや、謝る必要はないけどさ。も~あの後大騒ぎだったぞ。遊沙と良い感じだった女の子なんか怒って帰っちゃうし」
「え、良い感じだった女の子……?」
「お前覚えてないのかよ~、終始良い感じだったじゃん」
「そ、そうだっけ……」
「そうだよ! ったく鈍いんだから。……だけど急に有栖が来てお前を引っぺがして車で帰っちゃってさ。美人が凄むと怖いって言うけどホントに怖くて。有栖があんなに怒ってるってことは、お前有栖と深い関係なんだろ?」
「ええと……まあ浅くはない、けど……」
「前は知らなかっただろ? なのにいつの間に仲良くなってるんだよ~羨ましい! どんな関係なのかも気になるし」
まあ、こんなどこにでもいるような奴のことをモデルが迎えに来たとなればそうなるよなあ。彼のことを知らなかった手前、今更従兄弟でしたとか言えないし。ここは素直に、でもぼやかして言おう。
「うーんと……ちょっと色々あって、お友達状態というか……」
あ、駄目だこれ。下手くそ過ぎる。
「いやもうあれ、親友とかそういうレベルじゃない? ただの友達のために迎えに来るかよ」
ごもっとも。一緒に住んでるとか余計なこと言わない方が良いだろうし、話を合わせておこう。
「あ、うん、そうなんだよね。結構仲良くしてもらってて……」
「ふーん……ま、いっか。今度もっと詳しく教えてよ。な? 言葉まとまってからでいいからさ」
友人は納得いかない顔をしながらも、ニコッと笑って引き下がってくれた。ほとんど話してあげられなかったのに、それ以上は追求しないでくれるらしい。
……彼といい御園といい、本当に良い人ばかりだな。頭が下がる。
今度はもうちょっと上手く説明できるように考えてこよう。
SNSをほとんど使わない僕は知らなかった。
彼以外の合コン参加者の呟きで、ネット上はちょっとした騒ぎになっていることを。
いつの間にかお酒を飲んでいたらしく、昨日の記憶はほとんどない。お酒はあまり好きじゃないし、ああいう場所は苦手だけど、飲んでしまったってことはそれなりに浮かれていたのかもしれない。
頼んだパスタを食べて美味しいなあと思ったところくらいまでは覚えていて、その後は気付いたら自分のベッドにいた。
近くに有栖がいたから、きっと彼が運んでくれたのだろうけど……。おぼろげな記憶の中の彼は、出会ったばかりの頃のように不機嫌だった。苛立ちと怒りと余裕のなさが煮詰められたような雰囲気、というのだろうか。とにかく何か気に障ることがあったのだということは十分伝わった。
有栖が聞いてきたことになるべくちゃんと答えたつもりだったのだけど、次の瞬間には首にものすごい痛みを感じて、ちょっと遅れて有栖に噛みつかれたのだと分かった。有栖は痛いことをしないだろうという信頼があったので、突然与えられた痛みに、彼に裏切られた気がして悲しみやら何やらが湧いてきてしまった。
酔いも覚めて脳がはっきりした今では多分僕が合コンを断れなかったことに怒っているのだろうな、と分かった。連絡もしなかったからきっと凄く心配をかけただろう。悪いことをした。
有栖がどれくらい僕のことを好いてくれているのかは分からないけど、心配をかけるのは本意じゃなかったのに。
だけど、まさか犬より先に人間に噛まれるとは思わなかったなあ。
大学を彷徨きながら、帰りにお詫びの品でも買って帰ろうとスマホで検索をかける。
……雑貨とかいいかも。有栖は最近家にいることも多いし、日記とかも書いているみたいだから卓上用品とか探してみようかな。
買い物は結構好きなので、ちょっとわくわくしながら行く店を決めていると、昨日僕を誘ってきた友人が声をかけてきた。
「あ、遊沙!」
「あ。えーっとどうしたの?」
「どうしたのじゃないよ! お前、有栖といつ知り合ったんだよ~! 言えよ~!」
「えっ、あっ、ご、ごめん」
そういえば有栖が僕のこと迎えに来てくれてたって御園が言ってたんだった。
「いや、謝る必要はないけどさ。も~あの後大騒ぎだったぞ。遊沙と良い感じだった女の子なんか怒って帰っちゃうし」
「え、良い感じだった女の子……?」
「お前覚えてないのかよ~、終始良い感じだったじゃん」
「そ、そうだっけ……」
「そうだよ! ったく鈍いんだから。……だけど急に有栖が来てお前を引っぺがして車で帰っちゃってさ。美人が凄むと怖いって言うけどホントに怖くて。有栖があんなに怒ってるってことは、お前有栖と深い関係なんだろ?」
「ええと……まあ浅くはない、けど……」
「前は知らなかっただろ? なのにいつの間に仲良くなってるんだよ~羨ましい! どんな関係なのかも気になるし」
まあ、こんなどこにでもいるような奴のことをモデルが迎えに来たとなればそうなるよなあ。彼のことを知らなかった手前、今更従兄弟でしたとか言えないし。ここは素直に、でもぼやかして言おう。
「うーんと……ちょっと色々あって、お友達状態というか……」
あ、駄目だこれ。下手くそ過ぎる。
「いやもうあれ、親友とかそういうレベルじゃない? ただの友達のために迎えに来るかよ」
ごもっとも。一緒に住んでるとか余計なこと言わない方が良いだろうし、話を合わせておこう。
「あ、うん、そうなんだよね。結構仲良くしてもらってて……」
「ふーん……ま、いっか。今度もっと詳しく教えてよ。な? 言葉まとまってからでいいからさ」
友人は納得いかない顔をしながらも、ニコッと笑って引き下がってくれた。ほとんど話してあげられなかったのに、それ以上は追求しないでくれるらしい。
……彼といい御園といい、本当に良い人ばかりだな。頭が下がる。
今度はもうちょっと上手く説明できるように考えてこよう。
SNSをほとんど使わない僕は知らなかった。
彼以外の合コン参加者の呟きで、ネット上はちょっとした騒ぎになっていることを。
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