憂いの空と欠けた太陽

弟切 湊

文字の大きさ
上 下
66 / 142

面倒な誘い

しおりを挟む
「合コン?」


自分とは全く縁のない言葉に思わず首を傾げる。怪訝な顔をしてしまったかもしれないが、こればかりは仕方がない。

「そう! 人数足りなくて……。予定では五人ずつのはずだったんだけど、相手が間違えてて本当は六人だったらしくて、こっちの人数が一人足りないんだよ……! 頼むっ! こういうの遊沙しか頼めないから!」

本当に困った様子で耳打ちしてくるのはいつも遊んでくれている友人のうちの一人だ。御園は風邪を引いてしまったとかで昨日から休んでいる。もし彼がいたら僕じゃなくて彼のところに話が行ったのだろうけど、いないためこうして僕に頼んでいるのだろう。

日頃から遊んでくれている恩もあるし、本当なら即答したいところなのだけど、有栖の存在があるから二つ返事でとはいかない。有栖は僕のことを好き……なわけだから、僕としても彼の嫌がることは避けたい。恋愛感情が分からないから何とも言えないけれど、多分自分の好きな人が他の女性とか男性とかと合コンに行った、とか知ったらすごく傷つくんじゃないかと思う。多分。

「ええと、そうしたいのは山々なんだけど、その、家の人にそういう所行っちゃ駄目って言われてて」

「バレなきゃ大丈夫だって! おれらもう大学生だし、いつまでも親のお伺いばっかり立ててても駄目だろ? な? 行こうぜ、頼む! 一生のお願い!」

「うっ……!」

駄目だ、断り切れない……。バレなきゃ大丈夫とかそういう問題じゃなくて普通に駄目だと思うけど、友人の頼みも無下に出来ない。

どうしよう。

「だー! もう! 時間がないから行くぞ!」

「え!? ちょ、ちょっと待って、まだ良いとは言ってな――」

「駄目とも言ってないだろ! 飯代はおれが出すから! いるだけで良いから! 二次会も蹴って良いから!」

彼は僕の手を引っ張ってぐいぐい歩いて行く。残念ながら腕力も脚力も貧弱なので抵抗も出来ない。
うん、出来るだけのことはした。諦めるしかないか……。
有栖には帰ってから謝ろう。そして勢いに流されるのはこれで最後にしよう。


諦めた僕は合コン会場のイタリアンレストランまで連行されていった。


―――――――――――†


「初めまして~!」

メイクも服装もバッチリな女性達が笑顔で挨拶していき、僕らも挨拶をしなければならなかった。基本的に人見知りな僕はこういう席が苦手なのだけど、頼まれた上に連れて来られたからには乗り切るしかない。
ニコニコして良い感じに受け答えしていれば角も立たないだろう。
友人とその他の男性陣は皆コミュニケーション能力が高そうだし、僕はあまり喋らなくてもよさそうだ。

ご飯代を出してくれるというのであまり高いものは頼めない。学生はお金が必要だし、他人のお金でホイホイ頼むのは申し訳ない。僕がメニューを見ながら思案していると、一人の女性が話しかけてきた。

「遊沙君は何頼むの~?」

「え? ええと、まだ悩んでいるんですけど、せっかくだからパスタかなと……」

「あー、わたしもパスタ食べたいんだよね~、遊沙君はどれが良いと思う? あと敬語禁止ね~? 同い年なんだから気楽にね♪」

「え、ああ、すみません……じゃなくてごめん。うーん……僕は海鮮が好きだからボンゴレビアンコ……かな」

「え、奇遇じゃーん! わたしもそれにしようと思ってたんだよねー! ……店員さ~ん、注文お願いしま~す」

彼女は僕のも一緒に注文してくれた。そういう声かけは苦手だからやってくれるのは凄く助かる。
ただ、ちょっとこの人……苦手だ…………。

良い人なのは分かる。顔も可愛くて綺麗だし、コミュニケーション能力も高いからモテそうだ。
そうなのだけど、ちょっと、その……僕の性格には合わないのかもしれない。
一緒にいるのに気を張っていないといけない感じがする。有栖と一緒にいるときは全くそう思わないのに。
やっぱり異性だからだろうか。

ああ、早く帰りたい…………。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

伯爵家のいらない息子は、黒竜様の花嫁になる

ハルアキ
BL
伯爵家で虐げられていた青年と、洞窟で暮らす守護竜の異類婚姻譚。

嫌われ者の僕が学園を去る話

おこげ茶
BL
嫌われ者の男の子が学園を去って生活していく話です。 一旦ものすごく不幸にしたかったのですがあんまなってないかもです…。 最終的にはハピエンの予定です。 Rは書けるかわからなくて入れるか迷っているので今のところなしにしておきます。 ↓↓↓ 微妙なやつのタイトルに※つけておくので苦手な方は自衛お願いします。 設定ガバガバです。なんでも許せる方向け。 不定期更新です。(目標週1) 勝手もわかっていない超初心者が書いた拙い文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。 誤字などがありましたらふわふわ言葉で教えて欲しいです。爆速で修正します。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

狂わせたのは君なのに

白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

処理中です...