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水族館デートⅢ
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サメを見た後はまたあちこち見て回った。
タッチプールという、浅い水槽にいるヒトデとかを触れるコーナーがあったけれど、僕も有栖も触らなかった。ネコザメも触れるから鮫肌を体感してみたい気はしたけれど、生き物を触るのはちょっと怖い。生きてるものは基本何してくるか分からないから、興味はあっても気が引けてしまうのだ。
有栖は磯の匂いが手に付くことが嫌らしい。気持ちはちょっと分かる。
イルカのエリアに行くと、シャチやらシロイルカやら珍しい生き物もいた。シロイルカは大人になると4トンくらいあるらしい。僕100人くらいの重さだ。生息地域が海じゃなかったら動くの大変そうだな。
水族館だから海にいる生き物は大概いるようで、ペンギンとか亀とかもいてちょっと動物園みたいだった。なんだか得した気分だ。
僕がうろちょろしている間、有栖はしきりに地図と時間を気にしていた。実は仕事が入っていたとかだと申し訳ないので聞いてみると、眉間に皺を寄せて怒られた。「好きなやつとのデートに仕事入れるやつがどこにいる」とのこと。そんなものなのか。僕はそういう事情あまり詳しくないからなあ……。
では見たい生き物がいるのかと聞いてみたけど、これも違うらしい。
結局何か分からないまま時間が経って、急に有栖に引っ張られた。
訳が分からない僕の手を引いて、有栖は熱帯魚の大水槽へと向かった。
「…………!」
そこには、人が一人もいなかった。誰もいない空間では、大水槽が眼前いっぱいに広がり、まるで海の中にいるようだった。本物の海の中だったらパニックになるだろうけど、ここなら存分にこの光景を楽しめる。
「ねえ、有栖」
「何だ」
「どうして誰もいないの?」
「今の時間は一番人気のあるイルカショーをやっていてな。特にこの水槽はショー会場から一番遠いから、必然的に人が少なくなる。今日は平日だから誰もいなくなったんだろう」
「へえ……なんで知ってるの?」
「おい、言わせるな。…………事前に調べてきたからに決まってるだろ」
有栖は恥ずかしそうに言った。
「もしかして、気を遣ってくれた……?」
「……別に。お前が人混み嫌いなのは何となく分かるし。せっかく来るんだからお前にも楽しんで貰いたかっただけだ」
ふん、とそっぽを向いた有栖の顔は、青い世界でも分かるくらいに赤くなっていた。それを見た僕は自然と笑みがこぼれてしまった。
「ふふ、ありがとう。有栖」
「……べ、別に礼とかいい。それより魚見ろ。人が戻ってきたら意味がないだろ」
「うん」
こんなに大きくて豪華な水槽を二人占めできることなんてないだろうから、しっかりと堪能する。有栖も照れ隠しなのか魚を真剣に眺めていてちょっと可笑しかった。
この贅沢な環境もそうだけど、僕のために色々考えてくれることがすごく嬉しかった。本当に大事にしてくれているんだなって思える。
この状況を目一杯楽しもうと後ろに下がる。全体を見るとまた違った印象がある。
―――あ。
少しやりたいことを思いついて、僕はポケットからスマホを取り出した。まず全体の写真を撮って、ゆっくりと有栖に近付く。
背後からシャッター音が聞こえて驚いた有栖が振り向いたとき、もう一枚撮った。
有栖は目を白黒させている。驚かせてしまったらしい。
「ごめん、有栖。水槽の前に立つ有栖があまりに綺麗だったから、つい写真撮りたくなっちゃって」
事情を説明すると、有栖は顔を覆ってしゃがみ込んでしまった。
「え、どしたの? ごめん、何かまずかった?」
「いや、ちょっと……ボディーブローが…………」
「ボディーブロー?」
頭にはてなマークをいっぱい浮かべている僕を尻目に、有栖は立ち上がって僕を水槽の前に立たせた。
「お前が撮るなら俺も撮る」
ぽかんとしている僕は、結局人が来るまで散々被写体にされた。
タッチプールという、浅い水槽にいるヒトデとかを触れるコーナーがあったけれど、僕も有栖も触らなかった。ネコザメも触れるから鮫肌を体感してみたい気はしたけれど、生き物を触るのはちょっと怖い。生きてるものは基本何してくるか分からないから、興味はあっても気が引けてしまうのだ。
有栖は磯の匂いが手に付くことが嫌らしい。気持ちはちょっと分かる。
イルカのエリアに行くと、シャチやらシロイルカやら珍しい生き物もいた。シロイルカは大人になると4トンくらいあるらしい。僕100人くらいの重さだ。生息地域が海じゃなかったら動くの大変そうだな。
水族館だから海にいる生き物は大概いるようで、ペンギンとか亀とかもいてちょっと動物園みたいだった。なんだか得した気分だ。
僕がうろちょろしている間、有栖はしきりに地図と時間を気にしていた。実は仕事が入っていたとかだと申し訳ないので聞いてみると、眉間に皺を寄せて怒られた。「好きなやつとのデートに仕事入れるやつがどこにいる」とのこと。そんなものなのか。僕はそういう事情あまり詳しくないからなあ……。
では見たい生き物がいるのかと聞いてみたけど、これも違うらしい。
結局何か分からないまま時間が経って、急に有栖に引っ張られた。
訳が分からない僕の手を引いて、有栖は熱帯魚の大水槽へと向かった。
「…………!」
そこには、人が一人もいなかった。誰もいない空間では、大水槽が眼前いっぱいに広がり、まるで海の中にいるようだった。本物の海の中だったらパニックになるだろうけど、ここなら存分にこの光景を楽しめる。
「ねえ、有栖」
「何だ」
「どうして誰もいないの?」
「今の時間は一番人気のあるイルカショーをやっていてな。特にこの水槽はショー会場から一番遠いから、必然的に人が少なくなる。今日は平日だから誰もいなくなったんだろう」
「へえ……なんで知ってるの?」
「おい、言わせるな。…………事前に調べてきたからに決まってるだろ」
有栖は恥ずかしそうに言った。
「もしかして、気を遣ってくれた……?」
「……別に。お前が人混み嫌いなのは何となく分かるし。せっかく来るんだからお前にも楽しんで貰いたかっただけだ」
ふん、とそっぽを向いた有栖の顔は、青い世界でも分かるくらいに赤くなっていた。それを見た僕は自然と笑みがこぼれてしまった。
「ふふ、ありがとう。有栖」
「……べ、別に礼とかいい。それより魚見ろ。人が戻ってきたら意味がないだろ」
「うん」
こんなに大きくて豪華な水槽を二人占めできることなんてないだろうから、しっかりと堪能する。有栖も照れ隠しなのか魚を真剣に眺めていてちょっと可笑しかった。
この贅沢な環境もそうだけど、僕のために色々考えてくれることがすごく嬉しかった。本当に大事にしてくれているんだなって思える。
この状況を目一杯楽しもうと後ろに下がる。全体を見るとまた違った印象がある。
―――あ。
少しやりたいことを思いついて、僕はポケットからスマホを取り出した。まず全体の写真を撮って、ゆっくりと有栖に近付く。
背後からシャッター音が聞こえて驚いた有栖が振り向いたとき、もう一枚撮った。
有栖は目を白黒させている。驚かせてしまったらしい。
「ごめん、有栖。水槽の前に立つ有栖があまりに綺麗だったから、つい写真撮りたくなっちゃって」
事情を説明すると、有栖は顔を覆ってしゃがみ込んでしまった。
「え、どしたの? ごめん、何かまずかった?」
「いや、ちょっと……ボディーブローが…………」
「ボディーブロー?」
頭にはてなマークをいっぱい浮かべている僕を尻目に、有栖は立ち上がって僕を水槽の前に立たせた。
「お前が撮るなら俺も撮る」
ぽかんとしている僕は、結局人が来るまで散々被写体にされた。
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