憂いの空と欠けた太陽

弟切 湊

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ショッピング Ⅰ(有栖視点)

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モデル業を休業してから一ヶ月が経った。
今は学生の休み期間ではないためか、教習所の配車予約や講義予約が結構取れたので、免許は案外すんなりと取れた。
仮免許と本免許はそれぞれ学科と実技の試験がある。学科試験は基本暗記だから、数をこなせばそれほど問題なく受かったし、実技も試験だからといって緊張せずに、いつも通りに運転すれば何とかなった。
ただ、授業を詰め込んだせいで一ヶ月をほとんど教習所に費やしてしまったため、休業期間を若干延長した。遊沙とはゲームをやったりお茶をしたりしたが、やはり一緒に出かけたりドライブしたりしたい。

せっかく免許を取ったのだし、冴木には迷惑かけない感じで、二人で何処か行こうか。
そう思って、当初は遊沙に行きたいところを聞こうとしていたのだが、そこであることに気付いた。

遊沙は服をほとんど持っていないのだ。三枚くらいの服をひたすらローテーションして着ている。最初は似たような服が好きなのか、とか、同じ服を何枚か持っているのか、とか思っていたのだが、どうもそうではないということが最近分かった。
なので、遊沙には行き先を内緒にして、似合う服を見繕って買ってやることにした。買ってやる、と言うと、彼の事だからきっと拒否するだろう。
だから先に服を選ばせて、それを勝手に買ってしまおう。

朝食を作ってくれていた彼に声をかけて、買い物に行かないかと誘ってみる。

「いいけど……どこ行くの?」

「そうだな……。とりあえずいろんな店があるところに行こうと思っている。お前、大学行ってるかゲームしてるか家事してるかで、そんなに出かけてないだろ? 俺も免許取ったし、ドライブがてら一緒にどうかと思ってな」

「ん、分かった。冴木さんは誘わなくて良いの?」

「ああ。あの人はあの人で最近誰かと連絡取り合ってるみたいだしな。邪魔しちゃ悪いだろ」

「りょーかい」

冴木は最近、誰かとLINEでぽちぽちと会話をしている。休業している間に何処かで出会いがあったのだろう。俺のスケジュール管理などで大分不自由をさせたので、親孝行……というか、そういう出会いを邪魔することは極力避けたい。

冴木に出かける旨を伝えて、遊沙と車に乗る。俺の車はないし買うつもりもないので、冴木の車を借りて初心者マークを張っておく。
普段は冴木が運転して助手席に俺が座っているから、俺が運転して遊沙が隣にいるのは変な気分だった。
試験の時より緊張しながらも安全運転を心がけて、とりあえず無事に目的地に着いた。場所は事前に調べておいたアウトレットモールで、服屋が豊富なのはもちろん、フードコートや外国製品の店などもある。

遊沙は物珍しそうに辺りを見回していた。

「何か気になる店とかあるか?」

「うーん……。お店が多すぎてよく分かんない」

首を傾げて悩んでいるので、俺が気に入っているブランド服の店に連れて行く。ここは遊沙の好きそうなカジュアル系の服やシンプルな服も多く取りそろえられているので、彼の服を買うのにはもってこいだ。

「どれか気になるのはあるか? 試着しても良いぞ」

「なんで僕の服?」

「いや、お前あまり服を持っていないだろ? たまには気分を変えて他の服を着るとか、お洒落してみるとかどうかと思って」

「あー……。まあたまにはいいかも」

彼は逡巡した後、納得したように頷いた。てくてくと店内を歩いて、気になる服を物色していく。
彼はしばらく商品を見てから、おもむろにこちらを振り向いた。

「有栖、僕に似合いそうな服選んでくれない? モデルだし、詳しそうだから」

自分で選ぶと同じ服ばっかりになっちゃう、と手に持ったパーカを見ながら呟いている。

断る理由はないし、遊沙をコーディネート出来るのは非常に面白そうだ。その流れで買ってあげることも出来るだろうから、まさに一石二鳥。これに乗らない手はない。

俺は早速遊沙に似合う服を吟味し始めた。

いつもは黒のパーカーやトレーナーに長ズボンばかり穿いているので、もう少し華やかな感じが良い。ただし派手すぎると似合わないし、第一遊沙は買ったところで着ないだろう。それでは意味がない。
なので、色味を変えることにした。黒からの脱却だ。


―――――――――――――†

(端書き)

すみません、ショッピング回は今回で書き切る予定だったんですが、いろいろな事情で今回はここまでになります。明日続き書きます。
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