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番外編Ⅱ(冴木視点)
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「ええと、まずは自己紹介からにしませんか?」
とても妙なことになった。
毒を盛った女性に事情を聞いた後、自宅に帰るために道を歩いていたら、何処かで見たことのある男性に声をかけられた。短い黒髪に黒縁の四角い眼鏡。一体どこで見たのか悩んでいると、「病院の」とヒントをくれた。
それで、遊沙くんを診断してくれた医者だということを思い出したのだけど。
遊沙くんについて話したいことがある、というので、何か重要な話かと思ってついてきたら、傷について聞かれた。
まあ、普通は気になるだろうけど。
ともかく遊沙くんの体が病気になっているとかの報告じゃなくてほっとした。
それにしても、話には順番というものがあるわけで。彼にとってはすぐにでも知りたい情報だったのだろうけど、まずは名前を知らないことには話も弾まない。
「…………これは失礼。あまりにタイミング良く貴方が現れたもので」
少々目付きの悪い彼は、若干申し訳なさそうな顔で眼鏡を押し上げた。私の眼鏡は楕円形の縁なしなので、彼のものとは逆だなあなどとどうでも良いことを考えながら、私は自分の名前を名乗った。
「冴木さん、ですか。ご丁寧にありがとうございます。ぼくは可香谷 彰と言います。お見知りおきを」
一通り自己紹介が住んだところで、本題に入る。
私は遊沙くんのこれまでの経緯をなるべく詳しく説明した。同級生と思われる相手に暴行されていたことや、私たちの家に連れてきた理由などを。
可香谷さんは注文した珈琲を飲みながら黙って聞いていた。そして、私が話し終わったときにぼそりと、
「なるほど、クズはそっちだったか」
と呟いた。
…………何の話かよく分からないが、この人結構口が悪いな。前も若干そう思ったけれど。
遊沙くんとは違うタイプの無表情で、感情を出すときは出す人のようだ。
「貴重なお話、ありがとうございます」
彼は何かに納得したようで、満足した顔をしていた。
それから私の仕事の話になり、忙しいながらもやりがいがあって楽しいことを話した。代わりに彼の仕事も聞いているうちに、段々と愚痴をたくさん聞く羽目になってしまった。
私は人の話を聞くのは得意な方なので、それほど苦ではなかったけれど。
「本当にこの国はクソですよ。ブラック企業の蔓延と、それに伴う自殺者や鬱病患者の増加だけでも由々しきことなのに、女性の出産に関しても全く親切じゃない。そりゃあ子供の数も減りますよね」
「自殺してしまった方たちも若い人が多いですしね」
「そうなんですよ。……知ってます? 妊婦さんに意地悪する女性や男性って一定数いるんですよ。電車とか公共の場所でね。それに、子供を産んだら産んだでうるさいって言われたり、保育園が足りなかったり、旦那が手伝わなかったり、手伝ったら会社から何か言われたり。……はあ~もう、ぼくの立場がもっと上だったら、生きづらくしている人間全員はっ倒すんですけど」
「可香谷さんは妊婦さんやお母さんの味方なんですね。私もどちらかと言えばそうなんですけど」
「そりゃあそうですよ。人類がここまで繁栄したのは、女性がお腹を痛めて子供を産んでくれるからなんですから。まあ、男性もいてこそではありますが、近年まで産むのも女性で育てるのも女性でしたからね」
「男性はお金を稼いで生活を支える役目ですが、最近は女性もバリバリ働いてますもんね」
「仰る通り。こうなると男性の立場というか、役割が薄くなりますね。男性は男性で家事をやる方もいらっしゃいますけど」
「そうですね」
可香谷さんは寡黙そうな顔に似合わずよく喋る人だ。さりとて不快という訳でもなく、もっと人数がいれば有意義な議論が出来るだろう。
それとなく何故口が悪いのか聞いてみると、彼の家は両親とも医者で、彼の道も医者だと決められていたらしく、相当勉強させられたせいで反抗期にものすごいことになったらしい。口調はそれの名残りだとか。
有栖も似たような環境ではあったので、有栖の口が悪くならなくて良かったと安堵する。モデル業で口の悪さが出たら大変だからね。
「…………つい長話してしまってすみません。お時間取らせました」
「いえいえ、興味深いお話でした」
「連絡先交換していただけますか? このお礼に何か悩みがあったら聞きますから呼んでください」
「はい、大丈夫です。では話したいことがあったら連絡しますね」
「はい。それではまた」
話に満足したらしい可香谷さんはサッとLINEを交換して、店員に何か話して店を出ていった。
私も続いて席を立つと、店員が「お代は頂いています」と言ってきた。
…………スマートだなあ、あの人。払ってもらうのであればお礼としては十分過ぎるので、私の愚痴を聞いてもらう必要もないのに。
口は悪い方だしハッキリものを言う人だけど、話の内容からしてもいい人なのは明らかだった。
さて、遅くなってしまったけど家に帰らないと。遊紗くんは病み上がりだし、有栖が家事をやってくれているはずだから。
とても妙なことになった。
毒を盛った女性に事情を聞いた後、自宅に帰るために道を歩いていたら、何処かで見たことのある男性に声をかけられた。短い黒髪に黒縁の四角い眼鏡。一体どこで見たのか悩んでいると、「病院の」とヒントをくれた。
それで、遊沙くんを診断してくれた医者だということを思い出したのだけど。
遊沙くんについて話したいことがある、というので、何か重要な話かと思ってついてきたら、傷について聞かれた。
まあ、普通は気になるだろうけど。
ともかく遊沙くんの体が病気になっているとかの報告じゃなくてほっとした。
それにしても、話には順番というものがあるわけで。彼にとってはすぐにでも知りたい情報だったのだろうけど、まずは名前を知らないことには話も弾まない。
「…………これは失礼。あまりにタイミング良く貴方が現れたもので」
少々目付きの悪い彼は、若干申し訳なさそうな顔で眼鏡を押し上げた。私の眼鏡は楕円形の縁なしなので、彼のものとは逆だなあなどとどうでも良いことを考えながら、私は自分の名前を名乗った。
「冴木さん、ですか。ご丁寧にありがとうございます。ぼくは可香谷 彰と言います。お見知りおきを」
一通り自己紹介が住んだところで、本題に入る。
私は遊沙くんのこれまでの経緯をなるべく詳しく説明した。同級生と思われる相手に暴行されていたことや、私たちの家に連れてきた理由などを。
可香谷さんは注文した珈琲を飲みながら黙って聞いていた。そして、私が話し終わったときにぼそりと、
「なるほど、クズはそっちだったか」
と呟いた。
…………何の話かよく分からないが、この人結構口が悪いな。前も若干そう思ったけれど。
遊沙くんとは違うタイプの無表情で、感情を出すときは出す人のようだ。
「貴重なお話、ありがとうございます」
彼は何かに納得したようで、満足した顔をしていた。
それから私の仕事の話になり、忙しいながらもやりがいがあって楽しいことを話した。代わりに彼の仕事も聞いているうちに、段々と愚痴をたくさん聞く羽目になってしまった。
私は人の話を聞くのは得意な方なので、それほど苦ではなかったけれど。
「本当にこの国はクソですよ。ブラック企業の蔓延と、それに伴う自殺者や鬱病患者の増加だけでも由々しきことなのに、女性の出産に関しても全く親切じゃない。そりゃあ子供の数も減りますよね」
「自殺してしまった方たちも若い人が多いですしね」
「そうなんですよ。……知ってます? 妊婦さんに意地悪する女性や男性って一定数いるんですよ。電車とか公共の場所でね。それに、子供を産んだら産んだでうるさいって言われたり、保育園が足りなかったり、旦那が手伝わなかったり、手伝ったら会社から何か言われたり。……はあ~もう、ぼくの立場がもっと上だったら、生きづらくしている人間全員はっ倒すんですけど」
「可香谷さんは妊婦さんやお母さんの味方なんですね。私もどちらかと言えばそうなんですけど」
「そりゃあそうですよ。人類がここまで繁栄したのは、女性がお腹を痛めて子供を産んでくれるからなんですから。まあ、男性もいてこそではありますが、近年まで産むのも女性で育てるのも女性でしたからね」
「男性はお金を稼いで生活を支える役目ですが、最近は女性もバリバリ働いてますもんね」
「仰る通り。こうなると男性の立場というか、役割が薄くなりますね。男性は男性で家事をやる方もいらっしゃいますけど」
「そうですね」
可香谷さんは寡黙そうな顔に似合わずよく喋る人だ。さりとて不快という訳でもなく、もっと人数がいれば有意義な議論が出来るだろう。
それとなく何故口が悪いのか聞いてみると、彼の家は両親とも医者で、彼の道も医者だと決められていたらしく、相当勉強させられたせいで反抗期にものすごいことになったらしい。口調はそれの名残りだとか。
有栖も似たような環境ではあったので、有栖の口が悪くならなくて良かったと安堵する。モデル業で口の悪さが出たら大変だからね。
「…………つい長話してしまってすみません。お時間取らせました」
「いえいえ、興味深いお話でした」
「連絡先交換していただけますか? このお礼に何か悩みがあったら聞きますから呼んでください」
「はい、大丈夫です。では話したいことがあったら連絡しますね」
「はい。それではまた」
話に満足したらしい可香谷さんはサッとLINEを交換して、店員に何か話して店を出ていった。
私も続いて席を立つと、店員が「お代は頂いています」と言ってきた。
…………スマートだなあ、あの人。払ってもらうのであればお礼としては十分過ぎるので、私の愚痴を聞いてもらう必要もないのに。
口は悪い方だしハッキリものを言う人だけど、話の内容からしてもいい人なのは明らかだった。
さて、遅くなってしまったけど家に帰らないと。遊紗くんは病み上がりだし、有栖が家事をやってくれているはずだから。
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