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番外編Ⅰ(医者視点)
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本編には一応関係しています。前回と話が繋がっていないので、番外編にしておきました。(あと題名が思いつかなかった)
†―――――――†―――――――†
「――ということですので、安静にしてください。くれぐれも無理はしないように」
風邪を拗らせて来院した主婦にそう告げて、彼女の背中を見送る。今ので最後の患者だ。
彼女には夫と二人の息子がいて、風邪でも休めないでいる内に拗らせたようだ。
「お疲れ様です、先生」
看護師の女性が声をかけてくれる。
「ああ、お疲れ様」
ぼくもそれに返事をして、帰路についた。
明日は休日。ここの病院は別に休みではないが、ぼくは一日働いたら一日休むことにしている。
医療行為自体はとても良いことだと思うし大事なことだとも思うが、そのためにぼくら医者が不養生では意味がない。
毎日働かせて残業までさせるクソ会社は御免だ。
ぼくの相方も、ぼくと交代で一日おきに休めるし、別に悪いシステムではないと思う。
まあその代わりに、何か手が足りないときは呼び出されるのだが。
明日は街でぶらりとしようか。顔色の悪い人間ばかり見ていると、外の空気を吸いたくなる。
†―――――――――――――†
次の日は、予定通り街に出た。
特に目的もなく、頭も使わないで歩くだけ。欲しいもので無駄にならないものは買う。
立ち並ぶショーウィンドウを覗きながら歩いていると、ふとチョコレートを売っている店が目にとまった。
…………チョコレートか。
最近来た珍しい患者を思い出す。休みにまで患者のことを考えるのは職業病と言わざるを得ないが、これでも医者だから、心配なものは心配だ。
顔なら誰もが知っていると言っても過言ではないほど有名なモデルと、恐らくはそのマネージャー、そして、関係性の分からない地味な青年。今思い出しても奇妙な組み合わせだ。
体にあった虐待としか思えない傷跡や、あんな小柄で痩せた人間を働かせていることなどから、モデル業の鬱憤晴らしに使われているのかと思ってしまった。違ったようで何よりだ。
いろんな人間を見てきたから、本気で心配しているかどうかは見たら分かる。
あの二人も相当疲れが溜っていた様だし、そこまで気が回らなかったのだろう。
クズというものは一定数存在する。仕事で溜った鬱憤を、他の人間にぶつけて発散するクズはごまんといる。だから、あのマネージャーが商売道具のモデルのためにあの青年をあてがった可能性もゼロではない。ゼロではないが、それを病院に連れてくるということは、少なくとも彼らにとって替えが効かない存在であることは確かだ。
まあ、毒を飲んでいたし、服毒自殺を図ったのかもしれないが。
…………彼のその後が気になるが、ぼくが考えても仕方のないことだ。どうせもう会うことはないのだから。
そう思って顔を上げたとき、何の因果か見覚えのある人間が通り過ぎた。茶色の髪に眼鏡をかけた、たった今思い出していたマネージャーだった。
…………これがフラグというやつか? 呼んだら来るものなのか。
「すみません」
ぼくが思わず声をかけると、彼は驚いて振り向いた。
「……はい? あ、えーっと、貴方は確か…………」
「病院の」
「ああ! 病院の! あのときはお世話になりました…………!」
嬉しそうな笑顔を浮かべて、深々と頭を下げられる。…………やはり、悪意のある人間にはとても見えない。
ならば、あの体の傷はなんなのか。青年との関係は?
ぼくは好奇心と心配を抑えられなかった。
「いえ、別に。医者ですから。…………その、いきなりですみませんが、今お時間あります?」
彼は腕時計を確認する。
「はい、大丈夫です。何かお話でも?」
「貴方方が連れてきた患者さんについて、お話したいことがありまして」
そう言うと、彼の顔が真剣になる。
「分かりました。立ち話もなんですから、そこのカフェでご一緒しましょう」
ふむ。悪くないな。
ぼくもその提案に乗って、近くのカフェに入る。軽く注文を済ませてから、単刀直入に切り出す。
「あの患者さんの体の傷、何が原因か分かります?」
†―――――――†―――――――†
「――ということですので、安静にしてください。くれぐれも無理はしないように」
風邪を拗らせて来院した主婦にそう告げて、彼女の背中を見送る。今ので最後の患者だ。
彼女には夫と二人の息子がいて、風邪でも休めないでいる内に拗らせたようだ。
「お疲れ様です、先生」
看護師の女性が声をかけてくれる。
「ああ、お疲れ様」
ぼくもそれに返事をして、帰路についた。
明日は休日。ここの病院は別に休みではないが、ぼくは一日働いたら一日休むことにしている。
医療行為自体はとても良いことだと思うし大事なことだとも思うが、そのためにぼくら医者が不養生では意味がない。
毎日働かせて残業までさせるクソ会社は御免だ。
ぼくの相方も、ぼくと交代で一日おきに休めるし、別に悪いシステムではないと思う。
まあその代わりに、何か手が足りないときは呼び出されるのだが。
明日は街でぶらりとしようか。顔色の悪い人間ばかり見ていると、外の空気を吸いたくなる。
†―――――――――――――†
次の日は、予定通り街に出た。
特に目的もなく、頭も使わないで歩くだけ。欲しいもので無駄にならないものは買う。
立ち並ぶショーウィンドウを覗きながら歩いていると、ふとチョコレートを売っている店が目にとまった。
…………チョコレートか。
最近来た珍しい患者を思い出す。休みにまで患者のことを考えるのは職業病と言わざるを得ないが、これでも医者だから、心配なものは心配だ。
顔なら誰もが知っていると言っても過言ではないほど有名なモデルと、恐らくはそのマネージャー、そして、関係性の分からない地味な青年。今思い出しても奇妙な組み合わせだ。
体にあった虐待としか思えない傷跡や、あんな小柄で痩せた人間を働かせていることなどから、モデル業の鬱憤晴らしに使われているのかと思ってしまった。違ったようで何よりだ。
いろんな人間を見てきたから、本気で心配しているかどうかは見たら分かる。
あの二人も相当疲れが溜っていた様だし、そこまで気が回らなかったのだろう。
クズというものは一定数存在する。仕事で溜った鬱憤を、他の人間にぶつけて発散するクズはごまんといる。だから、あのマネージャーが商売道具のモデルのためにあの青年をあてがった可能性もゼロではない。ゼロではないが、それを病院に連れてくるということは、少なくとも彼らにとって替えが効かない存在であることは確かだ。
まあ、毒を飲んでいたし、服毒自殺を図ったのかもしれないが。
…………彼のその後が気になるが、ぼくが考えても仕方のないことだ。どうせもう会うことはないのだから。
そう思って顔を上げたとき、何の因果か見覚えのある人間が通り過ぎた。茶色の髪に眼鏡をかけた、たった今思い出していたマネージャーだった。
…………これがフラグというやつか? 呼んだら来るものなのか。
「すみません」
ぼくが思わず声をかけると、彼は驚いて振り向いた。
「……はい? あ、えーっと、貴方は確か…………」
「病院の」
「ああ! 病院の! あのときはお世話になりました…………!」
嬉しそうな笑顔を浮かべて、深々と頭を下げられる。…………やはり、悪意のある人間にはとても見えない。
ならば、あの体の傷はなんなのか。青年との関係は?
ぼくは好奇心と心配を抑えられなかった。
「いえ、別に。医者ですから。…………その、いきなりですみませんが、今お時間あります?」
彼は腕時計を確認する。
「はい、大丈夫です。何かお話でも?」
「貴方方が連れてきた患者さんについて、お話したいことがありまして」
そう言うと、彼の顔が真剣になる。
「分かりました。立ち話もなんですから、そこのカフェでご一緒しましょう」
ふむ。悪くないな。
ぼくもその提案に乗って、近くのカフェに入る。軽く注文を済ませてから、単刀直入に切り出す。
「あの患者さんの体の傷、何が原因か分かります?」
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