憂いの空と欠けた太陽

弟切 湊

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贈り物という名の毒物

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これ、凄い数だよな。

目の前にはうずたかく積まれたプレゼントの山、山、山。大きなものから小さなものまで所狭しと並んだ物は、どれも全てが丁寧にラッピングされていた。
忙しいから開ける暇ないんだろうけど、これはやっぱり開けて整理した方がいいよな。


一応エプロンをつけて、手前にある物から開けていく。手前にある物は比較的新しい物なので、まだ賞味期限が来ていない食べ物とかも入っていた。
……奥にあるものの中に食べ物があったらまずいな。炭化とかしてたらどうしよう。少なくともカビは生えてそうだな。
一応マスクも持ってきて、作業を再開する。

プレゼントの中身は洋服、缶詰め、果物、お菓子、流行ったバンドのCD、ハム系……などなど、多種多様なもので、どちらかと言うと食べ物が多かった。服とかは好みもあるし、消費できるものの方が贈り物には向いているからだろう。

中にはほとんどの場合、ファンレターも一緒に入っていた。これを僕が読むのは筋違いなので、ファンレターはファンレターでまとめて置いておくことにした。

とりあえず食べ物をひたすら取り出して、期限を確認して、大丈夫なものとダメなものを仕分けた。僕は期限が過ぎていても味と匂いが大丈夫なら食べる派だけど、有栖とか冴木さんは食べない気がするから、ダメなやつは僕のおやつとかにすればいいかな。
奥の方にあった食べ物は、案の定大幅に期限が切れていて、もうなんか箱すらも黒ずんでいるものとかあったので、そういうのはさすがに捨てることにした。
今日は金曜日で、ゴミの日は月曜日なので暫く捨てられないが、この家は広いのでそれほど邪魔にはならないだろう。

お歳暮みたいな感じでジュースの詰め合わせとか、料理用油の詰め合わせとかもあったので、それもバラして種類分けする。

片付けはあんまり好きじゃないけど、こういう単純作業なら結構好きだ。使えるものとか出てくるとお得感があっていい。



倉庫に入っていた包みは全て開けて、ダメなものはゴミとしてまとめて、料理に使えるものは台所へ。食べられるものは冷蔵庫に入れたり、食材を入れておく棚に入れたり。それ以外の有栖宛ての手紙とか服とかは、有栖が帰ってきたら聞くことにした。


かなり疲れたので、僕は恐らく最近貰ったであろう高級チョコレートの箱を開けてみた。疲れた時には甘いものが1番だ。中には9種類のチョコと、その説明書きが入っている。僕は迷ったあと、クランベリーのジャムが入ったブラックチョコレートを食べた。
めちゃくちゃ美味しかったので、残りはみんなで食べようと蓋をする。

さて、そろそろ夕飯の準備でもするか。

 
†☆.。.:*・°.。.:*・°☆.†


ご飯が炊き上がって副菜とスープが出来た時、何故か猛烈な吐き気に襲われて、胃の中のものを全て吐き出しても収まらず、結局胃液になるまで吐いてしまった。
実は先程からどことなく怠くて、手足が若干痺れるような感覚があったので、おかしいなと思っていたのだけど。

うーん、さっきのチョコ、なんか入ってたかもな。既製品だから気にしなかったけど、どこの誰かも分からない他人から貰ったものってやっぱり危険だ。
昔貰った手作りチョコにも切った爪が大量に入って……あ、やめよう、思い出したらめっちゃ気持ち悪い。自分で体調を悪化させてしまった。

とにかく、あのチョコを2人にはあげられないので、処分するものに加えておいた。

吐いた人が調理する料理ってすごく不衛生そうだから、主菜だけ買ってきてもらおうかな。仕事帰りの人に体調悪いって報告するのもあれだし、材料を買い忘れたことにしよう。



冴木さんがチンするだけで出来るハンバーグを買ってきてくれたけど、僕はもう適当なものを食べたことにして、ハンバーグは2人分にしてもらった。

有栖にはファンレターとその他諸々を渡した。有栖は興味無さそうに受け取って、それからふとこちらを見た。

「まさかと思うが、包みに入ってた食べ物食ってないよな?」

ぎく。さっき思いっきり食べたけど。チョコ1粒。

「た、食べてないよ」

「そうか、ならいい」

「何で?」

「最初にファンから貰った飲み物にボンドが入っていてな。死にかけた」

「…………うわ」

「他にもこう……言いたくないようなおぞましいものが入れられていたり、毒入りも普通にあるから。あいつらから貰ったものは絶対食うなよ」

「う、うん。気をつける」

なんだろう、有名人って大変なんだな。アンチの人がボンドとか毒とかを入れるんだろうけど。じゃあちゃんとしたファンの人は一体何を入れているのか気になるところだ。……有栖の言い草からして想像しない方が良さそうだな。

「贈り物は、まあ嬉しくない訳では無いが。安心できるものを送ってくれるやつの方が少ないし、包みに詰まった贈り主の感情だけで体に障りそうだから開けたくないんだ」

有栖はため息をつきながらファンレターを読み始めて、2、3人目くらいの手紙を見せてきた。そこには、呪詛のように「有栖、好きです」と書かれていて、若干鳥肌が立った。

「こういうことしてくる奴が一定数いるからな。もちろん普通のファンもいるけど」

まあ、この美貌でこのスタイルの有栖のことだ。心酔する気持ちも分からなくはない。あとアンチの気持ちも。
有栖が努力してることは知っているけど、その僕でさえ「元から才能があるんだろうな」って思ってしまうんだから、何も知らない人からしたら、有栖のことを何の苦労も知らない、なんでも持ってる人だと思うだろうし。

贈り物って感謝とか伝える時に渡すものだと思っていたけど。
有名人になると、その定義すらもねじ曲がってしまうようだ。
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