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今までのこと
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御園に有栖と住んでいることがバレた翌日のこと。
僕はバイトを休みにして、講義終わりに御園と話すことにした。コンビニでちょっと高めのココアを二人分買って、大学の各所にある休憩スペースに向かう。
「はい、御園。これ、僕の奢り」
「ああ、ありがと、遊沙」
ココアとしては高いがお詫びとしては安いかもしれないものを渡すのは気が引けたが、何も渡さないよりいいだろう。
「今まで黙っててごめんね、御園。相手が相手というか……嘘吐いてるって思われるかもって不安で、なかなか言い出せなかった」
「…………うん。まあオレも同居人がモデルだとは思わなかったよ。遊沙が言い淀むの珍しいし、もしかしたらとは思っていたけど」
僕はこうなった経緯を事細かに説明した。
暴行された……いや、階段から落ちたときに助けてくれたのは本当は有栖だったこと。冴木さんは有栖のマネージャーで、あの日以来定期的に心配するLINEを送ってくれていたこと。その冴木さんから誘われて、あの休日は有栖と三人で出かけたこと。その後、有栖から連絡が来て、急遽一緒に暮らすことになったこと。家賃等々を払ってもらう代わりに、家事全般をやっていること。御園には話そう話そうと思っていたけど、ずっと言えなかったこと。
御園は終始無言で、でも頷きながら聞いてくれた。
暴行されたことも、本当は言った方が良いかもしれない。御園は僕が言わなかったことに傷ついていた。僕は傷付けたくなくてそうしたのだけど、結果は逆だった。
だから、全部話してしまって、嘘吐いてごめんねって、心配かけたくなくてって言うべきなんだ。…………でも、やっぱり知らなくていいこともあるんじゃないかって想いが出てきて、結局話さないことにした。
「オレもさ、気が気じゃなかったとはいえ、強く掴んじゃってごめんな。痛かっただろ?」
「ううん、大丈夫」
「…………驚きの事実はいっぱいあったけどさ、話してくれてありがとな。嬉しかった」
「うん」
御園がはにかむように笑って、僕も嬉しくなる。
「これからはさ、何かあったら何でも話してくれ。もちろん嫌だったら話さなくていい。だけど、オレは遊沙の言うことなら信じるし、悩んでるなら相談乗るからさ」
「うん、分かった。ありがとう」
「アイツ――おっと、あの人のことで困ったことがあったらいつでも言えよな。遊沙のことだから心配してないけど、有名人と一緒に暮らすの、息が詰まりそうだから」
「うん。…………あ、そうだ御園。御園は有栖に会いたがってたでしょ? 昨日会ったけどほんの少しの間だったし、御園が良ければ家に遊びに来ない?」
まだ二人に許可を取ってないけど、あの二人は優しいから僕の友人の一人くらいならオッケーしてくれそうだ。そう思って提案したのだけど。
御園はそれを聞いてカチンと固まってしまった。
あれ……? なんか不味いこと言ったかな……?
彼はそのまま頭を抱え始めてしまう。えっと、どうしよう。
御園は何かに葛藤しているような感じで、むむむと悩んでいる。そして唐突に顔を上げると、
「悪い! 遊沙の誘いだし超ウルトラスーパー行きたいけど、有栖に会うと緊張するから会いたくねぇんだ……! 誘ってくれたのに悪ぃけど、今回はやめとく! ごめんな」
と平謝りしてきた。
あ、そっか。僕みたいな人はともかく、ファンの人が急に会うのは緊張するのか。それは考えてなかった。
「全然いいよ。…………うーん、じゃあ御園んち遊びに行ってもいい? 最近僕のせいで遊べてなかったし」
「……えっ! マジで? 来てくれるのか!? 超嬉しい! だったら久々にゲームしようぜ!」
御園は顔をガバッと上げて、キラキラした目でとても喜んでくれた。ぴょこぴょこ動く耳と、ぶんぶん振られる尻尾が見えるような気がする。やっぱりどこか犬みがあるよな、御園って。
僕もゲームはずっとしてなかったというか、まず持ってないし、それが出来るのは普通に楽しみだった。
収入が減るし迷惑も掛るけど、またバイトを休めば遊ぶ時間はたくさんあるし、御園と僕のわだかまりはほとんどなくなったからいつでも遊べるだろう。
今日は御園と一緒に帰った。友人達も、いつもそそくさと帰っていた僕のことを問い質したりもせず、何事もなかったかのように接してくれて、彼らの優しさを感じた。
僕はバイトを休みにして、講義終わりに御園と話すことにした。コンビニでちょっと高めのココアを二人分買って、大学の各所にある休憩スペースに向かう。
「はい、御園。これ、僕の奢り」
「ああ、ありがと、遊沙」
ココアとしては高いがお詫びとしては安いかもしれないものを渡すのは気が引けたが、何も渡さないよりいいだろう。
「今まで黙っててごめんね、御園。相手が相手というか……嘘吐いてるって思われるかもって不安で、なかなか言い出せなかった」
「…………うん。まあオレも同居人がモデルだとは思わなかったよ。遊沙が言い淀むの珍しいし、もしかしたらとは思っていたけど」
僕はこうなった経緯を事細かに説明した。
暴行された……いや、階段から落ちたときに助けてくれたのは本当は有栖だったこと。冴木さんは有栖のマネージャーで、あの日以来定期的に心配するLINEを送ってくれていたこと。その冴木さんから誘われて、あの休日は有栖と三人で出かけたこと。その後、有栖から連絡が来て、急遽一緒に暮らすことになったこと。家賃等々を払ってもらう代わりに、家事全般をやっていること。御園には話そう話そうと思っていたけど、ずっと言えなかったこと。
御園は終始無言で、でも頷きながら聞いてくれた。
暴行されたことも、本当は言った方が良いかもしれない。御園は僕が言わなかったことに傷ついていた。僕は傷付けたくなくてそうしたのだけど、結果は逆だった。
だから、全部話してしまって、嘘吐いてごめんねって、心配かけたくなくてって言うべきなんだ。…………でも、やっぱり知らなくていいこともあるんじゃないかって想いが出てきて、結局話さないことにした。
「オレもさ、気が気じゃなかったとはいえ、強く掴んじゃってごめんな。痛かっただろ?」
「ううん、大丈夫」
「…………驚きの事実はいっぱいあったけどさ、話してくれてありがとな。嬉しかった」
「うん」
御園がはにかむように笑って、僕も嬉しくなる。
「これからはさ、何かあったら何でも話してくれ。もちろん嫌だったら話さなくていい。だけど、オレは遊沙の言うことなら信じるし、悩んでるなら相談乗るからさ」
「うん、分かった。ありがとう」
「アイツ――おっと、あの人のことで困ったことがあったらいつでも言えよな。遊沙のことだから心配してないけど、有名人と一緒に暮らすの、息が詰まりそうだから」
「うん。…………あ、そうだ御園。御園は有栖に会いたがってたでしょ? 昨日会ったけどほんの少しの間だったし、御園が良ければ家に遊びに来ない?」
まだ二人に許可を取ってないけど、あの二人は優しいから僕の友人の一人くらいならオッケーしてくれそうだ。そう思って提案したのだけど。
御園はそれを聞いてカチンと固まってしまった。
あれ……? なんか不味いこと言ったかな……?
彼はそのまま頭を抱え始めてしまう。えっと、どうしよう。
御園は何かに葛藤しているような感じで、むむむと悩んでいる。そして唐突に顔を上げると、
「悪い! 遊沙の誘いだし超ウルトラスーパー行きたいけど、有栖に会うと緊張するから会いたくねぇんだ……! 誘ってくれたのに悪ぃけど、今回はやめとく! ごめんな」
と平謝りしてきた。
あ、そっか。僕みたいな人はともかく、ファンの人が急に会うのは緊張するのか。それは考えてなかった。
「全然いいよ。…………うーん、じゃあ御園んち遊びに行ってもいい? 最近僕のせいで遊べてなかったし」
「……えっ! マジで? 来てくれるのか!? 超嬉しい! だったら久々にゲームしようぜ!」
御園は顔をガバッと上げて、キラキラした目でとても喜んでくれた。ぴょこぴょこ動く耳と、ぶんぶん振られる尻尾が見えるような気がする。やっぱりどこか犬みがあるよな、御園って。
僕もゲームはずっとしてなかったというか、まず持ってないし、それが出来るのは普通に楽しみだった。
収入が減るし迷惑も掛るけど、またバイトを休めば遊ぶ時間はたくさんあるし、御園と僕のわだかまりはほとんどなくなったからいつでも遊べるだろう。
今日は御園と一緒に帰った。友人達も、いつもそそくさと帰っていた僕のことを問い質したりもせず、何事もなかったかのように接してくれて、彼らの優しさを感じた。
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