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部屋の探索
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豪勢な角部屋を手に入れた僕に、有栖と冴木さんが荷物を運んでくれた。僕の荷物だし自分で運ぼうとしたのだが、彼らは真剣な顔で首を振って「潰れるからダメだ」と言った。失礼な。僕は荷物を潰すほどムキムキじゃないのに。
二人が運び入れてくれた荷物を広げて、パソコンは机の上に、授業用の参考文献などは本棚に収めた。Wi-Fiはこの家に元からあるものを使えるので、ルータは必要なくなり、部屋にある収納にしまっておいた。収納には洋服掛けもあったので、持ってきた服は全てそこにかける。あ、そういえば洗濯機…………まあいいか。この家にもあるだろうし。
母さんの布団はベッドに掛けておいて、父さんが買ってくれたお気に入りのコップはひとまずパソコンの横へ。
元々の持ち物が少ないのですぐに片付いて、一度部屋を出る。
「もう片付いたのか?」
とりあえず一階のリビングに行くと、有栖が驚いたように言った。
「うん。そんなに持ち物ないし」
「そうか」
有栖はソファに座ってくつろいでいて、冴木さんは夕食の準備をしていた。冴木さんを手伝おうとしたら、彼からやんわりと断られた。
「今日は私が作りますから、遊沙くんは家の中を見てきて良いですよ。間取りも覚えてもらいたいですし」
そうか。夕飯作りもそうだけど、もし家事全般をやることになったら、間取りが分かっていた方がやりやすいだろう。そうじゃなくても自分がこれから住む家だし。
僕はお言葉に甘えて、家を探検することにした。有栖がそれとなくついて来る。
一階はアイランドキッチンとソファがあるリビングと、広いトイレとお風呂、ウォークインクローゼットと物置があった。ウォークインクローゼットには有栖の服や衣装が左側に、冴木さんの服が右側に掛っていた。物置には未開封のプレゼントの山があって、これは何かと聞くと、ファンからの贈り物だと言われた。
「開けないの?」
「どうせ碌な物入ってないだろ」
「……うーん、どうだろう」
有栖が開けないなら、彼がいないうちに開けて整理しちゃってもいいかな。かなり場所を取っているし、このままではプレゼントたちも報われないだろう。使える物も入っているかも。
一度リビングに戻ると、右奥にある階段を上がって二階に行く。リビングの奥の壁、つまりテレビの背面はガラス張りになっているので、階段を上がるときは結構怖い。階段も板が壁から突き出しているだけみたいなお洒落階段で、それがより怖さを引き立てる。あまり下を見ないように足早に上がる。
二階は主にそれぞれの部屋がある。階段を上がってすぐはちょっとした広間になっていて、華美すぎない上品なシャンデリアが下がっている。バルコニーに繋がる扉もここにあったので、興味本位で外に出てみる。高い所にあるので猛烈に寒いが、夜景がとても綺麗だ。
「これ、落ちたら即死だね」
「もう少し違う感想はないのか?」
有栖は眉根を寄せて額を押さえた。
「うーん、洗濯物落としたら拾うのが大変」
「いや、まあ、そうだけど」
なんだろう、微妙な空気になってしまった気がする。
部屋に戻ると、探索を再開する。広間の奥の部屋は僕がもらった部屋だ。なので、別に見なくて良いだろう。
広間から続く廊下には向かい合わせに部屋があって、そこが二人の部屋だった。
有栖の部屋は本当に簡素で、ベッドとローテーブル、あとは本棚くらいしかない。その本棚にもそれほど本が入っておらず、薄くほこりを被っている。有栖は一階のリビングでくつろいでいたし、普段この部屋はあまり使っていないのかもしれない。寝るときだけ上ってくるとか。
ウォークインクローゼットはあるけど、それぞれの部屋にも収納があるらしく、ここには寝間着とかが入っているらしい。
冴木さんの部屋は対照的で、とても生活感がある部屋だった。飾り棚には有栖が取ったといういろんな賞のトロフィーや賞状が飾ってあり、タンスの上には二人が写っている写真が額に入って飾られている。本棚にはアルバムや日記に混じって、今までのスケジュール帳やメモ帳などがぎっしり詰まっていて、彼の苦労や努力を感じた。
物はかなり多いが、きちっと仕舞われている辺りが彼らしい。
一階に戻ると、エプロン姿の冴木さんが食事を配膳しているところだった。
「あ、部屋見終わったかい? ちょうど夕飯出来たところだよ」
美味しそうなご飯を持ちながら優しく笑う姿は、まるで母親のようだった。なんとなく僕の母親を思い出して、少し寂しい気持ちになる。疲れているはずなのに、その疲れを全く感じさせない振る舞いが似ているのかもしれない。
今日の夕飯はカレーライス。シンプルだけどそれなりに手が掛る料理だ。美味しい。
食べ終わると、冴木さんが冷蔵庫の中身を見せてくれたり、調味料の場所やその他食材の場所なども教えてくれた。足りない食材は好きに買ってきて良いらしい。ぽんと渡されたクレジットカードには僕のバイト代二ヶ月分くらいのお金が入っていた。家賃や電気代や光熱費を払わなくて良くなったことを考えると、僕の貯金から出しても良いのだけど、冴木さんは「作ってもらうんだからお金は気にしなくて良い」と言ってくれた。
学費は結局払わないといけないし、せっかくだからそれ用に貯めさせてもらうか。
明日の朝ご飯から僕の担当だ。冷蔵庫にあったベーコンと卵を焼いて、パンに乗せて食べてもらおうかな。日中はいないみたいだし昼ご飯はいらないか。あとは夜のメニューも考えなくては。
僕はちょっとわくわくしながらお風呂に入って、自分の部屋のベッドで横になった。ぽかぽかと暖かくて、すぐに眠りに落ちた。
二人が運び入れてくれた荷物を広げて、パソコンは机の上に、授業用の参考文献などは本棚に収めた。Wi-Fiはこの家に元からあるものを使えるので、ルータは必要なくなり、部屋にある収納にしまっておいた。収納には洋服掛けもあったので、持ってきた服は全てそこにかける。あ、そういえば洗濯機…………まあいいか。この家にもあるだろうし。
母さんの布団はベッドに掛けておいて、父さんが買ってくれたお気に入りのコップはひとまずパソコンの横へ。
元々の持ち物が少ないのですぐに片付いて、一度部屋を出る。
「もう片付いたのか?」
とりあえず一階のリビングに行くと、有栖が驚いたように言った。
「うん。そんなに持ち物ないし」
「そうか」
有栖はソファに座ってくつろいでいて、冴木さんは夕食の準備をしていた。冴木さんを手伝おうとしたら、彼からやんわりと断られた。
「今日は私が作りますから、遊沙くんは家の中を見てきて良いですよ。間取りも覚えてもらいたいですし」
そうか。夕飯作りもそうだけど、もし家事全般をやることになったら、間取りが分かっていた方がやりやすいだろう。そうじゃなくても自分がこれから住む家だし。
僕はお言葉に甘えて、家を探検することにした。有栖がそれとなくついて来る。
一階はアイランドキッチンとソファがあるリビングと、広いトイレとお風呂、ウォークインクローゼットと物置があった。ウォークインクローゼットには有栖の服や衣装が左側に、冴木さんの服が右側に掛っていた。物置には未開封のプレゼントの山があって、これは何かと聞くと、ファンからの贈り物だと言われた。
「開けないの?」
「どうせ碌な物入ってないだろ」
「……うーん、どうだろう」
有栖が開けないなら、彼がいないうちに開けて整理しちゃってもいいかな。かなり場所を取っているし、このままではプレゼントたちも報われないだろう。使える物も入っているかも。
一度リビングに戻ると、右奥にある階段を上がって二階に行く。リビングの奥の壁、つまりテレビの背面はガラス張りになっているので、階段を上がるときは結構怖い。階段も板が壁から突き出しているだけみたいなお洒落階段で、それがより怖さを引き立てる。あまり下を見ないように足早に上がる。
二階は主にそれぞれの部屋がある。階段を上がってすぐはちょっとした広間になっていて、華美すぎない上品なシャンデリアが下がっている。バルコニーに繋がる扉もここにあったので、興味本位で外に出てみる。高い所にあるので猛烈に寒いが、夜景がとても綺麗だ。
「これ、落ちたら即死だね」
「もう少し違う感想はないのか?」
有栖は眉根を寄せて額を押さえた。
「うーん、洗濯物落としたら拾うのが大変」
「いや、まあ、そうだけど」
なんだろう、微妙な空気になってしまった気がする。
部屋に戻ると、探索を再開する。広間の奥の部屋は僕がもらった部屋だ。なので、別に見なくて良いだろう。
広間から続く廊下には向かい合わせに部屋があって、そこが二人の部屋だった。
有栖の部屋は本当に簡素で、ベッドとローテーブル、あとは本棚くらいしかない。その本棚にもそれほど本が入っておらず、薄くほこりを被っている。有栖は一階のリビングでくつろいでいたし、普段この部屋はあまり使っていないのかもしれない。寝るときだけ上ってくるとか。
ウォークインクローゼットはあるけど、それぞれの部屋にも収納があるらしく、ここには寝間着とかが入っているらしい。
冴木さんの部屋は対照的で、とても生活感がある部屋だった。飾り棚には有栖が取ったといういろんな賞のトロフィーや賞状が飾ってあり、タンスの上には二人が写っている写真が額に入って飾られている。本棚にはアルバムや日記に混じって、今までのスケジュール帳やメモ帳などがぎっしり詰まっていて、彼の苦労や努力を感じた。
物はかなり多いが、きちっと仕舞われている辺りが彼らしい。
一階に戻ると、エプロン姿の冴木さんが食事を配膳しているところだった。
「あ、部屋見終わったかい? ちょうど夕飯出来たところだよ」
美味しそうなご飯を持ちながら優しく笑う姿は、まるで母親のようだった。なんとなく僕の母親を思い出して、少し寂しい気持ちになる。疲れているはずなのに、その疲れを全く感じさせない振る舞いが似ているのかもしれない。
今日の夕飯はカレーライス。シンプルだけどそれなりに手が掛る料理だ。美味しい。
食べ終わると、冴木さんが冷蔵庫の中身を見せてくれたり、調味料の場所やその他食材の場所なども教えてくれた。足りない食材は好きに買ってきて良いらしい。ぽんと渡されたクレジットカードには僕のバイト代二ヶ月分くらいのお金が入っていた。家賃や電気代や光熱費を払わなくて良くなったことを考えると、僕の貯金から出しても良いのだけど、冴木さんは「作ってもらうんだからお金は気にしなくて良い」と言ってくれた。
学費は結局払わないといけないし、せっかくだからそれ用に貯めさせてもらうか。
明日の朝ご飯から僕の担当だ。冷蔵庫にあったベーコンと卵を焼いて、パンに乗せて食べてもらおうかな。日中はいないみたいだし昼ご飯はいらないか。あとは夜のメニューも考えなくては。
僕はちょっとわくわくしながらお風呂に入って、自分の部屋のベッドで横になった。ぽかぽかと暖かくて、すぐに眠りに落ちた。
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