25 / 142
部屋の探索
しおりを挟む
豪勢な角部屋を手に入れた僕に、有栖と冴木さんが荷物を運んでくれた。僕の荷物だし自分で運ぼうとしたのだが、彼らは真剣な顔で首を振って「潰れるからダメだ」と言った。失礼な。僕は荷物を潰すほどムキムキじゃないのに。
二人が運び入れてくれた荷物を広げて、パソコンは机の上に、授業用の参考文献などは本棚に収めた。Wi-Fiはこの家に元からあるものを使えるので、ルータは必要なくなり、部屋にある収納にしまっておいた。収納には洋服掛けもあったので、持ってきた服は全てそこにかける。あ、そういえば洗濯機…………まあいいか。この家にもあるだろうし。
母さんの布団はベッドに掛けておいて、父さんが買ってくれたお気に入りのコップはひとまずパソコンの横へ。
元々の持ち物が少ないのですぐに片付いて、一度部屋を出る。
「もう片付いたのか?」
とりあえず一階のリビングに行くと、有栖が驚いたように言った。
「うん。そんなに持ち物ないし」
「そうか」
有栖はソファに座ってくつろいでいて、冴木さんは夕食の準備をしていた。冴木さんを手伝おうとしたら、彼からやんわりと断られた。
「今日は私が作りますから、遊沙くんは家の中を見てきて良いですよ。間取りも覚えてもらいたいですし」
そうか。夕飯作りもそうだけど、もし家事全般をやることになったら、間取りが分かっていた方がやりやすいだろう。そうじゃなくても自分がこれから住む家だし。
僕はお言葉に甘えて、家を探検することにした。有栖がそれとなくついて来る。
一階はアイランドキッチンとソファがあるリビングと、広いトイレとお風呂、ウォークインクローゼットと物置があった。ウォークインクローゼットには有栖の服や衣装が左側に、冴木さんの服が右側に掛っていた。物置には未開封のプレゼントの山があって、これは何かと聞くと、ファンからの贈り物だと言われた。
「開けないの?」
「どうせ碌な物入ってないだろ」
「……うーん、どうだろう」
有栖が開けないなら、彼がいないうちに開けて整理しちゃってもいいかな。かなり場所を取っているし、このままではプレゼントたちも報われないだろう。使える物も入っているかも。
一度リビングに戻ると、右奥にある階段を上がって二階に行く。リビングの奥の壁、つまりテレビの背面はガラス張りになっているので、階段を上がるときは結構怖い。階段も板が壁から突き出しているだけみたいなお洒落階段で、それがより怖さを引き立てる。あまり下を見ないように足早に上がる。
二階は主にそれぞれの部屋がある。階段を上がってすぐはちょっとした広間になっていて、華美すぎない上品なシャンデリアが下がっている。バルコニーに繋がる扉もここにあったので、興味本位で外に出てみる。高い所にあるので猛烈に寒いが、夜景がとても綺麗だ。
「これ、落ちたら即死だね」
「もう少し違う感想はないのか?」
有栖は眉根を寄せて額を押さえた。
「うーん、洗濯物落としたら拾うのが大変」
「いや、まあ、そうだけど」
なんだろう、微妙な空気になってしまった気がする。
部屋に戻ると、探索を再開する。広間の奥の部屋は僕がもらった部屋だ。なので、別に見なくて良いだろう。
広間から続く廊下には向かい合わせに部屋があって、そこが二人の部屋だった。
有栖の部屋は本当に簡素で、ベッドとローテーブル、あとは本棚くらいしかない。その本棚にもそれほど本が入っておらず、薄くほこりを被っている。有栖は一階のリビングでくつろいでいたし、普段この部屋はあまり使っていないのかもしれない。寝るときだけ上ってくるとか。
ウォークインクローゼットはあるけど、それぞれの部屋にも収納があるらしく、ここには寝間着とかが入っているらしい。
冴木さんの部屋は対照的で、とても生活感がある部屋だった。飾り棚には有栖が取ったといういろんな賞のトロフィーや賞状が飾ってあり、タンスの上には二人が写っている写真が額に入って飾られている。本棚にはアルバムや日記に混じって、今までのスケジュール帳やメモ帳などがぎっしり詰まっていて、彼の苦労や努力を感じた。
物はかなり多いが、きちっと仕舞われている辺りが彼らしい。
一階に戻ると、エプロン姿の冴木さんが食事を配膳しているところだった。
「あ、部屋見終わったかい? ちょうど夕飯出来たところだよ」
美味しそうなご飯を持ちながら優しく笑う姿は、まるで母親のようだった。なんとなく僕の母親を思い出して、少し寂しい気持ちになる。疲れているはずなのに、その疲れを全く感じさせない振る舞いが似ているのかもしれない。
今日の夕飯はカレーライス。シンプルだけどそれなりに手が掛る料理だ。美味しい。
食べ終わると、冴木さんが冷蔵庫の中身を見せてくれたり、調味料の場所やその他食材の場所なども教えてくれた。足りない食材は好きに買ってきて良いらしい。ぽんと渡されたクレジットカードには僕のバイト代二ヶ月分くらいのお金が入っていた。家賃や電気代や光熱費を払わなくて良くなったことを考えると、僕の貯金から出しても良いのだけど、冴木さんは「作ってもらうんだからお金は気にしなくて良い」と言ってくれた。
学費は結局払わないといけないし、せっかくだからそれ用に貯めさせてもらうか。
明日の朝ご飯から僕の担当だ。冷蔵庫にあったベーコンと卵を焼いて、パンに乗せて食べてもらおうかな。日中はいないみたいだし昼ご飯はいらないか。あとは夜のメニューも考えなくては。
僕はちょっとわくわくしながらお風呂に入って、自分の部屋のベッドで横になった。ぽかぽかと暖かくて、すぐに眠りに落ちた。
二人が運び入れてくれた荷物を広げて、パソコンは机の上に、授業用の参考文献などは本棚に収めた。Wi-Fiはこの家に元からあるものを使えるので、ルータは必要なくなり、部屋にある収納にしまっておいた。収納には洋服掛けもあったので、持ってきた服は全てそこにかける。あ、そういえば洗濯機…………まあいいか。この家にもあるだろうし。
母さんの布団はベッドに掛けておいて、父さんが買ってくれたお気に入りのコップはひとまずパソコンの横へ。
元々の持ち物が少ないのですぐに片付いて、一度部屋を出る。
「もう片付いたのか?」
とりあえず一階のリビングに行くと、有栖が驚いたように言った。
「うん。そんなに持ち物ないし」
「そうか」
有栖はソファに座ってくつろいでいて、冴木さんは夕食の準備をしていた。冴木さんを手伝おうとしたら、彼からやんわりと断られた。
「今日は私が作りますから、遊沙くんは家の中を見てきて良いですよ。間取りも覚えてもらいたいですし」
そうか。夕飯作りもそうだけど、もし家事全般をやることになったら、間取りが分かっていた方がやりやすいだろう。そうじゃなくても自分がこれから住む家だし。
僕はお言葉に甘えて、家を探検することにした。有栖がそれとなくついて来る。
一階はアイランドキッチンとソファがあるリビングと、広いトイレとお風呂、ウォークインクローゼットと物置があった。ウォークインクローゼットには有栖の服や衣装が左側に、冴木さんの服が右側に掛っていた。物置には未開封のプレゼントの山があって、これは何かと聞くと、ファンからの贈り物だと言われた。
「開けないの?」
「どうせ碌な物入ってないだろ」
「……うーん、どうだろう」
有栖が開けないなら、彼がいないうちに開けて整理しちゃってもいいかな。かなり場所を取っているし、このままではプレゼントたちも報われないだろう。使える物も入っているかも。
一度リビングに戻ると、右奥にある階段を上がって二階に行く。リビングの奥の壁、つまりテレビの背面はガラス張りになっているので、階段を上がるときは結構怖い。階段も板が壁から突き出しているだけみたいなお洒落階段で、それがより怖さを引き立てる。あまり下を見ないように足早に上がる。
二階は主にそれぞれの部屋がある。階段を上がってすぐはちょっとした広間になっていて、華美すぎない上品なシャンデリアが下がっている。バルコニーに繋がる扉もここにあったので、興味本位で外に出てみる。高い所にあるので猛烈に寒いが、夜景がとても綺麗だ。
「これ、落ちたら即死だね」
「もう少し違う感想はないのか?」
有栖は眉根を寄せて額を押さえた。
「うーん、洗濯物落としたら拾うのが大変」
「いや、まあ、そうだけど」
なんだろう、微妙な空気になってしまった気がする。
部屋に戻ると、探索を再開する。広間の奥の部屋は僕がもらった部屋だ。なので、別に見なくて良いだろう。
広間から続く廊下には向かい合わせに部屋があって、そこが二人の部屋だった。
有栖の部屋は本当に簡素で、ベッドとローテーブル、あとは本棚くらいしかない。その本棚にもそれほど本が入っておらず、薄くほこりを被っている。有栖は一階のリビングでくつろいでいたし、普段この部屋はあまり使っていないのかもしれない。寝るときだけ上ってくるとか。
ウォークインクローゼットはあるけど、それぞれの部屋にも収納があるらしく、ここには寝間着とかが入っているらしい。
冴木さんの部屋は対照的で、とても生活感がある部屋だった。飾り棚には有栖が取ったといういろんな賞のトロフィーや賞状が飾ってあり、タンスの上には二人が写っている写真が額に入って飾られている。本棚にはアルバムや日記に混じって、今までのスケジュール帳やメモ帳などがぎっしり詰まっていて、彼の苦労や努力を感じた。
物はかなり多いが、きちっと仕舞われている辺りが彼らしい。
一階に戻ると、エプロン姿の冴木さんが食事を配膳しているところだった。
「あ、部屋見終わったかい? ちょうど夕飯出来たところだよ」
美味しそうなご飯を持ちながら優しく笑う姿は、まるで母親のようだった。なんとなく僕の母親を思い出して、少し寂しい気持ちになる。疲れているはずなのに、その疲れを全く感じさせない振る舞いが似ているのかもしれない。
今日の夕飯はカレーライス。シンプルだけどそれなりに手が掛る料理だ。美味しい。
食べ終わると、冴木さんが冷蔵庫の中身を見せてくれたり、調味料の場所やその他食材の場所なども教えてくれた。足りない食材は好きに買ってきて良いらしい。ぽんと渡されたクレジットカードには僕のバイト代二ヶ月分くらいのお金が入っていた。家賃や電気代や光熱費を払わなくて良くなったことを考えると、僕の貯金から出しても良いのだけど、冴木さんは「作ってもらうんだからお金は気にしなくて良い」と言ってくれた。
学費は結局払わないといけないし、せっかくだからそれ用に貯めさせてもらうか。
明日の朝ご飯から僕の担当だ。冷蔵庫にあったベーコンと卵を焼いて、パンに乗せて食べてもらおうかな。日中はいないみたいだし昼ご飯はいらないか。あとは夜のメニューも考えなくては。
僕はちょっとわくわくしながらお風呂に入って、自分の部屋のベッドで横になった。ぽかぽかと暖かくて、すぐに眠りに落ちた。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

嫌われ者の僕が学園を去る話
おこげ茶
BL
嫌われ者の男の子が学園を去って生活していく話です。
一旦ものすごく不幸にしたかったのですがあんまなってないかもです…。
最終的にはハピエンの予定です。
Rは書けるかわからなくて入れるか迷っているので今のところなしにしておきます。
↓↓↓
微妙なやつのタイトルに※つけておくので苦手な方は自衛お願いします。
設定ガバガバです。なんでも許せる方向け。
不定期更新です。(目標週1)
勝手もわかっていない超初心者が書いた拙い文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。
誤字などがありましたらふわふわ言葉で教えて欲しいです。爆速で修正します。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

【運命】に捨てられ捨てたΩ
雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
学園の天使は今日も嘘を吐く
まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」
家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
公爵家の次男は北の辺境に帰りたい
あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。
8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。
序盤はBL要素薄め。

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる