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オフの日 Ⅳ(有栖視点)
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今日の晩飯はバーベキューだった。
冴木が材料を買ってきてくれていて、肉や野菜、海鮮までそろっていた。どこから持ち出したのか、バーベキューセットまでちゃんとある。玄関の反対側に広めの敷地があり、そこにいつの間にか用意されていた。
冴木が率先して火を起こしてくれて、遊沙は椅子の上で体育座りしながら団扇で火を扇いでいた。俺はとりあえず食材を持って立っていた。
「有栖、もう良い感じだから食材乗せてくれるかい?」
冴木に言われ、肉をポンポンと乗せていく。
「あまり偏らせないで」
冴木が苦笑している。男しかいないんだし、肉だけでもいいのに。そう思ったが、遊沙があまり嬉しそうじゃないことに気が付いた。無感情なことに変わりはないが、雰囲気……というのだろうか。そういう何かが嬉しそうではないように思えた。
俺はちょっと迷って、食材の中からちょっと高そうなエビを選んで並べてみた。遊沙の目が僅かに大きくなる。
……ふむ。俺は肉派だが、遊沙は魚介派なのかもしれない。雰囲気(?)をほわほわさせ始めた遊沙を見るのが面白くなって、魚介や野菜をあれこれ乗せてみる。冴木も満足そうだ。
肉がすぐ焼けるので、焼けたものから配分していく。使い勝手の良い紙皿で自分の好きな味にしてもらう。もっもっ……と機械的に肉を咀嚼する遊沙に、焼き上がったばかりのエビを取ってやる。
もっ……。
遊沙の口が止まる。こちらを見上げた目はきらきらと輝いて、嬉しそうだった。肉の入った紙皿を脇に置いて、すぐさまエビに箸を伸ばす。器用に殻を剥いてもぐもぐと食べ始める。
「……あ」
エビを食べた遊沙の頬は自然に緩み――笑った。それは作られたものではなく、確かに自然な笑みで。「花が咲いたよう」と言えるほど華やかなものではないが、その優しい笑みはこちらの心まで穏やかにさせる。
エビごとき……というとエビに失礼かもしれないが、エビごときでこんなに喜ぶなんて普段どんな食生活を送っているのだろうか。
俺が小動物に餌付けしている気分になっていると、
「有栖、後は自分で取るから、自分の分食べて良いよ」
と言ってきた。そういえば、自分の分を取ったまま手をつけていなかった。俺はお言葉に甘えて食べることにした。
肉はどれも上等で、それを炭火で焼くので大変美味しかった。下品にならない程度にがっつきながら、横目で遊沙の皿を見る。
遊沙の皿には魚介類と野菜が盛られており、肉は全く乗っていなかった。
ちなみに冴木は肉と野菜と魚介の割合が1:1:1だった。
炭火が下火になる頃には、遊沙は椅子の上で船を漕ぎ始めていた。腹いっぱいになって眠くなったのだろう。
俺って確かモデルだったよな? この欠片も意識されていない感がとてつもなく新鮮で、自分の職業に疑問を持ってしまう。敬語とかいいし、呼び方も「有栖」でいいとは言ったけれども。馴染みすぎじゃないか? 神経が図太すぎる。
「遊沙くん、遊沙くん。片付け終わったからコテージに戻ろう。ね、ほら」
冴木が遊沙をゆさゆさして起こす。彼は眠そうに目を擦りながらてくてくとコテージに戻っていく。俺と冴木はバーベキューセットやらゴミやらを片付けて、それから戻った。
遊沙が戻ってからそれほど経っていないのに、俺たちが戻ったときにはすでに遊沙の体からもくもくと湯気が立っていた。もう風呂に入ったらしい。
早すぎないか?
そして、俺が風呂に入る準備をしている間に、彼はしゃこしゃこと歯を磨いて二階に上がって行ってしまった。相当眠かったのだろう。
俺も早めに寝るか。
10分ほどで風呂を済ませると、パックをして夜用の乳液をつける。髪はよく乾かして櫛で丁寧に梳く。見た目が商売道具なので手は抜けない。頭の先からつま先までをケアしている間に、冴木は風呂から出てきた。
「有栖、遊沙くんとは仲良く出来ているかい?」
「……別に。それより、あんたの意図がわかんないんですけど」
「まあまあ。そこはそんなに気にしないで。私にも親心はあるということさ」
誰が親だ。…………まあ、本当の親よりも一緒にいるし、外では一応敬語を使っているけど、ため口を利けるくらいの仲ではある。それで親と呼べるかは知らないが。
俺はため息を吐いた。
「……お休み」
「ああ、お休み、有栖」
冴木が材料を買ってきてくれていて、肉や野菜、海鮮までそろっていた。どこから持ち出したのか、バーベキューセットまでちゃんとある。玄関の反対側に広めの敷地があり、そこにいつの間にか用意されていた。
冴木が率先して火を起こしてくれて、遊沙は椅子の上で体育座りしながら団扇で火を扇いでいた。俺はとりあえず食材を持って立っていた。
「有栖、もう良い感じだから食材乗せてくれるかい?」
冴木に言われ、肉をポンポンと乗せていく。
「あまり偏らせないで」
冴木が苦笑している。男しかいないんだし、肉だけでもいいのに。そう思ったが、遊沙があまり嬉しそうじゃないことに気が付いた。無感情なことに変わりはないが、雰囲気……というのだろうか。そういう何かが嬉しそうではないように思えた。
俺はちょっと迷って、食材の中からちょっと高そうなエビを選んで並べてみた。遊沙の目が僅かに大きくなる。
……ふむ。俺は肉派だが、遊沙は魚介派なのかもしれない。雰囲気(?)をほわほわさせ始めた遊沙を見るのが面白くなって、魚介や野菜をあれこれ乗せてみる。冴木も満足そうだ。
肉がすぐ焼けるので、焼けたものから配分していく。使い勝手の良い紙皿で自分の好きな味にしてもらう。もっもっ……と機械的に肉を咀嚼する遊沙に、焼き上がったばかりのエビを取ってやる。
もっ……。
遊沙の口が止まる。こちらを見上げた目はきらきらと輝いて、嬉しそうだった。肉の入った紙皿を脇に置いて、すぐさまエビに箸を伸ばす。器用に殻を剥いてもぐもぐと食べ始める。
「……あ」
エビを食べた遊沙の頬は自然に緩み――笑った。それは作られたものではなく、確かに自然な笑みで。「花が咲いたよう」と言えるほど華やかなものではないが、その優しい笑みはこちらの心まで穏やかにさせる。
エビごとき……というとエビに失礼かもしれないが、エビごときでこんなに喜ぶなんて普段どんな食生活を送っているのだろうか。
俺が小動物に餌付けしている気分になっていると、
「有栖、後は自分で取るから、自分の分食べて良いよ」
と言ってきた。そういえば、自分の分を取ったまま手をつけていなかった。俺はお言葉に甘えて食べることにした。
肉はどれも上等で、それを炭火で焼くので大変美味しかった。下品にならない程度にがっつきながら、横目で遊沙の皿を見る。
遊沙の皿には魚介類と野菜が盛られており、肉は全く乗っていなかった。
ちなみに冴木は肉と野菜と魚介の割合が1:1:1だった。
炭火が下火になる頃には、遊沙は椅子の上で船を漕ぎ始めていた。腹いっぱいになって眠くなったのだろう。
俺って確かモデルだったよな? この欠片も意識されていない感がとてつもなく新鮮で、自分の職業に疑問を持ってしまう。敬語とかいいし、呼び方も「有栖」でいいとは言ったけれども。馴染みすぎじゃないか? 神経が図太すぎる。
「遊沙くん、遊沙くん。片付け終わったからコテージに戻ろう。ね、ほら」
冴木が遊沙をゆさゆさして起こす。彼は眠そうに目を擦りながらてくてくとコテージに戻っていく。俺と冴木はバーベキューセットやらゴミやらを片付けて、それから戻った。
遊沙が戻ってからそれほど経っていないのに、俺たちが戻ったときにはすでに遊沙の体からもくもくと湯気が立っていた。もう風呂に入ったらしい。
早すぎないか?
そして、俺が風呂に入る準備をしている間に、彼はしゃこしゃこと歯を磨いて二階に上がって行ってしまった。相当眠かったのだろう。
俺も早めに寝るか。
10分ほどで風呂を済ませると、パックをして夜用の乳液をつける。髪はよく乾かして櫛で丁寧に梳く。見た目が商売道具なので手は抜けない。頭の先からつま先までをケアしている間に、冴木は風呂から出てきた。
「有栖、遊沙くんとは仲良く出来ているかい?」
「……別に。それより、あんたの意図がわかんないんですけど」
「まあまあ。そこはそんなに気にしないで。私にも親心はあるということさ」
誰が親だ。…………まあ、本当の親よりも一緒にいるし、外では一応敬語を使っているけど、ため口を利けるくらいの仲ではある。それで親と呼べるかは知らないが。
俺はため息を吐いた。
「……お休み」
「ああ、お休み、有栖」
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