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オフの日 Ⅰ(冴木視点)
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『有栖っていうモデル、好き?』
遊沙くんが暴行された事件から早一ヶ月。彼から腕のギプスが取れたという連絡が来た。
まだ激しい運動はできないけれど、日常生活は普通に送れるようになったとのこと。
そこで私は有栖について探りを入れてみることにした。
有栖くらいの年頃の子との交友関係は、ほとんどと言っていいほどない。そのため有栖に友人を据えるためには、遊沙くんしか足がかりがないのだ。これを逃してなるものか。
有栖には友人がいない。小さい頃からずっとモデルになるための訓練を積んできて、学校の勉強もして、それ以外の時間も習い事に費やして。自由な時間など食事と睡眠の時間ぐらいなものだった。学校に行っても同級生たちは有栖を友人としては見なかった。売れ始めてからは有名人として見るようになり、一層距離は遠のいた。
そうして友人の一人もいないまま、彼は20代の中頃まで来てしまったのだ。おかげで悩みを話せるのは私だけ、それも本当にどうしようもないときだけしか相談してこない。心が荒み、イライラが募るのも頷ける。
ご両親は有栖の心に負担をかけるだけだったようで、有栖は一人暮らしと同時に彼らと縁を切った。
有栖が稼いだお金をもらえると思っていたご両親には「親不孝者」と罵られていた。
ご両親からすればお金や手間をかけてモデルに育て上げたのに、何の見返りもなく去って行く有栖がそう見えたのだろう。ただ、有栖からすれば自分の人生の大事な時間をやりたくもないことに全て取られ、自由もなかったというのに金まで吸い上げようだなんて図々しいと思ったはずだ。
どちらの気持ちも分かるが故にどちらの味方もできなかったが、私は有栖のマネージャーだ。有栖に付いてくることにした。
そんな時に有栖が遊沙くんを連れてきた。歳は少し下みたいだし、ひどく幸薄そうだが、それでも有栖が誰かを連れてくるのは初めてのことだったから、これはもしかしたら……と期待してしまったのだ。
だけど、有栖にとって初めての友人になる人だ、事を慎重に運ばなくては。
そういうわけで、有栖についてどれくらい知っているか聞いてみることにした。
『すみません、実はあんまり詳しくなくて』
『でも、嫌いではないと思います』
これは好印象。有栖のファンだったら、話は早いが有栖が喜ばないだろう。ファンが友人だなんて息が詰まる。プライベートくらいのんびりさせてあげたい。
また、当たり前だがアンチでも困る。それこそ友人なんてなれないに決まっている。
この無関心感がとても良い。さらに、気も遣っているところなんかも高ポイント。
なんだかオーディションの審査員になった気分である。
結果から言うと、友人として申し分のない好条件だった。
『そっか』
『前に、お願いしたことがあるって言ったこと、覚えてる?』
『はい、覚えています』
『それを実行したいんだけど、時間あるかな?』
『予定としては来週の土日なんだけど』
『問題ありません』
これ、遊沙くんめちゃくちゃ良い子じゃないか? どこの誰かも知らない奴のよく分からないお誘いに二つ返事でオーケーって。好感度爆上がりだ。
私は前もって有栖の来週の土日の予定を空けておいた。彼にもオフにすると伝えてある。
その日に、どこか山の中の貸別荘でも借りてのんびりしようと計画している。
……二人の方が本当は良いかもしれないし、余計なお世話かもしれない。だけど、やはり友人というのは良いものだ。
私は遊沙くんに、一泊二日分の着替えなどを用意してもらった。騙すようで申し訳ないが、キャンプツアー的なものに一緒に参加するという体にしておいた。
自然の中なら心も安らぐだろうし、遊沙くんだってあんなことがあった後だから丁度良いだろう。
来週が楽しみだ。
遊沙くんが暴行された事件から早一ヶ月。彼から腕のギプスが取れたという連絡が来た。
まだ激しい運動はできないけれど、日常生活は普通に送れるようになったとのこと。
そこで私は有栖について探りを入れてみることにした。
有栖くらいの年頃の子との交友関係は、ほとんどと言っていいほどない。そのため有栖に友人を据えるためには、遊沙くんしか足がかりがないのだ。これを逃してなるものか。
有栖には友人がいない。小さい頃からずっとモデルになるための訓練を積んできて、学校の勉強もして、それ以外の時間も習い事に費やして。自由な時間など食事と睡眠の時間ぐらいなものだった。学校に行っても同級生たちは有栖を友人としては見なかった。売れ始めてからは有名人として見るようになり、一層距離は遠のいた。
そうして友人の一人もいないまま、彼は20代の中頃まで来てしまったのだ。おかげで悩みを話せるのは私だけ、それも本当にどうしようもないときだけしか相談してこない。心が荒み、イライラが募るのも頷ける。
ご両親は有栖の心に負担をかけるだけだったようで、有栖は一人暮らしと同時に彼らと縁を切った。
有栖が稼いだお金をもらえると思っていたご両親には「親不孝者」と罵られていた。
ご両親からすればお金や手間をかけてモデルに育て上げたのに、何の見返りもなく去って行く有栖がそう見えたのだろう。ただ、有栖からすれば自分の人生の大事な時間をやりたくもないことに全て取られ、自由もなかったというのに金まで吸い上げようだなんて図々しいと思ったはずだ。
どちらの気持ちも分かるが故にどちらの味方もできなかったが、私は有栖のマネージャーだ。有栖に付いてくることにした。
そんな時に有栖が遊沙くんを連れてきた。歳は少し下みたいだし、ひどく幸薄そうだが、それでも有栖が誰かを連れてくるのは初めてのことだったから、これはもしかしたら……と期待してしまったのだ。
だけど、有栖にとって初めての友人になる人だ、事を慎重に運ばなくては。
そういうわけで、有栖についてどれくらい知っているか聞いてみることにした。
『すみません、実はあんまり詳しくなくて』
『でも、嫌いではないと思います』
これは好印象。有栖のファンだったら、話は早いが有栖が喜ばないだろう。ファンが友人だなんて息が詰まる。プライベートくらいのんびりさせてあげたい。
また、当たり前だがアンチでも困る。それこそ友人なんてなれないに決まっている。
この無関心感がとても良い。さらに、気も遣っているところなんかも高ポイント。
なんだかオーディションの審査員になった気分である。
結果から言うと、友人として申し分のない好条件だった。
『そっか』
『前に、お願いしたことがあるって言ったこと、覚えてる?』
『はい、覚えています』
『それを実行したいんだけど、時間あるかな?』
『予定としては来週の土日なんだけど』
『問題ありません』
これ、遊沙くんめちゃくちゃ良い子じゃないか? どこの誰かも知らない奴のよく分からないお誘いに二つ返事でオーケーって。好感度爆上がりだ。
私は前もって有栖の来週の土日の予定を空けておいた。彼にもオフにすると伝えてある。
その日に、どこか山の中の貸別荘でも借りてのんびりしようと計画している。
……二人の方が本当は良いかもしれないし、余計なお世話かもしれない。だけど、やはり友人というのは良いものだ。
私は遊沙くんに、一泊二日分の着替えなどを用意してもらった。騙すようで申し訳ないが、キャンプツアー的なものに一緒に参加するという体にしておいた。
自然の中なら心も安らぐだろうし、遊沙くんだってあんなことがあった後だから丁度良いだろう。
来週が楽しみだ。
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