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嘘には嘘を Ⅳ(御園視点)
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次の日、遊沙のいる病院に行ってみると、遊沙は一日入院することになると聞いた。
何が『たいしたことない』だ。
そういうのは絆創膏を貼ったら治る傷に使う言葉だ。
病室に入ると、遊沙はベッドで眠っていた。傍らには知らない男がうたた寝をしている。この男が遊沙を助けてくれたのかという感謝と、ちょっとした嫉妬が湧き上がる。遊沙と一晩同じ部屋にいたかもしれないなんて、羨ましすぎる。
オレは一人で悶えた後、思わずバンッと扉を殴ってしまった。遊沙がびっくりして飛び起きる。うたた寝男も驚いて目を覚ました。
うたた寝男のことはとりあえず無視して、一直線に遊沙に近付く。
こちらの気も知らないで、遊沙はニコニコといつもの笑顔を貼り付けて、大丈夫大丈夫と言う。
そんなにオレは頼りないのか。
遊沙とうたた寝男こと冴木は、口を揃えて階段から落ちたと言った。こんなよく分からない奴と口裏を合わせていることも、なんとも腹立たしくて仕方なかった。
オレは何があったか知っているんだぞと、よっぽど言ってやろうかと思った。
だけど、きっと遊沙はオレに心配をかけまいと嘘をついているのだろう。そんな遊沙の気持ちを踏みにじりたくはなかった。
オレは騙されてあげることにした。代わりに、遊沙にも騙されてもらう。オレが何にも知らないと思っていてもらおう。
自分を暴行した奴らがどうなったかなんて、優しい遊沙は知らない方がいいのだから。
冴木のことは正直信用できなかった。
というのも、昨日ボコった奴らから聞いた話によると、遊沙を助けたのは自分たちより背が高く、声が低い奴だったということで、冴木の見た目や声とはどことなく一致しないからだ。
遊沙の身長は160と少しくらい。オレと冴木は大体同じくらいで170中間くらいで、昨日の奴らも大体それくらいだった。これより高いとなると、180はあるかもしれない。
声だって、冴木のものはとても低いとは言えなかった。
そう考えると、助けた奴は確実に冴木じゃない。では本当に助けた奴は誰なのか? 冴木の目的は何なのか?
分からない事だらけで、頭がおかしくなりそうだった。
ただ、良くない目的があるのなら昨日の夜の内にできたはずだし、遊沙が寝ている時も一緒に寝落ちするような奴だ。悪い奴というわけではないだろう。
とにかく、遊沙が明日元気に大学に来てくれるまで安心はできなかった。
昨日の奴らは今頃病院だろうし、オレのことを警察に話したところで奴らの悪行が露わになるだけだ。無視して大丈夫だろう。
冴木のことはこれから注意を払っておけばいい。
そう結論づけて、オレは大人しく家に帰った。あんまり居座って、遊沙の傷に障るようなことになったら大変だ。
何が『たいしたことない』だ。
そういうのは絆創膏を貼ったら治る傷に使う言葉だ。
病室に入ると、遊沙はベッドで眠っていた。傍らには知らない男がうたた寝をしている。この男が遊沙を助けてくれたのかという感謝と、ちょっとした嫉妬が湧き上がる。遊沙と一晩同じ部屋にいたかもしれないなんて、羨ましすぎる。
オレは一人で悶えた後、思わずバンッと扉を殴ってしまった。遊沙がびっくりして飛び起きる。うたた寝男も驚いて目を覚ました。
うたた寝男のことはとりあえず無視して、一直線に遊沙に近付く。
こちらの気も知らないで、遊沙はニコニコといつもの笑顔を貼り付けて、大丈夫大丈夫と言う。
そんなにオレは頼りないのか。
遊沙とうたた寝男こと冴木は、口を揃えて階段から落ちたと言った。こんなよく分からない奴と口裏を合わせていることも、なんとも腹立たしくて仕方なかった。
オレは何があったか知っているんだぞと、よっぽど言ってやろうかと思った。
だけど、きっと遊沙はオレに心配をかけまいと嘘をついているのだろう。そんな遊沙の気持ちを踏みにじりたくはなかった。
オレは騙されてあげることにした。代わりに、遊沙にも騙されてもらう。オレが何にも知らないと思っていてもらおう。
自分を暴行した奴らがどうなったかなんて、優しい遊沙は知らない方がいいのだから。
冴木のことは正直信用できなかった。
というのも、昨日ボコった奴らから聞いた話によると、遊沙を助けたのは自分たちより背が高く、声が低い奴だったということで、冴木の見た目や声とはどことなく一致しないからだ。
遊沙の身長は160と少しくらい。オレと冴木は大体同じくらいで170中間くらいで、昨日の奴らも大体それくらいだった。これより高いとなると、180はあるかもしれない。
声だって、冴木のものはとても低いとは言えなかった。
そう考えると、助けた奴は確実に冴木じゃない。では本当に助けた奴は誰なのか? 冴木の目的は何なのか?
分からない事だらけで、頭がおかしくなりそうだった。
ただ、良くない目的があるのなら昨日の夜の内にできたはずだし、遊沙が寝ている時も一緒に寝落ちするような奴だ。悪い奴というわけではないだろう。
とにかく、遊沙が明日元気に大学に来てくれるまで安心はできなかった。
昨日の奴らは今頃病院だろうし、オレのことを警察に話したところで奴らの悪行が露わになるだけだ。無視して大丈夫だろう。
冴木のことはこれから注意を払っておけばいい。
そう結論づけて、オレは大人しく家に帰った。あんまり居座って、遊沙の傷に障るようなことになったら大変だ。
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