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嘘には嘘を Ⅰ
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僕が目を覚ますと、どうやら病院のようだった。
身体中が痛いことを考えると、まだ生きているらしい。
僕を助けてくれたのは冴木さんという人で、たまたま通りがかった際に僕を見つけてくれたという。
今どき、そんないい人もいるんだなあと他人事のように思った。
お医者さんには体に問題はないと言われた。僕は案外頑丈なのかもしれない。
冴木さんにも警察の人にも、あの3人は知り合いかと聞かれた。僕は同級生だと答えようとしたが、その時ふと“あの事件”のことを思い出した。彼らが同級生だと分かれば、警察の人は学校のことを調べるだろう。そうすれば、僕がどんなレッテルを貼られていたかがバレてしまう。
……事情を知らない警察の人にまで助平なやつだと誤解されるのは嫌だった。もしかしたら冴木さんにまで伝わってしまうかもしれないし、それは絶対に避けたかった。
社会的死は実際の死よりも何倍も怖いことを、僕は知っている。
嘘をつくのは嫌だが、僕の安寧のためには仕方がなかった。
警察の人が帰った後に、冴木さんから親に連絡するように言われた。
僕はスマホを開いて通知を確認する。すると、御園から大量にLINEとメールが来ていた。思わず声をあげてしまう。
内容は、
『もう家帰った? 課題教えて欲しいんだけど』
『もう寝た?』
『返信ないし、今日学校にも来てないけど、何かあった?』
『遊紗? 大丈夫?』
『不在着信』
『不在着信』
『不在着信』
といった感じだ。
僕はLINEに気付いたらすぐ返すタイプなので、余計不審だったのだろう。
御園にはこれ以上心配をかけたくないので、
『ごめん、ちょっと階段から落ちちゃって(^_^;』
『怪我したから病院行ってるんだ』
『たいしたことないからしんぱいしないで』
と送っておいた。左手しか使えないのでかなり時間がかかった。不便だ。
冴木さんは親に電話するべきだと言ってくれたが、僕はやんわり断った。
僕の親は、僕が高校一年生の時に交通事故で他界している。これだけ迷惑をかけているのだし、これ以上気を遣わせるようなことは言わなくていいだろう。
そんなことよりもバイト先に迷惑がかかる方が心配だった。入院費や治療費は親が遺してくれた貯金を切り崩して何とかするとして、僕の生活費がなくなるのは本当に困る。こういう有事の時のために貯金は残しておきたいし、これ以上使えない。
バイト先にも同じ内容のメールを送り、迷惑をかけて申し訳ないという謝罪文も付け足した。
全く、どんだけ暴行してくれてるんだよ。
憂さ晴らしをしたいのは分かるが、もう少し手加減というものを覚えて欲しいものだ。
入院着をめくってみると、痣やらカッターの切り傷やらがたくさん付いていて、気絶した後散々やってくれたな、という感じだった。
普通は怒るところなのかもしれないが、わざわざ彼らに怒りに行く気力も体力もない。
僕はため息をついて、布団に潜り込んだ。
身体中が痛いことを考えると、まだ生きているらしい。
僕を助けてくれたのは冴木さんという人で、たまたま通りがかった際に僕を見つけてくれたという。
今どき、そんないい人もいるんだなあと他人事のように思った。
お医者さんには体に問題はないと言われた。僕は案外頑丈なのかもしれない。
冴木さんにも警察の人にも、あの3人は知り合いかと聞かれた。僕は同級生だと答えようとしたが、その時ふと“あの事件”のことを思い出した。彼らが同級生だと分かれば、警察の人は学校のことを調べるだろう。そうすれば、僕がどんなレッテルを貼られていたかがバレてしまう。
……事情を知らない警察の人にまで助平なやつだと誤解されるのは嫌だった。もしかしたら冴木さんにまで伝わってしまうかもしれないし、それは絶対に避けたかった。
社会的死は実際の死よりも何倍も怖いことを、僕は知っている。
嘘をつくのは嫌だが、僕の安寧のためには仕方がなかった。
警察の人が帰った後に、冴木さんから親に連絡するように言われた。
僕はスマホを開いて通知を確認する。すると、御園から大量にLINEとメールが来ていた。思わず声をあげてしまう。
内容は、
『もう家帰った? 課題教えて欲しいんだけど』
『もう寝た?』
『返信ないし、今日学校にも来てないけど、何かあった?』
『遊紗? 大丈夫?』
『不在着信』
『不在着信』
『不在着信』
といった感じだ。
僕はLINEに気付いたらすぐ返すタイプなので、余計不審だったのだろう。
御園にはこれ以上心配をかけたくないので、
『ごめん、ちょっと階段から落ちちゃって(^_^;』
『怪我したから病院行ってるんだ』
『たいしたことないからしんぱいしないで』
と送っておいた。左手しか使えないのでかなり時間がかかった。不便だ。
冴木さんは親に電話するべきだと言ってくれたが、僕はやんわり断った。
僕の親は、僕が高校一年生の時に交通事故で他界している。これだけ迷惑をかけているのだし、これ以上気を遣わせるようなことは言わなくていいだろう。
そんなことよりもバイト先に迷惑がかかる方が心配だった。入院費や治療費は親が遺してくれた貯金を切り崩して何とかするとして、僕の生活費がなくなるのは本当に困る。こういう有事の時のために貯金は残しておきたいし、これ以上使えない。
バイト先にも同じ内容のメールを送り、迷惑をかけて申し訳ないという謝罪文も付け足した。
全く、どんだけ暴行してくれてるんだよ。
憂さ晴らしをしたいのは分かるが、もう少し手加減というものを覚えて欲しいものだ。
入院着をめくってみると、痣やらカッターの切り傷やらがたくさん付いていて、気絶した後散々やってくれたな、という感じだった。
普通は怒るところなのかもしれないが、わざわざ彼らに怒りに行く気力も体力もない。
僕はため息をついて、布団に潜り込んだ。
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