神造のヨシツネ

ワナリ

文字の大きさ
上 下
92 / 97
第12話:決戦ダンノウラ

Act-14 戦う理由(わけ)

しおりを挟む

 カラスに向かい、降下しながらキャノン砲を放つシャナオウ。
 それに気付いたアントクは、すぐに神鏡によるシールドを展開して、いとも簡単にそれを弾き返した。

「無駄だよ、この蚊トンボが!」

 すかさずアントクが、魔導砲を撃ち返す。
 だがそれは六枚の神鏡の半分だけの攻撃であり、残り半分では引き続き、源氏艦隊への砲撃を継続していた。

「やめろ、お前の狙いは私だろ!」

「何を今さら! 私の敵は、源氏すべてだ!」

 感応した意識による、ウシワカとアントクの問答。

「こんな戦い方はやめろ!」

「狂犬が、何を言う!」

「お前のやり方だと――人がたくさん死ぬんだよ!」

「ほざけ、私とお前の何が違う⁉︎」

 アントクの答えに、ウシワカは心底怒りを覚えた。

 ――こいつは何も分かっちゃいない。

 確かにウシワカも、残忍な戦闘狂の側面を持っている。
 だが、いつも彼女の根底にあるのは、最大効率を目指す合理性であった。

 弱点を的確に突く華麗なる奇襲。主将を討つためなら手段を選ばないそのやり口。敵軍全体の戦意を喪失させる演出性。

 そのすべてが、戦闘の早期終結に繋がる事を、この天才戦術家である少女は計算していたのであった。

 それが世間に対してどう映るかという政治感覚の欠如と、生理的嫌悪を抱いたアントクへの加虐心を抑えきれなかったという幼さはあれど――みなもとのウシワカという少女は、戦争に対して確固たる『信念』を持って戦っていた。

 だからウシワカは問う。

「お前は何のために戦っているんだ⁉︎」

「美しき世のため!」

 アントクは即答した。そしてまた魔導砲を放つ。

「それがこんな事で実現できるのか⁉︎」

 攻撃をかわしながら、ウシワカは目に映る阿鼻叫喚の戦場を指して叫んだ。

「そんな事は、お前ら源氏の知った事ではない!」

 アントクもまた己の信じる、幼き正義を振りかざし絶叫する。

「平氏はいつもそうだ! 高い所からみんなを見下ろして――何もしてくれなかったくせに!」

 叫び返すウシワカの脳裏に蘇る記憶たち――

 まだ平氏がキョウトにいた頃、困窮にあえぐ民に金品を配ろうと、その軍事基地であるロクハラベースに忍び込んだ、すべての始まり。
 そこでガシアル強奪に失敗し、その翌日に見た路傍で息絶えた貧しき男の姿。
 そして己の身代わりに理不尽に殺された育ての親、鎌田マサキヨの最期。

 それらが源氏の血脈に目覚めたウシワカに、平氏討滅を決意させたのだ。

 その平氏の血を引く、皇女アントクが問い返す。

「ならば源氏に何ができると言うのだ⁉︎」

「源氏は平氏とは違う! ヨリトモお姉ちゃんは、きっとみんなが笑顔で暮らせる世の中を作ってくれる!」

 みんなが笑顔で暮らせる世の中――それはウシワカが、木曽ヨシナカから託された『夢』であった。

「ヨリトモお姉ちゃんには、すべてを背負う覚悟がある!」

「覚悟だと⁉︎」

「そうだ、覚悟だ!」

 感情を表に出さず粛清を重ねるヨリトモが、その裏で良心の呵責に耐えかね泣き崩れる姿を見てしまった時――ウシワカは、世を正すためにすべての泥をかぶろうとしている、姉の覚悟を知ったのだ。

「私にも覚悟がある! だがお前にはなんの覚悟もない!」

 ウシワカが口にした覚悟。
 それは母ゴシラカワ帝が示した、修羅の道を歩むという決意であった。

 姉の天下平定のために、重ねていく鬼畜の所業。
 それにより、いずれ自分はいくさの中で果てるであろう事を、ウシワカは心のどこかで悟っていたのだった。

 だが、姉が新しき世を――みんなが笑顔で暮らせる世の中を作ってくれるのなら、それで本望だ。
 そう考えるウシワカの信念には、いささかの迷いもなかった。

 その決意の差が、形として表れた。

「黙れ……黙れ、黙れ、黙れ、黙れ、黙れーっ!」

 ウシワカの気迫にあてられたのか、アントクは言葉に窮し絶叫する。

「トキタダ、アントクを止めて! シズカはこんな決着、望んでいない!」

 そこに、二人の問答を聞いていたそれぞれのツクモ神から、ベンケイが先手を打って論戦に加わってきた。

「くっ!」

 トキタダもまた言葉に窮し、呻く。

 惑星ヒノモトの地神シズカゴゼンに、マサコと共に召喚されたベンケイとトキタダ。
 そこで示された『人としての決着』。

 それは異性の天使タマモノマエを、人間が討つ唯一の方法――三種の神器の発動のために、源平がこれまでの旧怨を越えるための決着であり、どちらかが滅びる殲滅戦であってはならないはずであった。

 だが今、自分が加護を与えるアントクは、源氏を一人残らず殺し尽くすために、神造兵器を暴走させている。
 その事に迷いが生じたのか、トキタダがカラスに送る神通力が弱まった。

 結果、アントクの操る神鏡の動きが鈍り、その攻撃をかわすだけで精一杯だったシャナオウに反撃の好機が訪れる。

「ウシワカ、今よ!」

「当たれーっ!」

 ベンケイの声に合わせ、ウシワカがシャナオウから放ったキャノン砲が神鏡を撃ち抜いた。

「な、なぜ⁉︎」

 これまで相手を圧倒していたアントクは、事態が理解できず戸惑いの声を上げる。
 それを見逃さずウシワカは、二つ、三つと立て続けに神鏡を砕いていった。

「もらったーっ!」

 そして六つの神鏡すべてを粉砕したシャナオウが、ウシワカの気合と共に、大上段からセイバーで斬りかかると、

「覚悟だと……そんなものは、私にもある。それは――お前を殺したいという覚悟だーっ!」

 アントクは逆上ともいえる感情の爆発を起こし、その強大なる魔導力は失った神鏡を一瞬で再び顕現させた。

 カラスの前面に並ぶ六枚の神鏡――そのすべてが、飛び込んでくるシャナオウに向けられていた。

「しまった!」

 顔面蒼白になるウシワカ。
 次の瞬間、魔導砲の直撃を食らったシャナオウが、真っ逆さまにダンノウラの海へと墜落していった。



Act-14 戦う理由(わけ) END

NEXT  Act-15 決着
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

札束艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 生まれついての勝負師。  あるいは、根っからのギャンブラー。  札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。  時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。  そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。  亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。  戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。  マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。  マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。  高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。  科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

処理中です...