神造のヨシツネ

ワナリ

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第9話:修羅の道

Act-04 シャナオウ撃破

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 ベンケイもこれまでの戦闘で、ウシワカの戦術眼の凄まじさを知っているので、打てば響く様に、彼女の狙いが上空から戦域を俯瞰する事にあると理解し、地上全体に向けて目をこらす。

 だが、戦場にウシワカの言う『きな臭さ』は、見受けられなかった。

 約十機の木曽軍ガシアルは鶴翼形に展開し、それに続く歩兵も同様の動きをしている――源氏本軍の戦力を考えれば、それはまさに無謀な戦だった。
 迎え撃つ源氏本軍のガシアルと歩兵隊に、木曽軍のそれは逆に各個包囲され、やはりこれは只の無謀な特攻だったかと、傍目はためには見えただろう。

 それでもウシワカとベンケイは、地上を睨み続ける――昨日のヨシナカ戦後、そのまま御所に駐屯する先発隊の中で、ウシワカだけは大事に備えると言って、単騎で本陣に帰還した。よもや何の変事もあるまいと、多くの者がそう思っていた中、ウシワカの読みは今回も見事に当たったのである。

 だから、

(何か……何かあるはず……)

 と、ベンケイが引き続き目をこらす中、ウシワカがそれを先に見つけた。

「中央が……空いている」

 そう言われれば、木曽軍は鶴翼陣形ながら、次第に左右に分かれていた。
 それは戦力差により、ただ単に分断されただけかもしれないが――もしそれが、意図的な誘導だったとしたら。

 天才戦術家ウシワカの思いを、パートナーのツクモ神ベンケイも共有した瞬間――ドーンという轟音と共に、突然、木曽軍のガシアルが順を追って爆発していった。

 機甲武者は科学技術が組み込まれたロボットとはいえ、そのベースは千年前の天使の鎧であり、動力も天使の亡骸が基となった『霊脈』を用いるため、機体が破損しても爆発はしないはずであった。

 それが全長八メートルの機体を、爆風と共に四散させている。まずその事に源氏本軍は動揺した。

「どういう事だ⁉︎」

 大将車のヨリトモも、思わず叫びを上げる。

「常識で考えればありえません! おそらく機体に大量の爆薬を仕掛けていたのでしょう」

「玉砕戦だと!」

 ヒロモトの答えに、再びヨリトモが叫ぶ。

 だがヨリトモの言う様に玉砕戦なら、それは敵軍の大将に向かうものであり、今の様に各個包囲された中で兵卒を道連れにするだけでは、それは犬死ににも等しかった。

 ともかくもヘイアン宮へと向かう隊列は、大混乱の渦に飲み込まれた。

 その間隙を突いて――矢の様に源氏本軍に突撃していく一機の機甲武者が現れた。
 四本の騎馬のごとき足を持ち、神話でいう人馬を思わせるそれは――木曽軍が未完成のまま、対平氏戦に投入した、新型機甲武者『バキ』であった。

「トモエ!」

 上空のシャナオウの中で、ウシワカが叫ぶ。

 眼下を駆け抜けるバキは、頭部だけが山吹色にペイントされた、木曽ヨシナカの妻トモエの機体だった。
 そしてそれは、混戦の中央に空いた隙間に、一直線に滑り込んでいく――その先には、ヨリトモが乗る大将車があった。

 やはり木曽軍が分断されたのは意図的なものであり――その狙いはトモエの本陣突撃の、突破口を開くためだったのである。
 そのために木曽軍のガシアルは機体に爆薬を搭載し、トモエ突撃のタイミングで源氏本軍の目を逸らすべく、パイロットの命ごと激しく爆散していった。

 ――ならばトモエの狙いも!

 そう確信したウシワカは、上空待機させていたシャナオウを急降下させ、疾走するバキの背後から、なんとかその背中に組み付く。

 突然の衝撃と機体速度が落ちた事に、

「なに――⁉︎」

 と、トモエが全周囲モニターを振り返ると、後方に薄緑色の機甲武者がへばりついている。

 源氏の白でも、平氏の赤でもないそれは――無垢なる少女、みなもとのウシワカが駆る――ヤサカニの勾玉を依り代とした『三種の神造兵器』の機甲武者、シャナオウ。

 それを知るトモエは、

「ウシワカ⁉︎ どうして⁉︎」

 と、突然出現した――自身が激しい庇護欲にかられた少女の機体に、驚きの声を上げた。

 それは、飛行能力のない機甲武者の概念を超越したシャナオウゆえの事態であったが――ともかく、トモエはそれが目的遂行への障害であると、すぐに認識した。

 木曽軍のガシアル同様に、トモエのバキにも大量の爆薬が搭載されてある。
 それをヨリトモの大将車に飛び込ませ、自身の命もろとも爆殺する――そのための突撃であり、そのための木曽兵たちの犠牲であった。

 だがシャナオウのパワーのせいで、どんどんバキの速度が落ちている。このままでは、ヨリトモを爆発に巻き込めるエリア外で、機体を停止させられる恐れが出てきた。

 ウシワカもトモエの狙いは読めており、なんとしてもバキを止めるべく、大地の霊脈とのコンタクトを強め、全開の魔導力をシャナオウに注ぎ込んでいた。

 ――このままでは、ヨシナカの仇が討てない!

 そう判断したトモエは、コクピットのハッチを開き――減速したとはいえ、まだ相当な速度で疾走する機体から、なんと飛び降りると、華麗な受け身で地面を転がり、そのまま地に伏せる姿勢を取った。

 それに、

「まずい――!」

 と叫んだのは、ツクモ神ベンケイであり、次の瞬間――
 激しい爆音と共に、バキとシャナオウが、木っ端微塵に砕け飛んだ。



Act-04 シャナオウ撃破 END

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