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第三章 森の薬師編
82 王太子の告白
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アクスウェルの狂気から救出されたマナは、即座に王宮に連れていかれた。そして、マナが誰よりも心を許している人に引き合わされた。
「マナ様、お帰りなさいませ。いつか必ず帰ってくると信じておりました」
「ユリカ……」
会えない事がずっと心残りだった侍女に、マナは飛びついていた。ユリカもしっかりとマナを抱きしめて目に涙を滲ませた。
「まだお礼も言ってなかった。ユリカは命を助けてくれたのに」
「いいのです。侍女が主の命を守るのは当然の事なのですから」
マナは涙が止まらずに、侍女のエプロンを濡らしていた。近くで見ていたアルカードは、二人の再会を自分も喜んでいた。
「ユリカ、後の事は頼むよ。とりあえず、二人でゆっくりと話をするといい」
♢♢♢
しばらく後、マナは気に入って城で良く着ていた薄桃色のドレス姿で出てきた。侍女ユリカに付き添われて、王太子の待つ謁見の間に赴くと、そこにではシェルリ王妃と王太子以外に4人の妃候補の姿もあった。
ティア姫はマナの姿を見ると、おもむろに近づいて抱きしめてきた。
「ああ! マナ様、心配していました! アルメリア様からお話を聞いて、急いでお城に来ましたのよ!」
「間に合って良かったですわね」
「アルメリア様……?」
良かったと言いつつ、アルメリアはいつもの素っ気ない態度だ。マナは良く分からずに首を傾げてしまう。
「君の身が危ない事をアルメリアが知らせてくれたんだ」
アルカードから聞いて、マナは言葉を失う。アルメリアがいなければ、間違いなくマナは命を無くしていた。マナがその事に考え至ると、胸がいっぱいになって瞳が潤んだ。
アルメリアは殆ど表情を出さずに言った。
「貴女を初めて見た時に、真っ先に女神エリアノの姿を思い浮かべました。エリアノ教会が裏で女神に似た者を抹殺しているという黒い噂も知っています。あなたが教会で仕事を始めた事を知った時に、念の為に教会の動きを探っていました。結果は案の定、でしたわね」
「アルメリア様が、わたしを助けてくれたんですね」
「わたくしは情報を提供しただけですわ。決断をしたのは殿下です。そして、教会と敵対するのを承知でそれを許したのは王妃様です。あなたの命を直接的に救ったのは、ここにおられるお二方なのですわ」
「ちょっとぉ、わたし達の存在を忘れて欲しくないなぁ」
シャルが不満げな声を上げると、ゼノビアがその腕を掴んで少々無理に引き下がらせた。
「今は余計な口を挟むところではありません」
厳しく言うゼノビアに、シャルが不満そうに頬を膨らませる。
「すまない、二人にも感謝している。シャルがいなければ、斧はマナに振り下ろされていただろう。ゼノビアがいなければ、神殿騎士団は引かなかっただろう」
シャルが偉そうに頷くのに対して、ゼノビアはうやうやしく会釈をしていた。
「ここに全ての王妃候補が揃っている。この機会に、はっきりと言っておこう」
アルカードが語るこの瞬間を、マナはまるで映画のワンシーンでも見ているような、自分という存在だけ別の場所にいるような不思議な感覚で見つめていた。彼女の見ている世界で憧れの王子様は言った。
「この僕、アルカード・ミク・ロディスは、マナ・シーリングを妃とする事を宣言する! 何者が反対しようとも、この気持ちを変えるつもりはない!」
王子の固い意志が間に響く声に乗ってマナをの胸を打った。アルカードは異端審問官の手からマナを救う時にも妃にすると言った。それはマナを救う為に言っただけの事だと思っていた。勝手に夢を見て傷つく事も恐れていた。
「…………」
マナの様子がおかしかった。とても現実とは思えない出来事を前に、喜ぶよりも戸惑いが先に立っていた。
王妃が厳かに言った。
「そこまで言うのなら許しましょう。正し、マナがそれを望むのならば。貴方は選択する事ができます。アルカードと結婚して妃になるもよし、今まで通りの生活に戻る事もできます」
マナは急な展開に戸惑ってしまう。アルカードの事をずっと思い続けてきた。自分はもう諦めていたのに、アルカードの方はずっと思い続けていてくれた。迷う必要などないはずだ。けれど、ニイナと家族として暮らした時間も簡単に捨てられるようなものではなかった。ニイナと一緒に暮らし、マナは忘れていた家族の温もりに包まれて幸せな日々を送った。
「わたし……わたしは……」
マナの心の苦しさを知っているかのように、抱っこされているメラメラがマナの顔を見上げた。
「そんなのもう決まってるじゃん!」
シャルがいきなり横から飛びついてきて、マナとメラメラが驚いて二人で目を白黒させる。シャルは自分の事のように喜んで、マナの身体を揺らした。
「やった、やった! マナの気持ちが通じたんだよ! 神様が、もう一度二人を引き合わせてくれたんだ! こうなるに決まっていたんだ!」
そんなシャルの姿が、マナにも現実の喜びを分けてくれる。
「ばんざーい! ばんざーい!」
メラメラまでよく分からないながらも喜んで、ようやくマナはこの状況を受け入れ始めた。
「今すぐに決める必要はないのですよ」
シェルリ王妃が気を使って言うと、伏し目がちだったマナが顔を上げ、シェルリやアルカードが知らない意志の強さを面に出して言った。
「わたし決めました。アルカード様のお話を、お受けいたします」
「マナ様、お帰りなさいませ。いつか必ず帰ってくると信じておりました」
「ユリカ……」
会えない事がずっと心残りだった侍女に、マナは飛びついていた。ユリカもしっかりとマナを抱きしめて目に涙を滲ませた。
「まだお礼も言ってなかった。ユリカは命を助けてくれたのに」
「いいのです。侍女が主の命を守るのは当然の事なのですから」
マナは涙が止まらずに、侍女のエプロンを濡らしていた。近くで見ていたアルカードは、二人の再会を自分も喜んでいた。
「ユリカ、後の事は頼むよ。とりあえず、二人でゆっくりと話をするといい」
♢♢♢
しばらく後、マナは気に入って城で良く着ていた薄桃色のドレス姿で出てきた。侍女ユリカに付き添われて、王太子の待つ謁見の間に赴くと、そこにではシェルリ王妃と王太子以外に4人の妃候補の姿もあった。
ティア姫はマナの姿を見ると、おもむろに近づいて抱きしめてきた。
「ああ! マナ様、心配していました! アルメリア様からお話を聞いて、急いでお城に来ましたのよ!」
「間に合って良かったですわね」
「アルメリア様……?」
良かったと言いつつ、アルメリアはいつもの素っ気ない態度だ。マナは良く分からずに首を傾げてしまう。
「君の身が危ない事をアルメリアが知らせてくれたんだ」
アルカードから聞いて、マナは言葉を失う。アルメリアがいなければ、間違いなくマナは命を無くしていた。マナがその事に考え至ると、胸がいっぱいになって瞳が潤んだ。
アルメリアは殆ど表情を出さずに言った。
「貴女を初めて見た時に、真っ先に女神エリアノの姿を思い浮かべました。エリアノ教会が裏で女神に似た者を抹殺しているという黒い噂も知っています。あなたが教会で仕事を始めた事を知った時に、念の為に教会の動きを探っていました。結果は案の定、でしたわね」
「アルメリア様が、わたしを助けてくれたんですね」
「わたくしは情報を提供しただけですわ。決断をしたのは殿下です。そして、教会と敵対するのを承知でそれを許したのは王妃様です。あなたの命を直接的に救ったのは、ここにおられるお二方なのですわ」
「ちょっとぉ、わたし達の存在を忘れて欲しくないなぁ」
シャルが不満げな声を上げると、ゼノビアがその腕を掴んで少々無理に引き下がらせた。
「今は余計な口を挟むところではありません」
厳しく言うゼノビアに、シャルが不満そうに頬を膨らませる。
「すまない、二人にも感謝している。シャルがいなければ、斧はマナに振り下ろされていただろう。ゼノビアがいなければ、神殿騎士団は引かなかっただろう」
シャルが偉そうに頷くのに対して、ゼノビアはうやうやしく会釈をしていた。
「ここに全ての王妃候補が揃っている。この機会に、はっきりと言っておこう」
アルカードが語るこの瞬間を、マナはまるで映画のワンシーンでも見ているような、自分という存在だけ別の場所にいるような不思議な感覚で見つめていた。彼女の見ている世界で憧れの王子様は言った。
「この僕、アルカード・ミク・ロディスは、マナ・シーリングを妃とする事を宣言する! 何者が反対しようとも、この気持ちを変えるつもりはない!」
王子の固い意志が間に響く声に乗ってマナをの胸を打った。アルカードは異端審問官の手からマナを救う時にも妃にすると言った。それはマナを救う為に言っただけの事だと思っていた。勝手に夢を見て傷つく事も恐れていた。
「…………」
マナの様子がおかしかった。とても現実とは思えない出来事を前に、喜ぶよりも戸惑いが先に立っていた。
王妃が厳かに言った。
「そこまで言うのなら許しましょう。正し、マナがそれを望むのならば。貴方は選択する事ができます。アルカードと結婚して妃になるもよし、今まで通りの生活に戻る事もできます」
マナは急な展開に戸惑ってしまう。アルカードの事をずっと思い続けてきた。自分はもう諦めていたのに、アルカードの方はずっと思い続けていてくれた。迷う必要などないはずだ。けれど、ニイナと家族として暮らした時間も簡単に捨てられるようなものではなかった。ニイナと一緒に暮らし、マナは忘れていた家族の温もりに包まれて幸せな日々を送った。
「わたし……わたしは……」
マナの心の苦しさを知っているかのように、抱っこされているメラメラがマナの顔を見上げた。
「そんなのもう決まってるじゃん!」
シャルがいきなり横から飛びついてきて、マナとメラメラが驚いて二人で目を白黒させる。シャルは自分の事のように喜んで、マナの身体を揺らした。
「やった、やった! マナの気持ちが通じたんだよ! 神様が、もう一度二人を引き合わせてくれたんだ! こうなるに決まっていたんだ!」
そんなシャルの姿が、マナにも現実の喜びを分けてくれる。
「ばんざーい! ばんざーい!」
メラメラまでよく分からないながらも喜んで、ようやくマナはこの状況を受け入れ始めた。
「今すぐに決める必要はないのですよ」
シェルリ王妃が気を使って言うと、伏し目がちだったマナが顔を上げ、シェルリやアルカードが知らない意志の強さを面に出して言った。
「わたし決めました。アルカード様のお話を、お受けいたします」
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