56 / 86
第三章 森の薬師編
56 怪しい影
しおりを挟む
マナ達がお茶を飲みながら、ゆったりとした時間を過ごしている時に、ニイナは時々、席を立って窓の外を見ていた。その何度目かに、ニイナは大木の陰に人の姿を見た。遠いので顔までは分からなかったが、その者はニイナに見られていると分ると姿を消した。
――マナがここに来てから変な視線を感じると思ったが、やっぱりか。
談笑している少女たちに向かってニイナが言った。
「さて、そろそろ買出しに行くか」
「わたしお留守番してますね」
「いやいや、みんなで一緒に行こう。その方が楽しいだろ」
ニイナは出来るだけマナを自分の目の届くところに置く事にした。
♢♢♢
ニイナの家から町の商店街までは歩いて四半刻程度だった。
「今日の夕飯は何にするかー」
気だるそうに言うニイナに、シャルが手を上げる。
「肉っ、肉が良いです!」
「おにく~」
シャルの頭の上にいるメラメラも手を上げた。
「肉かぁ。じゃあすごいのいっちゃうか、王室御用達の高級肉店」
「やったぁ! お姉さん太っ腹!」
「わ~い」
マナの見ている前で話が進んでいく。マナは特に口出しもせずに、流れに身を任せていた。
シャルとニイナが並んでどんどん進みだし、マナは少し遅れてついていった。
「シャル、寮には帰らなくても大丈夫なの?」
「平気、平気、今日は休みだし、誰にもばれやしないって。王室御用達は食べて帰らないとね!」
二人で話していると、歩調の速いニイナと距離が開いてしまった。シャルは頭のメラメラが落ちないように押さえると、ニイナを小走りで追う。マナもその後を追おうとすると、商店街の人の波にのまれて、なかなか追いつけなかった。マナの視界の先でニイナとシャルが立派な構えのお店に入っていった。
その様子を見ている者たちがいた。
「今だ、行くぞ」
マナが一人になったのを見計らって、柄の悪い男二人が物陰から出てきて接近する。そして一人がマナに手を伸ばした時、強い力で後ろに引っ張られて上に持ち上げられた。大の男二人が衣服に首を絞めつけられて足をばたつかせる。
「マナ、何やってんだい」
「ごめんなさい、今行きます」
ニイナに呼ばれたマナは、後ろにいた男たちには気が付かずに店の中に入っていった。
「は、はなせっ!」
「誰だ!?」
焦る男たちは宙吊りのまま連れていかれて、路地裏に放り投げられた。尻もちを付いて見上げる彼らの目に腕組みする騎士が映った、レクサスであった。
「お前たち、あのお嬢さんに何をするつもりだったんだ? 答えによっては容赦はせん」
レクサスがすらりと剣を引き抜くと、男たちは慄いて言った。
「待ってくれ、俺たちは頼まれただけなんだ」
「何を頼まれたんだ?」
「あの子を連れていったら金をくれるって言うんでよ」
「雇い主に伝えろ、あのお嬢さんに手を出したら王国を敵に回すことになるとな」
レクサスは睨みを効かせて男たちを追い出した。
「アストラル・テグマの連中にも困ったもんだな」
それから彼は通りに出てマナの入っていった店を警戒しながら言った。
「陛下もあの子の事をずいぶん気に入っているんだな。戦争するよりもお嬢さんを護れって言うんだからなぁ」
レクサスは、他数人の騎士と交替しながら密かにマナの事を護衛しているのだった。
♢♢♢
翌日の朝、マナはニイナと一緒に薬作りに勤しんでいた。
「まず、ノコバ草をすり鉢で潰すんだが、その前に確認だ。毒のあるセンバ草が入ってたら一大事だからな、一つ一つ丁寧に確認しろ。ここにセンバ草をおいておくから、しっかり見比べてな」
「はい」
マナは自分で取った薬草を、一つ一つかなり時間をかけて確認する。
「ノコバ草をすり潰したら、そいつを煮出す。それを布で濾して不純物を取り除き、抽出したノコバ草のエキスを更に煮詰める」
そして、ビーカーのエキスを煮詰める事一刻。
「よし、このエキスとワセリンと融和材を入れてよく混ぜ合わせたら完成だ。一人で造る場合は、ワセリンと融和材も調合する必要があるが、今回はこれでいい」
マナが容器の中のものをすり棒で混ぜ合わせると、鮮やかな緑色の軟膏が出来上がった。
「これが傷薬だ」
「わあ、綺麗ですね」
「よし、今日の実技はこれまで。後は三日後の薬科試験に向けてテスト勉強だ、わたしが教えてやる」
ニイナは薬科試験に関わった事があるそうで、ポイントを押さえて分かりやすく教えてくれた。そのおかげもあって、マナはあっさりとブロンズⅡの称号を得る事ができた。
――マナがここに来てから変な視線を感じると思ったが、やっぱりか。
談笑している少女たちに向かってニイナが言った。
「さて、そろそろ買出しに行くか」
「わたしお留守番してますね」
「いやいや、みんなで一緒に行こう。その方が楽しいだろ」
ニイナは出来るだけマナを自分の目の届くところに置く事にした。
♢♢♢
ニイナの家から町の商店街までは歩いて四半刻程度だった。
「今日の夕飯は何にするかー」
気だるそうに言うニイナに、シャルが手を上げる。
「肉っ、肉が良いです!」
「おにく~」
シャルの頭の上にいるメラメラも手を上げた。
「肉かぁ。じゃあすごいのいっちゃうか、王室御用達の高級肉店」
「やったぁ! お姉さん太っ腹!」
「わ~い」
マナの見ている前で話が進んでいく。マナは特に口出しもせずに、流れに身を任せていた。
シャルとニイナが並んでどんどん進みだし、マナは少し遅れてついていった。
「シャル、寮には帰らなくても大丈夫なの?」
「平気、平気、今日は休みだし、誰にもばれやしないって。王室御用達は食べて帰らないとね!」
二人で話していると、歩調の速いニイナと距離が開いてしまった。シャルは頭のメラメラが落ちないように押さえると、ニイナを小走りで追う。マナもその後を追おうとすると、商店街の人の波にのまれて、なかなか追いつけなかった。マナの視界の先でニイナとシャルが立派な構えのお店に入っていった。
その様子を見ている者たちがいた。
「今だ、行くぞ」
マナが一人になったのを見計らって、柄の悪い男二人が物陰から出てきて接近する。そして一人がマナに手を伸ばした時、強い力で後ろに引っ張られて上に持ち上げられた。大の男二人が衣服に首を絞めつけられて足をばたつかせる。
「マナ、何やってんだい」
「ごめんなさい、今行きます」
ニイナに呼ばれたマナは、後ろにいた男たちには気が付かずに店の中に入っていった。
「は、はなせっ!」
「誰だ!?」
焦る男たちは宙吊りのまま連れていかれて、路地裏に放り投げられた。尻もちを付いて見上げる彼らの目に腕組みする騎士が映った、レクサスであった。
「お前たち、あのお嬢さんに何をするつもりだったんだ? 答えによっては容赦はせん」
レクサスがすらりと剣を引き抜くと、男たちは慄いて言った。
「待ってくれ、俺たちは頼まれただけなんだ」
「何を頼まれたんだ?」
「あの子を連れていったら金をくれるって言うんでよ」
「雇い主に伝えろ、あのお嬢さんに手を出したら王国を敵に回すことになるとな」
レクサスは睨みを効かせて男たちを追い出した。
「アストラル・テグマの連中にも困ったもんだな」
それから彼は通りに出てマナの入っていった店を警戒しながら言った。
「陛下もあの子の事をずいぶん気に入っているんだな。戦争するよりもお嬢さんを護れって言うんだからなぁ」
レクサスは、他数人の騎士と交替しながら密かにマナの事を護衛しているのだった。
♢♢♢
翌日の朝、マナはニイナと一緒に薬作りに勤しんでいた。
「まず、ノコバ草をすり鉢で潰すんだが、その前に確認だ。毒のあるセンバ草が入ってたら一大事だからな、一つ一つ丁寧に確認しろ。ここにセンバ草をおいておくから、しっかり見比べてな」
「はい」
マナは自分で取った薬草を、一つ一つかなり時間をかけて確認する。
「ノコバ草をすり潰したら、そいつを煮出す。それを布で濾して不純物を取り除き、抽出したノコバ草のエキスを更に煮詰める」
そして、ビーカーのエキスを煮詰める事一刻。
「よし、このエキスとワセリンと融和材を入れてよく混ぜ合わせたら完成だ。一人で造る場合は、ワセリンと融和材も調合する必要があるが、今回はこれでいい」
マナが容器の中のものをすり棒で混ぜ合わせると、鮮やかな緑色の軟膏が出来上がった。
「これが傷薬だ」
「わあ、綺麗ですね」
「よし、今日の実技はこれまで。後は三日後の薬科試験に向けてテスト勉強だ、わたしが教えてやる」
ニイナは薬科試験に関わった事があるそうで、ポイントを押さえて分かりやすく教えてくれた。そのおかげもあって、マナはあっさりとブロンズⅡの称号を得る事ができた。
1
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は
だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。
私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。
そのまま卒業と思いきや…?
「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑)
全10話+エピローグとなります。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる