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第二章 聖メディアーノ学園編

47 薄幸の少女

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 アルメリアの部屋にマナ以外の妃候補が集まる。
 アルメリアは全員を座らせると、自分は扇子を手に置いて部屋の空隙を歩きながら話し始めた。

「今から犯人探しをします」
「はぁっ!? なに言ってんの、あんた!?」

 声を荒げるシャルの横で、ゼノビアがややあって言う。

「マナを亡き者にして一番得をするのは、わたしたち妃候補だわ」
「その通りです」
「ちょっと、ちょっとーっ!!」

 アルメリアとゼノビアに、シャルが今にも掴みかかりそうな勢いで叫ぶ。

「……アルメリア様のお考えは?」
 ティア姫が言うと、シャルがテーブルを思いっきり叩いた。
「あんたらどうかしてるよ!!」

「これだから平民は」
「平民だから何だってのさ!」

 シャルがアルメリアに食って掛かる。彼女はうんざりして言った。

「いいですか、この妃選びには多くの利権が関わっているのです。そう言う意味では、しがらみの少ない平民の貴方は犯人から除外されます」

「なっ……」

 まだ何か言おうとしていたシャルが黙る。侯爵令嬢の言葉ではない、エメラルドの瞳に灯った怒りに息を飲んだのだ。

「妃候補の中で亡くなっても影響が少ないマナが狙われたのです」
「……影響が少ないって、どういう事さ」

 シャルが怪訝な面持ちで聞くと、

「王家の後ろ盾があるとは言え、マナは平民です。そして有力な血縁者もいない」
「卑劣ですね、許せません!」 

 ゼノビアが怒りを露わにした。その気持ちはシャルも同じだったが、今の状況には納得できない。そしてアルメリアは、この瞬間からある一点だけを見つめていた。

「この中にマナの命を狙った人がいるっての!? そんなのあり得ないよ!!」

「そうですね、この中にそんな卑劣な人間はいませんわ。しかし、利権に直接関わるのは、妃よりもその裏側にいる人間です」

 アルメリアの強い視線がティア姫を槍のように貫く。それに疑問を呈していた姫の表情が次第に変わっていく。そしてついに、ティア姫は身震いして立ち上がった。

「まさか!!?」

 シャルは意味が分からずに、突然立ち上がった姫を見つめていた。

「ナスターシャ、すぐにお城に戻ります! 馬車の準備を!」
「畏まりました」

「ちょっと、一体何なのさ!?」

 シャルの声も聞かずに姫は慌ただしく出ていった。

「何なんだよ、全然意味わかんないよ!?」

 シャルが騒ぎ立てると、それとは対照的にアルメリアが穏やかに言った。

「残念な事に、メルビウス王国の現国王アリメドスは、メルビウス始まって以来の愚王と噂されています。そしてかの王は典型的な権威主義者なのです」

「だからって、マナの命を狙うなんて……」

「いいえ、あの王なら平然とやりますとも。彼にとってただの平民の妃候補など、存在自体が許されないはずです」

 アリメドスに実際に会った事があるアルメリアは確信していた。

 マナは、身分が平民だからという理由だけで殺されそうになった。同じ平民のシャルは、はらわたが煮えくり返るような思いになる。

「許せない! わたしが直接行って、その王様ぶん殴ってやる!」
「お止めなさい、わたくし達に出来る事はありません」
「だって、こんなの酷すぎるでしょ!」

 アルメリアはだめだと言うように首を横に振ると、静かに言った

「けじめは、ティア様が自分で付けます」

♢♢♢

 事件から一日が経過した。アルメリアの薬のおかげで一命を取りとめたユリカは病院に搬送され、マナはアルカードと一緒に城に向かっていた。

 メラメラを抱き馬車に揺られるマナは、悲愴や辛酸を通り越して無気力になっていた。となりのアルカードがずっと手を握ってくれていて、今はそれだけが心の安らぎになっていた。

 王太子の成せることが、ただマナの側にいてやる事だけ。それ以外に出来る事はなかった。



 王妃シェルリは事件の顛末を聞いてから、居ても立ってもいられず、城門で馬車が来るのを待ちわびていた。やがて一台の馬車が入ってくる。

 馬車が止まると、中からアルカードに付き添われてマナが姿を現す。王妃が駆け寄ると、それを見上げたマナはしばらく放心していた。やがて玉のような瞳に涙が浮き、零れて、止めどのない流れになっていく。

 王妃は胸を引き裂かれるような思いに駆られてマナを抱きしめた。

「ああ、かわいそうに……」

 噎びあげる小さな体が、ずっと王妃に抱きしめられていた。マナは最後に涙に途切れる声で言った。

「……王妃様…ごめんなさい……わたし…もう、無理です…………」
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