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第二章 聖メディアーノ学園編
43 恐ろしい出来事
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あの昼食の騒動を境に、マナに対する嫌がらせが酷くなった。どこぞの令嬢がわざとぶつかってきたり、足を掛けてきたり、背中を押されたりなど、ユリカやマナの友人達から見えないところで姑息に行われた。それも不特定多数の令嬢から標的にされていたのだ。マナはあの性格なので嫌がらせされている事は誰にも打ち明けなかった。
――こんなの、どうってことない。
その程度の苛めならばマナは平然としていられた。しかし、昼食の騒ぎから一週間後に恐ろしい出来事がマナに降りかかった。
この日はゼノビアが学校に来ておらず、アルカードの姿も見えなかった。シャルだけがずっとマナに張り付いていた。
昼休みに二人で勉強していると、マーリーとアイリンが近づいてきて放課後のお茶会に誘ってきた。シャルが快く承諾すると、二人はなぜか安心したような面相を見せて離れて行った。
放課後になると、そそくさとマーリーがシャルの元にやってくる。
「今日はアイリンのお部屋でお茶会にしましょう、お部屋に案内します」
「ん、マナは?」
シャルが教室を見渡してもマナの姿がない。
「マナさんはアイリンと一緒に行きましたよ」
どうせなら、みんなで一緒に行けば良かったのに、とシャルは思った。シャルとマナは同じ教室にいるのに別々に誘う意味が分からなかった。
アイリンと一緒に廊下を歩いていくと、急に生徒の姿が消えて何となく暗くて寂しい場所に出た。学園の館の中には特殊な用途で使う教室がある、そこはそんな教室が集まる場所だった。
「うん? こんな外れの方に寮の部屋があるんだね」
「こちらですわ、入って下さいませ」
アイリンはシャルの方を先に部屋に入れた。そこは妙に薄暗い場所だった。
「何だここ? 何にもないぞ?」
シャルが振り向いた時、扉が叩きつけるように閉められた。
「おい、何のつもりだ!」
シャルが扉を開けようとすると、びくともしなかった。
「外側からカギがかけられてる!? 何だよこの部屋!?」
ここは長い間使われていないお仕置き部屋だった。シャルはこの瞬間に全てを悟った。
「くそ、あいつらもグルだったんだ! マナが危ない!」
扉の鍵は少女の力ではどうにもできない。だが、シャルには扉を開ける手立てはいくらでもあった。ただ、それには問題もある。
「お母さんには学校で魔法は絶対に使うなって言われてるけど」
シャルは迷うことなく肌身離さず持っているタクトを振りかざした。
「やるか! 炎の精霊よ!」
シャルは集中し、目の前の扉を爆砕する魔法を思い描いた。
♢♢♢
マナはアイリンに人気のない校舎裏に連れ出されていた。
「どうしてシャルはこんな所で待ってるのかしら?」
マナが辺りを見ても、あるのは植木だけで閑散としていた。
「シャルは来ませんよ」
「え?」
アイリンは薄笑いを浮かべて、マナを異様な目で見つめていた。そして建物の陰から大勢の女生徒が出てきてアイリンの近くに集まった。中には侍女も数人混じっていた。
中心には、いつもマナにちょっかいをかけてくる赤い制服の令嬢がいて、彼女が顎をしゃくった。すると、嫌な雰囲気の中で立ち尽くすマナの両腕を侍女たちが取り押さえた。
「何するんですか……」
「むう、なんだよぉ!」
マナの頭の上にいたメラメラが威嚇すると、侍女の一人がそれを取り上げて抱きしめた。
「はなせーっ!」
「止めて下さい! メラメラに乱暴はしないで!」
マナが必死に訴えると、赤き令嬢が嫌らしいにやけ顔を近づけてくる。
「安心しなさい。その小さいのに用はありません、押さえておくだけです」
それを聞いたマナは、全てを諦めたような生気のない表情になっていた。その時、そう遠くないところから爆裂音が轟いた。マナを取り囲んでいた少女たちが騒然とするが、赤い令嬢だけは憎悪の宿った目でマナを睨んで微動だにしなかった。
「そんな音程度で騒ぐのではありません」
その一言で、少女たちの視線が再びマナに集中した。悪意が容赦なくマナに浴びせられる。
――ああ、結局、こうなるんだ……。
マナの脳裡に前の世界で受けた仕打ちがまざまざと思い出される。
――大丈夫、痛いのは慣れてるから……。
赤い令嬢がマナの顔の前に手をかざして言った。
「平民ごときが、殿下に近づくなど身の程知らずも甚だしい! あなたのような汚い身分の者を殿下が相手にするなんて、何か怪しい魔術でも使っているに違いありませんわ!」
令嬢の手の平に突然、炎が現れて、マナは肩を震わせた
「わたくし魔法の素質がありますのよ」
令嬢の手が近づいて、炎の赤がマナの頬を照らす。
「ほんとう、お人形みたいに可愛らしい顔だこと」
瞬間に令嬢の顔が変わり、吊り上がった目と三日月のような笑みに憎悪を湛えた。
「汚らしい平民に相応しい顔にして差し上げますわ!」
――こんなの、どうってことない。
その程度の苛めならばマナは平然としていられた。しかし、昼食の騒ぎから一週間後に恐ろしい出来事がマナに降りかかった。
この日はゼノビアが学校に来ておらず、アルカードの姿も見えなかった。シャルだけがずっとマナに張り付いていた。
昼休みに二人で勉強していると、マーリーとアイリンが近づいてきて放課後のお茶会に誘ってきた。シャルが快く承諾すると、二人はなぜか安心したような面相を見せて離れて行った。
放課後になると、そそくさとマーリーがシャルの元にやってくる。
「今日はアイリンのお部屋でお茶会にしましょう、お部屋に案内します」
「ん、マナは?」
シャルが教室を見渡してもマナの姿がない。
「マナさんはアイリンと一緒に行きましたよ」
どうせなら、みんなで一緒に行けば良かったのに、とシャルは思った。シャルとマナは同じ教室にいるのに別々に誘う意味が分からなかった。
アイリンと一緒に廊下を歩いていくと、急に生徒の姿が消えて何となく暗くて寂しい場所に出た。学園の館の中には特殊な用途で使う教室がある、そこはそんな教室が集まる場所だった。
「うん? こんな外れの方に寮の部屋があるんだね」
「こちらですわ、入って下さいませ」
アイリンはシャルの方を先に部屋に入れた。そこは妙に薄暗い場所だった。
「何だここ? 何にもないぞ?」
シャルが振り向いた時、扉が叩きつけるように閉められた。
「おい、何のつもりだ!」
シャルが扉を開けようとすると、びくともしなかった。
「外側からカギがかけられてる!? 何だよこの部屋!?」
ここは長い間使われていないお仕置き部屋だった。シャルはこの瞬間に全てを悟った。
「くそ、あいつらもグルだったんだ! マナが危ない!」
扉の鍵は少女の力ではどうにもできない。だが、シャルには扉を開ける手立てはいくらでもあった。ただ、それには問題もある。
「お母さんには学校で魔法は絶対に使うなって言われてるけど」
シャルは迷うことなく肌身離さず持っているタクトを振りかざした。
「やるか! 炎の精霊よ!」
シャルは集中し、目の前の扉を爆砕する魔法を思い描いた。
♢♢♢
マナはアイリンに人気のない校舎裏に連れ出されていた。
「どうしてシャルはこんな所で待ってるのかしら?」
マナが辺りを見ても、あるのは植木だけで閑散としていた。
「シャルは来ませんよ」
「え?」
アイリンは薄笑いを浮かべて、マナを異様な目で見つめていた。そして建物の陰から大勢の女生徒が出てきてアイリンの近くに集まった。中には侍女も数人混じっていた。
中心には、いつもマナにちょっかいをかけてくる赤い制服の令嬢がいて、彼女が顎をしゃくった。すると、嫌な雰囲気の中で立ち尽くすマナの両腕を侍女たちが取り押さえた。
「何するんですか……」
「むう、なんだよぉ!」
マナの頭の上にいたメラメラが威嚇すると、侍女の一人がそれを取り上げて抱きしめた。
「はなせーっ!」
「止めて下さい! メラメラに乱暴はしないで!」
マナが必死に訴えると、赤き令嬢が嫌らしいにやけ顔を近づけてくる。
「安心しなさい。その小さいのに用はありません、押さえておくだけです」
それを聞いたマナは、全てを諦めたような生気のない表情になっていた。その時、そう遠くないところから爆裂音が轟いた。マナを取り囲んでいた少女たちが騒然とするが、赤い令嬢だけは憎悪の宿った目でマナを睨んで微動だにしなかった。
「そんな音程度で騒ぐのではありません」
その一言で、少女たちの視線が再びマナに集中した。悪意が容赦なくマナに浴びせられる。
――ああ、結局、こうなるんだ……。
マナの脳裡に前の世界で受けた仕打ちがまざまざと思い出される。
――大丈夫、痛いのは慣れてるから……。
赤い令嬢がマナの顔の前に手をかざして言った。
「平民ごときが、殿下に近づくなど身の程知らずも甚だしい! あなたのような汚い身分の者を殿下が相手にするなんて、何か怪しい魔術でも使っているに違いありませんわ!」
令嬢の手の平に突然、炎が現れて、マナは肩を震わせた
「わたくし魔法の素質がありますのよ」
令嬢の手が近づいて、炎の赤がマナの頬を照らす。
「ほんとう、お人形みたいに可愛らしい顔だこと」
瞬間に令嬢の顔が変わり、吊り上がった目と三日月のような笑みに憎悪を湛えた。
「汚らしい平民に相応しい顔にして差し上げますわ!」
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