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第二章 聖メディアーノ学園編

35 夢の中のフェアリー

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 マナ達は学校が終わると、馬車でお城に向かった。城では図書館に行く途中でアルカードとばったり出会った。

「驚いたな、急に城に来るなんて、何かあったのかい?」
「ちょっと図書館で調べたいことがあって、アルカード様は今日も学校にお見えになっていませんでしたね」

「少しやる事があってね」
「学校よりも大切な事なんですね」
「大した事じゃないんだ」
「もしかして、戦争と関係があるんですか?」

 それを聞いたアルカードから表情が無くなり、しばし沈黙する。

「……戦争の事を誰から聞いたんだい?」
「アルメリア様が教えて下さいました」
「アルメリアか、余計な事を」

 アルカードの様子は至極不興気だった。そんな王太子に向かってマナは伏し目気味になって言った。

「わたし、アルメリア様から戦争の事を教えてもらえて良かったと思っています、みんなが戦争で不安になってるときに、わたしだけ何も知らずにいるなんて嫌です」

「そうか、マナに余計は不安は与えたくないと思っていたけれど、そういう気持ちなら良かったのかもしれない。アルメリアが君に教えなければ、戦争の事は知らずじまいになっただろう」

 アルカードはマナの気持ちを知って怒りを鎮めたのか、いつもの優し気な貴公子に戻っていた。

「図書館での調べ物は僕も手伝おう、いいよね?」
「はい、ありがとうございます」

 マナはアルカードと一緒にいられると思うと胸が躍った。城だったら周りの目を気にする必要もない。

「しかし、どうしてわざわざ城まで来たんだい? 図書館なら学校にもあるじゃないか」
「ああ、その事なんだけどさ」

 それからはシャルが歩きながら説明してくれた。アルカードはマナの夢の話に強い興味を示した。

 マナは他人に説明すると要領を得なくて苦労する事が多いので、シャルの快活さには助けられてばかりだった。



 城の図書館は学園よりもずっと小規模だった。本を読むためのテーブルは一つしかないし、対して広くもないので司書は受付で座っていながら全てを見渡せる。ただ、奥には魔法で封印されている扉があった。

 王子がいるので、司書と言葉を交わすまでもなく顔パスであった。

 マナはメラメラと一緒にきょろきょろしながら言った。

「改めて見ると、学校の図書館よりもずっと狭いね」

「けど、学園よりも貴重な本が多いんだよ。特に魔法の扉の向こうには禁書やレアな魔導書なんかがあってね、わたしはそれの為に妃候補にされたのよ」

「え? シャルって本の為に妃候補になったの?」

「お母さんは図書館の奥にある本を研究したくてしょうがないんだよ、わたしが王妃になれば王族の権限で自由に持ち出せるからね」

「僕の前でそんなことを喋って大丈夫なのかい?」

 苦笑いしているアルカードに対し、シャルはあっけらかんとしたものだった。

「いいの、いいの、わたし王妃になんてならないし」
「そこまでやる気がないと、君の母上が少し気の毒だよ」

 マナもそう思った。シャルのやる気がないのはマナにとっては悪い事ではないが、シャルの母親がここにいたら、がっかりするだろうなと思う。

 それから三人で手分けして、フェアリーに関連する本を探し始める。メラメラはマナから離れて飛び上がり、本棚の上の方にある本を見ていた。

「メラメラ、悪戯しちゃ駄目だからね」
「は~い!」

 それから一刻ほど過ぎても、目的とするものは見つからなかった。一人で暇なメラメラは、適当な本を引っ張り出しては、テーブルの上に重ねて遊んでいた。小さな子供が積木で遊ぶようなものであった。

「ないなぁ」

 探し疲れた少し休もうとテーブルに戻ってくると、テーブルの上に高く積み上げられた本の上で、メラメラが片足立ちでバランスを取って遊んでいた。

「うわあ、何やってるの!? 悪戯しちゃ駄目って言ったのに!」

 マナが爪先立ちになってメラメラを下ろすと、本の塔が崩れそうになって慌てて押さえる。実は少し前からメラメラの様子を見ていたシャルが言った。

「メラメラ、何やら楽しそうな事してたね」
「全然楽しくないよぅ」

 マナが不服を訴えると、シャルは積み上がった本を小分けに下ろしていく。メラメラは椅子に座って足を投げ出し、酷くつまらなそうだった。

「マナ~、おなかすいたよぅ」
「ごめんね、もう少しだけ我慢してね」

「お、これいいんじゃない?」

 シャルが崩れた本の中から一冊を取り上げる。

「フェアリーブランド?」

 マナがメラメラを抱きながら本のタイトルを読み上げた。

「良い本が見つかったみたいだね」

 アルカードも来て三人で本を開いた。シャルが本の最初のページをざっと見ていく。

「フェアリーブランドっていうのは、伝説級のフェアリーを分類する言葉みたいだ。フェアリーは宝石を元に生まれるから、ジュエリーでよく使うブランドという言葉が当てられているんだね」

 この本、要は伝説のフェアリー図鑑であった。フェアリーの事を知りたいマナにとっては、これ以上ない内容になっている。その中にはメイドをモチーフにしたクッキング・メイデン、優れた魔法使いであるミスティック・シルフ、聖なる光の力を持ったトゥインクル・レスティアなど様々なブランドがある。そして、本の最後の方に黒妖精というブランドがあって、全部で四体いる黒妖精の名前も記載があった。

「あったぞ、魔炎まえんのテスラ! これだ!」

 シャルが指を突いた場所に、マナが夢で見たフェアリーとそっくりな姿が描かれていた。

「このフェアリーって、今もどこかにいるのかな……」

「いるとしたらフェアリーを生み出したシルフリア王国だろうね。伝説級のフェアリーはとんでもない魔法を使うって言うから、そんなものをわざわざ周辺諸国に渡すとも思えないし」

 シャルの話を聞くと、マナは無性にシルフリアという国に行ってみたいという気持ちになった。次に考え込んでいたアルカードが口を開く。

「シルフリアも過去にアインシュトール帝国に攻められていたはずだ、マナの夢と一致する部分があるね」

「こりゃあ、マジもんで前世の記憶なのか!? そうなのか!?」

 シャルがおどけた調子で言うと、マナの表情が暗くなっていった。夢の内容が内容なので、アルカードは心配していた。

「マナ、大丈夫かい?」
「わたし怖いです、あの夢の続きは見たくない……」

「う、変な事言ってごめん、ひどい夢だもんね」
「大丈夫だよシャル、こんなのたまたまだと思うから」

 そうあってほしいとマナは願っていた。もし夢が本当に前世の記憶であったのなら、マナにはとても耐えられるものではなかった。
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