異世界召喚されていきなり妃候補とか言われたけど、他の妃候補がチートすぎてもう辞めたいです+妖精(おまけ)付き

蘇芳

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第二章 聖メディアーノ学園編

34 アインシュトール帝国

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 マナだけでなく、ユリカとシンシアも驚いていた。

「アインシュトール帝国が攻めてきます、間違いありません」
「帝国……」
「帝国の軍事力は強大です、この国はもうおしまいですわ」

 マナは、ロディスが終わるという恐怖を感じながら、夢に出てきた凄惨な光景にを思い出す。夢の中で自分が帝国兵と叫んでいたし、それが人を殺し村を滅ぼしていった。

「アルメリア様! どうしてわざわざマナ様を怖がらせるのですか!」
「怖いのは、真実を見るまなこがないからです」

 憤慨するユリカの言葉を、アルメリアが叩き潰すように言った。そしてユリカを言葉の力で黙らせた公爵令嬢がマナをまっすぐに見つめてくる。マナは緊張のあまり唾を飲んでいた。

「この学園にいたければ、もっとしっかりお勉強なさい」
「はい……」

「安心しなさい、帝国は過去に三度、ロディスに攻め込んできましたが、その全てを撃退しています。今回も同じ事になるでしょう」

「大丈夫、なんですね」
「確実という保証はありませんわ」

 それから、とアルメリアが続ける。

「あなたは外国のことなど知らないのでしょうから、教えて差し上げます。隣接するアインシュトール帝国の事は知っておくべきす」

 それからアルメリアは話し始めた。

「ロディスにはメルビウスとミストリアという同盟国があります。この三国はラナンサーレと呼ばれる大陸の南端の半島に位置しています。現在、ラナンサーレのほぼ全土がアインシュトール帝国に掌握され、ロディス同盟三国だけがその支配を受けていません。帝国は手をこまねいてはいません、先ほども言ったように、同盟三国に三度、戦いを仕掛けています。しかし、その全てで惨敗しているのです、兵力が同盟軍の十倍もあったのにです。その要因には、同盟軍の練度や士気の高さ、森に囲まれて攻めずらい地形などあるのですが、一番は三国の技術力の高さにあります」

 アルメリアはミルクを一口飲んでから話を続けた。

「ロディスは薬学、メルビウスは外科的医術、ミストリアは魔法と錬金術、この三国の技術の融合が大きな相乗効果を生み出しました。戦場では多くの女性が後方支援で活躍します、彼女らは高度な医術で傷を負った兵士を治療し、帝国軍ではとても助からないような傷を負っても、同盟軍では当然のように短期間で回復して戦場に戻ってくるのです。そのうち帝国軍の間では、同盟軍の兵士が不死身と言われて恐れられたそうです。それほどまでに、帝国と同盟国の間では医療技術に差があるのですよ。ミストリアでは錬金術で銃火器が開発され、同盟軍と帝国軍の差は決定的なものとなりました」

 公爵令嬢はさらに続ける。

「黎明期の帝国が、ロディスを女の興した国だからと馬鹿にして攻略を後回しにした事も大きいですね。同盟三国に技術を発展させる猶予を与えてくれたのです。その結果、小鹿だと思っていた獲物が竜に変貌していたわけです。はっきり言って、今の帝国にロディス同盟三国を得る意味はほとんどありません、四度目の侵攻は帝王の意地というところでしょうか、まったく無意味な戦争です」

 話の最後では、アルメリアは酷く憤慨していた。

「かいつまんでお話ししましたけれど、少しはお分かり頂けまして?」
「はい、学園の先生よりも分かりやすかったです」

 アルメリアの話に聞き入っていたマナは、戦争が起こっても負ける事はなさそうだと思えた。ただ、アルメリアの講義の後ですぐに一時限目で歴史の授業を受ける事になり、授業の時間がとても長く思えてため息が出そうになった。

♢♢♢

 お昼休み、マナはティータイムを返上して勉強する事に決めた。アルメリアは正しい事を言う人だと、マナは肌で感じていたのだ。

 まずは、シャルと一緒に図書室で薬草の図鑑を開く。城でも勉強していたのだが、まだまだ覚える事があった。

「山間部に生息する腹痛に効果のある薬草で、ロディスの歴史上、最も古いとされる薬草の書、薬効草苑にも記載がある紫の花が咲くものは?」

「うーん、あれだよね」

 マナが一生懸命考えている横で、メラメラがちょんと座って眠そうに欠伸をする。シャルとマナは長机に向かい合って座っていた。

「うーん、姿は思い出せるんだよ」
「はい、時間切れ、答えはこれ」

 シャルが図鑑をひっくり返すと、マナは答えを見て落胆する。

「あぁ、紫鈴草だったね」
「まだまだだね、もっとよく図鑑を読み込んで覚えてね」
「うう、この図鑑だけでブロンズⅠの範囲なんだよね……」
「範囲的にはブロンズⅡまでだけど、基本だから全部覚えなきゃだめさ」

 マナは薬師を目指し、あと何か月後かにあるブロンズⅠの薬科試験の勉強に励んでいるのであった。

 それ以降は、マナはひたすら図鑑を読み、シャルは魔術関連の本を読み、メラメラは昼寝していた。それから時間が経って昼休みが終わりに近くなると、マナは図鑑を置いてぼーっとしだした。それに気づいたシャルが、マナの様子を観察していた。

「何をそんなに考え込んでるの? 悩みでもあんの?」
「……シャル、テスラっていう名前聞いたことない? フェアリーの名前なんだけど」
「テスラ? むむ、なんか記憶にあるぞ、お母さんの書斎の本にそんなのがあった気がするな」

 まさかの答えが返ってきて、マナは驚いてしまった。

「どしたのそんな顔して? テスラってフェアリーがどうかしたの?」

 マナが夢の事を詳しくシャルに話すと、

「なるほど……」

 シャルはマナを笑うどころか、真剣になって考えてくれた。

「これは仮定の話なんだけどさ、その夢がマナの前世の記憶だとしたら、そのテスラっていうフェアリーの正体が分かれば、マナの前世のルーツが分るかもね」

「前世の記憶……」

 マナはそんな事は考えもしなかった。シャルに言われてみれば、確かにしっくりくる答えだ。

「お母さんの書斎に行けば何か分かるかもしれないけれど、さすがにミストリアまで行くのは無理だな。あとフェアリーに関する文献があるとすれば、お城の図書館だね」

「シャルと一緒に勉強していたところだね」
「気になるなら放課後に行ってみるかい?」
「うん」

 あれだけはっきりとした夢なのだ、マナには何かあるとしか思えなかった。
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