27 / 86
第二章 聖メディアーノ学園編
27 ティア姫との邂逅
しおりを挟む
翌朝、マナが目を覚ますと、メラメラの姿がなかった。
「ユリカ、メラメラ見なかった?」
「先程まで部屋中を飛び回っていましたけど、いないのですか?」
「どうしよう、どこに行ったんだろう」
マナがそわそわしだすと、ユリカがドアを確認する。
「あらやだ、ドアが開いています。自分で開けて出ていったようです」
「大変!」
マナはベッドから降りて靴をはくと、慌ててドアに駆け寄る。
「いけません、そんな恰好では!」
ユリカが駆け寄って、マナに若葉色のガウンを被せた。そして二人で廊下に出ていくと、すぐにメラメラの姿を見つけることが出来た。
「メラメラちゃん、おいしいクッキーですよ~」
隣の部屋の前で、桃色のガウンを纏ったティア姫が、メラメラに餌付けをしていた。メラメラがクッキーを両手で受け取って食べ始めると、その隙をついてティア姫がフェアリーを捕まえて抱きしめる。
「いや~ん、かわいいっ!」
「あのぅ」
おずおずと話しかけてきたマナに、ティア姫が天使のような笑顔を見せる。マナには、彼女自身が輝きを放っているように見えた。
「申し訳ありません。メラメラちゃんがあんまり可愛いもので、つい」
「いいんです。メラメラを可愛がってくれて、ありがとうございます」
「そうだわ!」
ティア姫が手を合わせてから、さも楽し気に言った。
「朝食をご一緒しませんこと? わたくし、マナ様とお話ししてみたかったのです」
「ええ、えっと、はい……」
マナはなし崩し的に承諾した。その後にティア姫の後ろのドアが開いて、姫よりも少し年上に見える金髪の侍女が出てきて目を吊り上げた。
「姫様! 勝手にお部屋を出られては困ります!」
「ナスターシャ、丁度いいところに来たわ! 朝食はマナ様とご一緒する事にしましたからね!」
「またそのような気まぐれを……」
「メラメラちゃんの分もお願いね」
そう嘯く姫に、ナスターシャは、やれやれとため息を吐いた。
「分かりました、準備しますので、お部屋に戻って着替えて下さい」
上機嫌のティア姫は、マナにメラメラを返すと言った。
「では、後程お目にかかりましょう」
朝食に呼ばれたマナは、ティア姫を前にして、自分という存在のつまらなさを見せつけられているように感じてしまった。
目の前にはフレンチトーストとサラダの軽食、デザートは恐ろしく豊かで、ナッツとチョコレートをふんだん使ったプディング、美しい色彩のゼリー、フルーツもあれば、クッキーやビスケットの種類も豊富だった。マナはティア姫の顔も見ずに、それらのデザートに視線を落として、甘いもの好きなのかな、などと考えていた。
「どうしました? 好きではない物でもありまして?」
「い、いいえ! とても素敵だと思います!」
マナを心配そうに見つめていたティア姫が、ふっと笑顔になる。その様は、同じ女性のマナが見ても、ため息が出そうになる。ティア姫の容姿は、美しいとか可愛いとかいう領域を越えていて、非人間的とさえ言えた。
息が詰まるような思いをしているマナの隣では、メラメラが素晴らしいデザートに興奮して食べまくっていた。
「メラメラちゃん、美味しい?」
「すご~く美味しい! ありがと、ティア~」
メラメラがフルーツを突き刺したフォークを上げると、ティア姫から可愛らしい笑声が漏れる。
「そんなに喜んでくれるなんて、嬉しいわ」
ティア姫の侍女ナスターシャが、ロイヤルミルクティーを淹れて出してくれる。
「マナ様も召し上がって下さい」
「はい、いただきます」
ナスターシャの勧めで、マナがフレンチトーストを一欠けら口に入れる。口の中でカスタードクリームのような甘みと風味に、バターのこくや焼き目の香ばしさが相まって、驚くような旨さを引き出す。卵液の沁みたパンはスポンジケーキのようにふんわりと柔らかで、マナはこれはフレンチトーストに似せた別の食べ物だと思った。
「ナスターシャのお茶は、最高ですのよ」
そういうティア姫と一緒に、マナもロイヤルミルクティーを一口、それが無糖なのに驚いた。マナは、甘くないロイヤルミルクティーを飲むのは初めてだが、甘いものばかりだったので、それがとても口に馴染んだ。
「おいしい……」
「気に入ってくれたようで、良かったですわ」
それからマナがティア姫の質問攻めにされた。マナは、必要最低限の言葉だけ返して、自分からティア姫に話しかようとはしなかった。最後に、ディナーも一緒にどうかと誘われたが、他の友達の先約があるからと嘘を言って断った。正直に言って、マナはティア姫と一緒にいるのが辛かったのだ。
「ユリカ、メラメラ見なかった?」
「先程まで部屋中を飛び回っていましたけど、いないのですか?」
「どうしよう、どこに行ったんだろう」
マナがそわそわしだすと、ユリカがドアを確認する。
「あらやだ、ドアが開いています。自分で開けて出ていったようです」
「大変!」
マナはベッドから降りて靴をはくと、慌ててドアに駆け寄る。
「いけません、そんな恰好では!」
ユリカが駆け寄って、マナに若葉色のガウンを被せた。そして二人で廊下に出ていくと、すぐにメラメラの姿を見つけることが出来た。
「メラメラちゃん、おいしいクッキーですよ~」
隣の部屋の前で、桃色のガウンを纏ったティア姫が、メラメラに餌付けをしていた。メラメラがクッキーを両手で受け取って食べ始めると、その隙をついてティア姫がフェアリーを捕まえて抱きしめる。
「いや~ん、かわいいっ!」
「あのぅ」
おずおずと話しかけてきたマナに、ティア姫が天使のような笑顔を見せる。マナには、彼女自身が輝きを放っているように見えた。
「申し訳ありません。メラメラちゃんがあんまり可愛いもので、つい」
「いいんです。メラメラを可愛がってくれて、ありがとうございます」
「そうだわ!」
ティア姫が手を合わせてから、さも楽し気に言った。
「朝食をご一緒しませんこと? わたくし、マナ様とお話ししてみたかったのです」
「ええ、えっと、はい……」
マナはなし崩し的に承諾した。その後にティア姫の後ろのドアが開いて、姫よりも少し年上に見える金髪の侍女が出てきて目を吊り上げた。
「姫様! 勝手にお部屋を出られては困ります!」
「ナスターシャ、丁度いいところに来たわ! 朝食はマナ様とご一緒する事にしましたからね!」
「またそのような気まぐれを……」
「メラメラちゃんの分もお願いね」
そう嘯く姫に、ナスターシャは、やれやれとため息を吐いた。
「分かりました、準備しますので、お部屋に戻って着替えて下さい」
上機嫌のティア姫は、マナにメラメラを返すと言った。
「では、後程お目にかかりましょう」
朝食に呼ばれたマナは、ティア姫を前にして、自分という存在のつまらなさを見せつけられているように感じてしまった。
目の前にはフレンチトーストとサラダの軽食、デザートは恐ろしく豊かで、ナッツとチョコレートをふんだん使ったプディング、美しい色彩のゼリー、フルーツもあれば、クッキーやビスケットの種類も豊富だった。マナはティア姫の顔も見ずに、それらのデザートに視線を落として、甘いもの好きなのかな、などと考えていた。
「どうしました? 好きではない物でもありまして?」
「い、いいえ! とても素敵だと思います!」
マナを心配そうに見つめていたティア姫が、ふっと笑顔になる。その様は、同じ女性のマナが見ても、ため息が出そうになる。ティア姫の容姿は、美しいとか可愛いとかいう領域を越えていて、非人間的とさえ言えた。
息が詰まるような思いをしているマナの隣では、メラメラが素晴らしいデザートに興奮して食べまくっていた。
「メラメラちゃん、美味しい?」
「すご~く美味しい! ありがと、ティア~」
メラメラがフルーツを突き刺したフォークを上げると、ティア姫から可愛らしい笑声が漏れる。
「そんなに喜んでくれるなんて、嬉しいわ」
ティア姫の侍女ナスターシャが、ロイヤルミルクティーを淹れて出してくれる。
「マナ様も召し上がって下さい」
「はい、いただきます」
ナスターシャの勧めで、マナがフレンチトーストを一欠けら口に入れる。口の中でカスタードクリームのような甘みと風味に、バターのこくや焼き目の香ばしさが相まって、驚くような旨さを引き出す。卵液の沁みたパンはスポンジケーキのようにふんわりと柔らかで、マナはこれはフレンチトーストに似せた別の食べ物だと思った。
「ナスターシャのお茶は、最高ですのよ」
そういうティア姫と一緒に、マナもロイヤルミルクティーを一口、それが無糖なのに驚いた。マナは、甘くないロイヤルミルクティーを飲むのは初めてだが、甘いものばかりだったので、それがとても口に馴染んだ。
「おいしい……」
「気に入ってくれたようで、良かったですわ」
それからマナがティア姫の質問攻めにされた。マナは、必要最低限の言葉だけ返して、自分からティア姫に話しかようとはしなかった。最後に、ディナーも一緒にどうかと誘われたが、他の友達の先約があるからと嘘を言って断った。正直に言って、マナはティア姫と一緒にいるのが辛かったのだ。
1
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

転生したら使用人の扱いでした~冷たい家族に背を向け、魔法で未来を切り拓く~
沙羅杏樹
恋愛
前世の記憶がある16歳のエリーナ・レイヴンは、貴族の家に生まれながら、家族から冷遇され使用人同然の扱いを受けて育った。しかし、彼女の中には誰も知らない秘密が眠っていた。
ある日、森で迷い、穴に落ちてしまったエリーナは、王国騎士団所属のリュシアンに救われる。彼の助けを得て、エリーナは持って生まれた魔法の才能を開花させていく。
魔法学院への入学を果たしたエリーナだが、そこで待っていたのは、クラスメイトたちの冷たい視線だった。しかし、エリーナは決して諦めない。友人たちとの絆を深め、自らの力を信じ、着実に成長していく。
そんな中、エリーナの出生の秘密が明らかになる。その事実を知った時、エリーナの中に眠っていた真の力が目覚める。
果たしてエリーナは、リュシアンや仲間たちと共に、迫り来る脅威から王国を守り抜くことができるのか。そして、自らの出生の謎を解き明かし、本当の幸せを掴むことができるのか。
転生要素は薄いかもしれません。
最後まで執筆済み。完結は保障します。
前に書いた小説を加筆修正しながらアップしています。見落としがないようにしていますが、修正されてない箇所があるかもしれません。
長編+戦闘描写を書いたのが初めてだったため、修正がおいつきません⋯⋯拙すぎてやばいところが多々あります⋯⋯。
カクヨム様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる