異世界召喚されていきなり妃候補とか言われたけど、他の妃候補がチートすぎてもう辞めたいです+妖精(おまけ)付き

蘇芳

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第一章 異世界召喚編

4 ロディス城へ

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 ゼノビアが愛馬に飛び乗ると、純白のロングスカートが蝶のようにひらめく。ゼノビアの一挙手一投足が秀麗で、真那は見とれてしまう。

「さあ、乗って下さい」

 ゼノビアが馬上から手を差し伸べてくると、真那はまごついてしまう。

「馬なんて乗った事ないの」
「鐙(あぶみ)に左足を掛けて下さい、後はわたしが引き上げますから」

 真那が言う通りにすると、思いの他強い力で馬上に引き上げられ、難なく乗ることができた。ゼノビアの力強さは真那が物語で知った貴族の令嬢とは、やはりかけ離れている。

「頭の上にいる子が視界に入ってしまうので、抱いて頂けます?」
「あ、はい、すみません」

 真那が頭の上でリラックスしているメラメラを抱っこすると、背後のゼノビアが手綱を持つ手を上げる。真那は後ろからゼノビアに抱かれるような格好になり、緊張が高まる。馬に乗るのが初めてというのもあるが、何より貴族のお嬢様と接近しているのが大きかった。ゲームや小説の中に出てくる貴族令嬢は、真那のような小市民が近づいてよい存在ではなかった。

「少々揺れますよ」
「はひっ!」

 間近でゼノビアの声と気配を感じて、真那の声が引きつってしまう。そして馬がゆっくりを歩み始め、二人の周囲を他の騎士たちが囲んだ。

 先程、真那の姿を見た森の一軒家に住んでいる女性が、今度は畑の薬草を摘む手を止めて要人警護とでもいった様相の騎士団を見つめる。

「あの子、城に連れていかれるのか」
 あっちを見たり、こっちを見たり、挙動不審な真那の姿を見て女性は少し心配になった。

 真那は馬に揺られて町に戻る。ようやく心が落ち着いて、馬上からの風景を眺める余裕も出てきた。ゼノビアも頼りになりそうだし、それも真那に安心感を与えてくれた。

 人々の視線が騎士に囲まれている真那に集まる。大通りには店が多く、店舗の他に通りに沿って多くの露店も並んでいた。野菜や果物、肉や魚、菓子、装飾品まで、様々なものが売られていて、真那はお祭りにでも来たような気分になった。リズミカルな蹄の音を聞くのも何だか気持ちが良かった。

「あの、どうしてわたしが異世界人って分かったんですか?」

「異界より召喚された方は、奇抜な衣装を着ているのが通例なのです。ですから、あなたの姿を見て、すぐにそれと分かりました。それに、あなたが町中に召喚された事は分かっていたので、ある程度、居場所が特定できたことも幸いでした」

 真那の疑問にゼノビアが淀みなく答えた。その後で、不意にメラメラが真那の懐から飛び出して、馬の頭の上に移動して座り込む。その行動は真那を焦らせた。

「だ、だめだよメラメラ! 戻っておいで!」
「わぁい!」

 メラメラは馬の頭の上で両手を上げてご機嫌だった。

「全然聞いてない……」
「大丈夫よ、メルシャはそのくらいでは驚いたりしないわ」

 メルシャというのは馬の名前だ。ゼノビアがそう言うのだから、真那は安心して楽しそうな様子のメラメラを見つめる。

 ――この子って何なんだろう?

 当然の疑問が浮かんだが、真那はそれを考えても意味がないように思えた。大切なのは真那とメラメラが確実に繋がっているということなのだ。既に真那の中には、メラメラに対して親子とか家族とか、そういう感覚が根付いていた。何なのかよりも何の意味があるのかが重要だった。

 真那が考え事をしていると、町の中心で大通りのぶつかる十字路で新たな騎士たちが出現する。十字路の中心で左右から無数の騎馬が集結し、真那たちの周囲に集まる。

「ゼノビア、よく見つけてくれた」
 金髪の黒衣の騎士が進み出ると、他の騎士たちが自ら避けて道を作る。

「かっこいい……」

 真那は思わず口走っていた。白いマントに剣を佩いているのは他の騎士と変わらないが、黒い制服の上下には金糸の刺繍が入っていて、黒衣でも暗い印象はない。凄まじい美形で瞳はゼノビアと同じ碧眼だった。そして、その眼光は鋭く強い。筋肉質な体が制服の上からでも分るが、無駄な肉がなく均整の取れた引き締まった体躯であった。

 真那の前に、次から次へと現実離れした人間が現れる。彼女は瞬間的に、目の前に現れた美形騎士との恋物語を想像してしまった。異世界召喚もののライトノベルにはよくある展開だし、年頃の乙女ならそんな妄想を抱くのも仕方がない。しかし、真那は次の瞬間に心の中で全否定して妄想を消し去り、ファンタジーの世界に対する憧れや期待というものを無理やり抑え込んだ。

「私のお兄様です」
 背後から聞こえたゼノビアの声が真那を現実に引き戻した。

「カイナス・ミク・ヴァーミリオンと申します。馬上での挨拶など失礼ですが、今は急ぎ城に戻らねばなりませんのでどうかお許しを」

 カイナスが胸に手を当てて頭を垂れると、真那はあたふたしてしまった。

「そ、そんな、私なんかに、そんなふうにしなくても……」
「あなたはこの国にとって、最大級の賓客なのです」

 普通の乙女ならば美形の騎士にそんな風に言われたら、少しは嬉しくなったり舞い上がったりするだろう。しかし、真那の心はまったく浮き上がらなかった、むしろ怖かった。いつこんな絵に描いたような夢物語から闇の中に叩き落されるのかと恐怖していた。

 カイナスが安堵して大きなため息をつくと、真那は自分に対する失望かと思って胸が痛む。

「あなたが町に召喚されたと聞いた時は焦りました、本当に見つかって良かった」
「まったく! あの魔女には罰を与える必要がありますね!」

 ゼノビアが他の誰かに怒りの言葉をぶつけた時、真那は不必要にびくついてしまう。そんな彼女にカイナスは爽やかな笑みを浮かべて言った。

「所で、あなたの名を聞いてもよろしいですか?」
「あっ、ごめんなさい! 海ノ瀬真那です!」
「ミノセ・マナ? ミノセでよろしいか?」
「いえっ! 真那が、名前です……」
「これは失礼、ではマナと呼ばせてもらう」

 真那はため息を吐きたくなった。カイナスが自己紹介してくれた時に、どうして自分は名乗れなかったのだろうと後悔する。こんな間抜けな自身がこの世界でやっていけるのか心配しかなかった。

 そして騎士団はさらに数を増して街道を行く。侯爵令息のカイナスが先頭を行き、中央には真那とゼノビアが共にいる。その様子は壮観で、人々は何事かと街道筋に集まってきた。居酒屋や商店からも人が出てきて、やがて祭りのような人込みになった。異世界から召喚された真那は、この世界の人々が見慣れない服装だったので特に注目されていた。

♢♢♢

 ロディス城は高台にあり、その周囲を町に囲まれている。城の西側には巨大な湖が広が
っており、漁業が盛んだった。騎士団が町を出て城に近づくと、その湖が真那の眼前に広
がった。その光景にマナは感嘆する。

 湖は巨大で、向こう側の岸が霞んで見えた。水面が太陽の光を反射して、広大なる銀色の輝きが幾何学的に複雑に変化していく。その上に幾艘もの帆の付いた遊覧船や漁船が浮かんでいた。このエスタリア湖は観光や食料など、ロディスに尽きぬ恵みを与えてくれる。城を中心に広がる町は湖岸で切れるので、ドーナツを半分に割ったような形になり、それに城も加えると全体としては半月に近い形状となっていた。

 この頃にはメラメラは真那の頭の上に戻っていて、マナと一緒に湖を眺めていた。

「綺麗だね、キラキラしてるね」
「キラキラ~」

 メラメラは真那の言葉を真似していた。今はメラメラの存在だけが、真那を安心させるものになっていた。

 騎士団は緩い斜面を登って行き、やがて城壁と城門が近づいてくる。巨大な城門と合わせて向こうに見える王城は圧巻の姿で、真那は溜息が出っぱなしだった。騎士団は堀に掛かる橋を渡り、城門の前で一度止まった。カイナスが門番に合図して格子状の鉄の扉が上に向かって引き上がり、騎士たちは城内へ。
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