6 / 14
6
しおりを挟む
翌朝。
一人で暮らすには少しだけ広いワンルームの自宅で朝食を取っていた乱世は、朝のニュースで昨夜の女性が一命を取り留めたことを知った。一先ずまだ誰も本当の意味での犠牲者にはなっていないようだ。
昨夜の女性を置き去りにした事に、少なからず罪悪感があった乱世はほっと胸を撫でおろした。
何かと転校することが多い為、荷物があまりない殺風景な部屋の中で朝食用に焼いたトーストを食べ終える。
今日は土曜日で学校は休みだが、乱世は気にすることなく学ランを身に着けて家を出ていく。
秋葉にもう一度会う為に。
スマートフォンに表示されている地図を頼りに秋葉の家へと向かう。
通常ならば知り得ない秋葉の自宅の場所を何故知っているのか。
それは別に乱世がストーカー行為をしたからという訳ではない。
端的に説明するならば、乱世のスマホが特殊なものだからという一言に尽きる。
乱世自身もよくわかっていないらしいが、個人情報だとしても調べたい情報のある程度は手に入るように出来ているそうだ。
(文明の利器っていうには少し語弊があるんだよなぁ……)
そんなことを考えていた乱世が秋葉の家へと向かう道すがら、再会の時は突然訪れた。
ちょうど前方から秋葉が歩いてきていた。
学校が休みにもかかわらず、秋葉も制服であるセーラー服を着ている。
はやる気持ちを抑えながら、乱世はつとめて自然に秋葉に声をかけた。
「こんにちは、秋葉ちゃん」
「……転校生だっけ?」
「そう。乱世って呼んでくれると嬉しいな」
転校生であるということだけでも覚えていてくれたことに安堵しながら、乱世は少し話がしたいと秋葉に申し出る。
訝しげな顔をしながらも、教室でのように拒絶することはしないようだ。
そう、何故なら秋葉は気付いていないのだ。昨夜、商店街の路地裏を走り抜けた姿を乱世に見られていたことを。
回りくどいことを言って再び秋葉に逃げられないように、乱世が単刀直入に問い掛ける。
「昨日の夜、商店街にいたよね?」
「何のこと?」
秋葉の眉間にわずかにしわが増えた。
さすがの乱世もすんなりと正直に話してくれるとは思っていない。
それでも確かめなければならないことがあった。
「俺、見たんだよ。秋葉ちゃんが商店街の路地裏を走り抜けて行くところ」
「人違いでしょ」
「そうかな? あぁ、そういえばその子、左腕に黒い靄がまとわりついてたんだよね」
乱世のその言葉に秋葉の顔から表情が消え、次いで怯えたように青白いものへと変わる。
もちろん、黒い靄の話はでたらめだ。そんなものを昨夜の乱世は見ていない。
だが、秋葉の表情の変化は乱世の中で一つの確信を生んだ。
「俺なら助けられるかもしれない」
言葉とは裏腹に自信に満ち溢れた乱世の声に、秋葉は思わずすがるような視線を向けた。
しかしすぐに視線は自身の足元へと向かい、隠すように左腕を抱え込む。
「……放っておいて」
「嫌だと言ったら?」
「もうこれ以上、誰も巻き込みたくないの!!」
再び顔を上げた秋葉は泣いていた。
涙をこぼしながら、つらくてたまらないといった表情で乱世を拒絶すると、そのまま来た道を走って行ってしまう。
今度はさすがに乱世も呼び止めることや引き止めることをしなかった。
代わりに心の中で一つ決意をする。
(俺が必ず助けるよ、秋葉ちゃん)
自分自身に誓いを立てて、乱世は一旦自宅へと帰っていった。
一人で暮らすには少しだけ広いワンルームの自宅で朝食を取っていた乱世は、朝のニュースで昨夜の女性が一命を取り留めたことを知った。一先ずまだ誰も本当の意味での犠牲者にはなっていないようだ。
昨夜の女性を置き去りにした事に、少なからず罪悪感があった乱世はほっと胸を撫でおろした。
何かと転校することが多い為、荷物があまりない殺風景な部屋の中で朝食用に焼いたトーストを食べ終える。
今日は土曜日で学校は休みだが、乱世は気にすることなく学ランを身に着けて家を出ていく。
秋葉にもう一度会う為に。
スマートフォンに表示されている地図を頼りに秋葉の家へと向かう。
通常ならば知り得ない秋葉の自宅の場所を何故知っているのか。
それは別に乱世がストーカー行為をしたからという訳ではない。
端的に説明するならば、乱世のスマホが特殊なものだからという一言に尽きる。
乱世自身もよくわかっていないらしいが、個人情報だとしても調べたい情報のある程度は手に入るように出来ているそうだ。
(文明の利器っていうには少し語弊があるんだよなぁ……)
そんなことを考えていた乱世が秋葉の家へと向かう道すがら、再会の時は突然訪れた。
ちょうど前方から秋葉が歩いてきていた。
学校が休みにもかかわらず、秋葉も制服であるセーラー服を着ている。
はやる気持ちを抑えながら、乱世はつとめて自然に秋葉に声をかけた。
「こんにちは、秋葉ちゃん」
「……転校生だっけ?」
「そう。乱世って呼んでくれると嬉しいな」
転校生であるということだけでも覚えていてくれたことに安堵しながら、乱世は少し話がしたいと秋葉に申し出る。
訝しげな顔をしながらも、教室でのように拒絶することはしないようだ。
そう、何故なら秋葉は気付いていないのだ。昨夜、商店街の路地裏を走り抜けた姿を乱世に見られていたことを。
回りくどいことを言って再び秋葉に逃げられないように、乱世が単刀直入に問い掛ける。
「昨日の夜、商店街にいたよね?」
「何のこと?」
秋葉の眉間にわずかにしわが増えた。
さすがの乱世もすんなりと正直に話してくれるとは思っていない。
それでも確かめなければならないことがあった。
「俺、見たんだよ。秋葉ちゃんが商店街の路地裏を走り抜けて行くところ」
「人違いでしょ」
「そうかな? あぁ、そういえばその子、左腕に黒い靄がまとわりついてたんだよね」
乱世のその言葉に秋葉の顔から表情が消え、次いで怯えたように青白いものへと変わる。
もちろん、黒い靄の話はでたらめだ。そんなものを昨夜の乱世は見ていない。
だが、秋葉の表情の変化は乱世の中で一つの確信を生んだ。
「俺なら助けられるかもしれない」
言葉とは裏腹に自信に満ち溢れた乱世の声に、秋葉は思わずすがるような視線を向けた。
しかしすぐに視線は自身の足元へと向かい、隠すように左腕を抱え込む。
「……放っておいて」
「嫌だと言ったら?」
「もうこれ以上、誰も巻き込みたくないの!!」
再び顔を上げた秋葉は泣いていた。
涙をこぼしながら、つらくてたまらないといった表情で乱世を拒絶すると、そのまま来た道を走って行ってしまう。
今度はさすがに乱世も呼び止めることや引き止めることをしなかった。
代わりに心の中で一つ決意をする。
(俺が必ず助けるよ、秋葉ちゃん)
自分自身に誓いを立てて、乱世は一旦自宅へと帰っていった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
冬の水葬
束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。
凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。
高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。
美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた――
けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。
ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる