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翌朝。
一人で暮らすには少しだけ広いワンルームの自宅で朝食を取っていた乱世は、朝のニュースで昨夜の女性が一命を取り留めたことを知った。一先ずまだ誰も本当の意味での犠牲者にはなっていないようだ。
昨夜の女性を置き去りにした事に、少なからず罪悪感があった乱世はほっと胸を撫でおろした。
何かと転校することが多い為、荷物があまりない殺風景な部屋の中で朝食用に焼いたトーストを食べ終える。
今日は土曜日で学校は休みだが、乱世は気にすることなく学ランを身に着けて家を出ていく。
秋葉にもう一度会う為に。
スマートフォンに表示されている地図を頼りに秋葉の家へと向かう。
通常ならば知り得ない秋葉の自宅の場所を何故知っているのか。
それは別に乱世がストーカー行為をしたからという訳ではない。
端的に説明するならば、乱世のスマホが特殊なものだからという一言に尽きる。
乱世自身もよくわかっていないらしいが、個人情報だとしても調べたい情報のある程度は手に入るように出来ているそうだ。
(文明の利器っていうには少し語弊があるんだよなぁ……)
そんなことを考えていた乱世が秋葉の家へと向かう道すがら、再会の時は突然訪れた。
ちょうど前方から秋葉が歩いてきていた。
学校が休みにもかかわらず、秋葉も制服であるセーラー服を着ている。
はやる気持ちを抑えながら、乱世はつとめて自然に秋葉に声をかけた。
「こんにちは、秋葉ちゃん」
「……転校生だっけ?」
「そう。乱世って呼んでくれると嬉しいな」
転校生であるということだけでも覚えていてくれたことに安堵しながら、乱世は少し話がしたいと秋葉に申し出る。
訝しげな顔をしながらも、教室でのように拒絶することはしないようだ。
そう、何故なら秋葉は気付いていないのだ。昨夜、商店街の路地裏を走り抜けた姿を乱世に見られていたことを。
回りくどいことを言って再び秋葉に逃げられないように、乱世が単刀直入に問い掛ける。
「昨日の夜、商店街にいたよね?」
「何のこと?」
秋葉の眉間にわずかにしわが増えた。
さすがの乱世もすんなりと正直に話してくれるとは思っていない。
それでも確かめなければならないことがあった。
「俺、見たんだよ。秋葉ちゃんが商店街の路地裏を走り抜けて行くところ」
「人違いでしょ」
「そうかな? あぁ、そういえばその子、左腕に黒い靄がまとわりついてたんだよね」
乱世のその言葉に秋葉の顔から表情が消え、次いで怯えたように青白いものへと変わる。
もちろん、黒い靄の話はでたらめだ。そんなものを昨夜の乱世は見ていない。
だが、秋葉の表情の変化は乱世の中で一つの確信を生んだ。
「俺なら助けられるかもしれない」
言葉とは裏腹に自信に満ち溢れた乱世の声に、秋葉は思わずすがるような視線を向けた。
しかしすぐに視線は自身の足元へと向かい、隠すように左腕を抱え込む。
「……放っておいて」
「嫌だと言ったら?」
「もうこれ以上、誰も巻き込みたくないの!!」
再び顔を上げた秋葉は泣いていた。
涙をこぼしながら、つらくてたまらないといった表情で乱世を拒絶すると、そのまま来た道を走って行ってしまう。
今度はさすがに乱世も呼び止めることや引き止めることをしなかった。
代わりに心の中で一つ決意をする。
(俺が必ず助けるよ、秋葉ちゃん)
自分自身に誓いを立てて、乱世は一旦自宅へと帰っていった。
一人で暮らすには少しだけ広いワンルームの自宅で朝食を取っていた乱世は、朝のニュースで昨夜の女性が一命を取り留めたことを知った。一先ずまだ誰も本当の意味での犠牲者にはなっていないようだ。
昨夜の女性を置き去りにした事に、少なからず罪悪感があった乱世はほっと胸を撫でおろした。
何かと転校することが多い為、荷物があまりない殺風景な部屋の中で朝食用に焼いたトーストを食べ終える。
今日は土曜日で学校は休みだが、乱世は気にすることなく学ランを身に着けて家を出ていく。
秋葉にもう一度会う為に。
スマートフォンに表示されている地図を頼りに秋葉の家へと向かう。
通常ならば知り得ない秋葉の自宅の場所を何故知っているのか。
それは別に乱世がストーカー行為をしたからという訳ではない。
端的に説明するならば、乱世のスマホが特殊なものだからという一言に尽きる。
乱世自身もよくわかっていないらしいが、個人情報だとしても調べたい情報のある程度は手に入るように出来ているそうだ。
(文明の利器っていうには少し語弊があるんだよなぁ……)
そんなことを考えていた乱世が秋葉の家へと向かう道すがら、再会の時は突然訪れた。
ちょうど前方から秋葉が歩いてきていた。
学校が休みにもかかわらず、秋葉も制服であるセーラー服を着ている。
はやる気持ちを抑えながら、乱世はつとめて自然に秋葉に声をかけた。
「こんにちは、秋葉ちゃん」
「……転校生だっけ?」
「そう。乱世って呼んでくれると嬉しいな」
転校生であるということだけでも覚えていてくれたことに安堵しながら、乱世は少し話がしたいと秋葉に申し出る。
訝しげな顔をしながらも、教室でのように拒絶することはしないようだ。
そう、何故なら秋葉は気付いていないのだ。昨夜、商店街の路地裏を走り抜けた姿を乱世に見られていたことを。
回りくどいことを言って再び秋葉に逃げられないように、乱世が単刀直入に問い掛ける。
「昨日の夜、商店街にいたよね?」
「何のこと?」
秋葉の眉間にわずかにしわが増えた。
さすがの乱世もすんなりと正直に話してくれるとは思っていない。
それでも確かめなければならないことがあった。
「俺、見たんだよ。秋葉ちゃんが商店街の路地裏を走り抜けて行くところ」
「人違いでしょ」
「そうかな? あぁ、そういえばその子、左腕に黒い靄がまとわりついてたんだよね」
乱世のその言葉に秋葉の顔から表情が消え、次いで怯えたように青白いものへと変わる。
もちろん、黒い靄の話はでたらめだ。そんなものを昨夜の乱世は見ていない。
だが、秋葉の表情の変化は乱世の中で一つの確信を生んだ。
「俺なら助けられるかもしれない」
言葉とは裏腹に自信に満ち溢れた乱世の声に、秋葉は思わずすがるような視線を向けた。
しかしすぐに視線は自身の足元へと向かい、隠すように左腕を抱え込む。
「……放っておいて」
「嫌だと言ったら?」
「もうこれ以上、誰も巻き込みたくないの!!」
再び顔を上げた秋葉は泣いていた。
涙をこぼしながら、つらくてたまらないといった表情で乱世を拒絶すると、そのまま来た道を走って行ってしまう。
今度はさすがに乱世も呼び止めることや引き止めることをしなかった。
代わりに心の中で一つ決意をする。
(俺が必ず助けるよ、秋葉ちゃん)
自分自身に誓いを立てて、乱世は一旦自宅へと帰っていった。
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