4 / 14
4
しおりを挟む
あの日から一週間、秋葉は学校を休み続けている。
間違いなく乱世との放課後のあの出来事がきっかけだろう。
「女の子を傷付けてしまった……」
想像以上にショックを受けているらしい乱世にいつもの元気と自信に満ち溢れた笑顔はなく、意気消沈を体現するかの様に力なく机に突っ伏している。
背後から漂ってくる陰湿な気配に耐えられなくなったのか、持ち前のお人好しで放っておけなくなったのか、あるいはそのどちらもか。
声をかけるなといった雰囲気を醸し出し続けている乱世に、勇気を出した木立が話しかける。
「なぁ、乱世。俺ちょっとした度胸試しに誘われてるんだけど、お前も来ないか?」
話しかけてはみたものの、ぴくりとも反応はない。
聞こえてくる呼吸音が寝息とは違うようだったので、聞こえてはいると判断した木立がめげずに話し続ける。
「最近この辺りで起こってる切り裂き事件。夜に一人で商店街を歩いてると、突然路地に引きずり込まれて全身を切り裂かれるっていうやつ。お前も知ってるだろ? まだ誰も死んではいないけど、次こそ犠牲者が出るんじゃないかってこの学校でも噂になってる、あれ」
その時、微かに乱世の頭が動いた気がした。
(気のせいか? でも少しは興味があるのかも!)
そう考えた木立は先程聞いたばかりの噂話を持ち出し、さらに興味を引こうとする。
「俺もさっき聞いたんだけどさ、あの事件の犯人はこの学校の女子生徒かもしれないんだって」
木立の言葉が引き金になり、乱世がようやく僅かにだが顔を上げた。
相変わらず整った顔をしているが、いつものような明るさややる気は感じない。
しかし乱世が顔を上げたことに手応えを感じた木立は心の中で一人ガッツポーズをする。
「その話、本当なのか?」
やる気も覇気も感じられない力のない声が木立に問いかける。
(興味はさほどないが、これも命令だったな)
自分が転校してきた理由を思い出した乱世がやむを得ないと言わんばかりに小さくため息を吐いたが、突っ伏していた乱世が顔を上げて更には話に食いついてきた事実に喜び、内心で狂喜乱舞していた木立は気付かない。
「今夜それを確かめに行くんだよ」
あくまで噂だと前置きをしながら、嬉々として再び乱世を誘う。
今度は意外なほどすんなりと了承した乱世に木立は目に見えて喜びを表現する。
「他の奴らにも知らせてくるな!」
そう言って席を立った木立を乱世は軽く手を振って見送る。
木立がいなくなっても再び机に突っ伏すことはしない。
だが面倒だといった気持ちを全面に押し出した顔で窓の外を見ながら頬杖をついた。
放課後になり、二人はクラスメイト達に誘われるがまま街へと繰り出す。
切り裂き魔が出るのは夜とのことだったが、そこは遊びたい盛りの高校生達だ。
ゲームセンターやカラオケ、ファミレスなどを転々としながら有り余る時間を潰すのには困らない。
夜までの軽く見積もっても四時間はあった時間を遊びつくし、いよいよ夜の帳が下りた商店街へと繰り出す。
昔ながらといった商店街は近所の大型商業施設などに押されて、昼間でもシャッターが下りている店は少なくない。開いている店も夜になる前に閉めてしまう為、乱世達が辿り着いた時には全ての店が閉まっていた。
見る限り人通りはなく、事件を起こすにはうってつけといった雰囲気だ。
「よっし、じゃあ行こうぜ乱世!」
肩に腕を回してきた木立と緊張気味の他数名の男子生徒と共に、乱世は月の光すら差さない暗い商店街へと足を踏み入れた。
それなりに長い商店街の西口から東口へと路地を気にしながら探索する。
しかしそうそう上手く切り裂き魔に出くわす訳もなく、全員に徒労感だけが募っていく。
「何も起きないし、誰とも会わないなぁ。本当に今日も切り裂き魔が出るんだろうな?」
「この事件の犯人はほぼ毎日、人を切り刻んで回ってる。だとしたら今夜も出てくるはずなんだけど……」
最後尾を歩いていた乱世達の前を行く、数名の生徒達がぼやき交じりのそんな会話をしている。
もはや初めの緊張感はなく、諦めムードが漂い始めていた。
切り裂き魔が一人になった人間を狙うのならば、誰か一人がオトリになった方が早い事に気付いていないわけではないだろう。
要は彼らは自分の身の安全を守りながら、切り裂き魔の正体を見てみたいのだ。
退屈な時間と化しただけの探索作業に乱世はあくびを噛み殺す。
「いやぁああああああああああッ!!!!!」
間違いなく乱世との放課後のあの出来事がきっかけだろう。
「女の子を傷付けてしまった……」
想像以上にショックを受けているらしい乱世にいつもの元気と自信に満ち溢れた笑顔はなく、意気消沈を体現するかの様に力なく机に突っ伏している。
背後から漂ってくる陰湿な気配に耐えられなくなったのか、持ち前のお人好しで放っておけなくなったのか、あるいはそのどちらもか。
声をかけるなといった雰囲気を醸し出し続けている乱世に、勇気を出した木立が話しかける。
「なぁ、乱世。俺ちょっとした度胸試しに誘われてるんだけど、お前も来ないか?」
話しかけてはみたものの、ぴくりとも反応はない。
聞こえてくる呼吸音が寝息とは違うようだったので、聞こえてはいると判断した木立がめげずに話し続ける。
「最近この辺りで起こってる切り裂き事件。夜に一人で商店街を歩いてると、突然路地に引きずり込まれて全身を切り裂かれるっていうやつ。お前も知ってるだろ? まだ誰も死んではいないけど、次こそ犠牲者が出るんじゃないかってこの学校でも噂になってる、あれ」
その時、微かに乱世の頭が動いた気がした。
(気のせいか? でも少しは興味があるのかも!)
そう考えた木立は先程聞いたばかりの噂話を持ち出し、さらに興味を引こうとする。
「俺もさっき聞いたんだけどさ、あの事件の犯人はこの学校の女子生徒かもしれないんだって」
木立の言葉が引き金になり、乱世がようやく僅かにだが顔を上げた。
相変わらず整った顔をしているが、いつものような明るさややる気は感じない。
しかし乱世が顔を上げたことに手応えを感じた木立は心の中で一人ガッツポーズをする。
「その話、本当なのか?」
やる気も覇気も感じられない力のない声が木立に問いかける。
(興味はさほどないが、これも命令だったな)
自分が転校してきた理由を思い出した乱世がやむを得ないと言わんばかりに小さくため息を吐いたが、突っ伏していた乱世が顔を上げて更には話に食いついてきた事実に喜び、内心で狂喜乱舞していた木立は気付かない。
「今夜それを確かめに行くんだよ」
あくまで噂だと前置きをしながら、嬉々として再び乱世を誘う。
今度は意外なほどすんなりと了承した乱世に木立は目に見えて喜びを表現する。
「他の奴らにも知らせてくるな!」
そう言って席を立った木立を乱世は軽く手を振って見送る。
木立がいなくなっても再び机に突っ伏すことはしない。
だが面倒だといった気持ちを全面に押し出した顔で窓の外を見ながら頬杖をついた。
放課後になり、二人はクラスメイト達に誘われるがまま街へと繰り出す。
切り裂き魔が出るのは夜とのことだったが、そこは遊びたい盛りの高校生達だ。
ゲームセンターやカラオケ、ファミレスなどを転々としながら有り余る時間を潰すのには困らない。
夜までの軽く見積もっても四時間はあった時間を遊びつくし、いよいよ夜の帳が下りた商店街へと繰り出す。
昔ながらといった商店街は近所の大型商業施設などに押されて、昼間でもシャッターが下りている店は少なくない。開いている店も夜になる前に閉めてしまう為、乱世達が辿り着いた時には全ての店が閉まっていた。
見る限り人通りはなく、事件を起こすにはうってつけといった雰囲気だ。
「よっし、じゃあ行こうぜ乱世!」
肩に腕を回してきた木立と緊張気味の他数名の男子生徒と共に、乱世は月の光すら差さない暗い商店街へと足を踏み入れた。
それなりに長い商店街の西口から東口へと路地を気にしながら探索する。
しかしそうそう上手く切り裂き魔に出くわす訳もなく、全員に徒労感だけが募っていく。
「何も起きないし、誰とも会わないなぁ。本当に今日も切り裂き魔が出るんだろうな?」
「この事件の犯人はほぼ毎日、人を切り刻んで回ってる。だとしたら今夜も出てくるはずなんだけど……」
最後尾を歩いていた乱世達の前を行く、数名の生徒達がぼやき交じりのそんな会話をしている。
もはや初めの緊張感はなく、諦めムードが漂い始めていた。
切り裂き魔が一人になった人間を狙うのならば、誰か一人がオトリになった方が早い事に気付いていないわけではないだろう。
要は彼らは自分の身の安全を守りながら、切り裂き魔の正体を見てみたいのだ。
退屈な時間と化しただけの探索作業に乱世はあくびを噛み殺す。
「いやぁああああああああああッ!!!!!」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
六畳二間のシンデレラ
如月芳美
恋愛
8ケタの借金を残したまま、突然事故死した両親。
学校は? 家賃は? 生活費は? 借金の返済は?
何もかもがわからなくてパニックになっているところに颯爽と現れた、如何にも貧弱な眼鏡男子。
どうやらうちの学校の先輩らしいんだけど、なんだか頭の回転速度が尋常じゃない!
助けられているのか振り回されているのか、あたしにも判断不能。
あたしの生活はどうなってしまうんだろう?
お父さん、お母さん。あたし、このちょっと変な男子に任せていいんですか?
※まだ成人の年齢が18歳に引き下げられる前のお話なので、現在と少々異なる部分があります。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
鍵の王~才能を奪うスキルを持って生まれた僕は才能を与える王族の王子だったので、裏から国を支配しようと思います~
真心糸
ファンタジー
【あらすじ】
ジュナリュシア・キーブレスは、キーブレス王国の第十七王子として生を受けた。
キーブレス王国は、スキル至上主義を掲げており、高ランクのスキルを持つ者が権力を持ち、低ランクの者はゴミのように虐げられる国だった。そして、ジュナの一族であるキーブレス王家は、魔法などのスキルを他人に授与することができる特殊能力者の一族で、ジュナも同様の能力が発現することが期待された。
しかし、スキル鑑定式の日、ジュナが鑑定士に言い渡された能力は《スキル無し》。これと同じ日に第五王女ピアーチェスに言い渡された能力は《Eランクのギフトキー》。
つまり、スキル至上主義のキーブレス王国では、死刑宣告にも等しい鑑定結果であった。他の王子たちは、Cランク以上のギフトキーを所持していることもあり、ジュナとピアーチェスはひどい差別を受けることになる。
お互いに近い境遇ということもあり、身を寄せ合うようになる2人。すぐに仲良くなった2人だったが、ある日、別の兄弟から命を狙われる事件が起き、窮地に立たされたジュナは、隠された能力《他人からスキルを奪う能力》が覚醒する。
この事件をきっかけに、ジュナは考えを改めた。この国で自分と姉が生きていくには、クズな王族たちからスキルを奪って裏から国を支配するしかない、と。
これは、スキル至上主義の王国で、自分たちが生き延びるために闇組織を結成し、裏から王国を支配していく物語。
【他サイトでの掲載状況】
本作は、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも掲載しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる