3 / 14
3
しおりを挟む
昼休みが終わり、残っていた二時間分の授業も全て終わって下校時刻になった。
皆それぞれの部活動や帰路へと向かおうとする中、善は急げと乱世が秋葉に近付いて声をかける。
「久由良秋葉さん。ちょっといいかな?」
「誰?」
「大居乱世。このクラスに三日前に転入してきたんだ。聞いてない?」
「知らない」
突然の呼びかけに訝し気に問いかけた秋葉だったが、乱世の返事に興味の無さ全開でそっけなく答えると、そのまま通学鞄を手に椅子から立ち上がった。その姿に乱世は慌てて秋葉の左腕を掴んで引き止める。
「ちょっと待って」
「触らないで! 私は、私の左腕は、私の物じゃないの!! お願いだから私に関わらないで!!」
「えっ!? ちょっと待ってよ、秋葉ちゃん!!」
乱世の右手が秋葉の左腕に触れた刹那。突然秋葉は大声を上げて捕まれた手を振り払うと、そのまま走って行ってしまった。教室中に響き渡った不可解な言葉だけを残して。
初めて聞いた秋葉の怒鳴り声に、教室に残っていたクラスメイト達の視線が乱世に集まっている。しかしそんなことを気にしている余裕は今の乱世にはないようだった。
「俺が呼び止めた女の子に逃げられるなんて……。それにしても、私の物じゃないってどういうことだ?」
(掴んだ左腕の感触は確かに人間の、秋葉ちゃんのものだった)
呆然としながら秋葉の左腕を掴んだ右手を眺める。
(それなのに自分のものじゃない?)
百戦錬磨のモテ男は女の子に逃げられたことよりもそっちの方が気にかかっていた。
「なあ木立、腕が自分の物じゃないってどういう意味だと思う?」
「さっきのか? 気にするだけ無駄だろ?」
しずしずと自分の席に戻った乱世は、前の席に座る木立に問いかけた。先程の秋葉の声は木立の耳にも届いていたようだが、大して興味はなさそうだ。
体半分振り向いて答えた木立は、乱世の表情を見て僅かに目を見張る。
「なんか、えらく落ち込んでるな……。そんなに逃げられたのがショックだったのか?」
「それもあるけど……」
(……少し真面目に考えてやるか)
煮え切らない乱世の返答に、木立は仕方がないなといった風に椅子に後ろ向きに座り直す。
乱世も力なく自身の椅子に座り、右手で頬杖をついて窓の外をぼんやりと眺めている。
出会って三日。
いつも自信に満ち溢れていた乱世の初めて見る表情に、木立は意外さを感じているようだ。
元よりお人好しな性格の木立は、落ち込んでいる乱世に対して思いついた考えをそのまま口にしていく。
「ま、単純に考えると何か別のやつの物って事だよな。例えば他の腕を移植したとかさ」
「移植……」
「……お前、今日初めて会ったのにそんなに久由良の事好きになったのか?」
少しでも乱世の気持ちを上向かせようとしてか、木立がからかう様に問い掛ける。
一目惚れだとかそういった回答があると思っていただろう木立の期待は外れ、全く予想していなかった言葉が乱世の口から発せられる。
「秋葉ちゃん、泣きそうだった」
「は?」
「俺の手を振り払った時、涙目だったんだ」
走り去る秋葉の目に浮かんでいた光るものが、悲しくて辛いのを耐えているその表情が、乱世の脳裏に焼き付いて離れなくなっている。
乱世は女の子が大好きで、キラキラとしたその笑顔が大好きなのだ。
だからこそ余計に女の子が泣くのは苦手で、泣かせるやつは許せなかった。
「……助けたいな」
ぽつりと零れ出た呟きは誰に届く事もなく消えた。
何が原因なのか、聞いたところであの反応を見る限りきっと秋葉は答えないだろう。
(秋葉ちゃん、どうしたら笑ってくれるかな?)
ぼーっと窓の外を眺める乱世の中に、秋葉を助けたい。その笑顔が見たいという思いが募っていくのだった。
皆それぞれの部活動や帰路へと向かおうとする中、善は急げと乱世が秋葉に近付いて声をかける。
「久由良秋葉さん。ちょっといいかな?」
「誰?」
「大居乱世。このクラスに三日前に転入してきたんだ。聞いてない?」
「知らない」
突然の呼びかけに訝し気に問いかけた秋葉だったが、乱世の返事に興味の無さ全開でそっけなく答えると、そのまま通学鞄を手に椅子から立ち上がった。その姿に乱世は慌てて秋葉の左腕を掴んで引き止める。
「ちょっと待って」
「触らないで! 私は、私の左腕は、私の物じゃないの!! お願いだから私に関わらないで!!」
「えっ!? ちょっと待ってよ、秋葉ちゃん!!」
乱世の右手が秋葉の左腕に触れた刹那。突然秋葉は大声を上げて捕まれた手を振り払うと、そのまま走って行ってしまった。教室中に響き渡った不可解な言葉だけを残して。
初めて聞いた秋葉の怒鳴り声に、教室に残っていたクラスメイト達の視線が乱世に集まっている。しかしそんなことを気にしている余裕は今の乱世にはないようだった。
「俺が呼び止めた女の子に逃げられるなんて……。それにしても、私の物じゃないってどういうことだ?」
(掴んだ左腕の感触は確かに人間の、秋葉ちゃんのものだった)
呆然としながら秋葉の左腕を掴んだ右手を眺める。
(それなのに自分のものじゃない?)
百戦錬磨のモテ男は女の子に逃げられたことよりもそっちの方が気にかかっていた。
「なあ木立、腕が自分の物じゃないってどういう意味だと思う?」
「さっきのか? 気にするだけ無駄だろ?」
しずしずと自分の席に戻った乱世は、前の席に座る木立に問いかけた。先程の秋葉の声は木立の耳にも届いていたようだが、大して興味はなさそうだ。
体半分振り向いて答えた木立は、乱世の表情を見て僅かに目を見張る。
「なんか、えらく落ち込んでるな……。そんなに逃げられたのがショックだったのか?」
「それもあるけど……」
(……少し真面目に考えてやるか)
煮え切らない乱世の返答に、木立は仕方がないなといった風に椅子に後ろ向きに座り直す。
乱世も力なく自身の椅子に座り、右手で頬杖をついて窓の外をぼんやりと眺めている。
出会って三日。
いつも自信に満ち溢れていた乱世の初めて見る表情に、木立は意外さを感じているようだ。
元よりお人好しな性格の木立は、落ち込んでいる乱世に対して思いついた考えをそのまま口にしていく。
「ま、単純に考えると何か別のやつの物って事だよな。例えば他の腕を移植したとかさ」
「移植……」
「……お前、今日初めて会ったのにそんなに久由良の事好きになったのか?」
少しでも乱世の気持ちを上向かせようとしてか、木立がからかう様に問い掛ける。
一目惚れだとかそういった回答があると思っていただろう木立の期待は外れ、全く予想していなかった言葉が乱世の口から発せられる。
「秋葉ちゃん、泣きそうだった」
「は?」
「俺の手を振り払った時、涙目だったんだ」
走り去る秋葉の目に浮かんでいた光るものが、悲しくて辛いのを耐えているその表情が、乱世の脳裏に焼き付いて離れなくなっている。
乱世は女の子が大好きで、キラキラとしたその笑顔が大好きなのだ。
だからこそ余計に女の子が泣くのは苦手で、泣かせるやつは許せなかった。
「……助けたいな」
ぽつりと零れ出た呟きは誰に届く事もなく消えた。
何が原因なのか、聞いたところであの反応を見る限りきっと秋葉は答えないだろう。
(秋葉ちゃん、どうしたら笑ってくれるかな?)
ぼーっと窓の外を眺める乱世の中に、秋葉を助けたい。その笑顔が見たいという思いが募っていくのだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
六畳二間のシンデレラ
如月芳美
恋愛
8ケタの借金を残したまま、突然事故死した両親。
学校は? 家賃は? 生活費は? 借金の返済は?
何もかもがわからなくてパニックになっているところに颯爽と現れた、如何にも貧弱な眼鏡男子。
どうやらうちの学校の先輩らしいんだけど、なんだか頭の回転速度が尋常じゃない!
助けられているのか振り回されているのか、あたしにも判断不能。
あたしの生活はどうなってしまうんだろう?
お父さん、お母さん。あたし、このちょっと変な男子に任せていいんですか?
※まだ成人の年齢が18歳に引き下げられる前のお話なので、現在と少々異なる部分があります。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
鍵の王~才能を奪うスキルを持って生まれた僕は才能を与える王族の王子だったので、裏から国を支配しようと思います~
真心糸
ファンタジー
【あらすじ】
ジュナリュシア・キーブレスは、キーブレス王国の第十七王子として生を受けた。
キーブレス王国は、スキル至上主義を掲げており、高ランクのスキルを持つ者が権力を持ち、低ランクの者はゴミのように虐げられる国だった。そして、ジュナの一族であるキーブレス王家は、魔法などのスキルを他人に授与することができる特殊能力者の一族で、ジュナも同様の能力が発現することが期待された。
しかし、スキル鑑定式の日、ジュナが鑑定士に言い渡された能力は《スキル無し》。これと同じ日に第五王女ピアーチェスに言い渡された能力は《Eランクのギフトキー》。
つまり、スキル至上主義のキーブレス王国では、死刑宣告にも等しい鑑定結果であった。他の王子たちは、Cランク以上のギフトキーを所持していることもあり、ジュナとピアーチェスはひどい差別を受けることになる。
お互いに近い境遇ということもあり、身を寄せ合うようになる2人。すぐに仲良くなった2人だったが、ある日、別の兄弟から命を狙われる事件が起き、窮地に立たされたジュナは、隠された能力《他人からスキルを奪う能力》が覚醒する。
この事件をきっかけに、ジュナは考えを改めた。この国で自分と姉が生きていくには、クズな王族たちからスキルを奪って裏から国を支配するしかない、と。
これは、スキル至上主義の王国で、自分たちが生き延びるために闇組織を結成し、裏から王国を支配していく物語。
【他サイトでの掲載状況】
本作は、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも掲載しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる