楽園の天使

飛永ハヅム

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 廊下側に“二年三組”と書かれた札がかけられた、県立高校の一教室。
 普段ならば等間隔で勉強机と椅子が並べられているはずの教室は、昼休みということもあり生徒達の手によって机と椅子が思い思いの場所へと移動させられている。
 学ランとセーラー服の生徒達が入り乱れ、それぞれの話し声でざわめきが起きている教室の窓際最後列の机には、いろとりどりの手紙や箱で小さな山が出来ていた。その机を挟むように机の主である乱世らんせが最後列で前を向いて座り、もう一人の男子生徒は一つ前の席で背もたれに肘をつく形で椅子に前後逆に座って後ろを向いている。

「これも、これも、これも、これも……。全部“大居おおい乱世らんせ”宛てか」
「モテる男の宿命ってやつだ。高望みはするなよ、木立こだちりん君」

 綺麗にラッピングされた箱や手紙を手に取って名前を確認しては机の上に戻していた木立こだちが呆れたように呟く。その隣で手紙の束を持って、一つ一つ中身を確認していた乱世らんせ本人は、動じた風もなく木立こだちに言い捨てる。
 乱世らんせとは違い、自分のいたって平凡な容姿を理解している木立こだちは、不満げに片頬を膨らませてジトリとした視線を乱世らんせに向けた。

「大体お前、まだこの学校に転校して来て三日目だろ? 何をどうやったら学校中の女子生徒と知り合って、こんなに大量のプレゼントなんて貰えるんだよ」
「それは……っと?」

 木立こだちの質問に答えようとしていた乱世らんせだったが、不意に開いた教室のドアに視線を向ける。
 そこにいたのは転校初日に学校中の女子生徒全てと顔見知りになったと思っていた乱世らんせが知らない、学校指定のセーラー服に身を包んだ美少女だった。

「あんな子いたっけ?」
「あぁ、あいつの名前は久由良くゆら秋葉あきは。このクラスの生徒だけど不登校気味であんまり学校には来てないかな。乱世らんせが転校してきてから学校にくるのは初めてだったか」

 不意に浮かんだ疑問をそのまま口にした乱世らんせの、視線を辿った先にいる人物に気付いた木立こだちが得心が言った表情で説明をしてくれた。
 木立こだちの説明を聞いている間も乱世らんせの視線は秋葉あきはに釘付けになっている。
 当の秋葉あきはは見られていることに気付いていないのか、無表情で誰に挨拶することもなく最短距離で自身の机へと向かっていく。その途中には立ち話をしている男子生徒の集団がいるが気にした素振りはない。

「へぇ、秋葉あきはちゃんね」
久由良くゆら秋葉あきはに関わるのはやめとけ」

 確認するように呟いた乱世らんせに、木立こだちが渋い顔をして忠告する。
 秋葉あきはの姿を目で追っていた乱世らんせの前で、賑やかに立ち話をしていた男子生徒の塊が静かになると秋葉あきはを避ける様に二つに分かれた。
 あまりにも自然なその様子に乱世らんせは眉間にしわを寄せて木立こだちを見やる。

「いじめか?」
「ハズレ。久由良くゆらが誰も近付けないんだよ」
「へぇ、それはまた……」

 再び視線を秋葉あきはに視線を向けた乱世らんせの顔は興味津々といったものになっている。
 それを見た木立こだちの表情がさらに渋さを増す。言おうか言うまいか悩むように口を開閉した末に、木立こだちは渋い顔で失礼極まりないことを口にした。

「お前、変な奴だよな」
「失礼な。痺れる位にクールなところがまた良いだろ? まさに楽園に舞い降りた孤高の天使! って分かる訳ないか。辛い事聞いて悪かったな、木立こだち
「そりゃーモテモテな乱世らんせ様とは大違いですからね~」

 昔からの知り合いのように二人が互いにからかい合う。
 自分が話題にされていることなど露知らず、秋葉あきはは一人無表情で自分の席に座っていた。
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