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サプライ・ボックスの中には、真紅のゴーグルが入っていた。
デジャビュを感じたので、その正体を探っていたら、後ろから「うわーっ! すごいカッコイイ!」とリーディーの歓声。
そうだ。
このショッキングな赤。
リーディーが僕に穿かせようとした水着と同じ色じゃないか?
「リィちゃんにも気に入ってもらえたようで、とても嬉しいです。先日、リィちゃんからオーダーされたケイスケの水着と同じカラーリングになるように処理しましたので、リィちゃんの水着と併せて身に付けてもらうと、とても良いコーディネートになると思います。リィちゃんが選んだ#e83929のカーボンナノジェル染料は、水着の繊維との相性の関係で、ほんの少し暗めに発色されてしまうので、ゴーグルには#d7003aのポリフラーレナル染料を使用しました。水着とゴーグルの発色は完璧に一致しているので、安心して身に付けてくださいね」
グガワの丹念な説明に対して、僕が「あ、うん、ありがとう」という返事しかできないことはいつもどおりだけれど、今日は、いつもどおりの状況ではない情景が背後で展開されている。
僕の後ろにいるリーディーが両手をグーにして軽く上下に振りながら「みっずっぎ! みっずっぎ!」とはしゃいでいる。これはなかなか分が悪い。僕はグガワの好意を無下にすることができないのだ。このままだと、雲間に現れるカルを観察する真っ赤な水着ゴーグルの男が完成してしまう。海もプールも無いのに。
「こりゃ、履き物も赤くしなければならんばい!」
リーディーの言語回路がバグったようだ。
「グゥちゃん、赤いビーチサンダルある!?」
「ビーチサンダルというと、樹脂加工でしょうか? そうであれば、水着とゴーグルの発色に合わせるために、#ff4500のカーボンナノジェル染料が最適ですね。工場のライン切り替えに17分、原料及び染料の充填に27分、製造に32秒かかりますが、実行しますか?」
「ああん、もう! 色合い誤差は27nmまで許容します! ケイスケが赤っぽいサンダルを履ければそれでオーケー! さあ、とにかく早く出してたもれ!」
「ケイスケ、あと15秒で雲間が生じます。ゴーグルを掛けて準備してくださいね」
「グゥちゃんのいけず!」
リーディーの言葉の端々の意味が理解できなかったが、どうやら助かったようだ。
急いで真紅のゴーグルを掛けて、空を仰ぐ。
空一面に、広がる、灰色の、分厚い、雲が、割けて。
カルが現れた。
どこまでも丸い。
どこまでも熱い。
その白い光の中を、黒い影が横切っていく。
オルブの空を飛ぶのは、エア・ローダーを除けば、ひとりだけ。
白い光の中を飛んでいるルーリを見て、なぜか僕は、彼女が笑いながら僕に手を振っているような気がして、僕も笑顔で手を振り返した。
デジャビュを感じたので、その正体を探っていたら、後ろから「うわーっ! すごいカッコイイ!」とリーディーの歓声。
そうだ。
このショッキングな赤。
リーディーが僕に穿かせようとした水着と同じ色じゃないか?
「リィちゃんにも気に入ってもらえたようで、とても嬉しいです。先日、リィちゃんからオーダーされたケイスケの水着と同じカラーリングになるように処理しましたので、リィちゃんの水着と併せて身に付けてもらうと、とても良いコーディネートになると思います。リィちゃんが選んだ#e83929のカーボンナノジェル染料は、水着の繊維との相性の関係で、ほんの少し暗めに発色されてしまうので、ゴーグルには#d7003aのポリフラーレナル染料を使用しました。水着とゴーグルの発色は完璧に一致しているので、安心して身に付けてくださいね」
グガワの丹念な説明に対して、僕が「あ、うん、ありがとう」という返事しかできないことはいつもどおりだけれど、今日は、いつもどおりの状況ではない情景が背後で展開されている。
僕の後ろにいるリーディーが両手をグーにして軽く上下に振りながら「みっずっぎ! みっずっぎ!」とはしゃいでいる。これはなかなか分が悪い。僕はグガワの好意を無下にすることができないのだ。このままだと、雲間に現れるカルを観察する真っ赤な水着ゴーグルの男が完成してしまう。海もプールも無いのに。
「こりゃ、履き物も赤くしなければならんばい!」
リーディーの言語回路がバグったようだ。
「グゥちゃん、赤いビーチサンダルある!?」
「ビーチサンダルというと、樹脂加工でしょうか? そうであれば、水着とゴーグルの発色に合わせるために、#ff4500のカーボンナノジェル染料が最適ですね。工場のライン切り替えに17分、原料及び染料の充填に27分、製造に32秒かかりますが、実行しますか?」
「ああん、もう! 色合い誤差は27nmまで許容します! ケイスケが赤っぽいサンダルを履ければそれでオーケー! さあ、とにかく早く出してたもれ!」
「ケイスケ、あと15秒で雲間が生じます。ゴーグルを掛けて準備してくださいね」
「グゥちゃんのいけず!」
リーディーの言葉の端々の意味が理解できなかったが、どうやら助かったようだ。
急いで真紅のゴーグルを掛けて、空を仰ぐ。
空一面に、広がる、灰色の、分厚い、雲が、割けて。
カルが現れた。
どこまでも丸い。
どこまでも熱い。
その白い光の中を、黒い影が横切っていく。
オルブの空を飛ぶのは、エア・ローダーを除けば、ひとりだけ。
白い光の中を飛んでいるルーリを見て、なぜか僕は、彼女が笑いながら僕に手を振っているような気がして、僕も笑顔で手を振り返した。
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