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最終話 戴冠式
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「ったく、なんでこんなにボロなんだよ」
「まだマシだぞ。レオが来た時なんて大穴が空いていたんだからな」
シャルルの文句に、シモンがははっと笑ってくれる。そのシャルルは屋根の上だ。昨日の夜、雨が降ったら雨漏りをしたので、その補修を自らしているのだ。
「兄上も屋根に登ったのか?」
板を押えているシモンに、シャルルはトンカチを打ち付けながら訊く。
「それはもちろん。しかも一人でやってたぞ」
「・・・・・・」
シャルルはそこでむっとした顔をする。ここでも負けているのかと、とても不満そうだ。そんなシャルルの頭をシモンはぐしゃっと撫でてやり
「レオは今日、戴冠式か」
しみじみと呟いた。
「負けて、当然なのかもな。わざわざ、俺を生かしたままにするなんてさ」
シャルルがそれに対してぽつりと呟くので
「だな」
とシモンはますますシャルルの頭を撫でていた。
取り敢えず、こいつはレオと違って甘やかそう。そう決めているのだ。
「心配するなよ、王様」
もう遠くなったレオナールに向けて、シモンはにこっと笑っていた。
あれから三ヶ月。俺はラオドールのせいでガタガタになっていた政治の立て直しに奔走することになった。キキやシュリ、それにアンドレをフル活用しての立て直しだ。それは政治構造を根本から変えるようなことも含まれていて、やっかみや反感もあったものの、何とかやり遂げた。そしてその頃には、俺が次の王になることに異論を唱える声は綺麗さっぱり消えていた。
問題のラオドールは一か月前に断頭台の露と消えていた。これに関して決定を下したのは俺ではなく、父のピエールだ。
「我が政権の幕引きだ。お前にやらせるわけにはいかん」
車椅子に乗ってなんとか動けるものの、やはり不自由な身体に困るピエールは、そう言って引退を告げたのだ。同時に王宮神官長がパウロからマリナに代わった。
そして今日、晴れ渡った空の下、俺はついに国王になるのだ。
「なんか、めっちゃ疲れた」
戴冠式を前に、王宮神官長の豪奢な衣装を纏うマリナに愚痴を零してしまう。それにマリナはくすっと笑ったものの
「王になられれば、もっと疲れますよ」
と注意してくれる。
「だよな。ああ。みんなでキャンプをしたのが懐かしい」
俺は衣装の最終チェックをしながら、あんなに楽しい日々はもうないんだなと遠い目をする。
この国を捨てて海を渡って遠くへ。そんなことを考えていたのはたった三ヶ月前。廃嫡騒動があったのはわずか九ヶ月前。一年の間に怒濤の展開があったわけで、俺にとって、長い長い一年だった。
「レオ」
しみじみとしてしまった俺に、マリナは気遣うように、キャンプをしていた頃のように呼びかけてくれる。それに俺は笑顔になると
「負けてられないからな。シャルルみたいに、俺にもガッツが必要だ」
と、こんな大展開を起こしてくれたシャルルを思い出し、力こぶを作ってみせる。
「まったく。あなたたち兄弟って不思議ね」
あれだけのことがあったのに、恨みは一切残していない。それにマリナは笑ってしまった。
「多分、それが俺の異能の一番大きな部分なんだよ。公平な目。でも、それはこの能力に頼っているだけでは正しく発揮されないんだ」
「そうね」
俺の言葉にマリナは大きく頷くと
「では、参りましょうか、陛下」
王宮神官長として、そう告げた。と、同時に外から戴冠式の開始を告げるラッパが鳴り響く。
「よき国にするぞ。異能者もここでは平等だ」
俺は国王としての誓いをマリナに向けて告げると、これから自分が背負うものの大きさを噛み締めながら玉座へと向っていた。
「まだマシだぞ。レオが来た時なんて大穴が空いていたんだからな」
シャルルの文句に、シモンがははっと笑ってくれる。そのシャルルは屋根の上だ。昨日の夜、雨が降ったら雨漏りをしたので、その補修を自らしているのだ。
「兄上も屋根に登ったのか?」
板を押えているシモンに、シャルルはトンカチを打ち付けながら訊く。
「それはもちろん。しかも一人でやってたぞ」
「・・・・・・」
シャルルはそこでむっとした顔をする。ここでも負けているのかと、とても不満そうだ。そんなシャルルの頭をシモンはぐしゃっと撫でてやり
「レオは今日、戴冠式か」
しみじみと呟いた。
「負けて、当然なのかもな。わざわざ、俺を生かしたままにするなんてさ」
シャルルがそれに対してぽつりと呟くので
「だな」
とシモンはますますシャルルの頭を撫でていた。
取り敢えず、こいつはレオと違って甘やかそう。そう決めているのだ。
「心配するなよ、王様」
もう遠くなったレオナールに向けて、シモンはにこっと笑っていた。
あれから三ヶ月。俺はラオドールのせいでガタガタになっていた政治の立て直しに奔走することになった。キキやシュリ、それにアンドレをフル活用しての立て直しだ。それは政治構造を根本から変えるようなことも含まれていて、やっかみや反感もあったものの、何とかやり遂げた。そしてその頃には、俺が次の王になることに異論を唱える声は綺麗さっぱり消えていた。
問題のラオドールは一か月前に断頭台の露と消えていた。これに関して決定を下したのは俺ではなく、父のピエールだ。
「我が政権の幕引きだ。お前にやらせるわけにはいかん」
車椅子に乗ってなんとか動けるものの、やはり不自由な身体に困るピエールは、そう言って引退を告げたのだ。同時に王宮神官長がパウロからマリナに代わった。
そして今日、晴れ渡った空の下、俺はついに国王になるのだ。
「なんか、めっちゃ疲れた」
戴冠式を前に、王宮神官長の豪奢な衣装を纏うマリナに愚痴を零してしまう。それにマリナはくすっと笑ったものの
「王になられれば、もっと疲れますよ」
と注意してくれる。
「だよな。ああ。みんなでキャンプをしたのが懐かしい」
俺は衣装の最終チェックをしながら、あんなに楽しい日々はもうないんだなと遠い目をする。
この国を捨てて海を渡って遠くへ。そんなことを考えていたのはたった三ヶ月前。廃嫡騒動があったのはわずか九ヶ月前。一年の間に怒濤の展開があったわけで、俺にとって、長い長い一年だった。
「レオ」
しみじみとしてしまった俺に、マリナは気遣うように、キャンプをしていた頃のように呼びかけてくれる。それに俺は笑顔になると
「負けてられないからな。シャルルみたいに、俺にもガッツが必要だ」
と、こんな大展開を起こしてくれたシャルルを思い出し、力こぶを作ってみせる。
「まったく。あなたたち兄弟って不思議ね」
あれだけのことがあったのに、恨みは一切残していない。それにマリナは笑ってしまった。
「多分、それが俺の異能の一番大きな部分なんだよ。公平な目。でも、それはこの能力に頼っているだけでは正しく発揮されないんだ」
「そうね」
俺の言葉にマリナは大きく頷くと
「では、参りましょうか、陛下」
王宮神官長として、そう告げた。と、同時に外から戴冠式の開始を告げるラッパが鳴り響く。
「よき国にするぞ。異能者もここでは平等だ」
俺は国王としての誓いをマリナに向けて告げると、これから自分が背負うものの大きさを噛み締めながら玉座へと向っていた。
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