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第64話 最後通牒
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「ば、馬鹿な」
「馬鹿な、では済まないよな、ラオドール」
どんっと積まれた書類を前に、まだ言い訳しようとするラオドールを前に、王太子としての衣服に着替えた俺はにやっと笑う。
ここまでの長い道のりを思うと、もっと演出を派手にしても良かったかもしれないが、俺はこれで十分だと思っていた。
「こんなにも証拠があるのに、お前は王宮神官長に騙されただけだと言うつもりか?」
どんどんっと書類の束を叩きながら、俺もこんなに出てくるとは思っていなかったけどなと内心呆れている。
さて、なぜこういう場面になったのかというと、時間は二日ほど戻ることになる。
「不正の証拠がびっくりするくらいあるんだよね」
「え?」
凱旋前日、俺は王宮前にある宿場町の、それなりに高級な宿屋の中で、パウロが持ってきてくれた服に着替えながら、アンドレの報告を聞いていた。が、びっくりするくらいあるとはどういうことか。
「それも直接解らないようにあれこれ偽装された形で見つかったんだよね。どうする?」
で、アンドレは騎士団としてのマナーを忘れ、旅をしていた頃の調子でそう訊いてくれる。どうやら、それを片付けなければ王宮には戻れないということらしい。
「最後の課題ってところか」
「うん。ああ、陛下が一応、怪しい一覧は作ってくれていたけど」
「な、何だよ。怪しい一覧って」
着替えを途中で放り出し、俺はその一覧が書かれた羊皮紙を受け取る。そして、唖然とした。
「ああ。なるほど」
「ね、大変でしょ」
「どうしたの? 明日には王宮に戻るんじゃないの?」
と、そこに言い合う声を聞きつけたマリナがやって来た。そのマリナにも、怪しい一覧を見せてやる。
「これは、言い逃れされそうな感じね」
で、マリナもラオドールって馬鹿じゃないのねと顔を顰める。
「馬鹿じゃないよ。宰相なんだから。政治手腕という点では確かだ。少々身に過ぎた野心を持っているってだけでな」
俺はこのまま戻っても円満解決はしないぞと顎を擦る。
せっかく髪も髭も整え、服もボロから王族らしいものに着替えたというのに、最後の戻るための鍵がまだない状態だと気づいたのだ。これでは廃嫡を取り消させることが出来ない。
そう、すでに廃嫡騒動はなかったものとして扱われていようと、最終的に俺がきっちりと決着を付けないことには、廃嫡決定そのものを取り消すことが出来ない。その最終関門がラオドールの不正だ。
俺がきっちりとそれを暴き、廃嫡はラオドールが自分の利益に起こしたことだと、王宮内部、そして外国に向けて発信する。これが最も重要なことなのである。
「面倒なのよね。政治って」
「言うなよ。要するに意地とプライドのぶつかり合いだ」
俺はどうするかなと悩み、ついでアンドレを見る。
「証拠を全部持って来れるか?」
「もちろん。あとは王子様の洞察力があれば、なんとかなると思う」
「じゃあ、それを基にさらに証拠を持ってくるのが私とシュリね」
と、そこに唐突に現われるキキだ。今まで天井裏に張り付いていたのだという。
「そうだな。それで行こう」
俺はこのメンバーならばやれるかと頷いた。
そう、怪しいものの確かな証拠としては残っていない不正の数々。これに対して今までの俺ならば見落とすか、こういうものだと納得して終わるしかなかったが、今ならば証拠を掴む手段がある。
「異能の怖さ、見せてやろうぜ」
俺はにやりと笑い
「おう!」
部屋にいた異能者三人も、ぐっと親指を立てたのだった。
そして二日後。こうして無事に不正の証拠が揃い、ラオドールの前に積み上げられることになったのだ。ちなみにこの不正に関わった役人も総て洗い出されている。なかなか吐かない奴もいたが、そこは俺が直接出向いて説得したり、それでも言わない場合はシュリの幻術を使って、ばっちり引き出していた。
「馬鹿な。そんな」
こんなのは偽物だと必死に書類を捲るラオドールに
「俺を侮った罰だ。ラオドール」
俺は最後通牒を突きつける。
「馬鹿な、では済まないよな、ラオドール」
どんっと積まれた書類を前に、まだ言い訳しようとするラオドールを前に、王太子としての衣服に着替えた俺はにやっと笑う。
ここまでの長い道のりを思うと、もっと演出を派手にしても良かったかもしれないが、俺はこれで十分だと思っていた。
「こんなにも証拠があるのに、お前は王宮神官長に騙されただけだと言うつもりか?」
どんどんっと書類の束を叩きながら、俺もこんなに出てくるとは思っていなかったけどなと内心呆れている。
さて、なぜこういう場面になったのかというと、時間は二日ほど戻ることになる。
「不正の証拠がびっくりするくらいあるんだよね」
「え?」
凱旋前日、俺は王宮前にある宿場町の、それなりに高級な宿屋の中で、パウロが持ってきてくれた服に着替えながら、アンドレの報告を聞いていた。が、びっくりするくらいあるとはどういうことか。
「それも直接解らないようにあれこれ偽装された形で見つかったんだよね。どうする?」
で、アンドレは騎士団としてのマナーを忘れ、旅をしていた頃の調子でそう訊いてくれる。どうやら、それを片付けなければ王宮には戻れないということらしい。
「最後の課題ってところか」
「うん。ああ、陛下が一応、怪しい一覧は作ってくれていたけど」
「な、何だよ。怪しい一覧って」
着替えを途中で放り出し、俺はその一覧が書かれた羊皮紙を受け取る。そして、唖然とした。
「ああ。なるほど」
「ね、大変でしょ」
「どうしたの? 明日には王宮に戻るんじゃないの?」
と、そこに言い合う声を聞きつけたマリナがやって来た。そのマリナにも、怪しい一覧を見せてやる。
「これは、言い逃れされそうな感じね」
で、マリナもラオドールって馬鹿じゃないのねと顔を顰める。
「馬鹿じゃないよ。宰相なんだから。政治手腕という点では確かだ。少々身に過ぎた野心を持っているってだけでな」
俺はこのまま戻っても円満解決はしないぞと顎を擦る。
せっかく髪も髭も整え、服もボロから王族らしいものに着替えたというのに、最後の戻るための鍵がまだない状態だと気づいたのだ。これでは廃嫡を取り消させることが出来ない。
そう、すでに廃嫡騒動はなかったものとして扱われていようと、最終的に俺がきっちりと決着を付けないことには、廃嫡決定そのものを取り消すことが出来ない。その最終関門がラオドールの不正だ。
俺がきっちりとそれを暴き、廃嫡はラオドールが自分の利益に起こしたことだと、王宮内部、そして外国に向けて発信する。これが最も重要なことなのである。
「面倒なのよね。政治って」
「言うなよ。要するに意地とプライドのぶつかり合いだ」
俺はどうするかなと悩み、ついでアンドレを見る。
「証拠を全部持って来れるか?」
「もちろん。あとは王子様の洞察力があれば、なんとかなると思う」
「じゃあ、それを基にさらに証拠を持ってくるのが私とシュリね」
と、そこに唐突に現われるキキだ。今まで天井裏に張り付いていたのだという。
「そうだな。それで行こう」
俺はこのメンバーならばやれるかと頷いた。
そう、怪しいものの確かな証拠としては残っていない不正の数々。これに対して今までの俺ならば見落とすか、こういうものだと納得して終わるしかなかったが、今ならば証拠を掴む手段がある。
「異能の怖さ、見せてやろうぜ」
俺はにやりと笑い
「おう!」
部屋にいた異能者三人も、ぐっと親指を立てたのだった。
そして二日後。こうして無事に不正の証拠が揃い、ラオドールの前に積み上げられることになったのだ。ちなみにこの不正に関わった役人も総て洗い出されている。なかなか吐かない奴もいたが、そこは俺が直接出向いて説得したり、それでも言わない場合はシュリの幻術を使って、ばっちり引き出していた。
「馬鹿な。そんな」
こんなのは偽物だと必死に書類を捲るラオドールに
「俺を侮った罰だ。ラオドール」
俺は最後通牒を突きつける。
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