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第63話 次期国王として
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「系譜に連なるなんて、そんな恐れ多いことはないわ。ちょっとお世話になっただけよ」
マリナはふんっと鼻を鳴らしてパウロを睨む。しかし、全く知らない仲ではないということだ。
「南の湖って、あの濁っている湖か」
俺は魔女について知りたくて、マリナにそう確認する。
「ええ。濁っているのはあそこに住む魔女が魔法を仕掛けているからよ。あの奥底に住んでいるんですもの。見えちゃ困るわ」
マリナは仕方がないわねとばかりに教えてくれるが、これにはパウロの登場に驚かなかったシモンやキキもあんぐりと口を開けている。
「というわけですので、後任には彼女がいます」
パウロは面白い人たちですねと苦笑して、話を元に戻した。自分が切り捨てられることもまた、騒動の中に織り込み済みだったから、これは問題ない。
「マリナ、承諾できるか?」
しかし、マリナの意向を無視して決められないと、俺は確認を取る。するとマリナは
「仕方ないじゃない。あなたに出会ってしまったのが運の尽きよ。魔女様のお導きと考えて、納得するしかないわ」
とひねくれた答えがあった。要するに断ることはないというわけだ。
「ふむ。では、パウロ。王宮に戻る手筈を整えてくれ。沙汰はその後だ」
「解りました」
「アンドレ、先に戻って、ラオドールの不正の証拠を陛下から貰ってきてくれ。ここにシャルルがいることが見逃されているのならば、すでに書類は陛下が用意されているはずだ」
「承知いたしました」
今までとは違い、騎士団としての振る舞いを見せてアンドレは頷く。
予想外の形での一気に解決へと向っているが、ここで気を抜くわけにはいかない。俺はまだ倒れているシャルルの元へと向った。すると、すぐにシュリが俺の横に駆けつけてくる。
「どうするの?」
「さすがに夢見る廃人にするわけにはいかなくなったよ。こいつにはちゃんと処罰が必要だ」
王宮に戻ることが確約してしまった以上、俺は次期国王としてシャルルに沙汰を下さなければならないのだ。曖昧なことは出来ない。
「じゃあ」
「シュリ。惑わす術ってのは、記憶を弄ることも可能ってことか?」
俺の確認に、シュリは躊躇うことなく頷く。
シュリの異能は幻覚を見せて惑わし、その間に情報や物を盗み取るというものだ。その間の記憶もまた、すり替える事が出来る。
「どういう記憶にしたいの?」
だからシュリはそう問うだけだ。
「俺に殺されかけて、三週間ほど寝ていたことにしてほしい。その間に、あの城館に運ばれた、ということにしてほしいんだ」
「あっ」
それは俺が辿った道と同じように見せかけろということだ。ただし、今回は完全に幽閉することを決定した上で、ということになる。
「俺にはこいつに刃を突き立てることは出来ない。廃嫡騒動を起こされて、国を乱した責任は俺にもある。しかし、これだけのことを起こした奴を、なんのお咎めもなしにすることはできない。だから、こいつの命を救う方法は、そういった異能に頼るものしかない。そして、こいつはあの城館に生涯閉じ込める。見張りを付けてな。それしかないんだ」
俺はまだ控えているパウロに目を向けた。それに、パウロは仕方ないですねという顔をしたものの
「そちらに関しても、手配を終わらせておきます」
と頷いた。
「シモン」
そこで俺がシモンに目を向けると
「任せな。シャルルの面倒は俺が見てやるよ」
とすぐに理解してくれる。
「俺もな。マリナが王宮に行っちまうんだったら、残ってシモンと暮らすしかないし」
ピーターも任せてよと親指を立てる。それに俺は驚いたものの
「そうか。頼む」
いつまでもマリナの庇護下にいたくないというピーターの思いを尊重することにした。
「じゃあ、ここから忙しくなるぞ」
俺は気持ちを切り替えるようにぱんっと手を叩く。それにキキが私はと訊いた。何かやることはないのかというわけだ。
「ああ、そうだった。キキはどうする? 諜報活動をするのに人手が欲しいから、王宮で採用したいんだけど」
そう俺が言うと
「任せなさい。今回のことで、私、自分の能力の使い方がよく解った気がするから」
と親指を立てる。
「では、凱旋するぞ。そして」
ラオドールとの決着を付けるのだ。俺はぐっと拳を握り、まだ遠い王宮の方角を見つめていた。
マリナはふんっと鼻を鳴らしてパウロを睨む。しかし、全く知らない仲ではないということだ。
「南の湖って、あの濁っている湖か」
俺は魔女について知りたくて、マリナにそう確認する。
「ええ。濁っているのはあそこに住む魔女が魔法を仕掛けているからよ。あの奥底に住んでいるんですもの。見えちゃ困るわ」
マリナは仕方がないわねとばかりに教えてくれるが、これにはパウロの登場に驚かなかったシモンやキキもあんぐりと口を開けている。
「というわけですので、後任には彼女がいます」
パウロは面白い人たちですねと苦笑して、話を元に戻した。自分が切り捨てられることもまた、騒動の中に織り込み済みだったから、これは問題ない。
「マリナ、承諾できるか?」
しかし、マリナの意向を無視して決められないと、俺は確認を取る。するとマリナは
「仕方ないじゃない。あなたに出会ってしまったのが運の尽きよ。魔女様のお導きと考えて、納得するしかないわ」
とひねくれた答えがあった。要するに断ることはないというわけだ。
「ふむ。では、パウロ。王宮に戻る手筈を整えてくれ。沙汰はその後だ」
「解りました」
「アンドレ、先に戻って、ラオドールの不正の証拠を陛下から貰ってきてくれ。ここにシャルルがいることが見逃されているのならば、すでに書類は陛下が用意されているはずだ」
「承知いたしました」
今までとは違い、騎士団としての振る舞いを見せてアンドレは頷く。
予想外の形での一気に解決へと向っているが、ここで気を抜くわけにはいかない。俺はまだ倒れているシャルルの元へと向った。すると、すぐにシュリが俺の横に駆けつけてくる。
「どうするの?」
「さすがに夢見る廃人にするわけにはいかなくなったよ。こいつにはちゃんと処罰が必要だ」
王宮に戻ることが確約してしまった以上、俺は次期国王としてシャルルに沙汰を下さなければならないのだ。曖昧なことは出来ない。
「じゃあ」
「シュリ。惑わす術ってのは、記憶を弄ることも可能ってことか?」
俺の確認に、シュリは躊躇うことなく頷く。
シュリの異能は幻覚を見せて惑わし、その間に情報や物を盗み取るというものだ。その間の記憶もまた、すり替える事が出来る。
「どういう記憶にしたいの?」
だからシュリはそう問うだけだ。
「俺に殺されかけて、三週間ほど寝ていたことにしてほしい。その間に、あの城館に運ばれた、ということにしてほしいんだ」
「あっ」
それは俺が辿った道と同じように見せかけろということだ。ただし、今回は完全に幽閉することを決定した上で、ということになる。
「俺にはこいつに刃を突き立てることは出来ない。廃嫡騒動を起こされて、国を乱した責任は俺にもある。しかし、これだけのことを起こした奴を、なんのお咎めもなしにすることはできない。だから、こいつの命を救う方法は、そういった異能に頼るものしかない。そして、こいつはあの城館に生涯閉じ込める。見張りを付けてな。それしかないんだ」
俺はまだ控えているパウロに目を向けた。それに、パウロは仕方ないですねという顔をしたものの
「そちらに関しても、手配を終わらせておきます」
と頷いた。
「シモン」
そこで俺がシモンに目を向けると
「任せな。シャルルの面倒は俺が見てやるよ」
とすぐに理解してくれる。
「俺もな。マリナが王宮に行っちまうんだったら、残ってシモンと暮らすしかないし」
ピーターも任せてよと親指を立てる。それに俺は驚いたものの
「そうか。頼む」
いつまでもマリナの庇護下にいたくないというピーターの思いを尊重することにした。
「じゃあ、ここから忙しくなるぞ」
俺は気持ちを切り替えるようにぱんっと手を叩く。それにキキが私はと訊いた。何かやることはないのかというわけだ。
「ああ、そうだった。キキはどうする? 諜報活動をするのに人手が欲しいから、王宮で採用したいんだけど」
そう俺が言うと
「任せなさい。今回のことで、私、自分の能力の使い方がよく解った気がするから」
と親指を立てる。
「では、凱旋するぞ。そして」
ラオドールとの決着を付けるのだ。俺はぐっと拳を握り、まだ遠い王宮の方角を見つめていた。
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