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第62話 契約条件
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「シャ、シャルルは大丈夫なのか?」
俺は動かないシャルルに、死んでしまったのかと不安になるが
「大丈夫だよ」
ぴょんっと隠れていた茂みから出てきたキキが確認してくれた。気絶しているだけだという。
「でも、ええっと」
あの光りは何だったんだと、俺はようやく自分の身体に目を向ける。特に変わった様子はない。しかし、身体の中から何かが湧き上がってくるような感覚がある。
「その問いには私が答えましょう」
「えっ」
ぶわっと風が起こり、魔法陣が現われたかと思うと、オーロランドに亡命しているはずのパウロが姿を現した。
「パウロ、ど、どうして」
俺はええっと驚いてしまうが、他のメンバーは驚いた様子はない。むしろ、隠れていた場所から出て来て、平然としている。
「お久しぶりです、レオナール殿下」
パウロはまだ動揺する俺にそう言って頭を下げる。俺はそれだけでぴしっと姿勢を正していた。やはり、身についた仕草というのは、場面に合わせてすぐに出てくるものであるらしい。
「パウロ、これはどういうことだ?」
だから、普段は仲間に向けて使わない横柄な言い方も、すぐに出てきた。顔も自然と引き締まり、支配者としての表情になる。
「はい。すでに殿下は異能に関してご存じでしょう。あの光りは、血の盟約を交した魔女が、あなたが王位に就くことを認めたという証拠でございます」
「認めた」
「はい。この国は、大戦を乗り切るため、この国の南にある湖に住む魔女と取り引きをいたしました。彼女の力を受け継ぐ代わりに、この国を平和なものにする。それが契約条件でした。それに見合わないものには、たとえ王族であっても異能は、魔女の力は発動しないことも、その条件の中に含まれていました。貴方様が看破されたとおり、シャルル殿下に王の器はなかった。だから異能がその身に宿ることはなかったように、です」
そう言ってパウロは、未だ倒れているシャルルを見る。その目には、同情の色は一切なかった。
初めから切り捨てられる者。そう言っているようで、俺の心はざわっとざわめく。だが、今はまだパウロから聞き出すべきことがある。
「俺はどうなのだ?」
今まで異能は身体強化だけ発動されていたらしい。これに関して、この事件を裏から手引きした王宮神官長はどう考えているのか。
「はい。貴方様には初めから、取り引きをした王と同格の能力が内在しておりました。しかし、貴方様の政治手腕では、この国を平和に導くことに不安があった。いや、下手をすること、今回私が起こしたことのように、この国を二分する事態に陥る。それを魔女は見抜かれておりました。ゆえに、あなたの力は身体強化を残して出てこれなくなっていたのです」
「なっ」
俺は思わずぐっと拳を握る。もしも王宮神官長が引き金を引かなければ、自分がこの国を乱す大罪人になっていたというのか。しかし、それは廃嫡騒動からここまでのことで、よく解っている。自分には視点が足りなかったのだ。
「ラオドールの不正だけが悪いというわけではないんだな」
俺は唇を噛み締めながら、そう確認する。
「ええ。政治は清いだけでは駄目なのです。人間は、あまりに清らかな場所では生きていけません。それは、ここにいる者たちと旅する中で、ご理解いただけたのではないでしょうか」
パウロはそこでじっと俺を見る。
俺はパウロを見て、次にシャルルを見た。
確かに、この世界は綺麗事だけでは生きていけないのだ。
自分が逃げたら丸く解決するなんていう、そんな生易しい考えさえ通用しないほどに。
「こいつらからは学んでいない。お前らからだよ」
だから、俺はそう訂正していた。それにパウロは驚くかと思ったが、満足げに笑っている。
まったく、この王宮神官長は食えない存在だ。
「お前の後任はいるのか?」
そんなパウロに、俺はそう問い掛ける。もちろん、この問いにも驚いた様子は見せなかった。
「そこにおられる、修道女様がよろしいでしょう」
「えっ?」
「私?」
そして、逆に俺が驚かされる。マリナは自分を指差してきょとんとしている。
「私の目は誤魔化せませんよ。あなたは、この国の王が取り引きした魔女の系譜に連なる方ですね」
パウロはそんなマリナに向けて、確信を込めて訊ねる。
俺は動かないシャルルに、死んでしまったのかと不安になるが
「大丈夫だよ」
ぴょんっと隠れていた茂みから出てきたキキが確認してくれた。気絶しているだけだという。
「でも、ええっと」
あの光りは何だったんだと、俺はようやく自分の身体に目を向ける。特に変わった様子はない。しかし、身体の中から何かが湧き上がってくるような感覚がある。
「その問いには私が答えましょう」
「えっ」
ぶわっと風が起こり、魔法陣が現われたかと思うと、オーロランドに亡命しているはずのパウロが姿を現した。
「パウロ、ど、どうして」
俺はええっと驚いてしまうが、他のメンバーは驚いた様子はない。むしろ、隠れていた場所から出て来て、平然としている。
「お久しぶりです、レオナール殿下」
パウロはまだ動揺する俺にそう言って頭を下げる。俺はそれだけでぴしっと姿勢を正していた。やはり、身についた仕草というのは、場面に合わせてすぐに出てくるものであるらしい。
「パウロ、これはどういうことだ?」
だから、普段は仲間に向けて使わない横柄な言い方も、すぐに出てきた。顔も自然と引き締まり、支配者としての表情になる。
「はい。すでに殿下は異能に関してご存じでしょう。あの光りは、血の盟約を交した魔女が、あなたが王位に就くことを認めたという証拠でございます」
「認めた」
「はい。この国は、大戦を乗り切るため、この国の南にある湖に住む魔女と取り引きをいたしました。彼女の力を受け継ぐ代わりに、この国を平和なものにする。それが契約条件でした。それに見合わないものには、たとえ王族であっても異能は、魔女の力は発動しないことも、その条件の中に含まれていました。貴方様が看破されたとおり、シャルル殿下に王の器はなかった。だから異能がその身に宿ることはなかったように、です」
そう言ってパウロは、未だ倒れているシャルルを見る。その目には、同情の色は一切なかった。
初めから切り捨てられる者。そう言っているようで、俺の心はざわっとざわめく。だが、今はまだパウロから聞き出すべきことがある。
「俺はどうなのだ?」
今まで異能は身体強化だけ発動されていたらしい。これに関して、この事件を裏から手引きした王宮神官長はどう考えているのか。
「はい。貴方様には初めから、取り引きをした王と同格の能力が内在しておりました。しかし、貴方様の政治手腕では、この国を平和に導くことに不安があった。いや、下手をすること、今回私が起こしたことのように、この国を二分する事態に陥る。それを魔女は見抜かれておりました。ゆえに、あなたの力は身体強化を残して出てこれなくなっていたのです」
「なっ」
俺は思わずぐっと拳を握る。もしも王宮神官長が引き金を引かなければ、自分がこの国を乱す大罪人になっていたというのか。しかし、それは廃嫡騒動からここまでのことで、よく解っている。自分には視点が足りなかったのだ。
「ラオドールの不正だけが悪いというわけではないんだな」
俺は唇を噛み締めながら、そう確認する。
「ええ。政治は清いだけでは駄目なのです。人間は、あまりに清らかな場所では生きていけません。それは、ここにいる者たちと旅する中で、ご理解いただけたのではないでしょうか」
パウロはそこでじっと俺を見る。
俺はパウロを見て、次にシャルルを見た。
確かに、この世界は綺麗事だけでは生きていけないのだ。
自分が逃げたら丸く解決するなんていう、そんな生易しい考えさえ通用しないほどに。
「こいつらからは学んでいない。お前らからだよ」
だから、俺はそう訂正していた。それにパウロは驚くかと思ったが、満足げに笑っている。
まったく、この王宮神官長は食えない存在だ。
「お前の後任はいるのか?」
そんなパウロに、俺はそう問い掛ける。もちろん、この問いにも驚いた様子は見せなかった。
「そこにおられる、修道女様がよろしいでしょう」
「えっ?」
「私?」
そして、逆に俺が驚かされる。マリナは自分を指差してきょとんとしている。
「私の目は誤魔化せませんよ。あなたは、この国の王が取り引きした魔女の系譜に連なる方ですね」
パウロはそんなマリナに向けて、確信を込めて訊ねる。
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